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「さてそれじゃ、個々の手の内をある程度晒して終わりにするか?」
一通り、各々の戦闘のコツを掴む目的は達したし、午後は予定があるのだから早々の終了という流れになる。
実際時間的には、早目に昼食を摂らないといけないので、丁度良い感じだろう。
戸畑天の言葉には誰からも異論は出無かったので、参考も兼ねて先ずは戸畑天、続いて水流が行う事になった。
オレ達はそれを見て、内容によっては参考をふまえて試しでも良い事になった。
手の内をある程度晒すという事で、当然相応の威力を示す事になる。そこで、行わない者は壁際によって観覧する事になった。
一手目の戸畑天が、オレ達に背を向ける感じで、少し離れた場所に立った。
この施設の地面は、この地の産土神の恩恵効果があるので、数時間で元に戻るという事なので、標的は地面となった。
先刻オレと水流によって溶けた辺りは、冷え固まり初めて、妙な感じになっているけれど、それも徐々に戻って行くらしい。
位置に付いた戸畑天は、特に構えるという事も無く、抜き身の長刀を取り出して、肩に峰を置いて担ぐ様にした。
「行くぞ」
と声がかかった次の瞬間には、長剣は振り下ろされていた。正直なところ速過ぎて、いつ振り下ろしたのか分からなかった印象を受けたのだけれど、後で聞いた話しでは、早さは大した事が無いらしい。
「人間の筋力で、目にも止まらない早さは無理だろ」
と言われてしまった。
何でも、認識の隙間を縫う様に行うから目無い様に感じるのだそうだ。
同じジャンルの武器を扱うからか、川瀬辰弥が非常に興味を示していたけれど、これは武器を扱う技と言うよりは、行動に関わる技だと言う。相当な鍛錬が必要そうだ。
戸畑天が振り下ろした辺りから、地面には長さこそ三メートル程だけれど、深さは分からない程の亀裂が出来ていた。いや、亀裂と言うよりは切れ目だろうか。
特徴的だったのは、切れ目の横に土が積み上がっているわけでも無く、斬り付けた時に土埃が舞ったわけでも無いという事だ。
斬られた部分が消失した様な印象さえ受けた。
その亀裂を指しての説明によると、自身の能力である深緋は濃縮された高温の発生で、厳密に言えば振動による熱の上昇らしい。また紅下黒は圧縮系の能力で、厳密に言えば隙間を埋めるのだと言う。
これらを組み合わせて、斬るという行為に乗せて、刃の周辺と、刃の一定延長線上の領域温度を上げて溶かし、更には構成物質間の隙間を圧縮したと言う事だった。
利点としては、熱による変質や、圧縮が可能な対象であれば、刃で切れない対象でも効果がある事だろう。ありがちな、アメーバに残撃が効かないパターンも関係無くなるわけだし、それこそ応用すれば、水さえも斬れるのだろう。
斬るというイメージの延長に、自身の持つ能力を乗せて効果を発揮させた、非常に強力な攻撃と言えるし、能力を二つ持つからこその重ねがけは、正直なところ相手をするにはかなり厳しいと思わせた。
深さを減らす事で長さを延長出来るという事だし、前への直線ではなく、剣を横に振り抜けば横方向に発動も可能だというので、避ける事も難しくなる。剣術の技術に裏付けされ、上乗せされて能力を使われる事の厄介さを思い知った感じだ。
二手目の水流は、広範囲に影響が及ぶ可能性があるという事で、発動はするけれど効果を発揮させないでキャンセルすると言って、やはりオレ達に背を向ける様にして少し離れた。
移動する前に、危険だから絶対に近づかない様にと言い残した為、全員に緊張が走る。いや、戸畑天だけは興味深そうにしていて、緊張は感じられなかった。
「前地の二、前地の一、後地の四。
土の神埴山比賣之命、聞食と願い白す」
という詠唱(?)を聞いて、今野が興味を示したのか前のめりになり、隣に居た川瀬辰弥に肩を押さえられているのが目の端に映った。何をしているんだか。
術を行使する水流に目を戻すと、獣耳や尻尾が生えた様にも見える姿に変わっていた。ただ、その耳や尻尾に見えるものは、よく見ると金色の光の様なもので形作られているのが分かる。
そう言えば、大きな力を行使する場合、力の発動が見える様になると言っていた事を思い出した。これか神代狐の所以なのかも知れない。
詠唱を終えた水流は、手を顔の前で合わせる一歩手前の状態にして、両手の間に吹き込む様に一息吹いた直後、ぱんっと手を打ち鳴らす。すると空間の中央辺りの土の中から巨大な何かが現れ、空中で蜷局を巻く様に留まる。
黒に近い土色の、蛇とも竜とも言える様なその存在は、この空間では全体が見えない程の大きさだ。
「本来ならもっと上空に出し、相手に叩き付ける様にするのですが、それはこの場では危険なので」
と言って、もう一度手を叩くと、その存在は金色の粒子の様になり、地に吸い込まれる様に消えて行った。
うん、あんなものをここで叩き付けられたら、おそらく被害が甚大過ぎる。
説明によると、あれは地の神の力を借りるという形式を取って、その地にあるエネルギーを集約させるのだと言う事だった。
エネルギーとは構成物質--つまりは原子等と考えて良いのだろう--である為、見た目は生物や物質の様にも見えるけれど、実際には単なる集合体なのだそうだ。
そう言われてしまえば、オレ達生物でさえ集合体ではあるけれど、そうした固定された状態では無いと言う事だった。
形として地力を借りるという形式を取り、その地に修復不能な影響が出ない限界、つまり理の範囲内での効果を発揮させるのだそうだ。
「今はこの場所という限られた範囲でしたので、あの程度が限界です」
って・・・だったら街の外とかでやったらどれだけのものになるのか、あまり考えたくは無い。
ふと、水流は怒らせない様にしようと思ったのは内緒だ。
強力な反面詠唱が必要な為、使う状況を選ぶとは本人の弁だけれど、既にこの空間中央に、全体の四分の一程の大きな陥没と言うか穴が開いている事を考えると、単に発動させただけでも相当な破壊力を持つと言えるだろうし、詠唱自体もそう長くはなかった。
今回は地面でという事だったので地の神の力を借りる形にしたけれど、他に風や火といった他の属性でも可能と言うのだから、決して使い勝手が悪いとも言えない気がした。
と言うか、相手が居る空間から風属性であんなものを出現させただけで、もう勝負終了という気がするんだけれど・・・。
今野は目をきらきらさせてた。どれだけ魔法とかそういうの好きなんだ? お前は。
川瀬辰弥は・・・うん、固まっているな。
まともな攻撃力ではないし、こんな個人の能力は、もしオレ達が知る近代兵器を用いても簡単には勝てないどころか、無駄に被害を増やす事になるだろう。
しかも、これはこの施設で行われた結果でしかない。
連発可能であろう戸畑天の技は、斬られた挙げ句に圧縮して固められるから治らない傷を負う事になるし、一撃での威力が大きい水流の術は、広範囲を一掃出来るだろう。
どちらも一人で相当な数と渡り合える事でもあるし、対処も困難だ。
そう思ったのだけれど、戸畑天は能力発動の為にイメージを必要とするので疲労も相応だし、水流は周囲への影響が大きいので基本的には使用を避けているらしい。使い勝手は悪いという事だろうか。
次は誰が行くか? と聞かれて、今野がやると言い出した。
ただし、実験要素を入れるから失敗しても笑わない様にと、かなりしつこく念押しされた。
まぁ、前の二人に続けてあんなものを見せつけられれば、続くのはなかなか難しいのは分かる。
今野も、少し離れた場所でやるらしい。オレ達に背を向ける様に位置に付いた。
「では、やってみま~す」
そう言うと共に、白石悠の様に右手を挙げたその瞬間、空間の中心辺りから霧が立ち籠めて周囲に広がった。
オレ達が居る壁際はそれ程濃くはないが、それでも見通しは悪く、中心の辺りは完全に白一色に染まっているので、施設全体に霧が立ち籠めた状態になっているのだろう。
うっすら見える今野が、挙げていた右手を下ろす途中で、フッと手に符が現れて消えると、次の瞬間、今野の発動した符術の効果だろう、空間中央の真っ白に染まっていた辺りが赤く染まる。
しかしそれに留まらず続けて、最初に赤く染まった所を囲む様に周囲数ヶ所が赤く染まると、全体が纏まる様になり、立ち籠めていた霧が全て吹き飛んだ。
霧が消えた事で見える様になった時に見えたのは、先に水流が開けた穴の部分が真っ赤に溶けていた状態だった。
オレ達は何が起きたのか分からず呆然としてしまったが・・・何でやらかした本人である今野までもが呆然としているのかは、正直問い詰めたいところだろう。
説明によって、今野がやった事は明らかになった。
発想の大元は、符という魔具の性質だったらしい。
水流の様に、自身の体力と言うか、精神力と言うか、そう言った何かを消費して効果を示す術そのものではなく、術による効果と同様の結果を消費アイテムによって実現させるのが魔具であり、符もその一つだ。
術もそうだけれど符も、発動自体は自分から離れた場所でも行える。
では、自分から離れた場所にある符はどうなのだろうかと考えたらしい。
今野の持ち色である白緑の示す能力は活性化だと言う。
本来であれば個々が持つ自己回復力増強による効果や、抵抗力などの増強による状態異常への抵抗力強化と言った、いわゆるサポート的能力が思い浮かぶだろう。
けれどそれを活かせば、場にある何かの状態強化に使えるのではないか、つまりは戸畑天や水流によって熱量が増加しているこの場であれば、そこにある水分の気体化を促進出来るのではないかと考えたらしい。
その試しによる結果として霧が発生して、場の目眩ましが成立した。霧と言うよりは、そのまま水蒸気だった様だ。
水蒸気が立ち籠めた瞬間に、符を手元では無く離れた場所、つまりは水流が作った穴を囲む様に“取り出す”イメージをした。続けて手を下ろすと同時に、普通に符を取り出して、中央に術を発動させるというのが、行った一連の行為だったのだと言う。
ところがだ、制御が不安定だからか、あるいはイメージが強すぎたのか、本来ならその後で、周囲に配置した符を発動させる予定だったらしいのだけれど、、通常通り手元で発動させた符の発動に連動して周囲の符も発動した挙げ句、それらが同じ火炎符だったからか、全ての効果が融合して、目にした結果となったらしい。
周囲に配置した符が六枚で、手元で発動させた一枚を加えた、計七枚のエネルギーが一定範囲で荒れ狂う結果となったので、今野自身も想定していない、穴を中心として地面を溶解させるエネルギー効果が発動したというのが今回のオチだ。
本人としては、そもそも最初の霧というか、水蒸気の発生自体も賭の様なもので、その後の“自分から離れた場所に取り出す”事も賭だし、自分から離れた場所の符が発動するかどうかも賭という、試しを重ねまくった実践だったのだけれど、結果として自身の想定を越える効果を示してしまった訳だ。
通常であれば、符という消耗品で大きな効果を得る為には、強い術を組み込んだ符を使うのが当たり前という前提がある為、複数の符を連動させる使い方は想定外だと水流は言う。
「威力有り過ぎだよ~。
わたしは目眩ましした上で、多方向からの攻撃って感じで、普通に火炎符使っただけなのに」
多分融合によって相乗効果か何かが発生したんだろうな。知らずにやらかすと、結果が分からない分怖いな。
ともかく、本人すら想定外だった結果によって、威力以上に大きな発見があった。
符の発動範囲は、個々の理が優先される様で、融合した威力が本来及ぼす影響範囲より狭く済んだのだ。
水流曰く、あの威力であれば、この地下の空間全体に熱波が飛ぶだろうから、そのままであったらオレ達も、相応に火傷等は負っていただろうとの事で、それを聞いた今野が青ざめていた。
術による炎だったので、通常の炎とは異なり空気消費が生じなかったのも救いだろう。
これが通常の燃焼だったら、オレ達は今頃急激な一酸化炭素中毒で、洒落にならない事態になっていただろうけれど、これを自覚させると今野が持ちそうもないので黙っておいた。
と言うか、結果オーライで済ませないと、色々頭を抱えたくなりそうだ。
今野の結果に何か刺激されたのか、次は川瀬辰弥が名乗りを上げた。
オレと、他誰かに協力して欲しいと言うのだけれど、相応に覚悟が必要だそうだ。
「悠樹君、自分を撃って欲しいんだ。
逃げ道が無いくらいに徹底的に」
・・・何を言い出すかな、こいつは。




