0.5-3
その一言で、今後の動きが決まった。後は最終のツメだけになる。
「それでは、一緒にプレイしていた人達の現状データを収集して終了します。手続きよろしく」
そして退出しようと振り返ると、背に声がかかる。
「ソウソウ、新シイ銃ホシイ?」
そう言いつつ、デザインこそ同じものの銀色と黒色という色違いの銃を投げてくる。
欲しいも何も無い。渡された時点でこれを使うのは決定事項なのだから。
「銃身下ノ箱ダト強化無イカモ?」
銃身は四角く、銃口はその先端上部に開いている。銃身の底部分には、弾が入る程度の穴が開いているのはこれまで使っていた銃と同じ仕様だった。
ただこれまでは、そこに入れた弾が属性強化されて発射される仕様だったので、属性強化して撃つには一発毎に弾を込める必要があった。しかもその発射は、弾を込めたら1秒後に自動的に発射されるので、使い勝手が良くなかった。
新しく渡された銃は逆に、通常の銃本体に属性強化機能があるらしい。
込めた弾以外の物を突発的に撃つ必要がある時だけ、一発ずつの機構を使えば良いのは助かる。
ただ、またリボルバー式なのはどうしてだろうか。以前装弾数に関しては意見を出したのに、改良されていないのには少し不満を感じた。
「使い方はこれまでと同じみたいだな」
「属性ハ当社比一.五倍?」
これまでの属性強化効果は〇.五倍だったから、今回の銃は実質二倍の効果になっているという事らしい。
性能自体に改良が入っているなら、今回は装弾数に関しては仕方が無かったのかも知れない。
「報酬ハ楓馬とデート希望?」
「その喋り方と性格を、まともにしてから出直せ!」
思わず返してしまった。これ以上関わると主に、オレの精神がかなり厳しくなるので、これまで予備にしていた二丁の銃を鞄から取り出して、扉の横にあった台に置くと、急いで退出する。
閉まった扉の奥から「クフフフフ・・・」と笑い声が聞こえるが、気にしたら負けだと足を進める。あの喋り方と笑い方、あと性格もか・・・。まぁ色々何とかならないかなあ等と思いつつ、これまでメインだった二丁の銃を鞄に仕舞い、新しく受け取った銃をホルスターに収納する。
いくら学院内だとは言え、流石に銃を持ったまま外に出るわけにはいかないのだ。
約束の三十分前、念の為グループチャットを開くが、誰も居なかった。
ここで待っていてもログイン前に来るかは分からないし、昨日はオレだけログアウトを遅らせて少し移動していたので、早々にログインしてゲーム内で待とうと考える。
チャット画面を閉じてゲームにログインしたところで軽い目眩を感じ、次の瞬間、目の前には巫女服に似た衣装を着た、金髪でかなり美人の女の子が居た。
最初に見た時に思ったのは、かなり整った顔立ちは日本人とは大きく外れていないのに、陽光に煌めく様な金髪が不自然ではなく、よく見る粋がった不自然さ等が無かった、ありふれた表現ではあるけれど、さながら一枚の絵の様な美しさというやつだった。
その為か、不思議とコスプレとかそういう印象は受けなかった。
後から聞けば巫女服の様なデザインは一族の、いわゆる民族衣装の様なものだし、金髪も生まれついてのものだったのだから、不自然さが生まれる余地も無く馴染んでいても当然ではあったのだけれど、当然この時点では分からない。
また、狐族の見た目は神代狐に限らず人間から見ると容姿端麗という感じが基本らしいので、特に水流が美人というわけではないとの事だけれど、これは本人によるので実際どうなのかは知らない。
とにかくオレは、事態も状況も咄嗟の事で分からないまま、その女の子を見つめ、固まってしまったのだ。
水流はその立場から、異種族との関わりを広める為--と言うよりもっと端的に、婚姻相手を見つける為--に旅をしていた途中だったと言う。
丁度通りがかったところにオレが飛ばされて来たらしい。
突然現れた事自体は、こっちではそういう術も有るので、特に何という事では無かったらしいけれど、それでも周囲に人が居ない状況で突然見知らぬ男が現れれば警戒するのも当然だろう。
しかも今は夜で、狐族である水流にはあまり支障は無いらしいのだけれど、それでも人と出会う可能性が低い時間だし、むしろそれを狙っての夜間行だった事も有り、必要以上に警戒してしまったと、後に水流は言っていた。
更に言えば、どうもこっちに飛んで来た連中の中には、説明を聞いてもゲームの世界だの夢だのと言って認めず、挙げ句はゲームなのだから良しとして好き勝手やらかすのも居るらしいし、元々こっちの人間だとしても悪者というのは居る。人間以外の種でも見た目は人間と変わらない者もいるのだから、警戒しないという選択肢はそもそも無いのだ。
更には、水流の警戒に反応してオレも警戒を示した事で、互いに警戒し合う状況になったわけだ。
直後に水流は大きな術を発動した。
後から聞けば、狐族が元々持つ能力、いわゆる狐火というやつだったらしいけれど、自身の能力の高さからか、かなり大きな術に見えた--実際に発動すれば、家の一軒や二軒は蒸発させられる、最大威力規模だったらしい--し、水流からすればそれだけの術の発動を見れば、普通は逃げるなり何なりするので状況を掌握出来るという、威嚇目的の行為だったらしい。
けれどオレはオレで、一方的に訳も分からずやられるのも、大人しく降参して様子を見るのも好まない為、容赦無くその狐火を、空の弾に吸収する事で対応した。
その結果は水流を相当驚かせたと言う。
術を失効させる方法は幾つか有るものの、そもそも種族固有のこうした術を解除する方法は、術者の生命あるいは意識を奪うか、あるいは術が継続出来なくなる程に術者を精神的あるいは肉体的に追い詰めるしか無い。
しかし、水流自身には何のダメージも与えられていないのに術は消されたのだから、その驚きはとても大きかったらしい。
とは言え、威嚇の為に最大威力っていう辺りがどうなのかと思うのだけれど、それを聞いた水流曰く「私、身持ちが堅いんです!」との事だった。
地雷っぽかったので軽く流したら、少し悲しそうだったけれど、オレが悪い訳では無いはずだ。
ともあれ、大きな術を吸収してしまった結果、水流には驚きだけで無く、大きな危機感を与えてしまう事になった。
結果として水流は、準備動作を必要としない先刻と同じ術で攻撃したのだった。
実はこれは失敗だというのは、術を放った直後に気が付いたらしい。
何しろお互いの距離はあまり離れていないのだ。この規模の術が発動すれば自分をも巻き込む事は避けられない。
対してオレは、実際には反射的な部分が大きかったのだけれど、水流から吸収したばかりの弾を一つ指で弾いて、腰位置に装備していた方の銃を抜く。
未だ空中にある弾を、銃身の下にあるスロット部へ叩く様に銃を振ると弾が入る。そのままの流れで向かい来る対象《狐火》に射線を合わせる。散々訓練したので慣れた行為だった。
射線が合うのとほぼ同時に弾が発射されるが、この銃は火薬式の発射ではないので反動は無い。発射時に発生する軽い音も狐火の業火が発する音に消されているので、相手は何をされたのか気が付くのも難しいだろう。
連続して、銃に込めていた弾を二発、水流の足下とオレの足下に向けて発射。
ここまでは刹那と言っても良い間の出来事だ。考えたり躊躇ったりという時間など一切無かったから、体が反応してくれたから助かったと言えるだろう。
互いの中間よりややオレの側に寄った辺りでそれらはぶつかり合い、とてつもない炎が巻き上がる。それとほぼ同時に、足下に撃った弾の効果でお互いの目の前を中心に幅二メートル程に渡って地中から水が噴き出し壁が出来た。
水流が放った狐火と、オレが放った弾は、何しろ同じ術同士なのだから威力もほとんど同じだ。互いの威力が拮抗して消え去ったけれど、水の壁もその威力によって、吹き出す傍から蒸発していた。
水蒸気が辺りを満たし、周辺はともかく前は真っ白となっていて見通せないが、気配は動いていないし、追撃の気配も今のところ無い事を感じていた。
もっともこの時水流は、自分が巻き込まれる様な威力の術を放ってしまった上、思っていた以上に大きな爆発があり、しかも突然噴き出した水の壁が自分を守った事で呆然としていて、追撃どころの余裕はなかったらしいのだけれど。
気配を伺い、警戒は解かないまま、内心は間に合った事にオレは正直ほっとしていた。
互いの位置が近すぎたし、炎の威力が強すぎた。
逆属性での対消滅や、相剋--属性的に相手を打ち滅ぼす関係--を用いての打ち消しを狙うには威力を読む余裕も無かったので、同じ威力を返すつもりで半ば反射的に使った弾が、後々聞いて唯一の正解だったと知った時には冷や汗が止まらなかった。
何しろ見た目炎でも狐火は固有の術で、火属性では無いので逆属性での対消滅は狙えないし、そもそも属性での打ち消しなど突発的に出来る話しでは無いらしい。
しかも相剋を狙ったところで、見た目炎だから普通なら火の気を想定してしまうが、狐族の火なのだから金の気だ。これも狙って出来るものでは無かったのだ。
加えて、新しく受け取った銃によって、水の壁が増強されたのも助かった理由だ。多分これまでの銃を使っていたら、防ぎ切れていなかっただろう。
間も無く水蒸気は薄れて行った。
前が見える様になるとそこには、ぺたんと地に腰を落として、呆然とした表情でこっちを見ていた姿があった。
「おい、大丈夫か?」
声をかけるとぴくりと反応する。徐々に表情も戻って行き、オレは更に攻撃を受ける可能性も考えて警戒していたのだけれど、その変化は予想していなかったものだった。
徐々に目を潤ませ、顔を赤く染めると、表情は蕩けるかの様な笑顔へとなって行ったのだ。
オレがその変化に呆然としてしまっていると、落としていた腰を軽く持ち上げて正座の体制になり・・・。
「私は、山城神代狐の一族に連なります、紅の石動水流と申します。
貴方様を主とし、寄り添う事をお許し下さい」
と言って三つ指を突いたのだ。
当然オレは、状況が全く理解出来ない。
三つ指を突く行為は無抵抗の表象であり、相手に対して尊敬を表す仕草だと言うのは教えられていたから知っていた。単にもう攻撃しないという表現なら状況的に理解はできるけれど、では咄嗟にそんな事が理解出来る訳も無い。
しかも、あの言葉の意味は何だ? あの表情は何なんだ?
オレはどうして良いのかも分からずに呆然としていると、ふと水流は頭を上げ、道が進む先の方に頭を向ける。表情が鋭いものに変わっていた。
「ご主人様、ここから少し進んだ辺りから、数人からの困惑の気配と、十数体程からの攻撃の気配を感じます」
神代狐というのは、通力は当然ながら、神の眷属としての力もあるので、一定範囲の気配を感知する能力は鍛え上げた人のそれより優れるらしい。
水流からのその言葉にふと気付く。時間的にも方向的にも、待ち合わせをしていたはずの仲間達である可能性が高い事を。オレは水流に、その困惑の気配が仲間達の可能性が高い事を告げて走り出したのだった。
それが当然の様に、そしてオレに続いて走る水流。勿論一応の警戒は続けたけれど、水流はそんな事は関係無いとばかりに、オレに対しては無警戒という気配を通していた。
オレばかり警戒していても仕方無いので警戒を解き、走りながら先刻の三つ指を突いた時の言葉の意味を聞く。
すると「主様に寄り添い、そして子を産む事をお許し下さいと、私の意志をお伝えしただけですが?」と、平然と返して来た。
その言葉に驚き、足を止めそうになるものの、今はそういう状況じゃ無い事を思い出して走る。
走りながら色々言葉を交わすが、水流の意志は変わらないまま仲間達の元に辿り着く事になったのだ。
今野の、おそらくは好奇心による追求を受け、そうした話しをし始めたのだけれど、水流に会った辺りからは何故か、水流に話しを取られていたので、色々未だ隠しておきたい事もあったのだけれど無駄だった。
知られて困るという程では無かったし、単に戦闘力に関して変に期待されても困るというだけだったので、無理に誤魔化す必要も無かったのだ。
話しが一通り終わったところで、今野は水流に問い詰め始めた。
オレの事を指さして(微妙に失礼)「未だ十五才だよ?」と言えば、「こちらでは十五才で成人ですから」と返す。「子供とかは流石に早いんじゃないか」と言えば、「十五で子を産む事は珍しく無いです」と返される。「育てるのも厳しい」と言えば、「不十分であれば一族が協力してくれます」と応じる。「女としての慎みを」と言えば、「誰でも良い訳ではありません」と応える。
・・・女同士の会話は激しい。そして何かズレてる気もする・・・オレ本人の意志はどこに行ったんだ?
最終的には「ゆっくりと仲を育ててからだよ」と今野に言われ、「そうですね、頑張ります」と返す水流。
何かが色々間違っている気が凄くする。
このままではいけない気もする。
問題は、どうして良いかが分からないという事だろう。
結局オレが何も対応出来ないまま、今野に引っ張られる様に水流がテントに引き込まれて行った。
今野はおそらく心細いんだろうなとは思ったけれど、だからと言ってオレがネタになっているのはどうなのだろうか。
オレも休んだ方が良いと戸畑天に言われたのだけれど色々と、しかもおそらく仲間達とは違う事で頭が一杯で寝られそうもなかったので、一緒に火の番をしつつ朝を待つ事にした。
これで幕間1は終了です。何とかここまでという感じですが。
次はやっと、第一幕に入ります。




