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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第五章 魔法の言葉
98/140

おひめさま

 



「ちょっとごめん、ごめんよ。通して」


 迅八が人の輪を抜けると、そこでは知ってる顔がアゼルと話していた。

 黒髪の女。馴染みのある顔立ち。


(あれ……まさか)




 ——あの子かっわいいなー

 ——どっち? 黒髪どっちも可愛いけど

 ——それより、あの赤毛、『ロックボトムの弟』じゃねえのか?

 ——かーっ。あんなガキでも、ロックボトムともなりゃあ、よりどりみどりか

 ——やめとけ。……聞こえるぞ



 野次馬達の囁きが迅八の耳に入る。


「ほれ。揉め事じゃねえだろが。……ん? おいジンパチ、アゼルと話してる女」

「やっぱそうだよな。……おい。なにやってんの?」


 迅八が声をあげると黒髪の女は振り返った。

 迷彩柄の上下を着込み、『大和魂』プリントのTシャツを着ている女。

 その女は迅八の声に振り返ると、嫌そうな顔をしてからアゼルに向かい顔を戻した。



「おいっ。シカトすんなよキリエ」

「……馴れ馴れしく呼ばないで欲しいっす」

「くかかかか。随分デカい態度だなオイ。ご主人さまの顔を忘れたのか?」


 大悪魔の言葉で、その女——キリエは振り返ると、可愛らしい犬歯を剥き出しにして、迅八達を威嚇(いかく)した。


「あんたには、なーんもされてないっす! あたしはお姉さまを慕ってるだけっすからっ」

「……完璧な調教だな。クーロン、やるじゃねえか」

「まあまあ、仲良くしろよお前ら。もう済んだ事にしようよ」

「なに寝ぼけた事を言ってるっすかマヌケ面。……あんたの事は絶対に許さないっすよ」

「え、俺? なんで俺なの? マヌケ面!?」

「ぐるるるるぅ……!! 許さねっす!!」



 柴崎霧絵。

 大草原で迅八達と対峙した女は、なぜか迅八にだけ敵意をぶつけた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「……あ、そう。大変なのねお前らも」

「誰のせいだと思ってるっすか!!」

「いや、どう考えてもお前らのせいだろ。俺たちは一方的な被害者だよ」

「……へんっ。最近の高校生はお利口さんっすね〜。被害者って、そんな大袈裟な……」

「お前ら、俺たちの事を殺しかけただろって!!」

「あんなの正当防衛っす」


 確実に過剰防衛だった。しかし、キリエは迅八の声には耳を貸さない。

 キリエにとって不都合な事を迅八が喋ると、「へ〜」としか言わなかった。


「……ロックボトムの人たちには借金があるから、どっかのタイミングでは会わなくちゃいけなかったんすけど。『弟』さんが居たから声かけたっす」

「お前ら、変なところはちゃんとしてんだな。トムは? 近くにいるの?」

「一応……っていうか、あたしとトムは、商人ギルドの有名人っす。契約を守らないなんて噂を広められたら、ギルドから怒られちゃうっすよ。今日はトムはいないっす。あたし、友達と会ってたんで」



 近くにいたニコルは、知らない人間の登場に身を固くしていた。そこに、もう一人の黒髪の女が優しく声をかけた。


「……ごめんなさいね。遊んでたの?」


 迅八が見た事ない女。おそらくキリエの連れだろうその女は、変わった服装をしていた。


 緋色の(はかま)と白い襦袢じゅばん

その袴には深いスリットが入り、下には黒いニーソックスを履いている。

 袴を結ぶ紐は鮮やかな金色で、それは腰をぐるりと回り、前面で大きなリボン結びになっていた。

 ニコルに声を掛けたその女が視線をずらす。そして、その目で真っすぐ迅八を見つめた。


「こんにちは。寺田迅八くん。……キリエから話は聞いてるの。で、そっちは千年の大悪魔……クロウでしょ?」

「あ。……ども」

「あん? 常識知らねえのか。名乗れ小娘」


 その言葉を聞き、その女はころころと笑った。頭の後ろで結ばれた髪の毛が、尻尾のように揺れている。


「ごめんなさい。私は『ティー』。あだ名だと思って。私達と同じ日本人の転生者さんと、千年の大悪魔さん」

「あ、はい。……よろしく、デス」

「フン。おう小僧、よろしくじゃねえだろが。……ひょっとして、テメエはこんなのが好みなのか? 照れてやがんのか?」


 今までも色んな美人を見てきたが、それは一癖も二癖もある性格の女ばかりだった。目の前の袴姿の女は普通の女の子の喋り方で、しかも自分と同じ日本人だ。迅八は思わず緊張してしまった。


 それを見ていたニコルが、アゼルの手をきゅっと握った。アゼルはニコルを見てから言う。


「ニコル。鼻の下を伸ばしてるバカは放っておこう。……おい変態。俺たちは先に行ってるからさっさと来いよ」

「え。ちょっと待ってよ」


 その場から離れていくアゼルとニコル。それを追いかけようとした迅八の手が、誰かに握られた。


「おわ。な、なに?」

「ごめんなさい。ちょっとお話しない?」


 振り向くと、袴姿の女——ティーが迅八の事を上目遣いに見ていた。


「ごめんなさいね。けど、どうしてもあなたとお話してみたかったの。……それに、クロウとも」

「あん? ナンパか?」


 ティーはその言葉を聞き、またコロコロと笑う。


「……そうね、ナンパ。二対二だから丁度いいじゃない。とりあえずお茶しない?」

「ちょっとちょっと。あたしもいれてるっすか? 勘弁して欲しいっす!!」

「ま、退屈しのぎにゃなるか。いくぞジンパチ」

「ちょ、ちょっと待てよ」


 迅八の手はティーに掴まれたままだ。別に拘束されている訳ではないので、振り払う事は出来る。

 しかし、それをするのも相手に悪いと迅八が迷っている間に、アゼルとニコルの姿は見えなくなってしまった。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 噴水広場にある一軒の店。

 そこのテラスで、迅八は二人の女と向かい合って座っていた。


(そういや、二人は幾つなんだろうな)


 キリエは、過去に女子大生だと言っていた記憶がある。ティーは、それよりは迅八に近い歳に見えた。


「ちょっとちょっと……。なんか、椅子が近くないっすか? あんま寄らないで欲しいっす」

「あん? そんな事言っていいのか? クーロンに会いたくねえのか?」

「……お姉さまに会わせてくれるっすか?」

「それはお前の心がけ次第だな」


 クロウがキリエの太ももに手を置くと、キリエはその手をどけようかと迷ったあと、結局なにもしなかった。


(……クロウの奴、監督かと思ってたけど、プロデューサーだったのか?)


 迅八の目には見えた。

 千年の大悪魔(プロデューサー)の、下劣な企みが。



「ねえ、寺田くん。……ジンくんでいい?」

「いや、ジンでいいよ。俺もティーって呼ぶから。……んで、話したい事ってなに? 仲間が待ってるから、なるべく早めに済ませたいんだけど……」


 緋袴の女は迅八の瞳を真っすぐ見ている。ティーは迅八が今まで見てきた中で、一番親しみやすい少女だった。本当に、普通の可愛い日本人。


(服装はおかしいけど、なんか落ち着くな。普通のひとだ)



「ありがとう。じゃあジンって呼ぶわ。……ここまで連れてきておいてなんだけど、実は、別に聞きたい事はないの」

「は? なにそれ」

「もうあなた達の話は聞いてるわ。キリエからも聞いたし、『名無し(ネームレス)の冒険』の劇も観たしね」

「待って。劇ってまさか……」

「それが迅九郎? 良い刀ね」

「まだ続編作ってんのか!?」

「私は悪徳領主討伐編見たわよ。ロックボトムも出てくるから話題になってたわ」


 迅八は頭を抱えた。

 どうせ面白おかしく脚色されてるのだ。


「囚われの少女を助ける為に、燃え盛る館を異界の知識で消火させたんでしょ? ……日本での知識を活かしたんでしょうけど、どうやってやったの?」

「そんな事できるかっ。……ああ、もう勘弁してよ」

「今は大草原編を作ってるみたいね。キリエとトムが張り切って協力してるらしいわよ」


 迅八がキリエを睨みつけると、キリエは迅八に向けて舌をベロベロとさせた。


「おい。お前もっと可愛い感じじゃなかったか? なんで俺を敵視すんの?」

「………へんっ。あたしはクロウ様と大切なお話をしてるっす。キモい目であたしの巨乳をチラ見するのをやめて欲しいっす」

「クロウ()って……。あと、胸は見てねえから!!」


 実は見ていた。



「それでね。聞きたい事っていうか……。あなたがどんな人なのかを目で見て確認したかっただけなの。私たちのギルドでも、毎日誰かがあなたの話をしているわ」

「商人ギルドで? ……嫌だなあもう。買い物も行けないじゃん」

「私の所属は商人ギルドじゃないわ。だから買い物は自由に行ってね。……まあ、そっちでも噂にはなってるだろうけど」

「え? ティーは商人じゃないの?」


 黒髪の少女が尻尾のような髪を揺らす。そしてテーブルの上で、迅八の手をきゅっと握った。


「な、なに? ちょっと……」

「私の所属は転生者ギルドよ。……ねえジン。あなた、転生者ギルドに来ない? みんながあなたに……ネームレスに会いたがってるわ」






 ————————————————






(全くあいつらは……)


 さっきまで、あんなに楽しそうにアゼルを振り回していたニコルの小さな右手から、力が抜けている。


(もう楽園まで来ちゃったじゃないか。すぐに追いかけてくると思ってたのに)


 朝食を食べた後、シズはコルテが連れていった。いつも一緒にいたシズがいなくなって、なんだかアゼルはおかしな気持ちになった。

 その時あいつ(・・・)が声を掛けてきたのだ。


『アゼル、遊びいこうぜ』






「……なんだよ。人のこと誘っておいて」


 ポツリとこぼれたその言葉に、ニコルが反応する。


「姉ちゃん? どうしたの?」

「ん……なんでもないよ」


 まだ昼を少し回った位だ。

 その時、アゼルのお腹が可愛く音を立てた。


「姉ちゃん、腹減ったの?」

「ははは。そうかな? ……よく分からないな」


 アゼルは、今日は迅八達を連れて、昼の定食が美味しい店に行こうと思っていた。自分以外に王都の事をちゃんと知ってる人間はいない。

 ニコルの事も普通に入れてくれる店だ。……もっとも、『アゼルスタン』の連れに文句をつける奴なんて、この町にはいない。

 別に楽しみにしていた訳ではない。自分以外にはそんな店を知らない。仕方ないからだ。


(……仕方ないからだ)






 気が付くと、ニコルの家のそばまで戻ってきてしまっていた。


「姉ちゃん、ちょっと休んでこっか。母さんにお茶を()れてもらおうよ」

「……そうだな。あのバカも来るかもしれない」


 暗い家。

 その家の入り口を越えると、ひんやりとした空気がある。奥の闇に向かい、ニコルは声をかけた。


「母さん。姉ちゃんが来てくれたから、お茶をいれて欲しいんだけど……」


 アゼルの手を離し、ニコルがそちらに向かう。残されたアゼルの目に、暗い部屋の雰囲気から浮いている物が目に入った。


「……服か?」


 可愛らしい、黄色のワンピース。

 粗末な箪笥の上に、広げて置かれている。


「なんで、中に入れておかないんだ?」


 可愛らしいけれども普通の服だ。

 それでもこの家の中にあるそれは、まるでキラキラと輝く宝物のようだった。その宝物は、なぜかしまわれる事もなく、どこからでも目に入るように置かれている。


「姉ちゃん、母さんいないみたい……、あ」


 その服をじっと見ていたアゼルに気付き、ニコルは頬を染めて下を向いた。


「……兄ちゃんが買ってくれたんだ。けど、おかしいよね」



 ——なにが?

  アゼルは言わない。



「似合わないよ。そんなの。……兄ちゃんも、最初の時だけしか、着てくれって言わなかったし」

「……そんな事ないよ。きっと似合うよ」


 なぜかその言葉を言ったあと、アゼルの胸を色んな感情が襲った。それを、むりやり一言で言えば、怒りだった。


迅八に対してではないと思う。なら、自分とこの少女を重ねたのか。よく分からない。——ただ、アゼルはひどくイラついた。


「……ニコル、着てみせてくれ。きっと可愛いよ」

「けど、母さんが」

「大丈夫だよ。俺が一緒にいれば大丈夫だ」


 まだ一度も袖を通した事のない服。

 寝る前に、ニコルが何度も何度も見てしまった宝物。……ロココはそばにいない。



「……本当に、似合うかな?」

「似合うよ。あのバカもすっ飛んでくる」


 アゼルが丁寧にその服を持つと、そっとニコルの肩に当てた。


「ほら、ニコル。俺も手伝ってあげるから着替えよう」

「……うん!」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「ねえねえ。……おかしくない?」

「おかしいことあるもんか。お姫さまみたいだよ」


 太陽は真上を少し過ぎている。

 その下を赤毛の少女に手を引かれて、可愛らしい狐の女の子が歩いていた。


 柔らかそうな栗色の毛がきらきらと。頬を撫でる風はさらさらと。三角の耳をぴょこぴょこと揺らして、嬉しそうに笑う女の子がいる。


「けどさ。スースーするよ。……ズボン履きたい」

「ははは。可愛らしい足を隠したらダメだよ」


 ニコルの頬は、ずっと赤く染まっている。


(ヤバいな。……クーロンには見せない方がいいかもしれない)


 食われる(・・・・)恐れがある。






「本当におかしくないかな? ……嫌だな。みんなが見てる気がするよ」

「おかしくない。お姫さまよりも可愛いよ」

「言い過ぎだよ。お姫さまなんて見たこともないし」

「……本当さ。お姫さまよりもずっと可愛い」

「姉ちゃん、お姫さま見たことあるの?」

「ははは。……どうだろうな」






 アゼルは片手でニコルの手を引き、もう片方には先程までニコルが着ていた服を持っていた。今はロックボトムの根城に向かっている。


「そんなに遅くならずにあのバカ達も帰ってくるよ。……そしたらその姿を見せて、また着替えて帰ればいい。それならロココさんにも怒られないだろ?」

「うん!! ……けど怖いな。ロックボトムって怖い人たちだよね?」

「時と場合によるさ。俺といれば大丈夫だ」


 黄色いワンピースを着て楽園を歩いていても、アゼルといれば大丈夫だ。


 世界一の悪所——『楽園』。

 物事には、なんでも理由がある。

 小さな女の子が男装するのにも、ロックボトムと一緒にいれば平気なのにも、なんにでも理由はある。



「けど、ジンの奴はニコルだって気付かないかもしれないぞ。……こんなに可愛くなっちゃったらな」


 アゼルはお世辞で言っている訳ではなかった。

 顔をちゃんと拭いて、髪の毛に(くし)を通してやって、フリルのあしらわれた黄色いワンピースを着た狐の女の子は、驚くくらいに可愛くなった。


(やっぱクーロンには見せられないな)



「……けど、兄ちゃんは分かってくれると思うんだ。一目で俺だって分かるよ」

「ははは。あのバカがか?」

「兄ちゃんはバカじゃないよっ。……多分」


 自信なさげに語尾を付け加えたニコルを見て、アゼルが笑う。


「そうかもな。 ……ところでニコル。『あたし』って自分の事を呼びなよ。そしたらもっと可愛いよ。ジンの奴もメロメロだ」

「本当に? ……けど、恥ずかしいな」


 歩いていた二人はやがて一軒の家に辿り着いた。二階建ての家。ロックボトムの根城。


(クーロンいないよな……。アマレロと、どっかに行ったはずだ)



 アゼルはそれでも確かめてみる事にした。

クーロンは優しくて美しくて、アゼルから見たら頼りになる大切な存在だ。しかし、彼女の悪癖は嫌と言うほど知っている。


「ニコル。おいで」

「うん」


 扉を開けて玄関でニコルを待たせる。

 ほんの数分の事だが、万が一を考えると家の外にニコルを立たせておきたくなかった。


「ちょっとここで待っててくれ」

「ねえ姉ちゃん。本当におかしくない?」

「不安になってるのか? おかしくないよ」

「本当に、兄ちゃんはあたし(・・・)の事が分かるかな? ……誰だおまえ、とか言われないかな?」


 三角の耳が揺れている。

 アゼルは少女の不安を取り除く為に、さっきとは真逆の事を言った。


「……当たり前だ。ジンは一目で分かるよ。ニコルがどんな姿になってても」


 それを聞いたニコルは、太陽のように笑って見せた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「コルテー。……クーロン居る?」

「アゼルっ。たすけて、ですっ。……もういや、ですっ!!」


 カウンターの向こうからシズがこちらに来ようとすると、その後ろ襟がコルテにむんずと掴まれた。


「……逃げられると思ってんですか? もやし追加されたいんで? ……ん? アゼル。あんたさん、ジン達と遊びに行ったんじゃ」

「遊びになんて行ってない。友達に会いにいくのにあいつがたまたま一緒だっただけだ」

「いや、だからそれを遊びに行ったって……はいはい、分かりましたよ。睨む事ねえでしょ」


 シズが手をバタバタとさせているが、アゼルには助けてやる事が出来ない。コルテの弟子になる事は、シズが自分で決めたのだ。


「クーロンもアマレロも戻ってきてませんよ。ジークエンドもさっきまで廊下をウロウロしてましたけど、部屋に戻ったんじゃねえですか?」

「そっか。じゃあ良かった。……ところで、友達を連れてきたんだ。なんか、軽く食べられるもの作ってもらっていいかな」

「友達……?」


 シズの襟を掴む力が一瞬ゆるむ。

 シズが振り返ると、コルテはいつもの顔でアゼルを見ていたが、シズの目にはコルテの眉がほんの少しだけ形を変えたように見えた。


「……ええ、いいですよ。作りましょ。その子はどこにいるんです? 挨拶くらいさせなさい」


 その時、玄関の方で物音がした。


「ヤバい。クーロン帰ってきたのかも。連れてくるよ」



 ——助けて、ですっ。はくじょーもの、です!!



(…シズも難しい言葉を使うようになってきたな)



 後ろから聞こえてくる親友の声を無視して、アゼルは玄関に戻った。













「お待たせ。 ……ニコル?」


 玄関に戻ってみると、そこには誰もいなかった。


「え? ……ニコル?」


 階段がきしむ音がする。

 振り返ると、そこにはジークエンドが立っていた。


「帰ってきたのか。 なにか面白い事はなかったか?」

「ジークエンド。今、ここに居た女の子を知らないか? 二階に行ってる?」

「誰か居たのか? ……知らんぞ」


 バクバクと。

 心臓が音を立てる。

 玄関の扉が少しだけ開いている。


「ニコル……!」


 扉を開けて外に出た。

 辺りを見渡すが誰もいない。



「ニコルッッ!!」



 楽園のこの時間は人気(ひとけ)が少ない。

 しかもここは死人通りだ。うろついている奴などいやしない。


「どうしたアゼル。説明しろ」

「ジークエンド!! ニコルが……俺の友達が!!」


 汗が浮き出る。

 太陽の熱のせいでなく、心の底から湧き出る寒気に。


 ここは世界一の悪所『楽園』だ。

 なんにでも理由はある。

 幼い少女が、消える事にも。




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