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プロローグⅢ

その瞬間、エイプリルを除いた部屋の全員が呆気に取られた。

本来ならば衛兵に見つかること無く実行するのは不可能なはずのアキバ内部での放火――――その犯人と目された男の口から飛び出したのは、あろうことか死んだ男が自らに火をつけたという突拍子も無いものだった。


「自分に……火をつけさせた?」


レイネシアがエイプリルの言葉の意味を確かめるように復唱すると同時に、

ボリスが先ほどとは比べ物にならないほどに激昂してエイプリルに叫んだ。


「いい加減にしろ!!“彼女”がそんな事をさせるはずが無い!!断じて!!」

「彼女?あんた、あの女に心当たりがあるのか?」

「……知っているとも。クラリス君は、ベン君……今回の放火で死んだ彼の婚約者だ。」


ボリスは苦々しげに答えながら俯いた。その表情には、怒りと悲しみの念が色濃く滲み出ている。


「本当ならば、2ヶ月後に挙式の予定だったよ……私も息子も楽しみにしていた。貴様がどんな根拠で真犯人に彼女の名を挙げたかは知らんが…賭けてもいい!クラリス君には決してベン君に恥ずるようなやましい部分は無い!万が一あったとしても、彼女は私情で殺人を犯すような真似は決してしない!!」

「婚約者ね……なるほど。」


何かに納得したようにうなずくエイプリルに対し、今度はシロエが問いかけた。


「エイプリルさん。貴方は、何を根拠に先程の推論に至ったのですか?結論ではなく、まずはそこに至った経緯と物理的な証拠を提示してください。」

「…ハードル高くね?火事の後、すぐに昏倒させられて、何の用意もさせてもらえず尋問されたかわいそうな子羊ちゃんのこの僕に、どう証明して見せろと?」

「一度信頼を失った人間が苦労するのは当然です。初対面で信頼度ゼロの人ならまだともかく、あなたは既にマイナスの位置にいるのですから、相応の釈明を行わなければ、先程のような推論を主張する資格すらありません。」


シロエの言葉は、彼にしては珍しく辛辣な物だったが、エイプリルのほうは心底同意するように頷き、ぐるりと首を横に向けた。


「全く持ってその通り。では、そんな信頼の無い僕に代わって、僕を昨晩から1日中見張っていたD.D.Dと黒剣の皆さんに、今までの僕の様子を説明してもらうことにしよう。」


唐突に話を振られたD.D.D及び黒剣の監視達は、狼狽えたように互いに顔を見合わせる。2、3人がクラスティ達に何か言おうとする素振りを見せたが、周囲を見渡しながら結局口を噤んだ。――――もっとも、護送中にエイプリルを一度逃がしてしまった彼らからしてみれば、大勢の前で自分達の失態を話せとも取れるエイプリルの要求に臆するのも当然だったのだが。


「レトゥレイン君、報告を。」


クラスティの命令に、収容所の長・レトゥレインは気まずそうな様子で話し始めた。


施設に疫病が蔓延したため、自分の判断でエイプリルの護送を決めたこと。

黒剣が合流した後、エイプリルを入念に検査したうえで護送を開始したこと。

護送の途中で、偶然火事の現場に遭遇したこと。

火事に出くわし動揺した際にできたほんの僅かな隙に、エイプリルが〈口伝〉を使うのを許してしまい、まんまと脱走された――その話に差し掛かった直後、それまで黙っていたエイプリルが口を挟んだ。


「……〈口伝〉って何よ。僕、そんなモン使った覚えは無いんだが。」

「『大災害』後の世界で発見・開発された特技のことですよ。エイプリルさんの“アレ”も、〈口伝〉の一種と言えるでしょう。」

「ふーん、僕がずっと閉じ込められていた間にそんな分類ができていたのか………ん?じゃあ、僕以外にも使えるやつが……?」

「個人の〈口伝〉は誰かに真似できるような特技ではありません。大体、あの特技は冒険者や大地人を召喚獣同様に駒としか見ないあなたにしか使えないでしょう。」

「一緒にしないでくれ。あいつらに比べたら、僕が殺したゴミ共なんて文字通りただのゴミだ。」


エイプリルの問いに対し、シロエは冷たい声音で答え、ついでに彼の行動指針を非難するが、相手は1000度冒険者を殺害した血祭りエイプリル。相変わらず堪える様子は微塵も無く、逆に呆れた視線をシロエ達に向ける。

その態度に、再び周囲の冒険者が敵意を膨ませた瞬間――


「あ!あああぁぁあぁ!!」


彼らの意識は突然響いた叫び声に向けられた。


「急に叫んだりして、どうしましたか、アサミ君?」

クラスティの問いに対し、エイプリルの監視役の1人である暗殺者・アサミは慌てふためきながら口を開く。


「ご、ゴミです、ギルマス!一度、あの状況で血祭りはゴミを拾ってました!!それも私たちの攻撃を避けながら!」

「………うん?」

「ですから………ぐへぁ!?」


興奮しながら捲し立てるアサミに対し、レトゥレインが後ろから蹴りを入れ、能面のような表情で「何言ってるか分かんねーよ!落ち着いて話せ!」と無言の圧力をかける。しばしの静寂の後――――落ち着いたらしいアサミがゆっくりと話し始めた。


「す、すいません、パニクりました。……ウチ、見たんです。血祭りが牢から脱出した後、そいつが炎のなかに飛び込みながら逃げてる、ビンみたいな何かを拾っていたんです!」


アサミはそう言いながらエイプリルを指差した。同時に、再び彼に周囲の視線が集中する。


「おや………君が逃亡中に清掃活動を行うほど潔癖症とは知りませんでしたねぇ?感心しましたよ。」


挑発するように、クラスティが言葉を投げかける。もちろん、感心など欠片もしていないのは明白だ。護送から逃げ出した逃亡犯が呑気にゴミ拾いなどするはずもない。合理的に考えて――――『証拠隠滅』が最も考えられる可能性だろう。

だが、そんな冒険者達の予想に反し、エイプリルはあっさりと懐から中身が空のビンを取りだす。

そのビンは、炎のなかで拾ったという割には、溶けている様子もなく見事に原型を留めていた。


「そーそー、僕ってとっても神経質で潔癖症なの。だから――――――こんなゴミにも目ざとく気付く。」


ヘラへラ笑いながらエイプリルがビンを手前に差し出した瞬間、突然クラスティとシロエが驚愕の表情を浮かべた。


「レトゥレィンさん、今すぐ彼の装備品を調べてください!!」


シロエの言葉を受け、レトゥレインが即座に何らかの魔法を使用するが、一瞬の後に首を振る。

こいつはビンの他に何も持っていない、と言いたげに。


「……エイプリルさん、それは本当に火事の現場で拾ったものですか?」

「当然。と言うか、僕がそれ以外の場で拾っていたら大問題でしょうに。」


事も無げに言い放つエイプリルに対し、先程から全く話についていけていないレイネシアがおずおずと尋ねた。


「あの……何故、御二人はそのビンを見て驚いているのでしょうか?私には何が問題かよく分からないのですが……」

「これは失礼。このビンは『外観再決定ポーション』――――――――平たく言えば人の外観を思い通りに変えるアイテムのビンなんッスよ。」

「そ……れはつまり、何者かが火事の現場で自分の外観を変化させていた、ということですか!?」

「正解。ちなみに僕が拾った時には、明らかに服用した直後の状態でしたよ……あ、僕の偽装工作とか言わないでくださいね。こんなもん、牢獄で隠し持つのも街中で拾うのもあり得ないんで。ついでに言えば、僕は火事の現場で怪しいヤツもしっかりと見ましたとも。まだ、僕が檻から脱出する前だったけどね。」


エイプリルは、周囲の反応は予想通りとでも言いたいようなしたり顔で語りかけた。


「最初は『何故、あの場に大地人がいるのか』って不思議に思ったんですよ。僕が護送されている間、冒険者の見物人は何人もいましたが、大地人はあの火事の時まで1人もいませんでしたからねぇ?ま、当然と言えば当然か。冒険者を1000回仕留めた冒険者なんて、大地人からすれば見物なんて御免だろうからな。」


ボリスとレイネシアを交互に見ながら、エイプリルは言葉を紡いだ。

これには、レイネシアはもちろん、先ほどまで激情にかられていたボリスも言葉に詰まる。彼の言う通り、普通に考えればいかに命知らずの大地人であろうと、好き好んでこんな冒険者の凶悪犯を見物したりしないだろう。相手は大地人よりはるかに強い冒険者達ですら、持て余している怪物なのだ。


「で、その大地人をよく見たら、サイズが全ッ然合わない靴を履いていたわけですよ。まるで、先刻まで身体の大きさが違っていたみたいに。冒険者の装備だったら自動で身体に合わせたサイズになるからこんなこと気にしないんだけどねぇ。というわけで、あからさまに怪しかったんで、そいつの名前を覚えていたわけだが、それが――――」

「『クラリス・エイベル』という女性だった……そういうことですか。」


エイプリルの言葉に続くように、クラスティが答えを口にした。言い終わると同時に、先ほどまで騒然としていた部屋を沈黙が満たす。

合理的に考えて、数多くの冒険者を虐殺した犯罪者であるエイプリルの証言に信憑性などあるはずもない。だが、否定するにはエイプリルが『外観再決定ポーション』の空きビンを所持していることを説明しなければならなかった。無論、長期間監視されているエイプリルが牢獄内でポーションを入手できた可能性は限りなく低い。

それはつまりアサミの見た通り、エイプリルが本当に檻の中から脱出して再び捕まるまでの僅かな間にビビンを拾ったと考えなければ説明がつかない事実だった。本当に彼以外の何者かが、犯人かどうかはともかくとして、火事の現場で『外観再決定ポーション』を使用したと考えなければ、エイプリルの手元には空きビンが渡る可能性すらないのだ。


だが――――


「ふざけるな!“冒険者は名前が見える”のに、そんな無意味な偽装を彼女がするものか!!」


静寂を打ち破ったのは、シロエやレイネシアの背後の扉が、勢いよく開いた音だった。

その中から大地人の青年が、後ろのエルフのメイドと青髪の女性の静止を振り切って、怒り心頭な様子で駆け込んでくる。


「何をしている、アレクセイ!」

「父さんは黙っていてくれ!僕にはもう我慢ができない!100歩譲ってコイツがベンを殺していないとしても、クラリス君を犯人扱いするなんて、そんなことは絶対に認めない!!」


ボリスが慌てた様子で宥めようとするが、アレクセイと呼ばれた青年は構わずエイプリルの方に向かう。D.D.Dの監視役が数名構えるが、檻のなかからエイプリルが手を伸ばしてこれを阻む。


「僕たち大地人が、冒険者のことを何も知らないと思っているのなら、耐え難い侮辱だ!父さんは、貴様が放火したとは考えていないようだが、こんな適当極まりない理屈でクラリス君を犯人扱いしている時点で、貴様が犯人ですと自白しているようなものだ!」


アレクセイは檻に詰め寄りながら、後ろにいた青髪の女性を指さす。だが、エイプリルはというと、女性のことなど眼中にないといった様子で、腕を組みながらアレクセイの方を見据える。


「誰が指摘するかと思っていたら、まさかの乱入者からとは…………って、だからそこの監視共!人が話している最中なんだから、そこのニーチャンを連れて行こうとしないで!」

「どういう意味だ!貴様、デタラメな推測と分かっていながら、クラリス君が犯人とほざいたというのか!」

「そんなつもりは皆無だ。まぁ、あんたみたいに『外観再決定ポーション』が名前を変えることができないという点に言及する奴が出ることは、最初から予想していたけど――――!」


不意に、エイプリルが左腕を掲げた。同時に、腕に円盤状の装備が一瞬で装着される。


「っ、何を……!?」

「安心しろ、攻撃しようってわけじゃない……って、監視のみなさーん!妙なことしないから、こっちに武器向けるの止めて!!心臓に悪い!!」


殺気立った監視達に対して、エイプリルは両手を挙げて降伏のポーズを取る。


「今から、俺がクラリス嬢さんが現場にいたことを証明してやるから、よーく見ておけ。そうすれば、何故彼女が名前を気にすることなく『外観再決定ポーション』を使ったか理解できるはずだ。」

「あくまでもクラリス君が犯人と言い張る気か!他に目撃者がいるならともかく、彼女が現場にいたと言い張るのは貴様だけではないか!」


アレクセイが同意を求めるように周囲を見渡すと同時に、監視役たちがぎこちなく頷いた。もっとも、彼らからしてみれば、実際には「見ていない」というよりも「見覚えがない」という方が正しいのだが。


一方、エイプリルは、今にも噛みつかんばかりの勢いであるアレクセイに対して珍しくやさしい微笑みを浮かべ――――


「……残念ながら、そいつらの節穴の目で見聞きしたことなんて、僕以上に説得力に欠けるね!」


言うや否や、目の前に巨大な魔方陣を出現させた。


「血祭り、てめぇ――――――――はぁ!?」

「ギルマス!?何のつもりですか!?」


一足早く攻撃しようとする黒剣の監視達だったが、突如その視線がエイプリルから外れる。上座にいたクラスティが発動させた〈アンカー・ハウル〉が、彼らの攻撃を妨害したのだ。ギルドマスターの突然の行動に、残ったD.D.Dの監視達も驚いて動きを止める。


「…………………………え?」


咄嗟に逃げようとして派手に躓いたレイネシアは、勢いで隠れたクラスティの背後から顔だけ出してエイプリルの方向を覗き、その光景に疑問の声を上げる。

先程「召喚獣はいない」と断言した召喚術師が使用した特技は、間違いなく召喚術師の基本特技である『従者召喚』だった。だが、それはレイネシアの知る召喚術とは、いろんな意味でかけ離れたものだった。


「……今のは何だ!?いったい何をした!?」

「おっと、失礼。そういえば、あなたにはステータスが見えなかったか。こちらの大地人さんもクラリス・エイベルさんという名前です。」

「違う!!私が聞きたいのはそちらではない!!」

「ん?…………あー、つまりですね、同姓同名の人間が『外観再決定ポーション』を使えば、名前は変えなくても…………」

「それも違う!!いや、確かに重要なことだが…………違う!!」


首をかしげるエイプリルに向かって、ボリスがレイネシア以上に狼狽した様子で疑問を捲し立てる。



「どうして!!君は人間を召喚することができたんだ!?」



そう叫びながらボリスは、エイプリルが先ほど召喚した大地人の少女――――――――赤毛のクラリス・エイベルを指さした。エイプリルは先ほどの召喚で、本来ならば召喚術師が絶対に召喚できるはずのない存在である大地人をこの場に呼び出したのだ。



「彼には、それができるんですよ。」


エイプリルに代わって、シロエが疑問に答える。


「大地人だけではありません。彼は、その気になれば、冒険者であっても、条件さえ満たせば召喚獣のように自在に呼び出せる…………それが、エイプリルさんの〈口伝〉の1つ『強制召喚』です。」



◇  ◇  ◇



それが大衆に知られたのは、アキバを統治する『円卓会議』が結成されてからしばらくたった日の出来事がきっかけだった。

「初心者狩りを行っている狼牙族の盗剣士がいる」という通報を受けた円卓会議が、加盟ギルドの1つである『西風の旅団』を、犯人の知り合いだという『三日月同盟』のギルマスを連れて向かわせたのだ。

だが、彼らが現場で見たものは、目玉を抉られた盗剣士が、召喚術師の召喚獣達に凄惨な拷問を受けている光景だった。

召喚術師は、弱者を守り切れてないと『円卓会議』を罵り、今後は自分が代わりに私刑を行うと宣言。挨拶代わりと称して、自分を止めようとした『西風』の隊員2名を惨殺し、激昂した『西風』のギルマスにすら重傷を負わせて退けた。

直ちに円卓会議で対策が練られるが、そこで奇妙な事実が発覚した。戦いの一部始終を目撃した冒険者から、「召喚術師がまるで衛兵のようにワープしていた」との情報が寄せられたのだ。混乱する円卓会議ものとに、召喚術師が厳重に警備されていた建物から盗剣士を拉致して再び殺害したという知らせが届いた。この時、召喚術師が未知の術を得たと判断した円卓会議は、あの手この手で召喚術師の侵入を防ぐ手立てを講じようとしたが、後にD.D.Dの幹部が偶然そのカラクリを見抜くまで、悉く裏をかかれる有様だった。


よもや、召喚術師が人の名を召喚リストに記すなど、誰が想像できただろうか。

よもや、召喚術師が自らの名を召喚リストに刻み、己を召喚して転移させるなど、誰が可能と思っただろうか。

よもや、召喚術師が召喚獣を自爆させる特技でリストに記した冒険者を爆死させるなど、誰が理解できただろうか。


召喚術師が持つ他の2つの〈口伝〉を大きく凌駕した応用力を持つこの特技は、召喚術師の狡猾さも相まって、まだ〈口伝〉という概念すらなかったアキバの冒険者に多大なる損害をもたらした。


『強制召喚』


それは、ただリストに名を連ねた者を呼び出す“召喚”という範疇を超越した、まさに最凶の冒険者にふさわしい邪道な特技であった。



◇  ◇  ◇


「あ~ヤベ、腹減った。そういえば、昼から何も食ってねぇ……。」


尋問が終わり、エイプリルは檻に入れられたまま控室につれてこられていた。


あの後、エイプリルに召喚された赤髪のクラリスは、火事について自分は関与するどころか、この日は外にも出ていないと反論していたのだが、クラスティから「収容所にいる間はエイプリルの召喚リストにクラリスの名前が無かった」、「エイプリルは近くにいなければリストに相手を登録できない」、「監視の目を盗んで契約するのは檻から脱出して彼自身に注意を向けたタイミングしかない」など、矢継ぎ早に矛盾点を指摘されて証言が二転三転し、最終的にシロエの脅迫によってついに自分が青髪のクラリスに変装していたことを認めたのだ。


「信じらんない信じらんない信じらんないいぃぃぃ!!ウチ、突撃してもいいですか!いいですよね!?」

「頭冷やせ、この暴走機関車が!!俺達の本来の仕事は、『血祭り』の監視で、犯罪者の取り締まりじゃない!!」


檻のすぐ側では、外に出ようと暴れるアサミをレトゥレインが必死に抑えつけていた。


「センパイは何とも思わないんですか!?アレクセイさんとクラリスさんをくっつけるために、偽物のクラリスで本物のクラリスさんと婚約者を別れさせようとするなんて、酷過ぎです。」

「クラリス言い過ぎだ!何が言いたいのかさっぱりわからん!」

「だから、とにかくアレクセイさんの兄が悪い!!そいつブッ飛ばせば万事解決!!」

「するかボケ!!後味悪いのは同感だが、俺達が下手に干渉していいことじゃねぇ!!」


そもそも、赤髪のクラリスが変装してベンに会ったのは、ボリス・ゴドウィンの息子で、アレクセイの兄にあたる人物が、アレクセイが青髪のクラリスに密かに恋焦がれていることを不憫に思い、彼女に依頼して婚約者のベンと青髪のクラリスを破談にさせて、弟を宛てがおうとしたものだったのだ。これを聞いてボリスは卒倒し、友人の門出を真剣に祝う気でいたアレクセイは怒り狂い、尋問は続行不可とみなされ中止になったのだった。

この真相を聞いて以降、アサミはずっとこの調子で、周囲は手分けして宥めようとしていた。


「お、おい『血祭り』そういや、なんでお前は、あの火事は被害者が自分で火を付けたって分かったんだ!?」


何とかアサミの矛先を変えようと、D.D.Dの1人がエイプリルに話しかけた。特にやることも無いエイプリルは、とりあえず話を拾うことにした。


「簡単な事だ。衛兵が来なかったからこそ、あの火事が自殺と分かったんだよ。あきらかに人為的に火をつけた痕跡があるのに来なかったのは、放火ではなく自尽と判定されたからなんだ。」

「あー……そうか。そういえば、お前の召喚リストに登録されて、1回死んで逃れようとした奴がいたっけか?」

「ご明察。あの時もアキバの中なのに、衛兵は来なかったからねぇ。まぁ、一度リストに登録したら最後、僕が消さない限り残ったままだけどな。」


事も無げに言い放つエイプリル。


「ふん…………相変わらず、忌々しい能力だよ、お前の『強制召喚』は。」

「うぅぅ、ベンさん可愛そう…………きっと、彼女を本当に愛していたから衝動的に焼死で…………ああぁぁぁ!!やっぱり、ウチ我慢できないぃぃ!!」

「ちょ、何やってるんだ、『血祭り』!!アサミさん、さらにエキサイトしちまったじゃん!!」

「誰か、三佐さん呼んで来い!!俺たちじゃ、もう止められん!!」

「あのー、さっき先輩方の念話で、三佐さんが大地人と一緒にゴドウィン兄の家にカチコミに行ったと連絡が…………」

「何やってるんすか、三佐さーん!?」


何やらカオスな状況に陥り始めたD.D.Dの監視達に対し、エイプリルは白けた視線を送る。


(せっかく久しぶりにあの狭苦しい独房から外に出られたと思ったら、最後までこのザマか…………もうしばらくはまた外に出られないってのに、とんだ厄日だ。)


そう考えながら、エイプリルは空腹を紛らわせるため睡眠体制に移る。

実際には、尋問のときに少し顔を合わせたメイドが持ち込む数々の珍事件のせいで、エイプリルは再び牢獄の外に出ることになるのだが――――――――


この時の彼にはそれを知る由も無かった。

次回 主人公のターン!

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