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第1話 ―vs.ナーマ―

今回は誤字脱字含め、紅炎版のものを一切修正をせず投稿しています、ごめんなさい!

「これでトドメだ……! どりゃぁーっ!」


 俺は二メートルはあろうかという大きな魔物を三頭連続で袈裟斬りにする。ドサッと倒れた魔物は白い粒子へと変化していき、空中を舞っていく。

 サポートとして長い杖を握っていたリネット・ヴィータ――リーネはその様子を見て目を丸くした。


「すごい……、三頭一気にやっつけちゃうなんて……」


 リーネはそう言って多少の返り血を浴びた俺にタオルを渡してくれる。

 俺はありがたくそれを受け取り、顔を拭く。


「前は情けないところを見せちまったからな……」

「初めて会った時のことですか? 大量の荷物を持ってたんだから仕方ないですよ」

「それでも剣士として全くと言っていいほど何もできなかった……悔しいんだよ」

「もー、少しくらいは私を頼ってくださいよ? 遠慮せずに、バシバシ使ってくださいね、勇者様?」

「やめてくれ、それはどうやっても俺に合わないから」


 リーネは少し意地悪そうに俺を見てくる。


 だが、勇者という言い方もあながち間違っていない。

 だって、今こうしてリーネと旅に出ている理由は、『魔王討伐』をするためなのだから。


「そういえば、レックスさんの剣、きれいな刀身ですね、私初めてみましたよ、そこまで素晴らしい職人芸の通った剣は」

「あぁ、これは俺の父親の形見なんだ、死ぬ前まで毎日綺麗に整備してたよ」

「そうなんですか……。悪いこと聞いちゃいましたね」

「いや、そんなことないよ。それにこの剣を褒めてくれたのってリーネが初めてだ。ほら、この剣華美なアクセサリーとか一切ないだろ?」

「私は機能美が溢れてて好きですよ、その剣」

「そうか? 褒めてくれてありがとな」


 剣についた血を拭き取り、鞘に収める。空はもう茜色に染まっていた。


「さて、ここいらにテント建てるか。川も近くにあるし、いいんじゃないか?」

「そうですね、今日はここまでにしましょう」


 俺達はテントを組み立て、そこいらに落ちている枝を集めてくる。

 集めた枝に向かってリーネは自身と同じくらいの高さの杖を握り、何かを唱え始めた。


「《発炎(スパーク)》」


 すると杖の先から小さい炎が生まれ、枝に火が灯る。


「やっぱり魔法は凄いもんだなあ、俺なんて一人の時は火を起こすのに一時間はかかったぞ」


 リーネは「一応魔法使いですからね」と少し得意そうに言う。


 リーネは炎系魔法の使い手。さっきのような火を起こすだけでなく、凄まじい火力を持った魔法が使え、オークランドでは『神童』と呼ばれるくらいの実力の持ち主らしい(旅の出発前に定食屋のおばちゃんに聞いた)。


 俺は枝集めの間に取ってきていた川の周りに生えていたキノコや食べられる草を網に載せ、焼く。


「もう旅をはじめて一週間か、あと何日くらいで町に着くんだ?」

「えーとですね……あ、この調子なら明日で着きますね!」


とバックパックから地図を取り出し確認するリーネ。


「お、それは良かった、色々装備整えたいしな」

「そうですね、保存食がもう残り僅かですし」


 簡素な夕食を済ませた俺らは後は寝るだけ、なのだが、今日は居る場所的にも、やりたいことがあった。


「あぁそうだ、リーネ。俺川で軽く汗流すけどどうする?」

「ふぇっ? それって……ふぇぇぇっ!?」

「ん? まぁ、いいや、先に行ってるから、俺が戻るまで考えとけよ」

「え、あ、はい……」


 顔を赤くさせもじもじするリーネ。……どうしたんだ?

 少し気になるが、川へ向かう。


 魔物の血が少し生臭くて気になっていた。同伴者に女の子も居るし、迷惑をかけるかもしれない。

 川に入り、来ていた服を脱ぎジャブジャブと洗う。


「……チッ、流石に血は取れねぇか」


 川から上がり、別の服に着替え、リーネのところへ戻ると、まだ顔を真っ赤にしていた。


「どうした、リーネ大丈夫か?」

「え、あ、はい……」

「お前も川に入ったらどうだ? さっぱりするぞ?」

「え、あ、レックスさんはもう入られたんですか?」

「あぁ、もう入ったよ。何も覗いたりなんかしないから、行ってこいよ」

「あ、あぁ、そうですね、行ってきます」


 そう言うと着替えを持って川へと向かっていった。


 俺は俺のテントに寝っ転がる。


(明日、やっと町に着くんだな……少し休めるかな)


 でも。

 俺にはなにか大きな問題がこの先待ち受けているような気がしていたのだった。



 しばらくするとリーネが戻ってきた。

 さっきの赤い顔はどこへやら、ニコニコとした顔で帰ってきた。気持ちよかったようだ。


「さっぱりしました、ありがとうございました!」

「それは良かった。明日もあるし、今日はもう寝るか」

「そうですね。それじゃあ、また明日」

「うん、おやすみ」


 そう言って、各自のテントに入り、床についた。




 マントの繋ぎ目から見える薄く、明るい光が俺を起こした。

 テントを出るとリーネが鍋で何かを煮ていた。


「おはよ、リーネ。何作ってるんだ?」

「あ、おはようございます、レックスさん。今日で保存食使いきろうと思って、雑煮を作ってます。すいませんがお椀を二つ取ってもらっていいですか?」

「あぁ、分かった」


 俺はお椀を取り出しリーネに渡す。

 リーネがよそってくれた雑煮は美味しそうな匂いが漂っていた。


 一口すする。うーん、これは美味い。


「どうですかね、お口に合いますでしょうか?」

「うん美味しい。リーネ料理得意なんだな」

「得意とかじゃないですけど……好きでよく作ってたんです」


 リーネの作ってくれた雑煮はすぐに無くなってしまった。旅先でここまで美味しい食べ物が食べられるとは思わなかった。


「ごちそうさま、リーネ、美味しかったよ」

「おそまつさまでした、ありがとうございます」


 町へはあと少し。俺達は片付け終わると町へ歩き出した。




 時刻は夕方。俺達は町に着いた……のだが。


 なにかがおかしい。


 その謎はすぐに分かった。

 子どもが一人もいないのだ。

 大人は見かけるが皆話さない。

 町が死んだかのように静かなのだ。

 そして、通り過ぎる大人たちは皆一様に疲れた顔をしていた。


 何ごとなのか、と思いながら、俺達は宿屋へ行く。宿屋のおばちゃんに話しかけると、


「旅をしておられるのですか、剣士様、魔法使い様」


と聞いてくる。


俺達がそうだ、と言うと、宿屋のおばちゃんは泣きくずれた。



「どうか……どうか、旅のお方。この町を救ってはくれませぬか」




 話を聞くと、どうやら子どもが全員急に居なくなったようだった。

 ひと通り話を聞き終わったが、話を聞いた住人が口をそろえて言った事があった。


『あの山の頂上に祀られている竜の像があやしい』


と。


 俺達は装備を整え、件の山を登った。

 山はそこまで高くなく、すぐに頂上に着いた。


 そこに、先客が居た。

 褐色の肌。異世界人独特の尖った耳。俺よりも明るい色をした藍色の長い髪。

 俺達の存在に気づいたヤツは後ろを振り向いた。



「あらぁ、人間サマがこんなところになんの用かしらぁ?」



 魔王には三人の娘が居るという。藍色の長髪、褐色の肌のナーマ。茶色いボブに白い肌のヘケテ。くせっ毛な黒髪にオレンジの肌、長身のメッツリ。


 今、目の前に居るのはどう考えても、魔王の娘、ナーマだった。


 俺は剣を抜き、剣先をナーマと思しき異世界人に向ける。

 リーネも俺と同じことを考えたらしく、杖を構え、臨戦態勢を取った。


「お前は……ナーマ、か?」

「あら、あたしの名前を知ってるなんて意外だわ。そう、あたしはナーマ。魔王の長女よ」


 やはり、そうだった。そして、ここには子どもたちの気配がしない。


「貴女ですか、町の子供達を(さら)ったのは……!」


 リーネは怒った形相でナーマを睨む。


「そうよ、でも、殺していないし、殺すつもりもない。単なる『生贄(いけにえ)』よ」

「いけ……にえ?」


 俺のつぶやきにナーマは返す。


「あらぁ、知らないようだから教えてあげる。ここに住んでいるとされる(ドラゴン)、アイトワラスは幼い子どもを喰らうそうよ?」

「なっ……! ――じゃあ、もうひとつ聞こう。なぜ、竜を呼ぶ?」

「決まってるじゃない、ジャマだから、殺すのよ」

「こいつ……! おい、リーネ、俺があの魔人に先に仕掛けていくから、援護頼む」

「っ……! わかりました、どうか、ご無事で」

「おうよ、皆助けて、町に帰ろうぜ」


 俺は剣を振り構え一気に間合いを詰めた。


「喰らえっ!」


 敵の技量が測れないため、大振りな技でなくコンパクトな技を仕掛ける。


「物理なんてショボイわね、《物体氷結(アイスバーン)》」

「!!」


 俺は瞬時に左へ避ける。

 おれの居た場所が凍りついていた。


「魔法の……使い手、だと?」

「そうよ、あたしは氷魔法の魔法を使う。もちろん、地界人だから混沌(カオス)魔法も使えるわよ?」

『なるほど……』


 俺の声じゃない、別の太い声が呟いた。


 声のした方向――真上を見る。

 青い、竜が空を舞っていた。


「魔人と……シヴィル一族の子孫だな?」

「なんで俺を……!」

「その話は後だ、乗れ、剣士よ、戦いの手助けをしよう」

「うーむ……そうだな、それじゃ遠慮無く乗らせてもらうぜ。俺の相棒――そこにいる女の子も乗ってもいいか?」

「無論」


 俺は竜――アイトワラスの背に乗り、リーネへ手をのばす。


「リーネ、掴まれ!」


 状況を察した様子で、俺の手を掴み竜の背に飛び乗る。

 俺はリーネに尋ねた。


「リーネ、魔法ってのは間髪なしに打てるのか?」

「同じ魔法であれば詠唱は要らないので、出来ます」


 俺はその返答を聞き、リーネに作戦を伝える。

 リーネはその作戦に頷いてくれた。


「よし、やるぜ! 冷たい野郎の頭ふっ飛ばしてやる!」


 俺は飛ぶ竜の背から飛び降りる。

 地面に降りるまで時間はあまりない。

 俺は剣先を斜め上にやる。袈裟斬りの構えだ。


 俺が飛び降りると同時に、紅い炎の柱が大量に、バラバラに落ちていく。リーネの魔法である、《撃墜の炎柱(フロア・テネトレート)》だ。


 リーネの《撃墜の炎柱(フロア・テネトレート)》でナーマを囲む。これで《物体氷結(アイスバーン)》は遠距離へ使えなくなるはずだ。


ナーマの場所めがけ俺は飛び込んでいく、がナーマは涼しそうな顔でこちらを見ている。


「坊や、だから、物理はムダと言ったでしょう?」

「それはどうかな、――リーネ、来い!」

「はい、行きます、《撃墜の炎柱(フロア・テネトレート)》っ!」


 とてつもない大きさの火柱は俺の剣に向かって落ちていく。


 剣に火が触れた瞬間。


 刀身が赤く燃えた。


「なっ……! まさか……!」

「そうだよ、そのまさかさ! 喰らえ、そして燃えつきろ、《炎柱の剣フロア・テネトレート・ソード》!」


 ナーマを左肩から右腰へ一気に切る。


「ア……アァァァァァァァァーーーーッ!」


 ナーマは雄叫びを上げ、白い粒子へと変化していき、そして消えた。




 子どもたちも無事見つかり、町は賑わいを取り戻した。


 俺達は町の皆から祝福を受けながら、町を出る。

 しばらく歩くとそこに青い竜、アイトワラスが居た。


「シヴィルの一族の血を受け継ぐものよ。わたしはこの日が再び起こることを望んでいなかった」

「どういうことだ、アイトワラス」


 俺が尋ねると太い首を左右に揺らし、続ける。


「シヴィル一族は……魔王討伐のために続く一族だ。そしてわたしとシヴィル一族が逢うとき、それは魔王の侵略が再び始まったとき。

 わたしは平和に生きたいのだ。わたしは子どもなど喰らわない。ただ、すべての世界が平和であって欲しいと望んでいるだけなのだ。

 だが……わたしは、シヴィル一族、レックス・シヴィルと共に闘わなくてはならないのだ」


 アイトワラスはそう言い、目を瞑る。


「それが、会いたくなかった理由か?」

「そうだ。そして、そろそろわたしは戻らなくてはならん。あまり長くは人間界にわたしの身体は保てないのでな」

「そうか……。また、会えるのか?」

「あぁ、必ず。そなたがわたしを必要とするとき、必ず再会することになるだろう。

 そうだ、そなたにひとつ言っておきたいことがある。わたしの生みの親、竜王ジグルズを探せ。きっと、地界、魔界への入り口を記してくれるだろう」

「分かった、最後までありがとうな、アイトワラス。また会おう」

「さらばだ、レックス・シヴィルよ」


 そう言い残し、アイトワラスは飛び立っていった。


「……行っちゃいましたね」

「あぁ、そうだな。でもひとつ、わかったことがあったな」

「? なんですか?」


 首を傾げるリーネ。俺はいつもリーネがする得意そうな顔で言ってやる。


「まだ旅は続く、ってことさ」



 ……そう。



 ――俺たちの旅はまだ始まったばかりである。




続く


あとがき(はっくん氏)


 どうも、こんにちは、こんばんは、もしくはおはようございます、はっくん氏と申します! 今回は『やとまっ』シリーズ二作目を書かせていただきました!


 この長い小説を読んでくださった読者様、ありがとうございました!

 まだ続きます!


2015/07/20 はっくん氏


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