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デュアル・クロニクル  作者: 不破 一色
第1幕
25/31

 1-14

「悠樹君、先刻のあの銃は、最大で何発撃てるんだ?」


 午後の予定に対応する為、少し早めの食事を摂りに食事処に来たところで、戸畑天はオレにそう聞いて来た。


「給弾用ベルトへの最大装弾数は五千発ですね。時間にすると二十五秒が限界です。

 ただ、銃は2丁あるので、弾が許せば最大は倍になりますし、カートリッジ交換が可能な状況なら、それこそ用意出来るだけ撃てます。

 もっとも、消費が多すぎて正直勿体無いだけですけどね」

「なぁ、何の話しをしてるんだい?」


 予想通りではあったけれど、布目一箇が食い付いて来た。

 オレ達は、練習場での話しや、銃の特徴等を説明したのだけれど、分かり難いから現物見せろと言われた。

 食事処で武器を出すのもどうかと思ったのだけれど、何らかの武器を持ったまま食事に来る連中なんていくらでも居ると言われて渋々取り出した。

 出した瞬間に奪われたのは、前回も同じ様な展開だったので予想の内だ。

 布目一箇は銃を引っ繰り返したりして様々な角度から観察していた他、マガジンに入っていた給弾用ベルトも取り出して細かく観察し始める。


「ふむ、興味深い構造だ。だが大量に弾を消費するとなると材質的にも・・・」


 と独り言をブツブツとつぶやいている。

 顔がすごく笑顔になっているのが不気味過ぎる。


「そもそも、こんなに大量に魔弾をばらまく必要性はあるのかい?

 どこかの街でも墜とすのかい?」


 何か、物騒な事言われた。


「いや、水流に出会った事も含めて、術を扱える想定が未知数だったので、念の為用意しただけ。

 保険みたいなものですよ」

「保険か。

 勿体無いな、これなら神族とも戦えそうなのに」


 いやまてコラ。何言ってるかな。


「まぁでもそうだな。

 消費した分の弾は用意してやるから、代金代わりに貸しておけ」


 そう言って、返事も気かずに立ち上がると帰って行った。勿論銃やマガジン一式は持ったままだ。

 それを呆然と見送るしか無かったが、あの調子では拒否しても返してくれなかった気がするので良しとするしか無いだろう。

 と言うか、昼飯に来たんじゃないのか?

 未だ注文した分が出て来てさえいないんだけど・・・まぁ良いか。


「てかさ~、重そうだよね、あの銃」


 と今野が言って来た。

 五秒の出来事だったので、今野は何が起きたのか、未だに分かっていないらしい。


「見た目で受ける印象より軽いぞ? 確か三キロ位だったはずだからな。

 持ってみるか?」


 布目一箇が散々いじっていたのだから、取り出すのを躊躇うなんて今更過ぎる。

 説明も面倒なので、実物渡して済ませようという狙いだ。


「お~、思ってたのと違って軽いね。

 でも、いくら発射時の衝撃が無くても、狙い続けるのってキツくない?」

「それはそうだろ。

 その為に訓練が必要なのは、何も剣とかだけじゃ無い」


 それでも、発射時の衝撃や音がほぼ無く、銃自体も軽く出来、弾も小さくて済むのが魔銃の何よりの利点だと、あの精神破綻者は言っていた。オレも使ってみてそれは同意だ。

 今野が銃を構えている横で、戸畑天が銃身を軽く手で叩いたりしていた。


「流石に、これで剣とかを押さえるのは無理か」


 そりゃそうだ。そういう物では無い。

 堅さが十分だとしても、振り回して合わせるには形が向かないのだから意味が無い。


「流石に術が込められた弾だったら、先刻の練習時に自分達は生きてないですよね?」

「まぁ、痛みを感じる前に、骨すら残っていないかもなぁ」


 食事処でする会話じゃない。

 注文した料理を持って来た店員さんが、変な顔して見てるぞ、おい。

 とりあえず、食事に入ると、そう言えばと川瀬辰弥が声を上げた。


「先刻の自分の時、何が起きたんですか?」

「あぁ、気が付いて無かったのか。

 そうだな、悠樹君からは見えてたんじゃないか?」


 と振られたので、見たままを説明した。

 ミニガンモデルを斜め上に向けて発射し、みんなの上に降り注ぐ様に、自分の能力を合わせて射線を曲げた。

 着弾する直前に、川瀬辰弥の剣から糸の様な物が出て、それぞれの頭上で円状に広がるのが見えた。

 その円状に広がったものは、見間違いで無ければ着弾の瞬間、波打った様になり、まるで水に流される様に弾が流れ落ちて行った様に見えたのだ。


「説明したと思うが、アゾートは特質の一つに水銀がある。加えて素材的には緋緋色金に近い構造体だ。

 水銀は金属であるのに液体、つまり自由に形が変化するし、緋緋色金の意志を通し易い性質も持ってるわけだから、だとするとどうなると思う?」

「まさか、その弾を受け止めたと言うのは、剣が変形したという事ですか?」

「そのまさかだな。

 そもそも意志を示す為の杖であるアゾットの、性質を再現して剣にしたものだ。

 普通の剣とは違う、どちらかと言えば魔具寄りな代物なんだよ、アゾートは」


 色々ビックリだったけれど、聞けば固体に見えている通常時こそが、式によって形を固定されているだけなのだそうだ。

 何本作られたのかは分からないらしいけれど、少なくとも世に知られているのは、川瀬辰弥が持つ一本だけらしいので、その式自体が相当特殊なものなのだろう。

 等々あったけれど、とりあえず食事を終えて宿に戻る。

 ちなみに、布目一箇が頼んだ料理はそのまま余ったので、水流が旅に使う用として持っていたケースに入れて仕舞っていた。お持ち帰りというやつだ。

 宿の、門のところまで戻って来ると、入り口のところに白石悠が待っていた。



「迎えに来たっすよ」


 と、手を上げて元気に話す白石副隊長は、立派に成人を過ぎているのに、何だか子供みたいな印象を受け、苦笑いになる。

 今野さんと同じくらいか、下手をすると今野さんの方がしっかりしている気がするのだけれど、言わない方が本人の為だろう。

 ・・・隊長になるかはともかく、衛士衆にはお世話になるのだけれど、この人が副隊長というところに微妙に引っかかりを覚えるのだけれど、これは考えたら負けだろうか。


「とりあえず昼時っすけど・・・」

「あぁ、俺達はもう済ませた」

「えーーー。あて《私》は未だっすよ。

 時間的に食事してからだと思ってたのに」


 お腹空いたと騒ぐ副隊長に、戸畑さんは我慢しろと切って捨てる。

 何か可哀想になる。

 結局は、布目一箇さんが残して行った料理を水流さんに貰い、それを食べながら先導する副隊長に導かれて、自分達は移動する事になった。

 戸畑さんはそろそろ旅の準備を始めないといけないという事で、手伝いとして悠樹君と今野さんを連れての別行動だし、玄太は考えたい事があるそうで、一人宿に残った。

 実際、隊長の件に関しては自分だけで済むし、東の賢者の事とかについては水流さんが付いて来てくれたので、別行動は特に問題無いだろう。



 最初に案内されたのは、前隊長さんの家だと言う事で、居住区である南側を進み、丁度中程から路地に入ると、その先に少し開けた場所があり--公園の様な目的の場所なのかも知れない--、その奥がそうらしい。

 着いた家は、特に周囲と比べても大きい訳でも、目立つわけでもない木造平屋で、玄関の横に縁側があった。

 園側に置かれた座椅子の様なものにもたれて庭を眺めている、黒っぽい虎模様の猫、いや体のつくりは人間と変わらないので猫族が目に入る。

 顔に幾つか大きな傷が見え、右耳も半ばで千切れた様に短くなっている、古強者という印象の人だった。

 その人に向かって副隊長は声をかけた。


「テツさん。隊長候補連れて来たっすよ」

「おぉ、嬢ちゃんわざわざ悪いな」


 副隊長は、自分の事を押し出す様にして、テツさんと呼ばれた人の前に連れ出した。


「初めまして。えっと、白鼠の川瀬辰弥と申します」

「来訪者だって聞いてるが、未だ慣れてない感じだな。

 てつだ。大抵の奴にはテツ爺と呼ばれてる。よろしくな。

 ちと腰をやっちまって、申し訳無いがこのままで失礼させてくれ」


 挨拶が終わったところで、昨日の様になし崩しで持ち上げられても困るので、新参者が責任ある立場となる事はどうなのかと、自分から申し出る事にした。

 それに、いざという時に戦えるかが未だ分からない事、あっちに帰る方法が見つかれば自分は帰る身だからという事も付け足した。

 対して秀村さんは「普通はそうだよな」と言いつつ笑った。笑ってそして・・・。


「だがな、新参者だとか、何時居なくなるか分からないとか、そんなのはあんまり問題じゃ無いんだ。

 この町にとっては、一番の問題は今現在、隊長が不在って事なんだ。

 指示系統がしっかりして無い組織程脆いものは無いし、それが衛士衆の様な集団ならそれこそだ」


 と言った。

 それは分かる。分かるのだけれど、ハイそうですねと言う訳には行かない。


「ですが・・・」

「まぁ、一応最後まで聞きな。

 例えば敵、まぁ魔獣でも良いが、要は町が襲われるとして、君ならどうする?」

「とりあえず、相手の情報を得た上で、必要そうであれば戦えない人を優先して避難。ですかね」

「んじゃ、同じ質問だ。白石の嬢ちゃんならどうする?」

「仲間に緊急招集かけてぶっ込みます!」


 ほらな。と、秀村さんは言った。


「白石の嬢ちゃんの様な考え方の奴しか、今の衛士衆には居ないんだ。

 別に先手必勝が悪いとは言わないが、それは一歩引いて全体を見る隊長の立場としては駄目だろ?

 勿論、偵察と監視を兼ねた先行組は決まってるからそいつらは未だ良いが、嬢ちゃんを始めとした他の連中は、先行組からの情報を得る頃には、戦闘態勢整えて町から出てるってのが、これまでの動きだ。

 前任者としては、君の様な考え方の奴こそ隊長向きだと思うがな」

「しかし・・・」


 言い返しかけた自分の言葉を手を上げて止めた後、更に続ける。


「この爺が隊長になったのは、単に猫族と狐族の間の子だったから、他の奴らと比べて、ちっとばっかり小さい内から頭が回ったってだけの理由でな。、隊長なんて、その程度のものだ。

 それに、気に入らないなら後任育ててとっとと譲れば良いわけだ」


 そう言ってくはははと笑った。

 その程度だと言い切られて、自分は返す言葉を失ってしまう。


「確か白鼠ってのは、吉兆の印だろ?

 それだけでもこの爺としては、隊長向きだと思うぞ」


 そう、持ち色の能力的には隊長向き、衛士衆向きと言うのは、自分で気が付いていた事だったので、反論のしようも無い。

 結果として、前隊長の承認は避ける事が出来なかった。



 肩を落として道を進む。

 言外に、今の衛士衆面子のままだと危険だと示された様なものなので、それでも否とは言えなかったし、賛同出来る気持ちも入ってしまった。

 次はこの村の長だから、副隊長の親だったはず。正直なところ、この副隊長の親というだけで、根拠は無いけれど不安が大きい。


「着いたっす。ここっすよ。

 遠慮無く入って欲しいっす」


 辿り着いたのは、思っていたよりは小さな家だった。

 場所的には宿に近い、つまりは町の中央に近い位置で、流石は長の家と言う感じの広い敷地だったけれど、敷地の割にはぽつんと小さな家が建っていた。

 副隊長に案内され、自分達は入って直ぐの部屋に通された。


「狭くて申し訳無いっすけど、少し待ってて下さい」


 と言って長を呼びに部屋を出て行った。

 狭いと言われたが、それでもあっちで自分が暮らしていたアパートよりは、この部屋だけでも少し広いだろう。

 普通の人の家だと考えれば十分大きい。

 暫くすると、副隊長がきっちりとスーツの様な洋服を着込んだ人を連れて来た。

 毛色--文字通り毛の色--が明るい茶色と白なので、親子なんだろうなと分かる。


「お待たせしました、この町の長で、白石正成しらいしまさなりです。

 ご足労をおかけしまして申し訳ありません」


 と丁寧な挨拶を返してくれる。

 態度も落ち着いた感じで、とても失礼だけれど、親子とは思えない。


「初めまして、白鼠の川瀬辰弥です」

「ご丁寧にどうも。衛士衆を宜しくお願いします」

「はい?」


 確か承認を得る為に来たはずなのに、何でもう決まってる様な感じになっているのだろうか。


「あぁ、突然済みません。

 ただ、よく考えてみて下さい。隊長不在の現在、代行は立場的にこれがやっているわけです」


 そう言って横に居る娘、つまりは副隊長の方を見る。


「これより駄目とは失礼ながら、見た感じだけでも思えないので」

「あぁ、それは仕方無いっすね」


 ・・・・・・

 何をニコニコと認めてるんだ・・・。

 でも、確かにそれを言われると言い返せない自分もどうなのだろうか。


「という事で、町長まちおさとして承認します」

「ちょ、ちょっと待って下さい。

 自分の事は未だ何も分からない状態なはずです。そんな者を町の長として認めて良いんですか?」

「駄目な人ならば、そもそもそう言う事は聞かないでしょう。

 それに、貴方の様な対応が出来る人族の方が、我々猫族より気まぐれという事も無いでしょうし」


 おい猫族・・・大丈夫か? そう思わずにはいられない発言を聞いた気がする。

 深く考えるのは止めよう。


「さて、紅姫様からも何か聞きたい事があるとの事でしたが」

「ご多忙のところ申し訳ありません」


 と、ふと意識を思考の方に飛ばしている間に、既に話しは石動さんとのものに変わっていた。

 内容は東の賢者の所在や、あっちへ渡る方法に関して等の、非常に重要な情報に関してだったので、自分の話しに引き戻せる状況でさえ無く、もはやどうしようも無い気が凄くする。

 情報に関しては、この地の猫族に伝わって来ている有力なものは無かった。

 他の町等と頻繁に交流がある地でも無いので難しい様だ。

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