04
車両内の人混みは、いわば大量の「他人たち」だ。彼らは互いに干渉し合おうとはしない。自分の手元に意識を向けている人々の中で、たった一組の男女が向き合って小声で言葉を交わしている。
女は梶宮に背中を向けていた。けれど、男の顔に見覚えがあった。
過剰に密着していた二人の背中を、梶宮は知っていた。
神への呪いを取り消し、謝罪し、信仰心を取り戻すどころか、足にキスをしてもいいと思えるだけの力を持った二人組だった。
「あのときは、悪かったって」
「……なにが?」
「だから、ほら……」
彼らが、ぎこちない表情で、微妙な距離を保ちながら、他人のような会話を交わしている原因は、梶宮にあった。
そして、切られた縁が今まさに繋ぎなおされようとしているのは、見るからに明らかだった。
彼らの縁がどれほど強いものなのか、梶宮は知らない。
偶然が重なった結果の復縁なのか、それとも約束された必然の復縁なのか、判断をつけられるのは全知全能の神くらいなものだ。
けれども、「知らない」ことは「諦める」理由にはなりえない。
自分が堕天使で相手が人間だとしても、この恋を諦めると言わなかったのは、他でもない梶宮ではないか。
そしてなにより、名前も知らない彼女が復縁に乗り気でないのなら。
諦める理由も、ためらう義理もない。
もし強い縁を持った二人だったとしても、繋ぎなおすたびに切ってやろう。




