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オレはその時の、水流の気持ちが、状況が何となく分かった。いや、それだと所詮は分かったつもりが限界だろうから、理解出来たという感じだろうか。
今野に何を言われたのかは分からないけれど、状況から見ても、今野の様子を見ても、多分嫌な事を言われたとか、そういう単純な事では無いのだろう。
とすれば、おそらく声をかけられてびっくりしたというあたりが原因だろう。
何かを考えていて、周囲に気が回っていなかった。初めて会った時、あの咄嗟の状況でさえ反応した水流にとってそれは、良いか悪いかは別にして普通では無い筈だし、それが素人である今野だったのだから、余計に衝撃は大きいだろう事は、想像に難く無い。
そうなれば答は簡単だ。おそらくは、気を張って頑張ってきた部分が崩れ、自分がみんなの足手纏いになるかも知れないとか考えたのだろう。
とは言えこれは分かったつもり、推測でしか無いから、答え合わせが必要だろう。
ここでそういう部分を崩しても大丈夫だと示した上で、直接聞く手も可能ではあるけれど、それではあまり効果が無い。
このまま状況を進めれば、今野辺りがそういう話しに展開させるだろう。
でもその展開は急過ぎる。それを水流は受け入れられるのだろうかと考えれば、結局は時間が必要になるだろう。
仕方が無いのでオレは、あと二つしか無い弾の一方を取り出して・・・。
自分の心が暴走していると分かっているのに押さえられない、その事で余計混乱してしまっていましたけれど、次の瞬間、混乱や感情の暴走は一気に吹き飛び、無意識に反応していました。
むしろ、無意識で無ければ、二度とやらなかったでしょう。
私は、主様の方向に向けて、全力で狐火を放つと共に、今野さんを自分の背に隠す様に動きました。
後から考えれば、主様に向けて全力で狐火を放つなど、やってはいけない事です。二度目ではありますが・・・。
ともあれ、放ってしまった狐火は、主様と私達の中間辺りの位置で炸裂しました。
明らかに、自分が放っただけのものよりも大きな威力で、主様と初めて会ったあの時の様に炸裂したのです。その瞬間、何が起きたのかを理解したのです。
多分、主様が撃ったのだ、と。
理解した瞬間に、私の身体から血の気が引きました。
それは別に、主様が私達を狙ったからではありません。混乱が吹き飛んだ今であれば、直前までの位置取りでは主様の撃った弾は、今野さんと私の間をすり抜けるものだった事くらいは分かります。
しかも私がこうして相殺出来る弾をあえて使ったのですから、主様が何故その様な事をされたのかが分かったのです。
おそらく、私が混乱してしまっていた状況を押さえ込もうという目論見だったのでしょう。
主様に気を遣わせてしまいました。
であれば、私が出来る事は・・・。
「主様すみません。思わず迎撃して、練習の邪魔をしてしまいました」
私としては、私の為に主様が行った事で、ご自身を悪者にするのを黙ってはいられません。
「いやいや、見事な反応だった。
流石、紅姫様ってところかな?」
わざとふざけた言い方をしているのが分かる様な口調でしたので、私の推測が間違っていなかった事が確認出来ました。
「いえ、当たらない攻撃に反応してしまっていては、練習になりません。
私は未だ未熟と痛感致しました」
これは本音でもあったけれど、この場の返しとしては大きく外れたものでもないはず。
そしてきっと主様なら、この流れだったら再度、反応を褒めて来るだろうと思っていました。
「その反応の良さは自慢して良いところだよな、今野」
「え? 何? ていうか何が起きたの?」
「落ち着け。単にオレの撃った弾と水流の術がぶつかっただけだ」
そう今野さんに話を振って、事態の収拾に入っている。
思っていた通り、主様は反応を褒めてくれたので、やはり私の思った事は間違っていなかったらしい。
「ぶつかっただけって、すっごい威力だったんだけど~。
一つ間違えば大変な事になってたんじゃないの?」
「大丈夫だ。水流と最初に出会った時には、この半分の距離も無かったぞ」
「え、ちょ。
あの威力のをもっと近くでって!」
今野さんは慌てた様な、驚いた様な、どっちとも取れない感じで私の方に目線を変えて言ってきた。
「あんなのを・・・って、水流さ~ん、何笑ってるの?」
私は何かとても嬉しくて、楽しくて、笑いを押さえる事が出来なかったのです。
もっとしっかりしないといけないのは変わらないけれど、気を張っていれば良いというわけでも無いと主様が、気を張りすぎなくても良いんだと今野さんが、教えてくれている様な気がしたのです。
私は今野さんに方に向き、こっそりと言った。
「やっぱり私、今野さんの言う様に、主様の事が好きみたいです」
今野さんは一瞬きょとんとした表情をしたけれど、すぐにとても素敵な笑顔見せてくれました。
「川瀬君、どうした?」
色々とイメージを変えつつ丸太を斬っていたところで、突然の爆音と閃光。慌てて見ると巨大な炎。
少し離れていた自分にさえ、その威力の凄まじさに、恐怖よりも先に呆けてしまっていたのだ。
「あの爆発は一体?」
「あれは悠樹君と石動君の攻撃がぶつかった結果だな」
「あれを悠樹君が?」
正直信じられなかった。
石動さんは元々こっちの人だし、戸畑さんはこっちでは三ヶ月と長くはなくても、元々剣術の師範だ。この二人には敵わないだろう事は試すまでもなく、何となく感じていたけれど、石動さんの攻撃力があんなにすさまじいとは予想していなかったし、悠樹君は自分達と一緒にこっちに来たばかりなのに、同じ規模の攻撃力なんて、信じられる訳がない。
自分達は単なる一般人で、軍事関係はあまり詳しくは無いけれど、それでもニュース等では戦争下の街の映像なども目にしている。
爆撃などを受けた建物が崩壊した様も、見た事だけはあるけれど、今の二人によって生じた炎の威力はおそらく、崩壊では済まさないだろう。
何しろ、発生した炎こそ既に消え去っているけれど、地面は未だに溶けている。
個人の攻撃であの結果は、想定外どころの話しでは無いし、悠樹君がそれに対応出来た事自体も、実際に目にしても信じられない。
「どうした? 悠樹君の戦いに何か感じるところでもあるか?」
「あんな威力の攻撃が出来るなんて、自分とはあまりにも差がありすぎて」
「んー、威力は特に問題じゃ無いな。
悠樹君と石動君が会った時に、術を取り込んだと言っていただろ。
要は、今の悠樹君の攻撃は、石動君の威力そのものだからな。それより・・・」
それより? 威力よりも何かあるのだろうか。
「悠樹君は昨日聞いた自分の持ち色の能力を既に使いこなし始めてる。
その飲み込みの早さの方が驚異かも知れないな」
「持ち色の能力を使いこなすって・・・」
「弾丸を途中で曲げてた。あれじゃ打たれる方は射線が読めないな」
それを聞いて自分は頭を抱えたくなった。
能力を既に使いこなすというだけの話しじゃない。たった一日で自分の攻撃方法に合わせる発想力があると言う事になる。
これまで丸太を斬ってみて分かったけれどイメージの差というのは、要は自分がどうするのかという明確な意識を、瞬時に行うという事だ。
ある程度コツが掴めてはきたけれど、それは動かない丸太だから出来た事で、実際に戦いの場となると、未だ全然自分の意識では追いつかないと思っていたところだった。
理解した翌日で使いこなし始められるというのは、自分に何が出来るのかという前提を理解しているからだろう。
「正直なところ、嫉妬しそうです」
若いからなのかも知れないけれど、それでも個人の能力差という部分が大きいと思う。
「そうか? 川瀬君も筋は悪くないと思うけどな」
「自分の場合、ゲームキャラクターからの補正に助けられているだけですよ。
技とかは特に」
「それは悠樹君も同じだろ。君達はゲームで一緒だったのだから」
どうなのだろう。いや、違う気がする。
悠樹君の場合は補正に助けられている以上に、個人の力が大きい気がするのだ。
「あえて違いを言えば、慣れかもな」
「慣れ、ですか?」
「悠樹君はあっちで調査だっけ、家の手伝いとかで何かやっていたみたいじゃないか。
そうした環境的な違いはあるかもな」
確かに、慣れというのは大きいだろう。
自分達は平和な日本という国で、普通に暮らしていただけだ。
そう考えると、これまで必要としていなかった戦う方向での能力を比べるのはおかしいのかも知れない。
けれど、自分か感じているのは悠樹君に対してのものだけではなく、今野さんにも似た様なものを感じている。
もしかしたら自分は、戦う事に気を取られているだけで、実際には違う部分で劣等感を感じているのかも知れないとは思う。思うけれど、それが何なのかが分からない。
いや、そもそも自分はみんなの中では年長者だ。非日常に突然置かれたので、困惑や焦りが年下の彼等に嫉妬にも似た感情を感じているだけなのかも知れないと、自分を諫める事にした。
「そうですね。慣れに勝る経験は無いかも知れません。自分も頑張る事にします」
「あんまり根を詰めない程度にな。
あぁそうだ、威力の話しだけどな、今のはおそらく石動君の・・・何だっけ、固有スキルか、うん、そういうやつだと思うぞ。
実際にはもっと強力な術を使えるはずだ」
あの規模ですら、未だ上があると言う。
それは個人の戦闘力と考えると恐ろしい。これではあっちの通常兵器なんて、ほとんど通じないのではないだろうか。
「ある程度、個々で出来る事は、この後見せて貰うとしてだ、川瀬君が萎縮しても困るからヒントをあげようか」
「ヒントですか?」
「あぁ。そうだな、技は連斬で幾つが一番多い?」
「八連斬というのがありましたが」
「では、技は気にせず、あの丸太を粉々にするイメージで切ってみてくれ」
よく分からなかった。
粉々にするには最大の八連斬でさえ、何回繰り返せば良いか分からないし、そもそも技を気にしないというのはどういう事なのだろうか。
これまでは、ゲームの技をイメージした上で、その威力を上乗せする様な感じだったけれど、とにかく言われた通り、技は考えず、単に丸太を粉々にする事だけをイメージして斬り付けてみることにした。
「・・・・・・!」
斬り付けた瞬間、手に返って来る感触はほとんど無く、ただ感覚的に大きな反動を感じた。いや、反動と言うよりは、手応えというのだろうか。
とにかく、結果として今、目の前にあった丸太は小さな木片として散らばっている。
文字通り粉々になって、原形を留めていない状態だ。
「ゲームの技にどういうものがあったのかは知らないが、ここはもうゲームの中じゃ無いから、縛られていないわけだ」
つまりはイメージがある程度影響する。
自分の色である白鼠の能力に依るのかとも思ったけれど、聞いた能力とは関連性が見えない。
戸畑さんによれば、剣の方の性質がイメージにより使われたのだそうだ。
アゾートは、パラケルススが持っていた剣状の杖アゾットの性質を模倣したものだと聞いているけれど、そのアゾットには悪魔が封じられていて、気に入らない相手にその悪魔をけしかけたと言われているらしい。
つまりは、命じて対象を攻撃する性質も模倣されている事になり、イメージによって対象を攻撃する効果が生じる。つまりは自分がイメージした粉々にするというのが、アゾートへの攻撃命令として効果を示し、実際に丸太が粉々になった結果に至ったという事の様だ。
実際のところは落ち着いて見てみると、自分が斬り付けたところを中心として粉々にはなっているけれど、離れる程にその木片は大きくなっている事に気付く。
幾ら一撃で多数の斬り付けと同様の結果が生じても、実戦では相手も動くのだから、上手く活かせるかは微妙なところだろう。
そうだ、戸畑さんが言っていた使いこなすという事で言えば、自分自身が未だ何も使いこなせていない状態なのだろう。何しろ言われるまで、結局はゲームの技にイメージが囚われていたのだ。
他の誰かを気にしている場合では無く、それこそ悠樹君を見習って、現実として何が出来るかを見極めて行かなければと、自分に活を入れた。




