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朝になり、そろそろ支度して朝食という頃になって、何か眠そうな女性陣が部屋から出て来た。
いつもきちんとしている水流の襟元が乱れているあたり、相当なものだ。と言うか、目の毒なのでとっとと直せ。
ちなみに白石悠は、朝早く宿から出て行ったのを、早朝の鍛錬に出た戸畑天が見かけたらしい。今野は「逃げられた~」と言っていたけれど、昨夜は女部屋で何があったのだろうか。
食事処で朝食を済ませた後、未だ戦い方がどうのという段階ではないと言って、荻野玄太だけは宿に戻って行った。
オレ達は町中央の大きな十字路を西側に向かう。暫く進むと道の右側に、周囲を壁に囲まれた高台が見えて来た。何でもそこは陣屋と呼ばれていて、通常時はそこが衛士衆の本部となっているらしい。町の非常時には避難場所にもなっている為、高台になっているのだとか。
道を挟んで左側は、柵で囲まれた広めの空き地の様な場所だった。地下に潜る様に降りる細い階段が道端に造られていて、階段横には小さな小屋がある。
戸畑天がその小屋に声をかけ、手続きを行う。小屋の中に居た人は、衛士衆の人達が着けていたのと同じデザインの革鎧を着ていたので、おそらくは見張りか何かなのだろう。
手続きを終えて、オレ達は階段を降りて行った。
階段を降り切るとそこには無骨な一枚の扉があった。こっちに来て町中の建物に見た、どこか古い、そして柔らかみを感じる様なものでは無く、いかにも強度を優先したという様な扉なので、どこかあっちの施設が思い浮かんでしまった。
その扉を開くと少し先に、また同じ扉がという感じで続き、三つ目の扉を抜けると、その先には広い空間があった。
最後の扉をくぐったその先は、何も無い空間だった。
広さは野球場程度といったところだろう。こんな何も無い地下の空間、いわば地下にある空き地という印象を受ける場所は見慣れていない為か、不思議な感じがした。
聞けば周囲に影響がある可能性を考慮して、術などの試しを行える様に地下に造ってあるらしい。その分強固に作れれていて、通って来たのとは別の通路で陣屋とも繋がっているらしい。非常時には避難場所にも使える様になっているのだとか。
「それじゃ先ずは、川瀬君からやってみようか」
戸畑天はそう言うと、丸太を取り出し立てて置いた。
朝の鍛錬のついでに用意して来たらしい。
「最初は表面を軽く撫でる様なイメージで、技を使ってみてくれ」
「はい、分かりました」
そう応じると剣を構え、技を放つ。それはゲームの中では見慣れた三連斬だった。
斬った後も丸太は立ったままだったが、剣が通った後であろう部分には四分の一程の深さにまで切り込みが入っていた。
「撫でる様な感じでやったのですが、それでこの切れ味ですか。この剣、正直切れ過ぎます」
そう言って、手にした“アゾート”を見ている。昨日貰ったばかりなので、未だ試しもしていなかったのだろう。
「だからこその練習だ。
どういうイメージでどのくらいの効果となるのかを、自分なりの感覚を掴んでおいた方が良い。
それじゃ、暫くは色々工夫してみてくれ」
そう言われて、川瀬辰弥は自主練習に入る事になった。
「さて、イメージによって結果が変わるのは見ての通りだ。
今野君の符術は、石動君の方が得意だろうから任せる。
悠樹君はとりあえずオレが見るとしよう」
との提案によって、オレ達も分かれて練習に入る。
戸畑天は、先刻使った丸太と一緒に用意していたのだろう細い枝を取り出して、空間の先、かなり離れたところに数本立て、また少し離れたところに数本立てるという感じで、計五組の集まりを作った後戻って来た。
複数に効果を出す魔銃の技が幾つあるか聞かれたので、オレはそれに応える。
周辺に効果を出すのは衝波弾と、分散弾という方法がある。
衝波弾は、弾から周辺に衝撃波を放つもので、対象の周囲にも軽いダメージを与える程度の効果しか無い事から、個人的には対象に当たるかは拘らず、対多数時に相手の足を止めたり、警戒させるという目的で使う。
通常は術を込めた魔弾を用いて、対象以外の足止めも行うという使い方になるのだけれど、それなら分散弾を使った方が効果があるので、オレは空の弾を用いて、威嚇用としている。
分散弾は、文字通り効果を分散させるもので、散弾と言うよりも、目的の位置で弾に込めた術等の効果を発動させる、いわば爆弾と言った方が印象的には近いかも知れない。その分離れた場所では効果が薄れるのも爆弾と言った感じだろう。
通常は魔弾を打っても、対象に当たって術が発動するので、その効果も当てた対象のみとなるけれど、分散弾を使えば周囲にも効果が生じる、いわば魔具本来の使い方と言った感じだろう。
これを伝えると、とりあえずそれぞれの技で一組ずつ打ち倒してみろと言われた。
とは言え弾を変えて撃つのは手間もかかるので、実弾は銃身下のスロットに組み込んで発射する事に決めた。
「では先ず、衝波弾から」
そう言って、空の弾を一つ取りだして顔の前に放り上げてから黒い方の銃を抜き出し、銃身の下のスロットに弾が収まる様に銃を振り下ろす。
空中でスロットに収めるとそのまま銃口を、枝数本で組まれた中の一つ、左から二番目の組に向ける。
一秒の後、自動的に発射された空の弾は、軽い発射音と共に進み、中心辺りの枝をへし折り弾いた。ほぼ同時に周辺に放たれた衝撃波が、周りの数本の枝を吹き飛ばす。
「あんな撃ち方で、この距離の細い枝によく当てられるもんだな」
感心した様な声を上げる戸畑天。ただ、オレ的には散々練習して慣れた動きだったし、試してみたい事もあったので、今の一発は正直どうでも良かった。
「次は分散弾、行きます」
そう言って、銃を下に向けて手をだらんと伸ばす。弾は銃に込めてある火炎術の弾で十分だろうから、実は一番効果が少ない衝波弾より楽だ。
最初に左から二番目の組を倒したのは、分散弾は爆弾の様なものなので、一番左と真ん中の組との間に空きを作った訳だ。
右手をすっと挙げて、一番左の組に向けて発射。進んだ弾は思い描いた辺りで破裂し、円形の火炎の花を咲かせる。
火炎が消えた時には、一番左の組の枝は全て燃え尽きていた。
そう言えば、属性強化がかかっていたのをすっかり忘れていた。
「残り未だ三組あるので、ちょっと試してみたい事があるんですけど良いですか?」
「ん、好きにやってみてくれ」
「分かりました。では単なる射撃から」
オレは先ず、空の弾を一つ取り出すと、衝波弾の時と同様に顔の前に放り上げると、持ち色の時に聞いた紫紺の能力で、空の弾がその場に留まるイメージをした。
要はかかる重力を分散させたわけだ。
弾はイメージ通りに空中に留まっている事を確認。なる程、この程度の重量のものであれば、練習をしていないオレでも十分に効果が出るらしい。
これまでは横に振ってスロットに弾を入れて、そのまま対象に照準を合わせていたのだけれど、今回は空中に留めている弾の上に銃を振り上げ、スロットに入れる為、真下に下ろした。
この時点で銃口は下を向いている状態だから、通常なら撃っても地面に当たるだけだ。
オレはそこで、天色の能力で一番右の組の真ん中の枝に当たる様にイメージした。
一秒後の自動発射で、下に向いたままの銃口から弾が飛び出すが、弾道は曲がり、狙っていた一番右の組の真ん中の枝だけをへし折ってはじき飛ばした。
今のは発射前からイメージし続けて、発射直後の弾道に影響を与えられるかを確認する為のテストだった。
では、次のテストだ。
今度はいつも通りに空の弾を弾いて、それを横に振った銃でスロットに入れる。今回は銃口を中央の組に向けた。
一秒後の自動発射と共に、その横に残る組を狙うイメージを起こしたけれど、弾は銃口が向いた中央の組に当たった。
やはり速度の速い対象には、十分な効果が得られなかった様だ。
「大体の、持ち色の能力効果も分かりましたので、試しは十分です」
「うーん」
「何か問題でも?」
「いや、実践的と言うか、実戦的過ぎて俺が指導できる事が無いな」
そうだろうか? 未だ全然出来る事はあると思うんだけれど。
とは言え戸畑天は、銃に関しては門外漢なのだから仕方が無いのかも知れない。
「では、残った枝を撤去しますね」
オレはそう言うと、だらんと腕を下に向けて垂らしたまま、引金を連続で引く。
撃った弾は四発。それぞれが地面に当たって終わる事も無く、別の標的へと飛んで火炎の花を咲かせた。
これで、全ての枝が灰となる。
「いやいや、思い切りが良すぎないか?
下手すれば自爆だろ」
戸畑天は、口ではそう言っているけれど、口の端が上がっている。
楽しそうで何よりだ。
とにかく試しは成功で良いだろう。そもそも火薬発射式では無い魔銃は発射音もほとんどしないので、銃口を向けずに撃てるのはアドバンテージが高い。
後は、例えば正反対の方向へ放った場合、それでも弾の制動が有効か、有効な場合は、どれだけ時間と距離のロスが生じるかだけれど、その辺りは周囲に誰かが居る状態で試すには危険があるので、追々やってみれば良いだろう。
オレは銃をホルスターに仕舞うと、一息吐いた。慣れれば違うのかも知れないが、持ち色の能力を使うには、結構精神的に疲労度が高い。
乱用は出来ないなと、心に記録した。
私は呆然としてしまいました。
今野様・・・いえ、今野さん--様付けは禁止されたのでした--に符術を放つ時の、イメージのコツ等を話して、実際にイメージ通りの発動が出来るかを、幾つかの種類の符を使って試して貰っている間に、隙を見て主様の姿を目で追っていたのですが、そこで目にしたのは、あまりにも無造作な様子であったのに、的確に小さな的を打ち抜くという結果でした。
そもそも文化面では、銃を使う方はあまり居ません。
銃弾という消耗品を用いる為、無駄が多いと敬遠される事もありますが、それは多くの魔具師にも言える事です。
一番の問題は、対象に銃弾を当てる必要性がある銃と同じ効果を出すには、術を用いて一定範囲に同様の効果を生じさせれば済んでしまうと言う事と、銃弾という物質を対象に届かせるよりも、術を届かせる他の魔具の方が命中率が高いのですから。
私も弓を使うので分かりますが、そもそも銃や弓は、文化面では主に威嚇や支援程度でしか使われませんし、それも術との併用が基本となるので、使う方が少ないのです。
それをあの様に無造作に扱えると言うのは驚異的ですらあります。
思い浮かぶのは出会った時の的確な対応。
攻撃を行った私さえも守るという対応は、戦い慣れているというよりは、避け慣れているという印象を受けました。
戦いの中で被害を最小限に抑えるという行為は、応じて戦えると言うよりも何倍も難しいはずなのです。
「あれ、惚れ直しちゃった感じ?」
突然そう声がかかり、びっくりしてしまいました。
呆然と主様を見てしまっていた様で、今野さんが直ぐ近くに来ていた事に全然気が付きませんでした。
これは・・・駄目です。もしこれが町を出た後だったら、私はみんなの足を引っ張ってしまうし、もし今の今野さんが魔物とかであったとしたら、私はそこで終わっていて、主様と一緒に居られなくなってしまいます。
そう思ってしまった瞬間に、私の中で何かが壊れた様に、一気に色々な感情が押し寄せて来ました。
「え? あれ? どうしたの水流さん。
何で泣いてるの?」
そう言われて、でも、何を言われたのか分かりません。
色々な気持ちが溢れて来て、自分が涙を流している事さえも、その時の私は気が付かなかったのです。




