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連続投稿(2/2)分です。
オレ達は宿に戻った後、情報のすり合わせをした。
現状で決定的な新しい情報は無いものの、樹木精という可能性が出て来たのは成果だろう。
けれど、その樹木精とは何なのかが分からないので、水流にその辺りの説明を求める事になった。
端的に言えば、強い力を持った精霊の様なものという事だった。
とは言えオレ達の認識というかイメージからすると、精霊というのはそれこそ水の精や火の精等と言った、元素が実体化した様なもの--エレメンタルと訳されるもの--だったり、霊魂など--スピリットと訳されるもの--だったりとなる。
この辺りはゲームなどでも良く扱われる内容なので、何となく分かったのだけれど、それを言ったら水流に質問を返された。
「文明面には、その様な存在が居るか、あるいは居たのですか?」
との言葉から分かる通り、こっちの精霊はそういうものではないらしい。
そう言えば確か、布目一箇と昨日話しをした時に神族も、強大な精霊とも言えると聞いていた。
今日会ったという産土神と氏神も、見た目だけであれば人間と変わらなかったという事だったので、何か突出した力を持ち、しかもその力だけ極端に寄っている者の事を精霊と呼ぶのかも知れない。
等と話している間に白石悠がやって来ていた。
報告をしたそうではあったけれど、途中で話しを途切ると混乱しそうなややこしい話しだったので報告は後回しと釘を刺しておいて、こっちの者である水流と白石悠に精霊の話しに関して聞いてみた。
水流曰く、精霊種と神族、そして今回話題に上がっている樹木霊はそれぞれ別の存在だという。
精霊種とは、その力によって体も構成されていて、狐の中の気狐や野狐といった狐霊がそれに当たるという。とは言っても実体を持たないわけではないらしい。
単純に言えば、鉄を例に挙げると鉄元素だけでは物質としての鉄としては認識出来ないけれど、鉄元素が構成されれば鉄という物質として認識出来る。
それと同じで、単に体構成と言うか、存在の構成が物質ではないだけだと言うのが水流の説明だった。
物質ではない事が“だけ”で済むのかに関しては、おそらく今のオレ達では理解し切れない域になりそうだったので、そういうものなんだと言い聞かせて飲み込んだ。
神族は、この地やこの世界の理という段階のものなので、精霊種とは別の扱いとなるらしい。
つまり、元素が変われば構成物も異なるのと同じで、構成する力が異なるから精霊種と神は異なると言う事らしいのだけれど、厳密に言えば構成が元素と要素と言う、明確な違いがあるらしい。
聞いていく内に、更に分からなくなって行く気がするのは、気のせいでは無いだろう。
どちらにしろ精霊種や神族というのはそういう存在らしい。
どうせそれ以上、難しい事を聞いても理解が追いつかないから、そういう存在で認識する事にしたのは逃げでは無いと思いたい。
そして零落ちした神族もその本質は変わらない為、厳密には神精種という種族となると言う。
この神精種は前例の零落ちした神族の他、神族と同じで、要素により構成された身体を持つが、力の度合いは落ちるのだそうで、今回話題となっている樹木精もこの神精種となる。
木々はこの世の理として存在の値が大きいけれど、それらをも内包する山の神や、地の神といった神族程は存在の値が大きくない。
神精種であるとは言っても、零落ちした神族とは異なり、それが直系であっても代替わりすると力が落ちる。つまりはこの地の理で生じた存在となる為、似た存在である木の精霊となるらしい。
・・・どんどん分からなくなって行くだけなので、ここで理解する事を完全に放棄する事にした。
とにかく、樹木精は、五十猛命が植えたとされる樹木そのもので、神精種だからそれなりに大きな力を持つ存在と言う事になる。
それがどれだけの年月を経て来たのかは分からないけれど、その分多くの知識や情報を持っている可能性は大きいだろう、と言う話しらしい。
それだけ分かってれば十分だろうと思うけれど、それは来訪者だからなのだろうか?
そう思って、白石悠はどうだろうかと聞いてみた。
「精霊がどうかとか、どういう存在かとかよく分からないっす。
あて《私》は猫族だけど、何で猫族かは知らないし、そういう色々なのが実際に居るって事さえ分かってれば困らないっすよ」
という応えだった。
正直その単純な受け止め方に救われた気はしたけれど、色々説明してくれた水流に悪いので、そういう考え方も有りだなという返しで済ませておいた。
その上でと言う事で、白石悠は町の長に聞いて来た樹木精の場所を教えてくれた。
檜はこの町から酉の方角、つまり西の方に一日くらい行ったところに居るという。
樟は子の方角に一刻程、つまり北の方に二時間くらい行ったところに居るらしい。
それを聞いた戸畑天が悩み出した。
「この町を出てとりあえずは、一番近い街である天神街に向かう予定だったから、樟は問題無い。
ただ檜は完全に方向も道も違う。
片道一日程となると、その分目的にかける時間が増えるんだよな」
という事であった。
勿論、帰る方法が見つかる可能性は現時点で全く分からない。
けれど希望としてはあっちに帰る事を前提としているし、当然それは一日でも早くというのが理想だ。
焦っても仕方が無いとは言え、なるべく時間は短縮して行きたいのも事実だから、往復で二日、話を聞く事も考えれば都合三日の行程は、回り道ならともかく、行って返ってくるだけの為の消費としては確かに悩む。
「だったら、隊長と管領がこっちに慣れてから、衛士衆で組んで話しを聞きに行けば良いんじゃないっすか?
皆さんには分かった事を知らせれば良いんすから」
「いや、動くオレ達にどうやって連絡を取るんだ?」
「あれ? 遠話機貰ったっすよね?」
この段階で白石悠と、それ以外のオレ達との間で完全に話しがズレていた。
詳しく聞いてみると、来訪者として登録した時に貰った袋の中に、遠話機という物も入っているはずだとの事だった。
貰った後色々あった事も有り、だれも袋の中身を確認していなかった事に気が付いた瞬間だった。
慌てて袋を取り出してみると、その中には書類と小さな木の板、そして小さな袋に入った硬貨が有った。
木の板は片面中央に何か、青い結晶の様なものが付いていて、その周辺に記号の様なものが刻まれ、もう片面には番号と記号が刻まれていた。
「木の板が遠話機で、来訪鑑札も兼ねてるっす。お互い応対しても良いと思えるくらい親しい人同士なら、埋め込まれている石が透明になるまでの十分くらいっすけど、話しができるっすよ。
透明になったら半日くらいすると、色が戻るっす」
「そんな便利な機能があったのか」
「戸畑さん、知らなかった?」
「俺は単独で動いてたからな。連絡取る程の親しい相手もこっちに居ないし」
という感じで、戸畑天も遠話機の事は知らなかったらしい。
要はこっちの携帯電話、あるいは距離に関係無いトランシーバーみたいな物だ。
とは言え半日で十分かと思ったのだけど、大きい石を使えば時間は延びるらしい。
「持ち歩くのに邪魔っす」
その通りだなという話し。
ただ、総合窓口所等では据え置き型の大きな物があるらしい。
来訪鑑札はもし無くしても、書類を示せば再発行してくれるらしいのだけれど、再発行には手数料が十厘かかる。
硬貨に関しては半銭硬貨が十枚分、つまり五銭分入っていた。
オレ達はゲーム絡みで来たので、持ち物の中にゲーム内通貨分の硬貨があったのだけれど、来訪者の事情毎に差別出来ないという事で、とりあえず一律で支給されるらしい。
贅沢しなければ衣食住で半月は過ごせる額らしいけれど、大きな街等では相場が高かったりもするので、明確な理由によって足りなくなった場合は、最高で五銭迄追加支給されるとの事だった。
「ちなみに、二十厘で金一匁っすね」
・・・いや、金換算で言われてもという感じだ。
困っているのが顔に出たのだろう。水流がフォローしてくれた。
「硬貨では無く、金や銀でやり取りする種族も居ますので、金での換算も覚えておいて損では無いんです。
銀六十五匁で、金一匁という換算になります」
と言う事だった。
ちなみに一匁は二グラム弱らしい。
ともかくこれで、この町に残る川瀬辰弥、荻野玄太とは連絡手段が出来た事になる。
檜の方を任せる選択肢も出来たし、互いに連絡が取り合える事になったわけだ。
その為、直ぐには無理だけれど調整して行ってみるという申し出が川瀬辰弥から出て、任せる事となった。
その後、川瀬辰弥と荻野玄太が、この町で暮らす為の場所も手配出来たと言う話しが出た。
何でも衛士衆では、この町に家が無い者に対して陣屋内に、住む場所を与えられるらしい。
この宿は丁度今晩までしか部屋を取っていないので、オレ達も転がり込む事が出来るか聞いたところ、手狭だけれど一応全員が休む事は出来るという事だった。
話し合って、明日はその家で過ごして準備を進めて、オレ達は明後日の朝に町を出る事にしたのだった。




