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当面、週2投稿を目指しています。土or日、水or木曜日投稿の予定ですが、状況によっては連日投稿もあるかもです。
※最初なので連日投稿しました。
序幕~第一幕あたりは、おそらく説明過多な感じになると思います。
何も分からない状況で対応出来るはずも無く、ただ呆然と、子鬼達が剣や槍を振りかぶるのを、今野は呆然と眺めていたと言う。直後に横から体を突き飛ばされた。
何が起きたのか分からなかったけれど、反射的に顔を向けた、それまで今野が居た場所には、男が左手で左目を押さえて蹲っていた。それを見て、今野は庇われた事が分かったらしい。
そんな事など関係の無い子鬼は、再度剣を振り上げる。
それを感じたのか顔を上げると、川瀬辰弥は叫んで空いている右手を振った。単なる抵抗行動だったのだけれど、振った右手にはいつの間にか、鞘に入ったままの刀が握られていた。
鞘先が子鬼を掠める様に当たり、少ないながらもダメージを与える。
思わぬ反撃行動を受けた為か、子鬼は警戒した様に後ろに下がった。周りに寄って来ていた他の子鬼達も、武器を構えて周りを囲む様な状態で足を止めた。
川瀬辰弥は一瞬呆然として、いつの間にか手の中に現れていた刀を眺めていたらしいけれど、ふと思い付いて叫ぶ。
「抵抗する気を強く持つんだ」
暗闇の中輝く様な松明の火、その火に照らされて見えるのは自分達の回りを囲んだ異形の存在と、自分達に向けられる武器。庇ってくれた男が押さえる左目あたりからは血が流れていた。
今野はそんな雰囲気に呑まれかけていて、パニック寸前だったと言う。
そこに川瀬辰弥の叫びがあって、抵抗しないと大変な事になると我に返る事が出来た。
半ば無意識にどうにかしないとという気持ちが生じ、ふと気が付いた時には、それまで何も持っていなかったはずの右手には符術があった。それはゲームの中では見慣れた、今野のキャラクターが使っている道具だった。
横を見ると残るもう一人の男も、それまで持っていなかった槍を手にしていた。
今野が持つ符術、そして残りの二人が持つ刀と槍から、この場に居るのが先刻一緒にログインする事にした仲間だろうという事が、何となく分かったらしい。
とは言えこの状況はゲームでは無い。
自分達がログインしたのは、よく小説にあるVRゲームとか言う、意識を仮想空間に取り込む様な高度なものでは無いし、そもそもそんなゲームは実現しているとさえ聞いた事が無い。
手にした道具はモニター越しに見慣れた物でしかないし、近くにいる男二人も、見知ったゲームキャラクターとは違う。
手にしている道具をどうすればいいのかさえ分から無い。
そんな戸惑いと混乱が現れていたのか、様子を見ていた子鬼達が、少しずつではあるけれど、取り囲んだその輪を狭め始めた。
武器を持って迫って来る異形の姿に、必死に声になっていない叫び声を上げつつ刀を、槍を振り回す男二人。けれど武器の扱いなんて分からない二人は、単に棒を振り回して追い払うかの様に、デタラメな動きしか出来無かった。
この時、川瀬辰弥は自分が振り回している刀が鞘に入ったままだという事にさえ気が付く余裕も無かったし、もう一人の男も槍は突く武器だという事にさえ気が回っていなかった。
それでも剣や槍なら振り回す事で、形だけとは言え牽制にはなるけれど、符術なんて振り回したところで紙の札でしか無い。気持ちばかりが焦りと恐怖で空回りしていた。
子鬼達にとっては、振り回される剣や槍にあまり驚異を感じなかったのだろう。警戒しつつも近づいて来る。
無意識に近づいてくる子鬼から離れようとしたのだろう。気が付いた時には、小川まであと数歩という所に追い詰められていた。
振り回していた刀や槍が掠め、幾つかの小さな打ち傷や切り傷を負った子鬼も居たけれど、その程度では子鬼達が引く事も無く、逃げ出す隙間も無い。
残るのはすぐ後ろの小川だけれど、ちらと見るとその水の流れは暗くて見えない。
松明の火を反射しているのだろう、川に所々光る水面の動きは速く、聞こえる音からしても結構急な流れという印象だった。恐怖を感じて、逃げ道として飛び込むのに躊躇するには十分だ。
「嫌だ~」
叫び声がして反射的に声の方に目を向けると、子鬼に対して突き出される槍。槍先がかなり近くまで来ていた子鬼の左肩辺りに刺さるのが見えた。
刺された瞬間、子鬼が叫び声を上げると、「ひいっ」と声が上がり、手放された槍が音を立てて地面に落ちる。
男は、手放した槍を拾う事無く、自分の両手を見て「嫌だ、嫌だ」と言いながら身体を震わせた。
槍を手放した男に対して、近くにいた子鬼達は剣を振り上げ、槍を構える。
その直後、振り上げられた剣が振り下ろされ、構えられた槍が突き出されると、男は崩れて地に伏せた。
それを見て恐怖が押し寄せて来たけれど、ふと、地に伏せた男の手足が小さく動いている事に気が付いた。
剣や槍が当たった辺りにも小さな傷しか見えないし、傷から出ていた血も少なかった。
周囲の異形から無意識に目を逸らしていたという事もあったのだろう。地に伏した男の様子に気を取られていた為、気が付くと今野のすぐ間近にまで寄って来ていた子鬼が、剣を振り下ろそうとしているのが目の端に映った。
今野はその状況に呆然としてしまう。次の瞬間「うわぁっ」と上がった声と共に、棒状の物が目の前に突き出されて来た。それが鞘に入ったままの刀だという事に気が付いたのは、暫くしてからだった。
突き出された刀の鞘に子鬼の剣がぶつかって、剣筋がズレて今野の身体からずれる。
剣を突き出したままの姿で固まる川瀬辰弥から、「何なんだよこれ・・・。冗談だろ?」というつぶやきが聞こえた。
思う様に仕留められない事に業を煮やしたのか、周りにいる子鬼達が一斉に剣を、槍を構える。
もうダメかも知れない・・・。そんな思いが浮かび始めた時、取り巻きの後ろの方にいた子鬼が大きな叫び声を上げて崩れた。
それまで全く気が付かなかったけれど、崩れた子鬼のすぐ傍には和服姿に面具の男が居た。
子鬼達が一斉に振り向き、攻撃対象を面具男に移して飛びかかって行く。けれどその剣や槍は躱され、その都度面具男の刀が振られると、子鬼達が断末魔の叫びを上げて崩れて行った。
十体程の子鬼達全てが地に伏して動かなくな迄に時間はかからなかった。
危険な状況から脱したからか、今野の足が大きく震え、力が抜ける様に膝が崩れた。
何も分からないし、何も考えられない。そんな状態の中で、ふと名前を呼ばれた様な気がして反射的に顔を上げると、すぐ近くに自分を見つめるクラスメイトの顔があったと言う。
オレが今野に声をかけた時だった。
話しを聞いていると三〇分程経っていた。
その間もちらちらと様子を伺っていたけれど、面具男は地に伏した子鬼から武器等の装備回収を続けていた。
手に取った装備を見回したり、袋状のものの中身を確認したりした後、すっと軽く放る様な仕草で宙に消え行く物もあれば、投げ捨てられて転がる物もあった。
金髪の少女が地に伏したまま動かない男の治癒作業を終えたところで、着流しの面具男が声をかけた。
短い言葉のやり取りの後、少女は地に伏した子鬼に何か術をかけて回り始める。
少女が術をかけると、地に伏した子鬼だけでなく、流れて地を染めた血さえもが、光る塵の様に、細かく虚空へと消えて行った。
後で聞いた話しでは浄化術の一種らしい。
面具男に言われるまで気が回らず、配慮が足りなかったと謝られたのだけれど、それは謝る事では無いと思った。
浄化が一通り終わると今度は、狐火を複数出して場を明るくしたので、少なくとも周囲は見通すのに困らなくなった。
「まぁ、慣れてないとあんな状態のままじゃ落ち着かないだろうしな」
とは面具男の弁で、そういう光景に慣れていないであろうオレ達の為に、巫女服の少女に浄化を頼んだらしい。
周囲が照らされた時には、オレ達の話しもキリが良い感じになっていた。
もっとも、周囲を照らす狐火に反応した今野が暫く騒いだというオチが付いたのだけれど。
「槍使い君は未だ目を覚ましそうもないが、先に自己紹介と状況整理をやっとこうか。
色々疑問や聞きたい事もあるだろうけど、自己紹介した後でって事で良いかな?」
オレ達の話しが一区切り付いたところで、面具男は全員を見回しながら声をかけて来た。
特に誰からも異論は出なかった。
「俺は戸畑天。こっち側には3ヶ月位前に来た」
「危ないところを助かりました。自分は川瀬辰弥と言います。剣士で、攻撃職です。
このパーティーで一応リーダーをやっています。ゲームのキャラ名は・・・」
「いや、それはいい。俺はゲーム関係で来たわけじゃ無いから、そこら辺は分からない」
そう言葉を挟む面具男こと、戸畑天。
ゲーム関係じゃないという言葉が気になるものの、自己紹介が先となっているのでここでは口を挟まない。他のみんなも何かしらの疑問を持った様な表情をしたものの、誰も口を挟む事は無かった。
「分かりました。あと、気を失ったままなのは荻野玄太。槍使いの防御職になります」
左目を押さえながら応える。治癒術によって傷は治ったけれど、残念ながら目は駄目だったそうだ。
防御がそれなりにある部位であれば、オレ達にとっては小鬼程度の攻撃では、大した傷は負わないらしいけれど、眼球等だとダメージはそのまま受けてしまうらしい。
「わたしは今野五十鈴。符術師でサポート職になります。
助けてくれてありがとうございました」
今野は、未だ顔色は若干悪くて声も震え気味ではあるけれど、それでも大分落ち着いて来た様に感じられた。
「オレは悠樹楓馬。魔銃師で攻撃職です」
軽く頭を下げて、自己紹介した。
「石動水動と申します。宇迦之御魂の眷属たる神代狐の一族で紅袴を許されております。
え・・・と、扱うのは術と弓、小刀、符術となります。
攻撃職とかそういうのはよく分からないのですが、これでよろしいでしょうか?
あと、悠樹楓馬を主とし、寄り添いし者です」
深く一礼する水流。何か、最後に爆弾を投げた気がするが、全力でスルー。何とか聞き流してくれている事を願ってしまう。
とりあえず一通りの自己紹介は終わったという事で戸畑天が口を開くが、言葉を発するより先に今野がこっちを向いて質問を投げて来た。
「悠樹くん、この石動さんって誰なのかな? て言うか、狐って何? そもそもここはどこなの? 私たちはどうなっちゃってるの? 付き添いしって、どういう知り合い? って言うか、石動さんって知り合い?」
「まぁ待て。落ち着け」
質問の嵐が飛ぶのを戸畑天が遮る。
残念ながら今野は聞き流してはくれなかったらしい。
「色々あるだろうから順番に行こう。
先ずは川瀬君だったか。何時までも手で押さえてるのも何だし」
そう言って虚空に差し出した手に何かを掴み取ると、そのまま川瀬辰弥に渡した。
「とりあえずそれを着けとけ。
傷は治っても暫くは痛みが残るだろうし、そいつには痛み止めの効果が付与されてた筈だ」
渡したものは革の様な素材の眼帯だった。
それで何かを思いだしたのか、今野が目を見開き、両手を口に当てて川瀬辰弥を凝視する。若干また顔色が悪くなっている。
「ご、ごめんなさい。わたしを庇って・・・目が・・・」
震える声でそう言う今野。両目には涙が溜まり、表情も崩れる。
けれど、そんな今野に軽く首を横に振り、受け取った眼帯を左目に着けながら、川瀬辰弥は返した。
「咄嗟に取った行動の結果だし、自分でも未だ、目の事を何か思う状態じゃないし。それに多分、仕方ない事だったと思うから気にしなくていいよ」
「で、でも・・・」
「少なくとも、えっと今野さんだったよね? 君のせいとかではないんだから、気にする事は無いと思うよ」
「だって、取り返しがつかない事に・・・」
そう狼狽える今野に対して、川瀬辰弥は再度首を横に振る。
「ところで、今野さんでいいのかな? それともSUZU?」
「あ~、SUZUはちょっと。
この姿でキャラ名は違和感があるし」
と話題をずらしたまま、川瀬辰弥は話題を変えた。
「ところで何故、眼帯なんて持っているんですか?」
「そりゃね」
と言いつつ、垂れている長い前髪を掻き上げる。
面具に隠れていてほとんど見えないけれど、面具の右側上下、額と頬の辺りに一本の傷が見えた。あの面具は、傷と、失った右目を隠すものらしい。
「まぁ、その眼帯は予備みたいな物だよ。
ところで、俺はこの目を治す気も無いから調べた事は無くて、良くは知らないんだが、こっちだと失った部位も取り返しがつく可能性はあるらしい」
え? という二人の表情を受けて、水流に話を振る。
「石動君だったな。宇迦之御魂の眷属で紅袴持ちって事は、三狐の一人だろ。
その辺、何か知らないか?」
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