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連日投稿、4日目。
説明過多な上、序幕は基本的に説明編・・・動きはほとんど無いです。
「話しを整理する為にも、質問は自分が進めさせてもらっていいかな?」
今野の、どこか外れた思考に任せてると進まないので--今野を宥めるのに十分程かかった--場を納めて、仲間の中で一番年上という川瀬辰弥がそう声をかける。
ちなみに川瀬辰弥は二四才の大学生。未だに目を覚まさない荻野玄太は同系列の高校生で十七才。二人は同じサークルで知人との事だった。
川瀬辰弥はゲームのキャラクター名が“Tatsu”だった。
Tatsuはゲーム内ではそこそこ知られた前衛攻撃職で、主に家の都合で小さな頃から剣道をやっていたという理由で刀使いを選んだ、と言うよりも慣れの為か他に目が向かなかったと聞いた事がある。
キャラクターデザインが剣士というより学者という印象だったのだけれど、こうして本人に会ってみると、どことなく本人に似ている印象を受けた。いや、キャラクターより実際の方が学者っぽいかも知れない。
荻野玄太はキャラクター名が“野玄”という前衛防御職で、サークルの先輩である川瀬辰弥と組んでプレイする時に便利という事で防衛職を選んだらしい。
野玄はルックスがかなり無骨で、おそらく選べる最長であろう長身という、いかにも盾役というか肉壁という印象ののキャラクターデザインだったのだけれど、実際には身長が男としてはかなり低いし、体格的にもそれほど特徴がある程ガッチリしている感じでも無かった。
川瀬辰弥によると、実際にはインドア系らしい。
オレと今野はクラスメイトで、二人共十五才。ただ、今野の誕生日は知らないので、何時十六才に成るかは知らない。
オレはキャラクター名が“風間”。これは面倒だった事もあって、名前の字面を変えただけだった。安易過ぎたかとも思ったのだけれど、どうもみんなの方が安易な気がする。
オレが選んだ魔銃師とは、属性弾を使う銃を武器とする攻撃職の事で、色々とあって慣れた武器である銃を選ぶしかなかった結果になる。
同じ理由でキャラクターデザインも極力自分に似せていた。半年位前にゲーム内で今野に話しかけられた時も、その見た目でばれたからというオチだったので、特に仲間からの印象は無いだろう。
今野はキャラクター名が“Suzu”。符術を使う符術師で、要は他のゲームでは一般的な魔術師や魔法使いに当たり、攻撃も防御も出来る反面どっち付かずになり、ソロが厳しい職になる。
キャラクターデザインは水色のショート髪にクール系の顔、符術師の基本装備が水干ぽい感じの物が多いという事もあって、見た目だけはクールなお姉さんという印象になっていた。
実際はその印象とは逆で、良くは知らないけれど学院ではかわいい系で有名らしい事を聞いた事もあった。
本来の自分とは逆のキャラクターを演じるという、荻野玄太と同じで単なるロールプレイのつもりだったのかも知れないけれど、性格があれ--本人に知られるとかなり五月蠅い事になるが--なので、結局は見た目と中身に相当ギャップがあった。
面具によるのか年齢が分かり難い戸畑天は二〇才との事だった。
古流剣術の師範で、流派の現伝承者を探して、古くから伝わる古文を頼って何とかこっち側に来たと言う。
現代の世の中でそういう技があった事に驚きではあるけれど、古流の中にはそういう類のものも残っていたりするらしい。もっとも、本人曰く「一般的な古流のカテゴリーに入るかは疑問だけど」との事ではあったけれど。
こっちには来る事が出来たものの、かなりギリギリの状態だったらしいし、あっちに帰る方法も知らないらしい。ただ、伝承者がそのあたりを知っている可能性が高いという事で、元々の目的と帰る方法が一致している事になる。
石動水流は三五才との事だけれど、狐族は人間と比べて相当な長命種なので、人に該当させると十七才位という事になるらしい。
種族が違うので、単純に生まれてからの年月を単純に年齢と考える人間の感覚とは違う様で、主に今野が色々聞いたのだけれど、よく分からなかった。
何でも人間の言う歳の取り方というものに該当させると、若い頃は歳の取り方が遅かったりと、ややこしかったのだ。
とりあえず人間で言えば十七才--ただし、あと数年はそのままらしく、それは狡いと今野はごねていたけれど、当然意味は無い--という事で済ます事にする。
人間とは違うのだから、そこを突っ込んでも仕方ない。
川瀬辰弥の提示には特に誰からも反論は出なかったので、話しを進める事になった。
「とりあえずお聞きしたいのは、自分達が今居るここはどこなのか、と言う事です。
異世界という認識で良いのでしょうか?」
「異世界の定義にもよりますが・・・」
「まぁ、一般的によくある異世界とか、そう言うのでは無いな」
少し考え込む様に応える水流の言葉を途中から引き受ける様に、戸畑天が応える。
「普通イメージする異世界って言うのは、小説とかでありがちな別世界的な感じで良いんだよな?
そういうのは正直良くは知らないんだが」
「そうですね。確かに定番と言うとそんな感じで良いと思います。別世界と言っても色々なパターンがありますが。
それで、異世界じゃない、というのはどういう事でしょうか?」
「何て言えば分かりやすいか・・・」
そう言って語られた内容は、確かに異世界と言うのとは違っていた。
元々オレ達が生きて来た環境は、正確には文明面と呼び、今居るこの環境を文化面と呼ぶらしい。
もっとも大抵は、文明面があっち側、文明面をこっち側と言う事が多いらしい。
そう、あくまでも面であって側。パラレルワールドとか平行世界の様に、世界が異なるわけでは無いのだそうだ。
SF等で知られる解釈と言うのは、簡単に言えばifの世界になる。
今の選択肢とは別の選択肢を取っていたらどうなっていたのか? という“もしも”の世界解釈が多く見られるけれど、量子力学の多世界解釈や、宇宙論のベビーユニバース仮説といった学問でもそうしたものは見られるらしい。
それらは単純に言ってしまえば、右足から踏み出して進んだ世界と、左足から踏み出して進んだ世界に分岐し、無数の平行世界が構築されるとするものだ。
そうして無数の世界が存在しているが、シュレーディンガーの猫に代表される様に、例えば右足と左足の踏み出しの違いの先は、その二つの状態を同時に認識する事が出来ないから、その時右足から踏み出した自分では右足から踏み出した先の世界、左足から踏み出した自分では左足から踏み出した先の世界しか認識できないし、そのどちらかの世界だけが自分にとっての現実になる。
これをここでは分岐世界と呼ぶ事にする。
それに対してファンタジーものによくある異世界感は、全くの別世界として描かれる事が多い。
大陸などの地理や文明文化水準、生息生物や環境等々、様々な点で全く別の世界である事から異世界として定義されているわけだ。
勿論中には、神話や伝承にある生き物等が登場する、そういうオカルト的要素が成立していたとしたらというifの世界も有るのだけれど、それらも含めて結局は、今の自分達が存在する地球とは異なるifの世界と考えれば、広義的には分岐世界に含めても、解釈としては問題が無いらしい。
とは言えあえてここでは架空世界と呼ぶ事にする。
分岐世界と架空世界では大きな差がある。
分岐世界は文字通り、分岐した世界という考え方なので、例えば右足から踏み出した自分が居る世界と、左足から踏み出した自分が居る世界には、当然ながらそれぞれの自分が存在する事になる。
架空世界も文字通り、架空の世界という考え方なので、絶対的に現実と異なるなにかが存在する事になる。
つまりはどちらも異なる世界なわけだ。
対してあっち側とこっち側は、元々一つの世界であって、文明と文化という流れの両極性が分離したものだという。
文明と文化というと分かり難いけれど、要は文明は物質依存、文化は精神依存で安定した状態だと言う。
例えば、火を熾そうとした時、マッチを生み出すといった、入手と使用を容易とする手段に頼る事を当然とするのが物質面依存で、魔法等といった現象発生手段に頼るのが精神面となる。
つまり、同じ結果を目的とする経緯が異なるだけ。
これまでの自分達の側の常識で言えば魔法なんて夢物語で、マッチに頼る事は当たり前となるけれど、逆に魔法を使える側からすれば無駄にマッチというものを作ってそれを用いるなんて言うのは無駄でしか無いという事になるので、結局互いの方法は同様に選択肢の外になるわけだ。
そもそも魔法や術式等というものは、オレ達が暮らして来たあっちであっても、昔はあくまでも手段としてのものから始まっているのだ。
火を求めても、人の身ではそれを生み出せない。
だから火を熾せる道具を求めた物質面と、火を熾せる方法を求めた精神面という流れが生じたわけだ。
火というのは前提として、現実に存在するし、熾きる原理も分かっている、いわばこの世の理の内に有るもの。それをどのアプローチで得るかというだけの違いでしかない。
ではアプローチが異なる要素が両立出来なかったのは何故なのか。
その答えは様々な要素があるので一概には言えないけれど、要素の一つとして今より物も状況も、多くの人が得る機会が一定水準に満たなかった事があるだろう。
現代よりも様々な要素が十分ではなかった時代、マッチが得られる人であれば何の問題も無いけれど、得られない人にとっては嫉妬の対象となる。
同様に、魔法を扱える人であれば何の問題も無いけれど、扱えない人にとっては嫉妬の対象となる。
物質面でのマッチであれば、得る為に必要なのは金銭的要素になるけれど、魔法となるとその方法が得られるかどうかは、印刷によるテキストや、伝達による情報と言った状況的要素が重要なので、努力でどうにかなる要素が少ない。
それを異質として認識するのも、嫉妬が理由となれば抑えが効かなくなってもおかしくは無いが、異質として認識された側もそれを良しとはしないだろう。
結果として自分とは異なる隣人との対立が生じる事になる為、両立の方向へは進まなくなるのだ。
そして同じ様な事は、種族等の要素でも発生した。
実際古き神々に対して比較的新しい、いわゆる地域で後発の神々を信仰する勢力が、その地で行ったのは、自分達が信じる勢力の優位性アピールでは無く、古き勢力の廃絶に向かったという事は歴史にいくらでも残っている現実なのだから。
そして世界は、自浄作用的に二つの要素の分離という形で安定を得た。
とは言え一つの世界である事は変わらないので、何かしらの繋がりは常に生じる事になる。それらは穴や門、交流点等と呼ばれているらしい。
「なるほど、異世界では無くて、一つの世界の面と面という事なのですね」
「そういう事になるかな。
まぁ実際のところは分からないが、理屈を付ければそういう感じだと言うしかないな」
正直色々難しくて、全てを理解し切れていない感じだけれど、流石に川瀬辰弥は大学生というだけあってか、それとも本人の資質なのか、ある程度の理解が出来ている様だ。
そして今野に目を向けると目が合って、えへらという感じで笑いかけて来た。
うん・・・絶対に今野は全然理解出来て無いよな。
そんな気配を感じたのか、戸畑天が声をかけて来た。
「まぁ、十五才には特に厳しかったかな。俺も理解出来てるわけでも無いし。
つまり、異世界とかじゃなく・・・何だ、元々自分達が生きて来た世界は一つじゃなくて、二つで一つだったってだけの話しだ」
「おおぉ、それは地下世界的な?」
「地下世界? あぁいや、まぁ・・・知らない側面があったって事ではそれでもいいのかな?」
今野の勢いだけの反応に、困惑のまま合わせようとする戸畑天。はい、クラスメイトがご迷惑をかけて済みませんという印象しか無い感じなんだけれど、オレが悪いわけじゃないよな?
何故かオレにとっては、こっちに来たよりも人間関係で厳しくなっている気がする。
「とりあえず、君達は異世界に来たわけでは無いって事だ。
そう言う意味では大きな差異こそ無いが、分離しただけあって、あっちの常識や前提はかなりの確率で通用しないと思えば、こっちで過ごす上ではやり易いかも知れないな」
世界が分かれた理由・・・他でも触れる事があるかもで、概要的な感じです。
まぁ、論文じゃないですからねぇ(^^;