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デュアル・クロニクル  作者: 不破 一色
第1幕
26/31

 1-15

今週は、何だかんだで投稿出来なかったので、連続投稿します。


 最後に向かうのは、地の主の所になる。

 向かう自分の足取りは重い。何しろ、これまでがこれまでだから、嫌な予感しかしないのだ。

 とは言え最後のチャンスでもある。


 地の主である産土神と氏神は夫婦の神なのだそうだ。

 生みの神である産土神は女の神で、生まれた地を守る氏神が男の神という事らしいのだけれど、これはあくまでもこの地での話しであって、産土神と氏神が一柱で兼ねている場所もあるらしい。

 この地の主である二柱の神が住む場所は、町の西側の端にひっそりとある、小さな門から続く山道の先だった。

 町からの門は鳥居の様な形ではあったけれど、鳥居と違ってそこには扉があったし、よく見れば細部も異なっていた。もっとも、扉は開かれたままになっていたけれど。

 正式名称は特に無いらしいこの門は、神族の地とその他の地の仕切りの意味もある為、辺りに住む者が居ない山中等に突然置かれている事もあるらしい。

 門をくぐって山道を進んだ先に、もう一つ同じ門があった。そこをが主たる神の住む場所らしい。

 神社の様な、相応の建物を予想していたのだけれど、あったのは丸太組の、どこか和風を思わせるログハウスの様な建物だった。

 大きさで言えば町の長の家よりも一回り小さいだろう。


 地を作った神と、地を守る神という事で緊張していたのだけれど、待っていた二柱の神は、服装等こそ古い印象を受けたものの、見た目にも特別なところは感じない、三十代位の夫婦という感じだった。


「さて、先に伝えるが、各地に居る産土神と氏神の中で、我々がこの地の担当の様なものでしかない。

 特に他の産土神と氏神との区別をする為の名も持たない、名無しの産土と氏である」


 と男の神--聞いた通りであれば氏神--が、自己紹介かは微妙な紹介を行った。


「加えて言えば、わたくし産土の方は、地を作る事が役目なので、衛士衆の隊長に関しては何の意見も持ちません」

「我、氏は地を守るのが役目である為、衛士衆の隊長候補がこの地を荒らす者でないのであれば、特に異論は持たない」


 と、何も聞かない内に承認の件を流されてしまう。

 とは言え、何の抵抗も無く受け入れるわけにも行かないので、小さいながらの抵抗を試みてみる。


「氏神様にお聞きします。

 何も知らぬ者が指示する立場になり混乱が生じれば、この地を荒らす事にもなると思うのですが?」

「荒れるかも知れぬと気が付く者が、努力をしないとは思えぬが?

 要は荒らすという意図、つまり害意や悪意を持って事を成すのでなければ、我らが関知するところではないな」

「あら、貴方は説明が足りませんよ?

 そもそもですね、わたくし共土地神というのは、あくまでもその地がどうなるかと言う事が重要なのであって、冷たい言い方をすれば、との地に住む者にとっての善し悪しは、あまり問題では無いのですよ」


 つまりは、致命的にこの地が荒れ、地の存在が危なくなる程や、地を再生する事が困難となる程でなければ、住む者にお任せという事である。

 完全に外堀も内堀も埋められている感じがしする。もう隊長職に関しては、諦めるしか無いのかも知れない。


「さて、宇迦之御魂の眷属に連なる紅の姫よ。求める不明については聞き至っておりますが、わたくし産土は見知っておりません」

「我、氏も見知らぬ。とは言え、この地には初代五十猛命イソタケルノミコトが植えし樹木の精が未だに息づいている場所がある。

 樹木は各地を巡る独自の連携情報を有している為、見知りし事も有るやも知れぬので、訪ねるのも無駄にはならぬであろう」


 既に石動さんへと話しが流れている。

 副隊長もやたらニコニコしているし、諦めるしか無さそうだ。


「樹木精ですか。その地はどの辺りとなりますか?」

「檜はここより酉、樟は子、杉と槇は年を経て代替わりをしておるので、その有り様は移ろっているやも知れぬ。

 詳しくは町長や古老が知るであろう」


 話しの内容から、残念ながらここにも情報は無い様ではあったものの、次に繋がるかもしれない情報はあった様だ。

 後はみんなで話し合う必要があるので、自分達は礼を言って町へと戻る事にした。


「これで隊長も隊長決定っすね」


 門を出たところで、白石副隊長がよく分からない発言をした。

 言っている事は分かるけれど、隊長が隊長決定って、色々おかしいぞ。


「あたしは親父・・・いえ、長に報告して、住む所の手配もして来るっすー」


 と言って走り出そうとしたところで、石動さんが待ったをかけた。


「悠様、お教え頂いた檜と樟の樹木精について、情報を長様にお聞き頂けませんか?」

「あ、了解っす。ついでに聞いておくっす」


 そう言い残して走り去って行った。

 後はみんなと話し合う必要があるので、自分と石動さんは宿へと戻る事にする。



 宿に戻ると戸畑さんだけが戻って居た。

 悠樹君と今野さんは、布目一箇さんに捕まっているとの事で、石動さんも戻ったら来る様にと伝言を受けているらしい。

 それを聞いて石動さんは、工房へと向かって行った。

 とりあえず玄太に、隊長への承認が半ば強制的に確定した事を告げた。何しろ自分の隊長決定は、玄太の管領本決定でもあるのだから。


「ある程度そうなるとは思っていたので、頑張ってみます」


 と言う玄太は、こっちに来てからの内に籠もった雰囲気が大分抜けていた。

 宿に残って考え事をしていて、何か変化があったのかも知れない。何にしても、改善してくれるなら良い方向なのだろう。


「とりあえず、今日の夕食は川瀬君の隊長就任と、荻野君の衛士隊入隊祝いか?」


 そう戸畑さんが軽口をたたくが、この数日でこうした事は普通になりつつあった。

 自分達を楽にしようという気遣いなのだろうと思っている。


「問題は樹木精ってやつか。

 杉、樟、檜、槇となるとおそらくは遂始自筑紫つひにつくしよりはじめての一節に絡むのだろう。

 そうなると、樹木精ってやつは素戔嗚尊すさのおのみこととのえにし絡みか・・・」


 と戸畑さんが呟いていたのだけれど、それが何を意味するのか、自分には分からなかった。

 玄太も同じ様で、きょとんとした表情を見せている。


「すまないな。その五十猛命いそたけるのみことっていうのは日本では素戔嗚尊の子だとされている。

 で、天から天降る時、五十猛命は多くの樹木の種を携えていて、二人の妹と共にその種を日本中に植えて回ったとされているんだ」


 という話しから始まった説明は、とても興味深いものだった。

 日本に植えて回るその最初の地が筑後であり、稲佐山だったとされているのだけれど、その稲佐山にこの町も含まれているという事だ。

 その上で、この地の主達が言っていた杉、樟、檜、槇については、日本では素戔嗚尊が体毛を抜いて作ったとされているらしい。髭から杉、胸毛から檜、尻毛から槇と榧、眉毛から樟などと言われているという事だった。


 勿論日本で言われているこうした伝承と、こっちの日之本で、どこまでの一致があるのかは分からないというのが前提との事だけれど、この地の主達が今も残ると言っていた樹木精は檜と樟。

 そもそも、これら体毛は防衛の為に生えているとされていて、この事は人間に限らない為、神族も同じ様な意味合いで捉えられる可能性が高い。

 そして、檜は胸毛から、樟は眉毛からとされている。

 胸毛は当然胸、つまりは心臓や肺を、眉毛は目を守る為のものとしてふまえれば、檜の樹木精は心意を、樟の樹木精は目を守る、つまりはその意味に則したものを継いでいる可能性があると考えられるのだそうだ。

 ただし、そうした考え方は自分達にとっては普通の事ではないので、そのまま受けて良いのかは疑問ではある。

 そもそも、何故戸畑さんがそうした考え方をしたり、日本の神話伝承に詳しいのかは知らなかったので聞いてみたところ、師範をしている流派は古流で、そういう伝承や古文が多く絡んでいるし、そもそも流派の開祖とされる人物自体が陰陽師だったとされているので、そうした伝承等との関わりもあるのだという事だった。


「勿論、単にそう言われ継がれて来ただけだから、どこまで真実かは、俺は知らないけどな」


 と、戸畑さんは言うけれど、それを言ってしまえば大抵の伝承や古文書等の全てがそうなのだからキリは無いだろう。


 近年ではオカルトとかのイメージが強い陰陽師だけれど、古くはきちんとした学問であり、今風に言えば学者等の専門家であったというのは、自分も聞いた事があった。

 その陰陽師の中で、平安時代に鬼一法眼きいちほうげんという人物が居て、京八流の開祖とされているらしい。

 この京八流は全ての剣術の源流と言われているらしいのだけれど、これらの説に関しては、戸畑さん自身も否定的だそうだ。

 と言うのも、そもそも京八流は鞍馬山で、鬼一法眼が八人の僧侶に刀法を伝えた事から始まったとされているらしいのだけれど、鬼一法眼は陰陽師、つまりは学者であり、専門分野は兵法であったらしい。

 勿論、兵法を専門とする者が、自身で刀法を得手としていておかしいとは言い切れないけれど、それでも流派として確立出来るだけの、他者に勝る技術を体得していたとは思い難い。

 また、流派に伝わる古文を読み解くと、自身が編み出した兵法に見合った武器を生み出したと取れるものがあったらしい。つまりは剣術流派の開祖となる様な剣術家ではなく、兵法に見合った武器も考案する鍛冶師であった可能性が高いと言う。

 その裏付けが名前で、鬼一法眼をバラせば一眼の鬼法、つまり片目で鬼の法を用いる者となり、鬼法とは外国で言うところの魔法、つまりは人知を越えた技を使う事を指す。

 人知を越えたと言っても、それは当時の話しであり、例えば数十年前から見れば携帯電話は鬼法の結果であり、携帯電話が普及した直後の時代でさえ、スマートフォンは鬼法の結果になってしまうのだから、先進的過ぎた発想や、それによる結果は鬼法と認識されておかしくないわけだ。


 つまり、当時としては想定外の武器を考案した鬼一法眼とは、一人の鍛冶師か、陰陽寮という当時の機関の性質を考えると一族や集団の総称であった可能性もあるという事だった。

 しかも片目である。

 鍛冶の神である天目一箇がそもそも片目の存在であり、その名の目一箇自体が鍛冶を示すという解釈もあっちにはあったと言うし、それは直系である布目一箇さんの言葉にも、そう取れるものが確かにあった。

 つまり鬼一法眼を、片目で鬼の法を用いる者ではなく、鬼の法を用いる鍛冶師、あるいは鍛冶集団の総称という解釈で捉える事は難しくない訳だ。


 一般的には京八流は伝説上の剣術流派とされているらしいけれど、実際には四流派の内の一つでしかないと戸畑さんは言った。

 真一、我一、京八、鬼八の四流派で四紋を名乗り、四紋は言霊的に隠語で紫門を指す。紫門は死の門の隠語であり、死の門とはこの世ならざる場所へと繋がる入り口を示すのだとの事だった。

 それを聞いて自分は思い至る事があった。


「もしかしてその死の門というのは・・・」

「そう、こっちと繋がっている場所の事だ。そこを守る為に生まれたのが四紋であり、四方から守る為に四流派となった。

 実際には、京八流も含めて剣術流派でも何でも無く、表に出ない守護役集団として始まったと伝えられている」


 そういう事情から、戸畑さんはこっちに来る事が出来たし、伝承的なもの等もそこそこ詳しいのだそうだ。

 であればその死の門のこっち側から、あっちへ帰る事も出来るのではないのかと思ったのだけれど、ちょっとした違いだったあっちとこっちのズレは経年によって広がっているらしく、現在では普通に通れる状態には無いらしい。


「かなりの無茶をしても俺一人がやっとだったし、無事に来れる保証も無かった」


 との事だった。そう甘い話しは転がっていないという事だろう。

 とは言え、可能性の一つとしては挙げられるので、それだけでも無意味では無いだろうし、その流れで言えば、樹木精から何か情報が得られる可能性も期待できる。

 空振りの可能性もあるとは言え、何も手がかりが無いよりは、精神的に救いだろう。


 そうした話しをしている間に、悠樹君、今野さん、石動さんが帰って来た。

 何でも悠樹君は、先刻持って行かれたミニガンに関して色々聞かれていたらしい。

 今野さんは、面白味が無いと言われて、新たな装備を仕立てる事になったらしい。

 石動さんは出会った時に来ていた装備はそのままらしいけれど、上から着ける防具を作らせろと言われたとか。

 女性陣は「体を色々計られた」とか文句を言っていた。

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