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デュアル・クロニクル  作者: 不破 一色
第1幕
24/31

 1-13

 ・・・何でこうなった?

 見えるのは自分に向いた、円形に組まれた八つの銃口。勿論悠樹君が持ったミニガンモデルとか言う魔銃だ。

 そして見えはしないけれど、自分の後ろには今野さん、石動さん、戸畑さんの三人が居る。


 総合窓口所で教えてもらった持ち色の能力は“静かな護り”だった。

 白鼠は、色の属性以前に意味を持つ。

 あっちではどうだったのか、自分はそう言う事に詳しく無かったので知らないのだけれど、少なくともこっちでは大国主おおくにぬしを助けた事から使いとなった、いわゆる神の使いなのだそうだ。

 これは後で知った事だけれど、あっちではヒンドゥー教のシヴァ神の化身であるマハー(偉大なる)カーラ(暗黒)が、その語意からいわゆる守護神に位置づけられる大黒天となり、ダイコクが大黒と大国とで通じる事から混同されたらしく、大黒神マハーカーラ=大国主命という解釈もあるらしいけれど、こっちでは派生の能力はあくまでも派生であって、本質こそを重視する傾向がある為か、国造りの神である、本来の大国主の使いという位置づけだと言う。


 眷属と役割的には同じ様なものらしいけれど、実際には眷属の様に、その神に縛られているわけでは無いらしい。

 とは言え神の使いである為、それは吉兆の象徴という意味を持つ--そう考えると、神の眷属である石動さんなんかは吉兆そのものと言えるのかも知れない--。

 国造りの神の使い、つまりは発展の兆しである為に吉兆の象徴。これは白鼠の語意として“次へと続く為に必要なものを維持しなければいけない”という理に縛られる。

 また神を助けた経緯からの使いである事から、“主家に忠実な使用人”という意味も持つらしい。

 また、色そのもので言うと、無彩色系統の一つである墨色五彩の焦、濃、重、淡、清の中で一番淡い清になると言う。

 その意味は清らかさや静けさを意味する事から、静と動での静、つまりは動かない護りの能力となるらしい。

 何か、衛士衆の隊長として都合の良い能力になりそうな気もするのだけれど、それは今更だし、むしろ役に立つならその方が良い。

 そしてそれは別に、衛士衆だけでなく、仲間達にも同じはずだ。


 静の護りなのだから、動かずに護る事になり、それはおそらく体の動きだけではなく、心の動きもそうなのだろう。

 ここまでの間に、イメージによる結果が非常に大きな意味を持つ事は、何となくではあるけれど分かっている。

 そこから思い付いたのは、自分の能力を上手く使うには、自分がイメージしたそのものを色々考えてこねくり回すのではなく、そのまま受け止めた方がすんなりと発現に至るのではないかというものだった。

 だからこそ試してみたい事が出来たのだ。

 やりたい事は単純で、悠樹君の攻撃に身を晒し、護れるかの実践だった。

 とは言え、白鼠は単なる防御効果の拡張や増強という認識を自分自分では持っているので、能力に任せる訳では無い。期待するのはむしろ、戸畑さんに貰った剣であるアゾートの性質だ。

 意志を伝達し発現させるのに最適な構造体として完成されたと言うのであれば、持ち色の能力に加え、自分の護りたいという意志の発現を試す事こそが目的だった。


 勿論基本は自分の身の可愛さなので、自分一人でも問題無いだろう。けれど意味合いから受けたイメージを考えると、誰かを護るという意味によって、より大きな効果が発揮できるのではないかと思ってしまったのだ。

 だから、誰かに手伝って貰い、一緒に悠樹君の攻撃に身を晒して貰いたかったのだけれど、当然それは、石動さんか戸畑さんの、いざという時に自身の身を守れるであろうどちらかの協力だったのだ。

 ところが、何故か今野さんが協力を申し出て来た。

 彼女はかなりの年下で、当然女性であり、しかも戦う事に慣れていない。

 万一の事も考えると一番避けたい相手であったのだけれど、彼女は折れなかった。

 悩んでいると戸畑さんから、仲間を守る効果の実証を行うなら一人では不足だろうという話が出た。つまりは悠樹君を除く全員で受けるべきだろうという事だ。

 これも最悪の場合、被害が増える可能性が高くなるだけなので躊躇したのだけれど、何だかんだと押し切られて現状に至っている。


 本当に、何でこうなった?


「もう一度言っておくけど、空弾を使うから当たったとしても、防御力を考えれば痛いだけで済む筈だ。多分」

「いや、多分て・・・」

「まぁ、最悪の事態は避けられる筈だから、怪我したら水流頼みかな?」


 真面目に怖いんだけれど。

 と言うか、何で悠樹君はあんな凶悪な物を持っているんだろう?


「じゃぁ俺からもだが、聞き忘れてたけど、悠樹君はどのくらい撃つのかな?」

「秒間二百発と聞いているから、時間的に五秒、弾数で一千発も撃てば実験として十分かなと思っていますが」

「五秒で一千て・・・」


 戸畑さんが言いたい事も分かる。

 一千発はシャレにならない。

 悠樹君はミニガンモデルとか言っていたその銃は、もう、見た目からして銃じゃない。

 確か、ガトリング砲とかバルカン砲とか呼ばれる代物ではなかっただろうか。


「引き金引いて、直ぐ止めるにしても、多少範囲内にばらまかないと駄目だろうし、五秒は欲しいので」


 ・・・淡々と言うな。

 やっぱり自分一人で受けるべきかも知れないと思ったのだけれど、それを言い出す前に戸畑さんから、深呼吸して落ち着いたらさっさと始めようと言われてしまった。

 仕方無いので、深く静かに深呼吸をして、心を落ち着ける。

 多少乱れは取れないけれど、時間をかければ不安が増すだけだ。気休めではあるけれど、少しでもみんなの盾になろうと考えて、両手を広げた。


「では、撃ちますよ」


 緊張感が無い悠樹君の言葉と共に、銃口が斜め上を向いたと思った次の瞬間、周囲が荒れ狂った。

 地面が跳ねている様に感じたのは、一瞬の内に大量の着弾があったからなのだろう。

 とは言え、五秒というその時間の間、何も出来なかったし、何も出来なかったのが現実だ。あまりにも短い、一瞬と言っても良い時間とは言え、それでも攻撃は攻撃だ。何も出来ないでは正直問題だろう。

 本来なら発射音による爆音や、火薬の煙、発射時の火花等があるのだろうけれど、悠樹君のは魔銃だ。

 いわば圧縮空気で弾を押し出している様なものらしい--実際にどういう理屈なのかは知らないけれど--ので、静かな中、降り注ぐ弾丸の風を切る音と、着弾時の音しかしなかった。その静けさがむしろ状況の把握や理解を妨げていて、事が終わって感情が戻って来た時の恐怖は洒落になっていない。


 ふと思い至って後ろに位置したみんなの方を見た。

 何よりもみんなが無事かどうかが心配だったけれど、そこで初めて気が付いた。

 地面が着弾で掘り起こされた様な状態になっていたのだけれど、それぞれが立っていた位置から三十センチ程の円形状に、そうした着弾の痕跡が無かったのだ。


 何が起こったのか分からなかったと、今野さんは呆然としていた。

 最低の威力でこれですかと、石動さんは感心していた。

 そして戸畑さんは何やら頷いていたので、どうも何が起こっていたのかを見ていたらしい。


「とりあえず時間が押してるから、ちょっと早いが昼食を摂りながら説明しよう」


 多分、自分の目が状況説明を求めている様な感じになっていたのだろう。

 戸畑さんがそう言って、訓練の終わりを告げたのだった。



 みんなが練習に行っている間、僕は一人宿に戻った。

 情けない事は分かっているけれど、今の僕にとっては強くなるとか、戦える様になるとか以前に、自分が恐怖に捕らわれていて、何も出来ない事が分かってる。

 みんなと一緒に行ったとしても、その練習を傍で見ているだけで、恐怖で震え出しそうなんだ。

 だから一人、宿に戻る事にした。

 とは言ってもこのままで良いはずは無い。

 別に戦いたいとか、強くなりたいとかでは無くて、せめてこの恐怖心を、手に残っている様な気がするあの感触を、どうにかしないと何も出来ない。

 だから僕は、宿の人に許可を貰って、裏庭の様な場所で槍を構えたまま・・・固まっていた。


 布目一箇と言う鍛冶の人に装備を強化してもらって、実際にその効果も見せられた事もあり、結構精神的には落ち着いて来た気はするけれど、未だにこうして槍を構えたそれだけで、あの時の異形が襲いかかって来た時の恐怖が、刺した時に手に伝わって来た感触が強くなって、体中から嫌な汗が流れ出して動けなくなる。

 知らない環境に突然巻き込まれたというスタートではみんな同じだったのに、恐怖を押さえ切れなかった僕は、スタート地点から後退したと言えるだろう。

 正直、悠樹君はよく分からないけれど、今野さんは僕より年下の女の子だし、川瀬先輩も普段とはやっぱり違う。

 みんなだって無理して無い訳じゃないだろうから、僕も何とかして、せめてスタート地点に戻らないといけないんだ。

 そう考えて槍を構えたのだけれど、結局僕は動けないまま固まっていた。


「無理しても悪化するよ」


 突然声をかけられ、びっくりして声がした方を見ると、宿の裏口に当たるのだろう小さな門のところから、布目一箇が顔を出していた。


「何とかしなければなんて強制観念は、逆に悪化させかねないね。

 状況に慣れる事が出来る様に装備を揃えてやったんだから、活用してくれなきゃ甲斐も無い」


 装備の事を言われて気が付いた。

 ゲームの頃は悠樹君が、パーティーメンバーの平均化にかなり気を遣っていた。

 当時はパーティーとして都合が良かったので、特に何も気にならなかったけれど、あれはデータを取る為に必要だった事は、話しを聞いてはいたから今は分かる。

 つまりは、かなり注意して平均化が行われていたという事だし、それは装備品も含めてだったのだから、布目一箇によって僕にだけ新しい装備が用意されたのはおかしいのだ。

 みんなは元々の装備のままで済んでいるのに、僕にはこれまでの装備を越える衣に加えて、外套もあてがわれた。

 しかもいざとなれば、衣の上にこれまでの装備一式を着ける事も出来るのだから、過剰過ぎる程に過剰なのだろう。

 そしてその過剰さは、万一戦いに巻き込まれて体が動かなくなり、一方的にやられる事になったとしても、ほとんど何の問題も無いだろう。


 つまり、実際の場面でさえ慣れる為に利用出来るという事なんだ。

 だからこそ、こうしてイメージ的に頑張る以外にも様々なところで精神的な訓練が出来る事になるし、無理して一気に多くの時間をかけなくても大丈夫だという事だ。

 それが分かった事で、更に気持ちが少し軽くなった気がした反面、情けなさは増えた。

 僕は布目一箇にお礼を言ったのだけれど、町中でさえフル装備なんて、見た目が重っ苦しかっただけだと流されてしまった。


 それから暫くの間、布目一箇と話しをしていた。何でも、あっちの武器や防具の話しが聞きたかったので訪ねて来たらしい。


「そもそもさ、こっちで生まれた者なら、坊やみたいに恐怖や嫌悪感を感じないと思うかい?」

「いえ、流石に感じないとは思いませんけれど、それでも慣れとか、状況的なものもあるかな、とは思います」

「そういうのが無いとは言わないけどね。

 でもさ、それこそあっちでは戦いってのは一切無いのかい?」


 無い訳じゃない。

 ただ、僕たちが暮らしてきた日本、いや、僕たちが生まれてから偶々、平和な国だったというだけだ。

 世界的に見れば、戦争や内戦、テロなんて言うのはニュースで毎日の様に流されているし、ネットでもそういう情報は流れていた。


「慣れとか、嫌悪感を克服した者も居るだろうけど、それ以前に、固まってたら自分や、守りたい知人なんかの死が結果として示されるとなれば、嫌であろうが何であろうが、立ち向かうしか選択肢が無いのさ」

「それは、分かります」

「あっちでは、銃とかの飛び道具が普通なんだろ?」


 ん? 話しが飛んだ?


「勿論効率的って意味もあるんだろうけど、何より自分に直接感触が返って来ないってのは、飛び道具が普通になった理由の一つだと思うよ」


 あぁ、飛んでいないのか。


「こっちだって同じだよ。

 鍛冶師の仕事は、そういう部分を少しでも減らす事を考えてこそなのさ」


 そうか、防具だけじゃなく、武器も一新させられたのは、そういう意味があるんだ。

 そんな事を話していると、練習を終えたから早目の昼食に行くとみんなが呼びに来た。

 布目一箇が、しっかりと昼食に付いて来たのは、言うまでも無いだろう。

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