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1週間の連日投稿完遂・・・って、座り悪いので、序幕最後のを明日も投稿予定です。
「むう。これが現実だって言われたらそれまでだけど、簡単に強い力が使えるってわけじゃ無いんだね~」
「そうですね、強い力もある事はありますけれど、それはそれで条件が厳しかったり、代償が大きかったりしますし、簡単では無いですね」
例えば、戸畑天の持ち色である紅下黒の能力でスポンジを対象とすれば、確かに大きな効果が出るだろう。でも、戻す事が出来ないからスポンジを失うという代償が生じる。
これが神族の力、例えば水流が眷属となっている宇迦之御魂神の能力は、水流どころではない大きな活性化の能力を持つので、例えばそれを使って一部地域の作物を活性化させれば豊作が即座に得られる反面、地力、つまりは土地の栄養素も一気に消費する代償で、その地域では当分作物がまともに育たなくなる結果にもなるのだ。
効果が大きければその分、大きな代償を必要とする。
勿論、創意工夫して、その能力を使う状況や対象を上手く活かせれば、それこそ今野が言った様に、超能力の様なものとなるだろうけれど、それも結局は実に合った範囲内でしか無い。
数学が得意な奴が、苦手な奴より効率良くテストで点数が取れる程度の差にしかならないわけだし、他の方法でその差を補う事が出来ない程でも無いだろう。
ただ、そういう能力に接してこなかったオレ達にとっては、それでも十分魅力的な力になりそうな印象ではあった。
「文明面は楽に力を得られたのですか?」
「あ~・・・お金とか、それを得る為の努力とか、そうだね。
結局代償は必要だったね」
その今野と水流の会話を聞いていて、気が付いた事があった。
あっちでは何かを得る為に代償が必要で、こっちでは何かを得た結果代償が生じる。
同じではあっても、やっぱり比重が逆なんだという事に。
あと、絶対に今野は、こっちでは大した事では無い感じの能力とかでも、十分に喜びはしゃぐのであろう事を。
後回しになった五気に関しても、属性に多少影響が生じるという言葉の通りだった。
ちなみに五気は、戸畑天によるとあっちでは五行思想とほぼ同じらしい。
例に挙げるとオレ達、こっちで言うところの人間族は土の気を持つらしいのだけれど、これによって土の術が威力を上げるという影響では無く、通りが良くなる感じらしい。
つまりは術を放つ場合、元々持っている資質の様なものなのでイメージが確立し易くなり、狙った結果となりやすいらしい。
うん、微妙だけれど確かに影響はある。けれど五気に関しては、持ち色以上にかなり意味が無い印象を受けた。
知らないよりはマシ程度のものだろう。
ただ、これらの話を聞いて、ここが夢でもゲームの世界でも無いという事は何となく理解出来た。
何しろ、元々持つ種族的な力の強弱は、伴うリスクの強弱でもあり、属性やら特性も大してプラスの効果は得られないと言うのに、その細かい部分は非常に分かり難い。
加えて、効果を得る為に必要な最たるものが、どう聞いても努力と経験である。
こんな設定のゲームがあったら、それこそ無理ゲーでしかないだろう。
しかも設定が細かすぎて意味が分からないし、とてもじゃないけれど理解し切れないのだから、夢ですら無いだろう事は明らかだ。
こんなのはただの現実だ。
オレにとってはただ、それだけが分かれば目的の一つは達せたので十分だった。
「あと幾つか聞いて良いですか?
あ、こっちの事だけじゃないから、みんなにも聞いて欲しいんだけれど」
未だ知りたい事や分からない事が沢山あると、川瀬辰弥が話し出した。
水流や戸畑天だけじゃなく、オレと今野にも聞きたい事があるらしい。
「聞きたい事は、自分達は今、どういう状態になっているのか、という事です」
「と、言いますと?」
川瀬辰弥が聞きたかったのは、こういう事だった。
同じ世界の別の面に来ているオレ達は、当然今、あっちでは居なくなっている状態だ。
同じ様に既に、それなりの人数がこっちに来て居るらしいのに、川瀬辰弥はそうした大量行方不明という話しを聞いた事が無かったから、どうなっているのかという点が分からないと言う。
ゲームが関係しているなら運営会社が関わっている可能性もあるけれど、運営会社がそういう話しを表に出ない様に誤魔化せる力を持っているとは思えないし、そういう話しも聞かなかった。
では、もっと上、国がそれに関連しているのかと言うものだった。
「あちらの事が分からないので詳しくは分かりませんが、そういう話しはあちらでは、誰もが耳に出来るのでしょうか?」
水流はその内容に疑問を持った。
それはそうだろう。水流はあっちでの情報の流れというものを知らないのだから。
いや、聞いた事くらいはあったとしても、実感として無いだけかも知れないけれど。
気が付けば、いつの間にか少し離れた場所で煙草に火を付けていた戸畑天が、その水流の反応に応えた。
「あっちでは、事の大小を問わず、多くの情報を誰もが知る事が出来る様になっている。
こっちでは種族によって必要な情報が異なるから、国単位や世界単位での情報共有はあまり重視視されていないけれど、あっちは基本、人間主体で社会形成されているからな」
そこでオレは疑問に思った。
種が異なる場合、必要とされる情報も異なるのは何となく分かるけれど、だからと言って他の種の発想や考え方から学ぶとか、そういう必要性は重要にはならなかったのだろうか?
あるいはそうした部分に、面の違いの根本が見えるのかも知れない。
とは言えここでは話の流れが違うから、この疑問は今後、気を付けて行こうと強く意識した。
「自分達の様にデュアル・クロニクルに関係してこっちに来た人が、いつ頃から、どのくらいの数居るのか、分かっていますか?」
「正確には分かりませんが、三百人以上は確実と言われています。四百人には届かないとも。
時期的には半年程前からと言われていますね」
「半年も前から・・・しかもそんなに多くですか。
そうなると何故向こうでは、そうした失踪が騒がれていないんだろう。
それに半年前。何かそこに理由があるのかな」
考え始める川瀬辰弥に対して、また、この話の流れからも、流石にもう隠しておくのも意味がないだろうと考えて、オレは声をかけた。
「半年前ってのは、レベル百を越えたプレイヤーが出始めた頃だよ」
「え?」
驚いた顔でみんながこっちを見る。
「それに、あっちで失踪が知られてないわけじゃ無い」
騒がれていない理由は単純だった。
一部は一人暮らしだ何だという理由から普通に失踪とか、単に連絡が付かなくなったとかで、通常の失踪者扱い、あるいは最近顔を見ないな程度で済ませられているし、そうじゃなくても原因がゲームだとは普通なら考えない。
普通に数だけ聞けば、半年で四百人近くが失踪したとなれば騒ぎになってもおかしくないと思うかも知れない。
けれどあっちの、最近の日本だけに限定しても、届け出があったりで確定している年間失踪者は、多い年には十万を超える。それでも大した騒ぎにはならないのだ。四百人弱の失踪では個別に騒がれる程度の扱いにしかならない。
勿論、一部地域だけでそれだけの人数が消えたとなれば騒ぎにもなるだろうけれど、オンラインゲームであるデュアル・クロニクルのユーザーは、一部地域に限定しているわけではないのだ。
ましてやそれが、ゲームに原因があるとは常識的に思わないのだから、同一原因で多数の失笑者という事件性を見出す事は難しい。
結果としては、失踪者の不可思議さに目を付ける人が居たとしても、その失踪を騒ぎ難い状況が出来上がってしまって、大きな騒ぎになり難い。
それは現状社会の構造的問題とも言えるのだけれど、そもそもこんな状況は想定しているはずがないのだ。
「年間で十万・・・いや、それより悠樹くんはこうなる事を事前に知っていたって事なのか?」
「可能性だけは知っていた。
複数ある可能性の一つとして、デュアル・クロニクルの絡みも当然出てくるから」
「いや可能性以前に、人数的にゲームに行き着くんじゃないか?」
勿論行き着いてはいる。
リアルで知人とか、オフ会で知人になった連中も居るだろうし、同じ会社や学校、SNS等でのネット上での知人、地域で同世代、等々。色々な関わりがそれなりに対象者とゲームとの関連性を確かに示してはいる。でもそれは、点での関連性でしかないのだ。
デュアル・クロニクルのユーザーという関連性を加えれば、それは点と点を結んで線の関連性になるのだから、捜査当局だってそれを見逃す程には抜けていない。
それでも無理なのだ。常識が邪魔をして前提から外れるし、可能性を感じても根拠が示せない。
一度に、その時ログインしていた全員が失踪した、つまりはこっちに流されたのであれば、流石にゲームそのものへ目が向くだろうし騒ぎにもなるけれど、実際には多くても一度に数人でしかないのだ。
「そうか、運営や国がという話しですら無いのか・・・」
「国が関わっていたとしても、オレは何の疑問も無いけれどな」
「悠樹君は、随分手厳しいな」
そんな川瀬辰弥の言葉に、オレより先に今野が反応した。
「悠樹君が国を信用出来ないのは仕方無いよね、あんな・・・」
「何で今野がその話を知っている?」
あの事はほとんど知っている奴は居ないはずだ。単なるクラスメイトが本来知っている筈が無い。
「いいや。その事は後で聞く。
今は俺の個人的な話しをする時じゃないから」
と、半ば無理矢理話を戻す。
オレの顔つきか、雰囲気が明らかに変わったというのもあったのだろう。誰からも異論は挙がらなかった。
「あ、あのさ・・・ゲームが関係してるわけだし、あっちで誰かがゲームを調べれば、わたし達の事も気が付くんじゃない?」
「そうか、運営会社や国が気が付けば、ゲムデータから失踪原因が分かるかも知れない」
と、今野や川瀬辰弥が話し始めたのは、話しの流れを変えようという意図もあったのだろうけれど、どちらかと言えばその裏には、救援の手が伸びるかも知れないという希望的観測があったのは明らかだろう。
別に、希望をへし折りたいとは思わないけれど、オレは首を横に振って否定した。
「そもそも気が付いたとして、まずこっち側に行き着くと言うか、それ自体を受け入れる迄にどれだけ時間が必要か分からない。
それに、そこまで行き着いたとして、ではどうやってこっちから呼び戻すか。その方法に行き着くには、あっちの前提や常識が邪魔をするだろう」
もしそこまで行けたとしても、オレ達が生きている間の時間で到達出来る可能性は限り無く低いだろうという事は、簡単に推測出来るだろうし、それ以前に原因不明で迷宮入りという判断に至る方が、可能性としてはるかに高いだろう。
そもそも、この件を把握しているのは、現状では学院内でも数人・・・というところに考えが至った瞬間、嫌な予感が全ての考えを上書きする勢いで生じた。
・・・考えを放棄して、意識をみんなとの話しに向ける事にした。
「それに、今野は分かるだろ?
オレがこの件を調べてたって事は、そういう事なんだよ」
そう。オレがこの件を知っていたのは、調査依頼が家に来たからでしかない。
おれの家は、その家長である義父がやっている不可思議な依頼調査を引き受けている事は、学院内では有名な話しだ。
いわゆる眉唾、都市伝説、オカルト等々、その手の趣味者じゃなければ真面目に聞く事さえ無いだろうという様な内容のものばかりを調べていた。
ただ、単にその手のものが好きでというわけでは無く、何かしらの形で実際に依頼があったもの、その中でも何かしらの線引きがあるらしく、条件が見合ったもののみ引き受けていた。
ただ、それらはあくまでも調べるだけで、その結果を真面目に取り扱うのも学園内くらいのものなのだ。
「あ~、学院長かぁ」
オレが、というよりオレの家が調べていたと言うだけで、今野には通じたらしい。
「ちょっと待ってくれ。
その話しも気になるんだけれど、その前に先刻悠樹君が言っていた、レベル百を越えたという事について教えて貰えるかな」
と戸畑天が聞いて来た事で、脇道に逸れていた話しが元に戻る事になったのだった。