0.5-1
幕間です。
序幕に合わせても良いかもですが、内容的には微妙に別というそれ。
進めば幕間の扱いも変わるかもですが、今の内はあくまでも、過剰(?)な説明の更に補足扱いですね。
オレ達が話しをしている間に、荻野玄太も目を覚ました。
リアルでも知人である川瀬辰弥によると、結構インドア派だという事だったけれど、それ程には貧弱な印象も、弛んだ印象も受け無かったのだけれど、精神的にかなりやられてしまった様で、顔は青ざめ、体を小さく縮めてガタガタと震えているその姿からは、ひどく脆く見えた。
ログインしたのが午後9時頃で、時間経過があっちと同じだとなれば、当然少し待てば夜が明けるという事も無い。これから夜が更けて行く時間帯だ。
無理に闇夜の中進むのは危険が伴うので、オレ達はここで朝まで過ごす事になった。
何も無い野外で夜を明かすなど普通なら厳しいけれど、戸畑天が慣れた手つきでテントを二つ向かい合わせに設置し、近場で枝等を集めてテントとテントの間に焚き火まで用意した。
比較的小さい方のテントは普段戸畑天が野宿の時に使うものだそうで、今回は女性用となった。サイズ的には2人が並んで寝るのに十分だろう。
男性用となったテントの方は形がいびつであったり、天幕が余っている部分もあったので、おそらく手持ちの道具を使ってテントらしくあしらえたのだろう。大きさ的には4人が寝るには狭そうだけれど、火の番も兼ねて戸畑天が朝まで見張りに立つと言うので、スペース的に問題は無さそうだ。
テントの床も地面のままではなく、堅いがクッション性もある板状の物が敷かれていたので、過ごすのに不足は無い状態に仕上がっていた。
この床に敷いたものは、不整地の場所を想定して持ち歩いているものらしい。
更には水流がテントの中に、気温調整用にと何か術を発動したので、正直なところキャンプなどでイメージするテント環境より、かなり優れた状態になっていた。
とは言え、直ぐにテントに入って休める精神状態でも無く、オレ達は話しを続ける事になった。
一つは道具に関して。
みんなはゴブリン達に攻撃を受けている間に、必死になって対応しようとしたら、いつの間にか武器を手にしていたという印象だったという。
オレはあっちから何時飛ばされるか分からなかったから、左胸と腰の後ろに銃を二丁装備していたので、武器の取り出しは経験さえしていない。
戸畑天の様に虚空に消し、またそれを取り出す方法なんてオレ達は知らなかったのだ。
戸畑天と水流によると、収容枠さえ開いていれば仕舞うイメージをするだけで良いらしい。逆に取り出すイメージをすれば手にする事が出来るという事だった。
つまりみんなは、何とか抵抗しようという思いが強く働いた結果、抵抗の為に武器が取り出されるイメージに至ったのだろう。
収容枠とは大きく分けて二つあるのだそうだ。
一方は個々が元々持つ能力的なもので、一人につき二つの枠が得られるのだけれど、この能力の発現には訓練が必要で、こっちでは大抵、小さい頃に先ず行うと言う事だった。
オレ達がそれを普通に使える状態なのは、おそらくデュアル・クロニクルの影響なのだろう。武器枠とアイテム枠がそれに該当したのだと推測出来たのだ。
武器をこの枠に収容すると、取り出す時に自分がイメージした状態、つまりは剣や刀であれば鞘の付いたままか、抜き身の状態かを取り出す段階で選べるという事になるらしいのだけれど、この収納枠に直接入れられる武器は、所有者情報を記録出来る、一定のレベル以上の武器に限られるらしい。
戸畑天の長刀は鞘から抜き難い程に刃が長い--ちなみに刃渡り三尺三寸(およそ一メートル)の大太刀サイズだけれど、太刀の様な打刀ではなく、斬る事を優先した造りのものらしい--ので、格納しておいた方が扱い易くなるのだそうだ。
また、その両方の枠に武器を収容する事は出来るけれど、それでは他のアイテムは持ち歩かなければならなくなる。
そこで重要になるのが、もう一方の枠となる鞄だった。
オレはゲームで、鞄を最大にまで拡張していたが、今野は拡張していなかったらしく、川瀬辰弥は最大では無いものの多少拡張していた。
荻野玄太は、未だ対応出来る状態では無いので分からなかったけれど、オレ達三人の鞄は、取り出してみると大きさが変わらないのに色やデザインは異なっていたし、旅の為に相応に大きい物を用意したという水流や、テント等様々な物を入れていた戸畑天の物とも違っていた事から、鞄がアイテム枠として反映されていたのではないかという推測に至った理由だ。
これも推測ではあるけれど、おそらくゲーム時の最大拡張よりも水流や戸畑天の鞄の収納力は大きいと思った。
収納力に関しては近い内に、調べてみる必要がありそうだ。
この鞄にも武器は入れられるものの、収容枠に直接入れるのとは異なり、イメージした状態で取り出す事は出来ないらしい。
つまり使い方としては、鞘がある等で取り出す状態を選択する必要が有る武器は枠に直接収容して、他のアイテムは鞄に入れておくのがベストという事になる。
鞄には収納量が色々あって、それは鞄を作る際に組み込まれた、内部拡張の術式によって決まると言う事だった。
この術式の説明を聞いたところ、個々の収容枠も鞄も、疑似的な空間を作り出して云々という様なものではなく、どちらかと言えば収納する物に固有の情報を読み込んで保存する様な印象を受けたけれど、正直よく分からなかった。
ただ、情報保存的な形での収納になる為、時間経過による変化は起きないらしい。
また、常時情報に変化が生じる生き物や、他人の所有者情報が記録された物は入れられないとの事だったので、そのくらいを覚えておけば十分だろうと思ったのは事実だ。
参考までに聞いてみたところ、水流は二つの収容枠両方に鞄を入れているらしい。
これは弓と矢を別々の鞄に入れておけば、左右両手を使って一度で取り出せる様になる為だと言う。
ただし、どちらの鞄に入れるか、どちらの鞄から何を出すか等を適時イメージする必要があるという事だったので、慣れる迄は大変そうな印象を受けた。
オレの銃や、今野の符術には鞘とかが関係無い為、正直なところ鞄に入れておけば済む類の武器だから、枠は一つあれば十分という事で、水流の使い方を参考にするつもりだったのだけれど、当分は一枠を無駄使いする感じになりそうだ。
所有者情報は、一定レベル以上の武器と鞄類は登録が出来る作りになっているらしい。
武器に関しては、何の付与も成されていないノーマルの武器が、情報を登録出来ないと言う事だった。
所有者情報は自分から離れて四八時間が経つか、所有者が情報解除をイメージすればクリアされる。
所有者情報が登録されていない状態の武器や鞄類であれば、解除同様イメージすれば登録されるらしい。
この事で盗難等の被害は結構防ぐ事が出来ると思ったのだけれど、盗賊であれば隠す場所も用意していたりするので安心は出来ないらしい。
こっちには盗賊が居るのか・・・。
ちなみに、今野の符術師はこっちでは魔具師というカテゴリーに当たるそうだ。ゲームには無い設定だったが、そもそも符術は、術を効率的に展開させる式を組み込んだ符を使うというものでしか無い。
こっちには符以外にも様々な物があって、それらを総合して魔具と呼ぶと言う。
式を本に組み込めば、あっちで小説などに使われる事も少なく無い、本自体が力を持つ魔本や魔道書の様な物が出来上がるが、それらを扱う者も、こちらでは魔法使いではなくて魔具師になる。
こうした中で、やはり魔法使いと言ってイメージ出来る魔方陣だけは別で、実体を持たない式によって行うから道具に当たらない事と、事前に式が組まれているわけではない事から魔法使い--日之本では術師--というカテゴリーになるらしい。
オレ達の認識と同じ扱いのものもあれば、違うカテゴリーのものもある様なので、おそらくあっち側ではこうした分類が、時代変化と共にズレて行ったのかも知れない。
魔具の中には剣や刀と言った武器もある。
と言うよりも、属性や強化等の効果付与が行われていない武器は、こっちでは一部の素材で作られた物を除いてレベルが低い、つまりは最低ランク扱いとなるらしく、ほとんどの武器が魔具となるらしい。
とは言ってもこうした武器は、ほとんどの場合術を発動する支援回路として使われるのでは無く、その回路である式自体が術と同様に発動までの全てを補うので、扱う者は術を使わない場合がほとんどだと言う・・・と語弊があるかも知れないけれど、要は作りこそ魔具ではあるけれど、魔具としては扱われないという事だ。
魔法や術というものは、こっちでは簡単なものなら日常的に使われる為に、使えない人の方が少ないのだけれど、そうした日常の魔法や術が使えるからと言って魔法使いや術師とは扱われ無いのだ。
魔具を武器等として扱うには、魔法使いや術師としての技量が最低限必要となるので、発動の支援回路として魔具が有効になる。
単に回路だけで機能する式を組み込まれた武器と言うのは、機能が追加されたり、加工に一手間加えられた道具扱いでしか無いわけだ。
これは勿論、防具やアクセサリー類も同様となる。
そうなると厄介なのが、剣や刀等の、鞘がある武器だ。
個々に持つ収容枠は二つしかないし、片方には鞄を入れておくのは基本になるだろう。
そうなると、抜き身で取り出せるのは一つだけになるので、属性武器を使い分ける事が難しくなるわけだ。
その辺りについては、実際に刀を使っている戸畑天が詳しいだろうと考えて聞いてみたところ、そもそもこっちでは属性武器自体が基本的には無いらしい。
勿論作れはするらしいけれど、その武器を使う者のほとんどが術を発動出来るわけでも無いので、属性を与えても効率的では無い為だと言う。
こういう部分はゲームによくある部分と全く異なる。付与武器としてオレ達にとっては普通に認識しているものだけでは無く、他にもこうした違いはあるのだろう。
色々と注意が必要だと心に留めた。
ちなみに川瀬辰弥の持っていた武器は、使えない事は無いけれど、無駄が多いという事だった。
やっぱりゲーム仕様とでも言うべき仕上がりがネックになっている様だ。
魔法や術に加えて武器も扱う者であれば、十分に魔具としても使えるので、川瀬辰弥が術を覚えるか、売って実用的な武器に買い換えるかを考えておく様に、戸畑天に言われていた。
荻野玄太の槍に関しては、本人が今のところ、そもそも戦う以前の状態にある為、可能になってから考える事になった。
ゲームとは勝手がかなり違うので、暫くの内は色々大変そうだと思うと気が滅入る。
オレの銃や水流が使う弓は、これらとはまた別で、要は銃や弓が術者の代わりに発動させる役割を果たす式が組み込まれている為、弾や矢に込められた術がほとんど減退されずに展開出来るらしい。
その為、撃つ時に効果をイメージするだけで良いのだけれど、その分狙いをしっかり定めないと当たらない等、武器そのものの扱いが難しくなるし、相手が防御系の術を扱えるこっちでは、飛び道具が有利とはならない。
防具やアクセサリー類の場合は、武器以上に素材が重要になるらしい。
それは術を施していても、咄嗟の時にきちんとイメージ出来なければ意味を成さないので、術に似た効果を元々持つ素材で常時発動状態を保っている物の方が当然有効だからだけれど、当然ながら良い効果を持つ素材はその分稀少だし、値段も高くなる。
そこで、防御系の式ではなくて、素材効果を増強させる式を組み込んだ物が一般的となると言う事だった。
これら武器や防具等々は、朝を待って向かう町に戸畑天が見知った鍛冶屋--実質的には錬金術師らしい--が居るので、その人に相談する事になった。
単なる鍛冶屋でも基本的な式が組み込めるのは当然ではあるけれど、錬金術が扱えれば素材段階から手を加えられる為、鍛冶屋としては上位の扱いになると言う事だったので、おそらく腕は良いのだろう。
どちらにしろ、今のオレ達では分からない事が多すぎて、任せるしかないのだけれど。