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デュアル・クロニクル  作者: 不破 一色
第1幕
14/31

 1-3

 とりあえず部屋を取った上で、全員で男部屋に集まる事になったのは、副隊長が説明を求めていたのを、戸畑天の一言で総合窓口所--色々な窓口が集まった、いわゆる役場みたいな場所らしい--の衛士衆窓口ではなくて宿に引っ張って来たからだった。


「あんな所じゃゆっくり出来ない」


 という戸畑天の言葉が理由の全てだった。

 実際のところ、先刻拘束した八名の手続き云々で、窓口の方は色々大変な状態だったらしいけれど。


 ちなみに副隊長は白石悠しろいしゆうという名前だけれど、この町が単純に白石猫人集落と呼ばれ--こっちでは特に大きな街や都以外、正式に集落や町に名前は無いらしい--る場所なので、町の長が代々白石家が受け持っているとの事。

 つまりは町長の娘らしいのだけれど、ほとんどの猫人族は名字を持たず、白石の何々という感じで名乗るので、名字があまり意味を成さないらしい。

 そう言えば水流にも、名前で呼ぶ様に強要されたけれど、こっちでは名前呼びが普通なのだろうか? ・・・いや、水流の事を名前で呼んでるのはオレと今野だけだから、種族によって違うのだろう。


「で、何があって、どうなったんすか?」


 と今一よく分からない質問が発せられた。

 まぁ、聞きたい事は分かるけれど。


「先刻のは、悠樹君が銃で撃っただけだな。

 それより、魔銃で撃った割には奴らの損傷が軽かった気がしたんだが?」

「あれは単なる空弾からだまを撃っただけだから」


 そう、通常魔銃と言うのは、銃自体が弾を放つ意味を持って作られている。また撃ち出される弾に術を込め、着弾と同時にその術を放つ、いわゆる、放つ魔具を使って魔具である弾を撃ち出すものなのだけれど、水流と出会った時にやらかした様に、オレは弾に術を込める事が出来る。

 実際にはオレが出来るのではなくて、術を弾に込める事が出来る道具を持っているだけなのだけれど。

 どちらにしろそれが行えるので、オレは空弾を持っているわけだ。

 空弾を撃っても防御力があれば大した効果は得られないけれど、それでも高速で飛ぶ小さな弾が当たれば、痛みも衝撃もそれなりにある。

 奴らはNPCがどうのと言っていたので、おそらくオレ達と同じデュアル・クロニクルのユーザーだろうと考えると、当然痛みなどには弱い。そう考えて、空弾で十分無力化出来るだろうと思ったのだ。


「はー、そんな魔銃の使い方、初めて聞いたっすよ。

 あっちには魔銃が無いって聞いてたっすけど、発想力が凄いんすかねぇ? 隊長やらないっすか?」


 との言葉からすると、やっぱり空弾を撃つのは普通の使い方では無いらしい。

 魔銃自体は確かに、あの性格破綻者が作らなければ、オレはその存在をゲームのアイテムとしてしか知らなかっただろう。とは言えこっちでも、武器は威力や効果重視な辺りは変わらないんだな。


「ちょっと待て、隊長がどうのって、先刻もてつさん見なかったがどうした?」

「そうなんすよ、聞いて下さいよ明鴉さん。

 隊長がー」


 白石の・・・いや、単に悠さん、か? 悠副隊長は何か違うし。呼ぶならともかく考える分には難しいな。白石悠でいいか。

 ともかく反応が激しかったので、隊長に何かあったのかも知れない。

 もしかして先刻の連中にやられたとかか?

 と、オレ達の間にも緊張が走ったのだけれど・・・。


「ぎっくり腰で動けなくなって、もう年だからついでだって言って、隊長辞めたっす。

 隊長不在っすよ!

 あて()はどうすればひやかやろ(良いです)か?」


 あ、言葉が崩れた。アレが地か。

 結構直ぐにパニックになりそうな人なんだなぁという印象。

 

「落ち着け。

 で、あいつらは何だ? 例のあれか?」

「はい、そうっす」


 聞けばデュアル・クロニクルのユーザーとしてこっちに来た中には、これは夢だとか、ゲームの中だと言って現実逃避する連中もそれなりに居るらしい。

 そこまでは分からない話しでも無いのだけれど、そう言う連中の中には一部、だから自分達がこっちで何をしても良いんだと、好き勝手するのが居るらしい。

 先刻の六人もそうで、昨日町に来て暴れ出そうというところで一回捕まったらしい。

 混ざっていた衛士衆の装備を着ていた二人はこっちに来てから未だ一週間経っていない新人で、落ち着き切れていなかった。

 そこに今日の朝、隊長さんが辞めるという事で衛士衆がプチパニックに陥り、それに不安が増加されたのか先の六人に合流、一緒に逃げ出した上に、猫人族の女性三人を攫ったというのが顛末らしい。

 そう言えば、エロゲがどうのとか言ってたし、猫耳萌えだったんだろうな・・・。

 後日聞いた話しだと、現実(あっち)ではモテ無かったから、せめて夢では猫耳っ娘とあんな事やこんな事・・・と暴走したらしい。六人の方はそもそもそれを目的に、この町を目指して来たらしいし。

 趣味にはとやかく言いたく無いけれど、暴走するのは駄目だよなぁ。

 連中は暫く隔離生活で現実を受け入れて貰い、その経過次第で衛士衆で働くか、もっと大きな街の施設に移送となるらしい。


 後処理があるからと言って白石悠が出て行くと、オレ達はそのまま男部屋で、この後の事を相談した。

 川端を出発したのが朝八時くらいだったので、今は未だ昼前だ。戸畑天によるとあっちから来た者は来訪者登録--あっちから流れて来た者を来訪者と称するらしい--をした方が良いらしいので、昼食の前に総合窓口所に行ってそれを終わらせるとして、午後はとり急ぎ個々で必要と思われる買い物等をしようという事になったのだ。

 何しろ未だオレ達だけでバラけて動ける状態では無いので、相談して固まって動く必要があるのだ。


 オレ達が相談している間、そこに加わらず部屋の隅に蹲っていた荻野玄太に、戸畑天が煙草を差し出して吸う様に言った。

 未成年に煙草は、と川瀬辰弥が止めようとしたが、どうもオレ達が知る煙草とは違うらしく、紙巻きの中に詰められているのは気を静める効果がある薬草だという事だった。

 実際に渡された煙草を吸った後、荻野玄太は少し落ち着いた様で、着込んだままだった鎧をやっと外した。


 何でもこっちには、オレ達が知る煙草というものも有るけれど、普通に煙草と言えば薬草を吸って効果を得るものを指すらしい。

 あっちの煙草は確かに体に悪いが、どれだけ悪いかという具体的な数値根拠は無いし、遺伝子的に全く体の害にならない人も居たりと、体に悪いというそのものが個々人によって違うらしい。

 とは言え害がある人には大きな害となる。

 つまりそれは毒と同じであり、それが嗜好品として出回っているのが、あっちで嫌煙権を正当にしている要素の一つなのだとか。

 けれどこっちでは、同じ状況でも嫌煙権は成立しない。

 害がどうか以前に、嫌ならば同じ室内に一緒に居なければ受動喫煙被害のほとんどが回避できるので、あくまでも個々の自己責任というのがこっち側の認識らしく、つまりは好むも嫌うも自己責任であり、自分と異なる他者を駄目とする共通認識自体が、こっちではむしろ害悪とされるのだとか。

 こっちで共通認識で駄目だとされるのは、先刻の連中の様に、他者の意志を力尽く等々で無視する事というのが前提なのだそうだ。


「それじゃ、こっちでは流行の服とかも無いの?」

「流行の服ですか?」


 今野の質問に、水流はきょとんとした顔で応じる。そもそも流行の服というのが分からないらしい。


「んと、今年の流行は膝上ミニとか、オーバーサイズとか・・・うん、その顔で分かった。

 そういうの無いっぽいね」

「そうですね、種族毎に伝統の服等ありますし、職業や、扱う武器でも適する服装が異なりますし。

 何よりこちらでは、そうした既定の物を、個々でいかに独自に着込むかが重要視されますので、流行というのは無いですね」


 そうなんだろうなという感じだ。

 誰かが決めた事に乗る事を良しとしないのがこっちでの流儀の様なものなのだろうという印象は、これまでの会話の中からも感じられたので予想は出来た。

 ただ、こうした日常的な部分での差異で示されると、慣れるまでかなり厳しそうだという事がよりハッキリしたのだけれど、今野はそこに気が付いているのかいないのか、「とりあえず服が買いたい」と言い出した。

 確かに着替え等一切を持っていない状態なのだから大切ではあるけれど。


「服を考えるなら、先ずは装備を考えてからの方が良いな。

 昼飯の後は鍛冶屋に行って、その後で足りない分、店を回ろう」


 確かに今野の水干ぽい装備を始めとして、普段着等と装備の境は微妙なところがある。

 手持ちの金の問題も有るので、装備の方を先に片付けておくのは確かに正解かも知れない。

 特に他に、急ぎで優先すべき希望も出なかったので、オレ達は総合窓口所という所へ行く事にした。



 総合窓口所は、町の東側にあった。

 外観こそ他の建物と同様に、和風要素が強いものではあったけれど、六階建ての高層建築だ。イメージとしては、ビルの外装を和風に装飾した様な感じと言えば分かり易いかも知れない。

 中の構成は、椅子が並んでいたり、カウンターがあって、その奥には事務作業等をする為と思われる机等が並んでいたりと、機能的にはあっちの役所とあまり変わらない感じだけれど、床や壁の作り、置かれている物のデザインが違うと、雰囲気がこうまで違うのかという見本を見せつけられた感じがする。

 入って直ぐの所にあった案内板は木製で、白っぽい塗料が塗られて見やすくしたものだし、天井から下がるライトも和紙が貼られた照明の様な感じに見える。

 置かれた椅子やカウンター、その奥に見える机などは材質がぱっと見分からないが、一見木製の和風家具の様な印象を受けた。

 水流によると、こうした公の場所は特に、間伐材が使われる事が多いので、木製製品が多く、他の物もそれに合わせたデザインになる傾向が強いのだそうだけれど、おそらくはそれだけでは無いだろう。

 利便性だけが追求された結果では無く、昔から継続しているその地域文化を継承して行く事を重要視したのであろう事が、見てきたわけでもないのに分かる程に根強い。


 オレ達は戸畑天に導かれ、先ずは登録役という札のかかった窓口に行った。

 ここでは来訪者の登録を行う場所らしい。

 窓口で四人分の書類を貰い、傍にあった記載場という札のかかった、机が並ぶ所で書類に記載する。

 和風の強い環境ではあるけれど、筆記具は流石に筆ではなくペンだった。

 流石に書類は大量生産品といった感じの物ではあったけれど、紙は漂白された真っ白なものではなかったし、備品の筈のペンも木の枝か何かを使ったと思われる細い木材をベースにした物だった。


 記載内容は名前や性別、持ち色、定住先、衛士衆に入るかどうかといった、簡単な内容の記載だけとなっていた。

 名前や性別は問題無く書けるが、持ち色は未だ知らないので書けない為、どうすれば良いのか聞いたところ、これから確認に行くので、分からない部分は未だ書かなくて良いとの事だった。

 定住先に関しては、この町で数日を過ごして色々準備をしたりしてから、東の賢者と呼ばれる人物を捜しに出る為、無しという事になる。

 衛士衆には、来訪者は基本に入る事になるらしい。と言うのも、来訪者は伝手があるわけでも無いし、こっちでの常識等も分からない部分が多い。

 とは言え生きて行かなければならない。

 そこで先ずは衛士衆という、それぞれの町の組織に入れて慣れさせると共に、生活費を稼ぐところから始めるのだそうだ。

 逆に言えば、それぞれの町等で受け入れられる組織が衛士衆くらいしか無かったとも言えるらしいのだけれど。

 その為、登録しないというのは特別な事情がある場合となるのだけれど、そこはこっちの前提と言うか、常識と言うかというところで、別段理由等を示す必要は無いらしい。

 最後の欄に登録紹介者というのがあり困ったのだけれど、そこは戸畑天と水流が提出前に全員分に記載するので空白のままで良いと言われた。

 実際には紹介者欄が未記載でも登録自体は出来るらしい。ただ、衛士衆に入らず、紹介者も居ない来訪者は、伝手も無い環境で自力で生きて行く事となるので、問題行為を起こす場合が少なくない為、見えないところで注意対象となったりするからお勧め出来ないと言われた。

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