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1. 小人は結婚相手を見つけたい

「あーもー……どこまで行っちゃたのよー!」


 私を落としたことにも気づかず好きな木の実に向かって飛び去っていった青い鳥。もうはぐれてから1時間くらい経っている気がするが一向に戻ってくる気配はない。

 これはもう諦めて家に帰るべきか。……ああでも、私の足で歩いたら一体どのくらいかかるのやら……


 なにせ私は……



 小人なんだから。



 *****



 いつも通り高校に行き、放課後はバイトをし、寮に帰って休む。そんな取り立てて変わったことのない一日を過ごして眠りについた私は、目覚めると巨人……としか言いようのない存在に見下ろされていた。

 人らしき姿をしているものの、その大きさは私を簡単に片手で掴み、頭からムシャムシャ食べてしまえそうなほど……

 あまりに突然の状況で恐怖に固まる私を見て、その巨人は感極まったような声を上げた。


「ああっ神様!私たちにこの子を授けてくださったのですね!」


 …………は?


 危害は加えられなさそうと感じつつも困惑するしかない私に、よく見ると美しい女性の姿をしたその巨人はその後もきゃあきゃあ喜びながら色々話しかけてきた。日本語ではないのだがなぜか言葉は通じた。

 まあ何でも、結婚して3年経つのに子供が授からないので、毎日神様に祈っていたら私が現れたとか。

 私を大きくなるまで大事に育てると意気込む彼女。

 どこから突っ込んでいいのかわからなかったが、私はそんなに子供じゃないので多分これ以上大きくならないし、そもそもあなたとたいして歳変わらないと思う、などと説明した。

 彼女は少し残念そうにしつつも、それでも良かったらここで一緒に暮らさないかと誘ってくれたので、異世界らしき場所で右も左もわからなかった私はありがたくお世話になることにした。



 そうして2年が過ぎた頃、私はとある悩みを抱えていた。

 元の世界に帰る方法がわからないことではない。正直ここでの暮らしは好きだし、元の世界への未練も大してない。

 昨年夫婦の間に無事生まれた赤ちゃんが私をしゃぶろうとすることでもないし、ましてやラブラブすぎる夫婦と同じ空間にいるのが辛いなんてことでも……いやこれはちょっと関係あるかも。


 私の悩み、それは結婚のことだ。

 19歳である私が結婚の悩み?と思うかも知れないが、この辺では女子の結婚適齢期がなんと14~18歳、どんなに遅くても20歳くらいまでだとか!

 実際今二人目を妊娠中のこの家の奥さん、フローラは14歳で結婚していて現在19歳。……てかまさかの同い年……さすがに出会った当初はもう少し年上かと思ってた。 

 まあつまり、19歳は行き遅れ一歩手前ということになる。でもこれもそこまで問題ではないと思う。私ここでは若く見られるし。

 それよりも大問題なのは……


 生物学的に相手がいないことだ!!



 小学生の頃両親を事故で亡くし、中学卒業まで親戚の家をたらい回しにされてきた私は、人一倍家庭を持つことへの憧れが強い。夢はかつてのような幸せな家庭をいつか自分で築くこと。

 だが……

 この世界の人間は私から見るととにかく大きい。15メートル級巨人くらいでかい。逆に人々から見れば私は手のひらサイズだ。いくら何でもそんなサイズ感ではお互い結婚相手にはならないだろう……と思う。


 使える人は少なくとも魔法が存在するらしいファンタジーなこの世界だから、小人くらいいたっておかしくない!なんとなくそう思っていた。しかし実際には村の長老に訊いても私のような生き物は見たことがないそうだ。ある程度知能を持つと言われるゴブリンなら、まれに森で見かけることもあるらしいが……うーん。


 フローラたち夫婦は赤ちゃんが生まれてからも変わらず私によくしてくれ、とても感謝している。特にフローラとは親友と言える仲だ。赤ちゃんは目に入れても痛く……いや、口に入れられても構わないくらい可愛いし、きこりの旦那は相変わらずマッチョだ。

 今の暮らしに不満はもちろんない。それでもいつかは結婚して自分の家庭を持ちたい。ラブラブな夫婦を見ていると余計そう思う。

 そんな私が今後取りうる選択肢、それは……


 1.私と同じように異世界トリップした人を探す

 2.伝説の妖精王国を探す

 3.ゴブリンを探す

 4.魔法使いを探して大きくしてもらう


 1番のような人は存在するかさえわからないのでほぼ諦めている。

 2番の妖精は人間を小さくした姿で背中に透き通る羽を持つとても美しい種族だ。かつては人間の前に姿を現していたというが、数十年ほど前から森の中にある妖精の国に結界を張って姿を隠しているらしい。こちらも探すのは厳しそう。

 3番のゴブリンは一番見つけやすそうだが……だいぶ人間とは違う容姿らしいし、お互い恋愛対象になれるのかは疑問だ。

 4番は……これができればベストなんだよね。魔法使いを見つけること自体はそこまで難しくないだろう。大きな町を探せば一人や二人、会うことはできると思う。だけどこの森の中から大きな町に行くまでかなり遠いし、そもそも体を大きくするような魔法が存在するのかどうか……


 うーん、どうしたものかなー。

 おやつのミリベリーの実をもぐもぐと食べながら物思いにふける私。

 そんな時、近くの窓辺に青い鳥がとまってさえずった。


「ピピッ、おいしそう!ボクも食べたいなー」


 何!?私の大好物が狙われている!

 私はミリベリーの実を背中に隠しながら言った。


「あげないよ!これは私のおやつ!!」

「シャ、シャベッタァァァ!?」


 驚いた鳥はバサバサと羽ばたき、近くの木にとまって様子をうかがっている。

 おや、初めてくる子だったか。驚かせちゃったみたいだ。


「何なの君!鳥じゃないよねっ!ゴブリン……?なのに言葉……」

「ゴブリンじゃなくて私は小人!鳥さんとはなぜか話せるの。この辺の鳥達はみんな知ってるんだけどね」

「へ~!君みたいなの初めて出会ったよ!」


 青い鳥は軽く羽ばたきながらしきりに感心している。

 いやー、驚くよね。私も鳥の話していることがわかるって気付いた時はどこぞのプリンセスか!って思わず突っ込んじゃったよ。


「ところであなたはどこから来たの?この辺の子じゃなさそうだけど」

「ボク?ここのず~っと南にあるチルルの森から来たよ!最近暑いから、北の森に行く途中なんだ」

「そうだったの……。長旅お疲れ様。やっぱりこれあげる。食べかけで悪いけど」


 随分遠くから飛んできたらしい鳥をねぎらって、私はおやつを差し出した。


「わーいありがとう!……ピッ!?何これスッゴクおいしいっ!!」

「ふふっ、良かった」


 夢中でミリベリーをついばむ鳥をほほえましく見守っていた私だが、ふと思いついて尋ねてみた。


「そういえば、あなたは魔法使いに出会ったことってある?」

「あるよ~」

「!あるのっ!?」

「うん、これから向かう北の森に住んでるよっ」

「!」


 こんな機会はなかなかあるもんじゃない。私は即刻鳥に頼んだ。


「ねえ、北の森まで私を乗せていってくれない?頼まれてくれたらお礼にミリベリーをたーっぷりあげるから!!」



 *****



 そんなわけでフローラ達に書置きを残し、リュック一つを背負って青い鳥の背に乗り旅立った私だった。

 が。

 しばらく飛んだ後おいしそうな木の実を見つけて急旋回した鳥に振り落とされてしまったのだ!



 私はこれまでのことを思い返し、はーっと長いため息をついた。

 あーあ。近所にいる鳥たちには結構乗せてもらってるから、自信あったんだけどなー。

 慣れてる鳥じゃないと私みたいなのを乗せて飛ぶのは難しいのかも知れない。


 一向に戻ってこない鳥に見切りをつけ、私は仕方なく歩きだした。方向はわかるからいつかは着くだろう。幸いこの辺の森には危険な生物もいないと聞いている。


 まあ何にせよ怪我がなくて良かった。柔らかい茂みに落ちたのはラッキーだった。あと……多分だけどこの世界、地球より重力小さい気がする。以前より体が軽い感じがするし、高いところから落ちてもわりかし大丈夫なんだよね。


 そんなことを考えつつ歩いていたが、やっぱりというかなんというか、家までたどり着く前に日が暮れてきた。そろそろ寝床を確保しなきゃ。

 適当な木のうろを見つけた私は、よじ登って中をのぞいてみた。

 うん、先住民はいないようだ。ここなら結構奥が広くなってるし快適に過ごせそう。


 私はちぎった葉っぱを敷き詰めてうろを居心地よく整え、木の実と持ってきた干し肉で簡単な食事を済ますと、明日に備えて休むことにした。






「う……ん……」


 おしゃべりな鳥たちのさえずりが聞こえる。

 どこからか香ばしくおいしそうな香りが漂ってきて私の鼻腔をくすぐった。


 もう朝かな……起きなきゃ。

 ゆっくりと目を開くと…………



 至近距離で誰かと目が合った!



「……ぃひぃぃやあっ!!!」


 奇声を上げつつゴロゴロ転がって逃げ、壁にへばりつく私。

 私の寝床に入ってきた生き物は、ギョロッとした目でじっとこっちを見つめている。

 緑色の肌にとがった耳と鼻を持つ、老人のような顔をした二足歩行の生き物。背丈は私より少し大きいくらい。


 この姿……もしかして:ゴブリン?


「おい、なんだオマエ」


 ゴブリン(推定)が話しかけてきた!


「は、はいっ!小人のレミ、19歳でっす!!」

「コビト……?なんだそりゃ」


 ぴっと立ち上がった私を上から下まで眺めるゴブリン。

 そりゃ小人なんて知らないよね。私が勝手に名乗ってるだけだもん。


「ふ~ん……まあいいか。今外で魚焼いてるから、食わせてやる。来い」


 ゴブリンの口角がぐにぃっと上がる。

 わ、笑った……のかな?すごく悪そうな顔だけど!

 それに魚くれるって……親切!いい人かも!!


「あ、ありがとう!」


 私はリュックを背負うとゴブリンの後について木のうろから出た。




「オレは見ての通りゴブリンで、名前はジズーだ。まあ食えよ」


 やっぱりゴブリンだったらしい。


 私はお礼を言って、ジズーが差し出した焼き魚を受け取った。

 私の腕の長さくらいの大きさの小魚(人間基準で)にかぶりつく。 

 はふはふ。おいしい。


 朝ごはんをご馳走になりながら聞いたところによると、ゴブリンはこの森一帯に棲む種族で、姿隠しの術というゴブリン独自の魔法を使って人間からは隠れて暮らしているそうだ。一応聞いてみたがそれ以外の魔法は使えないらしい。残念。


「それでコビトとは何なんだ?ゴブリンの仲間か?それともニンゲンか?どこから来た?」


 ジズーに尋ねられ、私は身の上話をした。私は訳あって遠くから来た人間に似た種族で、この辺りには同種族がいないこと。結婚相手を探していること。魔法使いに会おうとしたが失敗したこと。

 ……なんかもう洗いざらい話しちゃったよ!意外と聞き上手なんだね、ジズー。


 一通り話を聞き終えたジズーはニッと笑い、驚くべきことを言った。


「ふ~ん……なら、オレの嫁にしてやるよ!オマエ結構可愛いし」

「ええっ!」


 ま、マジで!?どうしよう!

 私は見る分にはイケメン好きだけど、結婚相手は性格がよければ外見にはこだわらない。種族は違えどサイズも近いし言葉も通じる。それにジズーって口調はぶっきらぼうだけど親切で優しそうだし……どうしよっ、まずはお付き合いから始めてみちゃう!!?


「ジズー、誰だそいつ」


 その時草むらから10人くらいのゴブリン達がわらわら出てきて、私たちを取り囲んだ。


「小人のレミだ。オレの嫁にしようかと思って……」

「はあ!?正気か!?こんな不細工なヤツを!!?」

「嘘だろ~ほんとありえないくらいの不細工女だな!何だよその白い肌は。頭にも黒い毛があんなに生えてるぜ。まじきめえ!」

「ひっくい鼻。耳も小さいし、キモいニンゲンにそっくりだな」

「それに何か臭くねえ?そいつ」


 な、なんだとー!!不細工かはともかく、臭くはないよ!!たぶん!

 不細工と連呼する周りのゴブリン達に私のテンションはもうだだ下がりだ。顔も引きつっているのが自分でわかる。

 ……まあ恐らく私の容姿はゴブリンの美的感覚では美人とは程遠いのだろう。だから仕方ない。そう思うことにする。

 だけどジズーはさっき「可愛い」って言ってくれてたよね……?


「は、はは……やだなー冗談に決まってるだろ!誰がこんなニンゲンみたいなヤツ本気で嫁にするとか言うかよ!」


 …………。

 駄目だこのゴブリン。


「……魚ご馳走様でした。お礼にこれあげる。それじゃ、さよなら」


 私はリュックから干し肉とドライフルーツの包みをいくつか取り出しその場に置くと、半眼でジズーを一瞥し、スタスタとその場から立ち去った。




「はー……」


 しょんぼり気分で私はため息をついた。

 やっぱりゴブリンは感覚が違いすぎて結婚相手として無理っぽい。ジズーは ゴブリン的にB専なのか私を気に入ってくれてたみたいだけど、あまりにもヘタレすぎてガッカリだ。


 あーあ、誰かいい人……てかいい種族いないかなー。それか魔法使い。


 森の中の川沿いをとぼとぼ歩いているうちに、あっという間に日が高くなった。

 そろそろ休憩するかな。

 せっかく川があるから、小魚でも釣ろう。朝の魚おいしかったし。


 私は手頃な長さの小枝を拾うと、長い髪を数本抜いて結んだ。その先にちぎった干し肉を結びつけて、川面に垂らす。待つこと十数分。


 ……来たっ!


 釣竿を持ち上げると、銀色の小魚が水を跳ね上げながら飛び出してきた。


「やったー大物……ぎゃ!!?」


 突然ガッっという衝撃を体に感じ、思わず釣竿を取り落とす。次の瞬間……私は空を飛んでいた!


「ひえぇええええー!!」


 どんどん上がっていく高度に風を切る物凄いスピード。これまで乗せてもらってた小鳥たちの比じゃない速さだ。おまけに何かに胴体を鷲掴みにされてるから、腹部が圧迫されてもう吐きそう!!


「うぇ……ぇぇぇぇー……ぎゃあっ!」


 しばらく飛んだ後、私を掴んだ何かは高い木の上にとまった。その着地の衝撃に体中が痛む。尖った爪で私を押さえつける生き物は……大きな鳥!明らかに猛禽類だ!食べる気満々だ!!

 森に危険な生物はいないって!?人間にとっての話だったよ!!


「いやいややめて!食べないで!おいしくない、おいしくないから!おいしいかも知れないけどおいしくないからー!」

「しゃ、シャベッター!?」


 必死に訴える私に驚いた鳥が思わず足を離す。今だ!逃げよう!

 私は身をひるがえして駆け出し……


 ずるっ


「ひ……」


 しまったここは木の上だったあぁぁぁ……!

 足を滑らせた私はビル並みの高さの樹上から、成すすべもなく落ちていった。


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