03
呪われてしまえと神に唾を吐きたい気分だった。天使を作ったのは──すなわち梶宮を作ったのは神なのかもしれないが、堕天というシステムを作ったのも同じ神ならば、呪う権利くらいは持ち合わせているはずだと自然に思えてしまっていた。
この孤独感が堕天への罰ならば、堕天の原因となった孤独感は一体なんだというのか。
「……堕ちたんだなぁ」
呟いた梶宮の声は、停車駅を告げるアナウンスにかき消された。
初めて地上からビル群を見上げたときよりも、神を呪ったいまの方がよほど堕天を強く感じるとは。梶宮自身、思ってもみなかった。
初めて間近に感じた人の息吹より、どこにいるかも分からない神への呪いの方が強いインパクトを持っているなんて。
──と、思ったところで、梶宮はふと聞き覚えのある声に気がついた。
誰かの名前を呼んでいる、けれどもその名に繋がる顔が思い浮かばない、不思議な男の声だった。
梶宮に堕天使以外の知り合いはいない。狭く浅い関係を築いているのだから、声と名前を聞いて顔が出てこないなどということはありえないはずなのだが。
「今更、なに?」
注意の向いた耳が、応える声を拾う。硬く、低いトーンの女の声。緊張というよりは嫌悪に近く、若干震えているのが分かる。
そして、この声もやはり──聞き覚えがある。
柑橘系の香りがする。
視界の端にダークブラウンの髪が見える。
梶宮の思考回路が、「まさか」と期待し、「ありえない」と否定した。強烈な印象と記憶があいまいに裏付け、二週間で痛感した現実が希望を捨てろと促した。
東京は広い。名前も知らない他人を探すには。
それでも、出会ってしまう縁を梶宮は知っている。その縁を無駄にしてはいけないことも。
視線を移す。




