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デュアル・クロニクル  作者: 不破 一色
序幕
8/31

 0-8

序幕、最終話です。

ここから週2投稿になる予定です。

 元々は、デュアル・クロニクルに絡んだ失踪者の出現事例に興味を持った、学院内の研究者から始まった。

 普通なら行き着かないゲームとの関連性を真っ先に疑ったその動きにより、川瀬辰弥も言っていたけれど、ユーザーから対象失踪者を調べ出すのはそれ程難しくもなかった。

 その共通点はレベル百を越えていたた事の他キャラクターデータ、つまりはHPやMPといった値、装備アイテムのレベル、所持金額等々、様々な要素が推測されたものの、レベル百越えを含めて一定数値以上でも失踪せずに、普通にプレイを継続していた者も確認されたそうだ。

 その為、何か一つではなく、複数の要素が重なり合って条件を満たすのではないかという推測へと至ったが、ここからの絞り込みは当然ながら困難を極めたと言う。


 正直なところ学院の連中が、時間を経る事で被害が増加する事を気にしたとは、性質から考えて思えないが、それでも結果を出そうと急いだ事は事実だろう。

 その話しは、学院長であるオレの義父に行き、依頼という形になった。

 要は、推定される各条件数値ギリギリまでキャラクターを育てた場合、何らかの前兆が見られるかどうかというものだ。

 その依頼によって、オレはデュアル・クロニクルを始める事になったわけだ。

 研究者サイドでは、同時に増えて行く失踪者のデータを比較要素として加える事で、より正確に近い数値を導き出して行った。

 その結果としての現在というわけだ。


「学院って。まさかToy Box・・・いや、ホロワ学院の事か?」


 そう呟く川瀬辰弥の言葉が全てである。

 外からはToy Boxと呼ばれ、中からは単に学院と呼ばれる場所ならば、こうした妙な動きをしていてもおかしく無いと容易に推測される様な認識を持たれているのだ。

 それは逆を言えば、学院が動いている程に普通では無い、つまりは通常の捜査機関が動かない内容だという事でもあった。


「そうか、悠樹君や今野さんがあそこに在籍してるのは、先刻の法術だっけ、あの一件で何となく分かっていたけど・・・この件は学院の研究対象になっている程のややこしい事態なのか」

「あ、えっと、わたしはかなり普通だから。

 学院に在籍してるからって、別に全員がおかしいわけじゃないからっ!」


 うん、今野は無駄に一言多い。

 自分から先に言えば、それは認めている様なものだろう。


「あ、いや・・・。

 ほら、二人共優秀なんだなと思って」


 ほら、微妙な反応になった。

 明らかに川瀬辰弥は気を遣ったのが見え見えじゃないか。


 どちらにしろ、学院の研究者が絞り込む前に、オレ達は一線を越えてしまったのだ。

 今、この場では推測でしか無いけれど、おそらくデータを取る為に、キャラクター育成を平均化しすぎた事が原因なのだろう。

 少なくとも、導き出されていた数値限界までは、もう少し余裕があったのだから。

 今更ではあるけれど、限界数値が予測よりも下だった事で、ログインしただけでこっちに流されてしまった理由は・・・


「なる程、ログインボーナスか・・・」


 川瀬辰弥は頭を抱える。

 たまたま今日のログインボーナスが、キャラクター経験値へのボーナスだったというだけだ。

 普通にゲームと考えれば、今日のボーナスは当たりだっただろう。しかしこっちに流されれた事で言えば、これ以上無い外れだ。

 とりあえずオレが失踪した事で、良くも悪くも現象確認と検証終了が揃った事になる。

 事前の打ち合わせの通りであれば、この時点で既にゲームは運営停止になっているはずだ。

 証拠として示せる内容ではなくても、数値的には確証を示している。

 ましてやそもそもが、確証があっても公開出来る内容でも無いけれど、失踪者は時間経過と共に増えるのだから、何か適当な理由での運営停止になっている事は疑い様もない。

 その辺りは、学院のこれまでのアレでナニな成果の積み重ねによって、反論自体を難しくしているので問題無いと思っている。


 そうか、仕方ない状況か。と頭を抱えつつ呟く川瀬辰弥。

 お母さん心配するだろな~。と、どこか実感が無い感じの今野。

 水流は黙って、複雑な表情でこっちを見ていた。

 戸畑天は煙草を咥えつつ空を見上げ・・・「そういう仕組みなのか」と呟いていた。


「それにしても、噂に違わずホロワ学院は凄いんだね」

「川瀬さん、Toy Boxでいいよ~。

 私たちなんて、単に学院とか、あれとか呼んでるし」

「でもほら、悠樹君は学院長さんの息子なわけだし・・・」


 そう言って目線をオレに向けて来た。

 オレとしても、別に何と言われていようとどうでも良い。色々別称がある事くらいは十分に知っているし。


「親と行っても、オレは養子だから学院は関係無いし、好きな様にどうぞ」

「養子? あ、いや・・・」


 色々と複雑な家庭環境でも思い浮かべたのだろう。言葉を濁らせた。

 確かに複雑ではあるけれど、多分、川瀬辰弥が思い浮かべた家庭環境とは大きく違うはずだ。とは言え、あえて説明する気も今は無い。


「オレのプライベート事情に関しては、いずれその内、気が向いたらという事で。

 それより、既に運営停止になっているかは確認出来そうだったから、それさえ確認出来れば、一応あっちではゲームデータの検証が進んではいる事にもなる」

「運営停止になったかを確認出来る?」

「あぁ、影像体ですね?」


 川瀬辰弥の疑問の声に、水流が応じた。

 そう、戸畑天が推測としながら教えてくれた影像体と言うのが、ゲームキャラクターのアバターとしてこっちで動いていたのであれば、運営停止になれば当然動かなくなっているか、消えているかしているはずだ。

 運営停止にまで持ち込めていれば、学院の研究者共は興味深い研究対象として、散々調べ倒す事は間違い無い。

 とは言えそれは、オレ達にとっての救いにはならないだろう事は、先刻言った通りだろう。単純に同様の状態が発生しない様にという、予防にはなるだろうけれど。


「それにしても、ガンセイ倶楽部が動いてたんだね~。

 全然知らなかった」


 今野が暢気に発した言葉に、戸畑天が反応を示した。


「ガンセイ倶楽部?」

「うん。んと、学院長は悠樹元成ゆうきもとなりさんで、元成って書くからガンセイさんで、その学院長が個人的に色々調べたりしてる時のチームみたいなのを、みんなガンセイ倶楽部って呼んでるんだよ」


 それを聞いた戸畑天は、顎に手を当てて少し考えてから聞いて来た。


「ガンセイ・・・いや元成さんていうのは、もしかして長髪を後ろで一つにまとめてて、いつもサングラスかけてて・・・とか? いや、まさかね」

「うん、そんな感じ」

「え~と、年齢は?」

「十七か十八じゃなかったっけ? 若いのに学院長とかすごいなぁって思ってたから」


 その言葉を聞いて、戸畑天が慌てた様な顔をした。


「ちょっと待て。えっと悠樹君、もしかして君の義理の父親って刃のやたら長い日本刀を二振り持ってたりする? 赤と青い鞘のやつなんだけど」

「確か持ってましたよ。あぁでも、日本刀の長さ自体良く知らないので、それが特別長いのかは分からないですけど・・・まぁでも、長い刀だなという印象はあったな」


 すると戸畑天は虚空に手を差し出す。スッと手を引くとそこには先刻まで持っていた長い刀があった。

 少し気になったのは、先刻は確か抜き身の状態で消えていた刀が、今回現れた時には植物の蔓の様なものが巻かれた鞘に入た状態だった事だ。とは言え、ここで急いで聞く程重要ではないと思い、その事は後で聞く事にしてこの場では流した。


「これより長かった?」

「はい、もっと長かった気はしますけど?」

「うわ・・・ほぼ確定だ。何で十八才で十五才の子を養子縁組出来てるんだよ。

 そもそも学院長って何だよ」

「あの、どうかしましたか?」


 突然頭を抱え始めた戸畑天に対して、嫌な予感しかしないけれど聞いてみる。この状況だと聞かないというわけにもいかないし。


「いや、多分というかほぼ確実に、俺が探してるうちの流派の継承者って、君の義理の父親、つまりはその学院長だ」


 うん、そんな気はしてた。そう言う話しの流れではあった。でも、その継承者って人はこっちに来てるんじゃなかったっけ? そう思って聞いてみると・・・。


 赤と青鞘の長刀っていうのは、うちの流派では伝承者が持つ刀で、この深淵しんえん・・・あぁこの刀の銘なんだが、これでも普通のより長い。これより長い刀なんてのは斬刃刀くらいだし、鞘の色が対で揃ってるとなるともう、確定だと思う。


「それにしてもおかしいな。俺はこっちから来たやつに、継承者がこっちに来てると聞いたんだが・・・」


 と、首を傾げる。

 そういう経緯でこっちに来たらしい。

 けれど、オレ自身はあっちで義父に会っているから話しが合わない。

 そこに水流が声を挟んだ。


「あの、少し気になったのですが。その元成様というお方とよく似た方を見知っているのですが。

 言われていた二本の刀も一致しますし」


 水流が言うには、何でも東の賢者と呼ばれているのが居るらしい。

 しかもそいつは、デュアル・クロニクル絡みでこっちに人が飛ばされ始めた頃、一番最初にに対応行為を始めたという。

 こっち側だと当然、デュアル・クロニクルというものは何の情報も無いはずなのに、多くの人間が飛ばされて来ると言って、様々な村や町等に受け入れを訴えたのだとか。

 ・・・考えるまでもなく怪しい。あの人の事を知っていれば余計に、怪しさしか感じないだろう。


「えっとさ、根拠は無いんだけど、もしかして学院長って、あっちとこっち、行き来出来たりして・・・まさかね?」


 本当にまさかだ。

 けれどあの人なら、あり得ないと言いきれない気が凄くする。

 正直勘弁して欲しい。

 

 ただ、東の賢者というその存在こそが、大きな情報を握っている事は確かだろう。

 ならばそこに辿り着かないといけない。

 オレ達にとって、こっちに来て初めて出来た目的が生じた瞬間だった。

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