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デュアル・クロニクル  作者: 不破 一色
第1幕
15/31

 1-4

土日投稿予定を、曜日勘違いで一日遅れ投稿です。

「みんな、聞いて欲しいんだけれど。

 自分と玄太はこの町に残ろうかと思っているんだ」


 突然の川瀬辰弥の言葉だったので、みんな驚いた感じなのは分かるのだけど、荻野玄太まで驚いた顔をしているのは何故なのだろうか。


「考えていたんだけれど、多分玄太がこのまま一緒に進むのは、みんなにとってもだけれど、玄太にとっても厳しいと思うんだ」

「先輩、待って下さい。

 それは僕にも分かっているので、僕だけが残れば・・・」

「いや、勿論玄太一人を置いて行けないという気持ちもあるけれど、それだけじゃ無いんだ」


 川瀬辰弥は、剣道を小さい頃からやっていて、それなりの成績も収めてきたらしい。

 こっちに来て直後の小鬼では、状況も分からず半ばパニックに陥っていたから何も出来なかったけれど、状況も分かって来た事も有り、冷静に対応出来れば多少は何とかなるかも知れないと思っていた。

 けれど、町に入る前のあの一件で、オレや水流、戸畑天が、事前の打ち合わせも無く対応した事を見て、自分の力は全く及ばないと感じたらしい。

 そこに衛士衆で受け入れて貰えるという情報を得たので、自分で動くにしても、そこで鍛えてからでなければ無理だと判断したのだと言う。


「まぁ、とりあえず衛士衆入りで手続きしておけば良いだろ。

 今日明日でここを出るわけでも無いし、何なら抜けて一緒に動けば良いわけだしな」


 戸畑天のその一言で、とりあえず川瀬辰弥と荻野玄太は衛士衆に入る方向で進める事になった。

 来訪者への支援という形での受け入れだから出来る手段かとも思ったのだけれど、仮入隊自体は特別な事では無いらしい。

 もっとも、明確な決まりが無いので大抵は有耶無耶になるらしいのだけれど。



 書ける部分を書いた書類を持って、次に向かったのは色定役という所だった。持ち色を調べて、その能力を教えてくれるらしい。

 一階の窓口は事務処理のみという事で、直接三階に移動すると、そこは幾つかの部屋状に仕切られた構成のフロアだった。

 フロアの入り口にあるカウンターで、オレ達は個別に分かれて仕切りの中に入る様に言われた。

 仕切りの中には人一人くらいの大きな、水晶の様に透明で、鉱物そのものと言った感じの形をした固まりが置かれていた。

 言われてその水晶の様な鉱物に手を付けると、鉱物の色が無色から変化して行き、上半分程が濃い紫、下半分程が青っぽい色に染まる。担当の人によると、上の濃い紫が紫紺しこん、下の青っぽい色が天色てんいろとの事だった。二色に染まったのはオレが重色持ちだかららしい。

 とは言え戸畑天の様に特色の重色ではなく、紫紺は紫系の、天色は青系の、共に一般色となる。


 教えてくれた事によると、紫紺の能力は、かかる重力の影響を分散させたり、周囲からの影響を集めて集中させたりというものらしい。つまり、例えば対象にかかる重力を減らそうとした場合、その対象の周囲にかかる重力がその分増えるという、単純に重力を制御できるといった便利なものではないらしい。

 天色の能力は、空中にある物体の動きを制御できると言うのだけれど、これもその物体の運動を制御するのではなく、周辺の抵抗値を制御して結果的に動きを変える類のものらしい。

 そもそもどんな物体に対しても、均一に重力が影響していたり、抵抗値がかかるわけではないので、そうした自然の理の内に働く能力なのだそうだけれど、よく分からないので後々実験しつつ探った方が良さそうだ。


「紫紺と天色の重色は現状で登録がありません。お好きな色名があればそれで登録も可能ですし、過去に登録されていた同じ重色の色名でも登録出来ますが、どうしますか?」


 うん、そんな事言われても知らない。


「特に無いので過去ので良いです」

「分かりました。

 では紫紺と天色の重色で、空暝からくら色となります」


 考えていなかったので適当に、過去に使われていたという色名にしてもらったのだけれど、言霊に知られる様に、その言葉や文字、音等には力があるという考えがある。

 それは言葉によってイメージがし易くなったり、イメージを安定しやすくなるので、結果的に能力を強める事に繋がる。つまり色名は結構重要だったかも知れないと、今更ながらに思った。


 一通りの説明を受けてカウンターの所に戻り、全員が揃うのを待つ。

 返された書類の持ち色欄には“紫紺/天色。重色『空暝』”と記載されていたのでそれを見せると、水流と戸畑天に驚かれた。

 何でも重色は特色以上に数が少なく、しかも上手く使いこなせれば、複数色の効果が混ざった独自の結果を生じさせる為、特色より力が強い、つまりは理の限界により近い能力になり得るらしい。


「レアポップ、ゲット~」


 などと今野がふざけた事を言ったので、睨んでおいた。オレはモンスターか何かか?


 ちなみに川瀬辰弥は白鼠しろねずと言う無彩色系の特色だったので、装備やら色々と、色に縛られる事になりそうでご苦労様という感じだろうか。等と他人事として考えていたのだけれど、重色も相応に色に縛られると言われた。

 荻野玄太は梔子くちなしと言う黄系の一般色、今野は白緑びゃくろくと言う緑系の一般色だったそうだ。羨ましい。


 後は川瀬辰弥と荻野玄太の、衛士衆への申請なのだけれど・・・。


「昼も近いし悠、あぁ副隊長な。あれにも顔合わせは済んでるから、書類提出だけして飯に行こう。

 絶対に悠は待ち構えてるから、今行くと昼が遅くなる」


 という戸畑天の一言で、衛士衆への顔出しはスルーする事になった。

 それでいいのか? 扱いも何気に酷い気もするんだけれど。

 実際のところ、デュアル・クロニクルのせいで来訪者が増えた為の暫定的な処置らしいので、書類に希望さえ記しておけば、手続き上は問題無いらしい。


「どうせ後で知って、向こうから来るさ」


 だそうだ。

 やっぱり扱いが酷いと思ったのだけれど、その理由は後々、嫌でも分かると言われて教えては貰えなかった。

 とは言えオレ達では判断も出来ないので、言われるままに一階の登録係窓口に戻って書類を提出した。

 書類は問題無く受理されたので、衛士衆に関しては言われた通り、特に問題では無いらしい。

 書類と引き替えに、一人一人に袋を渡された。中には来訪者に対して渡される道具等が入っているとの事だったけれど、使い方等は水流や戸畑天が知っているとの事なので、後でゆっくりと教えてもらう事になった。

 普通ならばこうした支援品は飛びつきたいところだろうけれど、オレ達は運良くかどうかは別にして、水流と戸畑天と知り合い、取り急ぎ困る状況では無いので、ここで焦って中を検めなくて良いわけだ。

 

 総合窓口所を出て宿の前迄戻る。

 町の北側が商業区という事で、町の中心にある宿の場所まで一旦戻った方が都合が良いわけだ。

 北側の地域は、流石商業区というだけあって、多くの人が行き交っていた。ただし、流石猫人族の集落だと言うだけあって、多くの人の頭の上には猫耳が見える。

 とは言え、猫耳と尻尾が無ければ人間と見分けが付かない様な姿だけでなく、二足歩行の猫そのものの様な姿も見える。その尻尾も一本だけでなくもっと多かったり、尻尾が途中で二股に分かれていたりと様々だ。

 また数は少ないものの様々な、人とは“何か、どこかが違う”姿や、“明らかに違う”姿、そして人間と同じ姿--見た目が人間と変わらなくても、水流の様に人間であるとは限らないのだ--が多く混ざって行き交う様は、見慣れていない事もあって異質であるのに、何故か、どこか調和が取れて見えた。


 そんな中でも明らかに目立つ、純白の女性が居た。

 色白というだけでなく、髪は銀に輝いている様な白で、上に羽織った長い羽織の様なものも純白だった。

 マントの下に着た作務衣の様な服だけ若干黄色がかった感じではあったが、その周囲に純白が無ければ十分白で通じるだろう。

 そんな白一色の女性が、長い白髪と羽織を靡かせて歩いて来るのだ。入ろうとしていた食事処を、その女性も目指していたらしい。

 近づいて来た女性の目の色は黄色かったので、おそらく人間ではないのだろう。ただその目は左目しか無かった。

 右目の周りは、近づかなければ分からない程薄くだが爛れた感じとなっていて、右目が瞑られていたのはおそらく、失っているのだろう。それを隠す様子も無く堂々と顔を上げて歩く様は迫力すら感じるものだった。


「お、丁度良いな」


 そう戸畑天が声を上げる。その声につられて白い女性の左目がこちらを見た。


「明鴉じゃないか。何時戻ったんだい?」


 うっすらと笑みを浮かべて問う。


「今朝だ。食事をしたら行こうと思っていたところだった」

「そうかい。そっちの子らは連れかい?

 良ければ食事を一緒にしながら話しでも聞こうか」


 それを受けて戸畑天はオレ達に賛否を問う。

 特に断る理由は無いので了承を返すと、一緒に食事処に入った。


 初見なので一通りの、挨拶代わりの自己紹介を交わした。

 それによるとその女性--白銅の布目一箇ふもくいっこと名乗った--は、製鉄・鍛冶の神である天目一箇あめのまひとつの直系で、羽族なのだと言う。


「羽族というか、落ちぶれた白鷺の一族の末裔だよ」


 と本人が笑いを浮かべた顔で語る。

 今はこの町で鍛冶師をしているけれど、何でもより良い物を造り鍛える為、全国を流れ渡っていて、この町には三ヶ月程前にやって来ていて、一ヶ月程前に来た戸畑天と知り合ったのだそうだ。

 そもそも鍛冶師業は大きく二種類あって、通常の鍛冶師はオレ達が知る、鉱物等を鍛えたり、組み合わせて素材を作った上で、それらから武器や防具を作り出す者になる。

 こうした鍛冶師は作り上げた物を魔具師に渡し、そこで式が組み込まれて完成となる。

 対して布目一箇を含む少数の鍛冶師は、オレ達の認識ではむしろ錬金術師に該当する。

 錬金術はそもそも、一般の物質を変化・精錬する技術なので、素材から作り替えて仕上げる事が出来る事から、鍛冶師向きなのだとは布目一箇の弁だ。

 確かに結果は鍛冶師と同じだけれど、過程が全く違うという印象を受けたけれど、過程などは使う側からすれば些末な事だと言われてしまった。

 その後は武器の話しや、個々にとって扱い易い作りが違う等、鍛冶の話しを中心に会話を交わしながら食事を終えた。

 会話全体を通して、とにかく全てが鍛冶に通じる様な思考、あるいは嗜好をしている人だという印象を受けた。


 オレは特に気にしていなかったのだけれど、川瀬辰弥と今野は布目一箇の失われている右目を気にしていた。

 視線を隠す術など知らない二人の態度から布目一箇も気が付いたらしい。


「名にある目一箇って言うのは一つ目って意味なんだ。

 特に次ぐ者はその名に囚われるから、この右目は、生まれた時から元々無いんだ。。

 天から堕ちた、つまり神族じゃなくなった一つ目って事で天の字が取れて、広く行き渡らせるっていう意味がある布に変わったが、鍛冶という技術を広める事が意味付けられた存在は変わらない。それが布目一箇さ」


 と笑って説明していた。

 神族っていうのは力を持つからその分、縛りも強いと言う。

 神堕ちしてもその理と、名が持つ意味からは抜けられないし、それが当たり前だと言い切った。

 その説明から分かったのは、この人はそういう存在として生まれ、それを当然と思っている事、神落ちしていなかったら、代替わりした天目一箇という神になっていたのであろうという事だった。

 神というのは概念でしか俺は知らないけれど、その神に連なる存在としてはあまりにも気安い性格で、見た目だけで言えば人間と大きく異なる部分は無いので、神という印象は受けなかった。


 食事処を出て、商業区を進んだ先、店が途切れた辺りに布目一箇の鍛冶屋はあった。

 元は何かの店だったのであろう外見で、看板も出ておらず、掃除も行き届いていないと思われる、良くも悪くも空き店舗然とした所で、知らなければここが鍛冶屋だとは誰も思わないだろう。

 そもそもこの町には他に鍛冶屋があり、定住も考えていない為にこういう結果になったのかも知れないが、それ以前に多分、本人が鍛冶の事しか頭にない結果なのだろうなと、この短時間でも想像できる程に布目一箇の性質は偏っていた。


「その分腕は良い。ただし依頼するにはコツがいる」


 とは、戸畑天の弁であった。

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