表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デュアル・クロニクル  作者: 不破 一色
序幕
1/31

 0-1

当面、週2投稿を目指しています。土or日、水or木曜日投稿の予定ですが、状況によっては連日投稿もあるかもです。

序幕~第一幕あたりは、おそらく説明過多な感じになると思います。

 森を抜ける細道を走る。街灯なんか一つも無いという事もあるけれど、道の横には多くの木々が立ち、上は葉で覆われている事もあって、月や星明かりさえほとんどが遮られてしまっている。

 しかもこの細道は、木々を避けるかの様に曲がりくねっている為に、進む先の見通しは悪かった。

 一応灯りの為だけの狐火が足下を照らしてくれてはいるけれど、その範囲から出れば闇という状況では、見通しが悪いと言うより、ほとんど見えないと言った方が正解かも知れない。

 進む先のやや斜め方向、木々の間から金属音や足音、そして叫び声などが混ざって聞こえて来る。明らかな戦いの音が未だしている事に若干の安心感を感じると共に、より大きな焦りが沸き起こる。

 道の先、もう少し進んだ辺りが少し開けているのが何となく見えて来た。小さな橋であろう物のシルエットも見えてきたので川があるのだろう。

 音はその辺り、道の少し左側の方から聞こえて来るのだけれど、進むに合わせるかの様に、音が少なくなって来ている。

 夜の暗闇の中に橋の全体が見え始め、もう少しで着くというところで戦いの音が無くなり、川を流れる水音だけが響く様になった。

 音が聞こえなくなった事に、気の焦りが更に膨らむ。


 橋の直ぐ手前にたどり着いてやっと見える様になった川の幅は、あまり広くない事が分かった。橋も思っていた以上に小さく短い木橋だ。

 橋の手前から道の左側に、川に沿う様に木々が開ける様に川端かわばたが有り、その川端には三人の仲間が居るはずだった。だからこそ急いでいたのだけれど、先刻さっきまで戦いの音がしていた場所だから、様子も見ずに飛び込むわけにはいかない。

 オレは道の端で足を止めた。

 

 灯り代わりだった狐火が川端の空間に進んで行き、状況が把握できる様になる。

 開けた川端はそんなに広く無かった。家の一軒が建つかどうかといった程度だろう。

 全体的に背の低い草が生え、川に近づく程に所々から岩が覗いている。川の傍には幾つかの大きな岩が転がっていて、広くは無いのに見通しは良くない。

 そんな岩の手前、川の直ぐ横という辺りに三人の姿はあった。その三人以外に、地に伏せて動かない複数の異形の姿も見える。

 三人の内二人、鞘に入ったままの刀を右手に持った濃い茶髪の男と、両手を地に付けている明るい茶髪でセミロングの女はその場にしゃがみ込みんでいる状態なので、無事である事は分かった。しかし濃い茶髪の男は、左目を押さえている様子が気になった。

 残る一人、黒髪短髪の男は地に伏せ、その傍らには手から離れた槍が転がっていた。一瞬最悪の想定も頭をぎるものの・・・


「問題無い。そこの槍使い君は気絶してるだけだ。怪我も切り傷が多少ある程度だろう」


 と言いながら、岩陰から一人の男が出て来た。その手には抜き身の、一目見て普通より長い印象の刃を持つ刀を手にしている。

 斬りかかって来る雰囲気は無い。そもそも攻撃の意志があるのならば声はかけて来ないだろうけれど、状況的には警戒しないという選択肢は無い。


 三人に近い辺りに伏している数体の異形--その緑がかった小さな体躯はおそらく子鬼ゴブリンだろう--にだけ、幾つかの小さな傷や痣も見られた。子鬼の数は見える範囲で十体程だろう。岩の影にも有るのかも知れないが、この川端の広さを考えればそれでも、倍に増える事は無さそうだ。

 見える全ての子鬼に共通する事は、一つの大きな刀傷だった。

 小さな傷や痣は抵抗で負わせたものだろうという印象を受けた。仲間達が今の段階でまともに戦えるとは思えないし、その傷や痣の位置から考えても、狙って付けたものでは無さそうだし、それが致命傷とはほど遠い程度のものだった。

 それらから考えれば、全ての子鬼を一刀で仕留めたのは、声をかけてきたこの男なのだろう事は容易に想像がつく。


 その男は腰まで届く長髪で、着流しを着た上に、足下まである長羽織を羽織っていた。

 羽織の長さだけを除けば、こっちでは珍しいものでは無いのかも知れないけれど、その髪の色が灰色がかった焦げ茶だったので、染めているのかも知れない。

 そして一番印象に残ったのは、目元を覆う様な面具だった。目元が隠されている為、表情も分かり難い。

 面具は兜の下に着ける様な印象を受けるものだけれど、確かそうした面具は、顎や首回りといった顔の下半分を覆うものだったはずだ。詳しくは無いけれど、目の回りという様な、顔の上半分を覆うものでは無かった気がする。

 正直言って怪しい。

 確か子鬼は、決して強い相手ではなかったはずだけれど、それでも生きて、武器を持って襲ってくる複数を一刀で仕留めるというのは、相応の腕と精神力が無ければ無理だろう事くらいは分かる。

 何しろ持っている武器からも、小鬼に残る傷からも分かる通り、直接攻撃によるのだから。

 おそらく仲間達はこの男に助けられたのだとは思う。けれど男が何者なのか分からないし、見た目が怪しいという事も有り、警戒を解くわけにはいかない。


「あの、貴方が仲間を助けてくれたんですよね?」


 状況的に疑う余地は無いのだけれど、念の為聞いてみる。勿論警戒している事はなるべく表に出ない様に気を遣いながら、返してくる反応を伺う意味もあってのものだった。


「まぁ、一応な。それよりもだ」


 つ・・・と目線を俺の後ろに送る。正確には後ろに居る者に目を向けて。


「お前さん、紅袴くれなばかまって事は治癒系持ってるだろ。そこの刀使い君が左目をやられてるから看てやりな」

「え・・・は、はい」


 返事をしてオレの後ろから、鮮やかな金髪をなびかせる様にして走り出して行く巫女服の少女。

 横を過ぎる時にちらとオレに目線を投げて来たので、小さく縦に首を振って意志を伝えた。

 一緒に仲間のところに行きたい気持ちは強いけれど、未だこの男から警戒を外すわけにはいかないので、オレは様子見の為に動けない。とりあえず任せておこうと考えて気を引き締める。


「そこの銃使い君。警戒するなとは言わないし、言う気もないが、そこの符術使い君は怪我こそ大した事無く見えるけれど、精神的に厳しそうだから、フォローしてあげた方がいいと思うぞ?」


 軽く首を傾け言ってくると、無造作に持っていた長刀を抜き身のまま空に掲げる様にする。

 刀を持つ手が動いたので警戒度を上げたけれど、その長刀は虚空に消えるかの様に姿を消し、代わりにその手には竹製の水筒が現れた。

 警戒を気づかれない様にしていたけれど、完全に気づかれていた上に、警戒心を解いていない状況で武器まで隠された。それはオレへの敵対行為が無い事を示すのか、それとも隙を作ろうと狙ったのか、判断が難しい。


「ちと疲れたし一休みするから、その間にフォローしてあげた方が良いぞ。説明だとかはその後でも遅くないだろ?」


 と言ってその場に腰を下ろすと、喉を潤し始める。

 その、何の警戒心も感じさせない様子を見て、オレも一呼吸してから警戒度を下げる事にした。完全に警戒を解けるわけはないけれど、一方的に警戒し続けるわけにもいかないし、多分、最大限に警戒しても意味が無い気がしたのだ。

 その動きや発する気配から、おそらく相当実戦慣れしているだろうし、どう考えても勝てるという確信が得られなかった。


「すみません。ありがとうございました」


 気持ちを無理矢理切り替え、軽く例を言って仲間の元に向かう。

 軽く目を向けると、巫女服の少女が剣を持った男に対して何かの術を左目辺りにかけていた。治癒術なのだろう。

 術をかけつつ、すぐ横に伏せているもう一人を観察しているけれど、慌てたり、伏せている方を先に対処したりという様子も無い事から、男の言う様に、本当に気絶しているだけなのだろう。もっとも、冷たい判断かも知れないけれど、手遅れであった場合は、今更急いでも無駄なのだから、残る一人を優先するべきだろうと考えたのも事実だった。

 両手を地に付けてしゃがみ込んでいる、明るい茶髪でセミロングの女は、学院でクラスメイトの為、ここにいる中では唯一見知った相手だったからというのも勿論あったのだけれど。

 クラスメイトとは言え、この半年程ゲームで良く組んでいた、ゲームキャラクターを通しての関わりがほとんどなので、特別親しいというわけでも無かった。それでも知人を優先してしまいたくなるのは、避けられないところだろう。


今野こんの、大丈夫か?」


 近づいて声をかけると顔を上げ、呆然とした表情で見上げて来た。オレだと認識したのだろう、徐々に表情が崩れると、両目から大粒の涙が流れ出し、思わずという感じで飛びついて来る。

 特別親しい異性ではないのに突然飛びつかれたので内心焦るが、密着した体からは細かな震えをはっきりと感じる。混乱による咄嗟の行為だろうから、落ち着けば離れてくれるだろうと、無理に引き離す事はしなかった。


 ふと気配を感じて顔を振り向かせてみると治癒を終えたのか、伏せている男の方を治癒し始めていた巫女服の少女が、目線だけをこちらに向けていた。

 ・・・その目が怖い。背中を嫌な汗が流れる。

 思わず目線を反らすと、面具男が倒した子鬼から装備等をはぎ取っているのが見えた。気楽そうなその様子が、正直少し羨ましかった。



 五十鈴は震えながらも、必死にこれまでの事を話していた。

 とは言え、「わけが分からなくて・・・」とか、「突然変なのが・・・」「どうして良いか分からなくて」といった、途切れ途切れでまとまりの無いものだったから、混乱して無意識に出た言葉だったのかも知れない。

 その状況に変化があったのは、飛び付かれてから二分程経ってからだった。

 少し落ち着いたのだろう、ふと言葉が途切れたと思ったら、今度は勢い良く飛び離れて行った。


「え? あれ?

 いやいやいや、今のは違くうから、そう言うのじゃなくて・・・」


 顔を真っ赤にしながらそんな事を言われても、何が言いたいのか分からない。

 挙げ句、ふと横を見て、足下に転がる子鬼に気が付いて、「ひっ」と声を上げて固まったりと、とても忙しそうだ。

 まぁ今野は、クラスでも結構意識があちこちに行くと言うか、落ち着きが無いというかなタイプとして知られていたので、多分それなりに混乱が収まって来たという事なのだろう。

 そう思って暫く放置を決めた時、左目を押さえ、右手には鞘に入ったままの刀を持った男が近づいて来た。

 

 予想はしていたけれど、男は今野と同じでこの半年程、ゲームで良く組んでいて、今日も約束をしていた仲間の一人だった。

 とは言えゲーム内だけでの関わりだったから、当然素顔は知らなかった。

 男は川瀬辰弥かわせたつやと名乗った。それが聞こえたのか、「わたしは今野五十鈴こんのいすずです」と、右手を挙げて割り込んで来る。少しは落ち着け。


 その後、やっとまともに話しを聞く事が出来る様になった。

 聞けば、ログイン直後にふと目眩の様な感じがして、気が付いたらこの川端に居たらしい。

 約束していた仲間達ががほとんど同時にログインしたのだけれど、これは偶然では無くて、事前にログインしなくても使えるチャット機能で合わせた結果だった。

 フレンド登録リストから、残る一人であるオレが三〇分程前にログイン済である事を確認したので、急いでログインしたらしい。

 その直後に突然見知らぬ場所だったので、何がどうなっているのか全く分からなかったと言う。まぁそれは当然の事だろう。

 普通ならここがどこなのか、そもそも互いのリアルの顔を知らないのだから誰なのかすら分からない状況だ。

 突然見知らぬ場所、見知らぬ人という状況で、混乱しない方が難しい。

 多少時間があれば、多少冷静にもなれたかも知れない。

 けれど、間を置かずほとんど直後に、子鬼の群れが襲いかかって来たらしい。

 何も分からない状況で混乱している中、更に突然異形に襲われれば、それこそ冷静になんかなれるはずが無い。

 しかも周囲は闇に沈んでいて、見通しも効かないのだから、状況の確認なんか望めるはずも無いのだ。

 その闇の中、小鬼が武器とは逆の手で持っていた松明の灯りだけが、強く印象に残ったと言う。

読む時間的余裕が厳しい事と、頂いてもコメントが返せない可能性が高いので、感想やレビューは受付ていません。

予めご了承下さいm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ