0.三月十二日(月) 晴(2)
午前10時。
どうやら局員が言っていた山の麓に着いたようだ。ちゃんと寺もある。
「・・・そこのお若い方」
声を掛けられ、振り返ると住職らしき人が立っていた。
・・・・・・どうでもいいことだが、若い。この村は過疎と高齢化とは無縁なのか?
「・・・俺でしょうか?」
一応見回してみたけど、他に人はいない。
「はい。少し付き合って下さいませんか?」
坊主に悪い人はいない。そう信じたいが、先に確認することがある。
「・・・良いですけど・・・あの、この山の頂上に・・・・・・」
「はい。県立紺青高校があります」
住職さんの笑み。
・・・・・・ビンゴ。
「で、付き合うというのは・・・・・・」
「とりあえず中に入りましょう」
先導されて寺の中に入る――――――――――――――――――――と、
中はコンビニだった。
「な・・・・・・」
・・・・・・何たるギャップ。
「ドゥアプル、神裡村店です」
先ほどの住職が説明する。
「ここから先、山登りですから、水や食料を此処で揃えておいた方が安全ですよ」
なんとなく古き良きRPGっぽい気がしないでもないが、確かに住職さんの言うことも一理ある。俺は水とサンドイッチを買い足した。
「鳥居のある分かれ道を通るときは気を付けてください。何かに出会ったら、この矢を投げてくださいね」
店員兼住職の人に矢を三本貰う。
「破魔矢・・・・・・?」
破魔矢で助かれば苦労しないんだが。
「良くご存知ですね。自転車は店の前の駐車場に停めておいてください。帰りにも立ち寄ってくださいね・・・・・・今度は本堂に」
人のよさそうな住職さんの笑みに礼を返す。
それよりも。
此処は寺か?コンビニか?というより紺青高校ってなんなんだ。
謎に思いつつも、コンビ・・・寺を出て、自転車を駐車場に停めて山登りをすることにした。
* * * * * *
三月の半ばとはいえ、まだ肌寒く山登り日和とは言えなかったが、黙々と山道を登る。ただ登るというのは存外暇なもので、周りの風景に目を向けるも変化に乏しくすぐに飽きてしまう。
そうなると思考は数日前の雨の日に逆戻りしてしまいその出来事ばかりを考えてしまう。
「・・・・・・ったく、俺らしくねえな」
吐き捨てるように呟いてみるも気持ちは晴れ晴れとはしない。
あれから凱史からは電話もメールも一切来ていない。皆入学準備で忙しいのだろうと頭では分かっているものの、自分だけ取り残された気分になる。
「っと。・・・・・・此処が住職さんの言っていた鳥居か」
どうやら考え事をしている間に鳥居の前まで来ていたようだ。先ほどまで木々が鬱蒼と生い茂っていたのに、此処からは日の光が少しは当たるようになっているらしい。・・・・・・依然として暗いものの。
鳥居をくぐり抜けると、平坦になった道をゆっくりと歩く。
まだ学校らしき建物は見えてこない。更に、
「何か人に見られている感覚がする・・・・・・・・・・・・」
杞憂であればいいが、俺のこういう勘はよく当たる。
「女子でもないのにストーカー?・・・まさか」
こんな山奥までついてくるとは見上げた根性だ。
一人笑いをしてさっき住職さんから貰った破魔矢を取り出す。用心するに越したことはない・・・・・・はずだ。
ざわり。
木々の揺らめきか、春先の風か。
勢いよく振り返ってみるも、何も見えない。
流石に「気のせい」で済ませるには洒落にならないレベルの寒気がする。これはきっと日の光があまり当たらないから寒い訳ではない。
ぞくり。
次に振り返った時には、高さ3メートル、、幅1.5メートル程の真っ白い「何か」が、物凄いスピードで駆けあがってきていた。
流石に恐怖に耐えかねた俺は半ば絶叫しながら残りの階段を登る。
「うわあああああああ!!!」
元サッカー部舐めんなよぉ!!!
つーか、この学校何なんだよ!!!!
・・・・・・大幅に時間が遅れていますが、何とかして入学式までには間に合わせたいと思います。