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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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外伝 野営地を這う影

 



 ……大草原には幾つもの森が存在するが、その中のロンダルシア側に広がる森の一つに、商人ギルドがよく利用する野営地がある。

 その森にはそこまで強い魔物は出没しないし、滋養に溢れた森の恵みも採取出来る。休息を取るには絶好の場所だった。


 もう、夜もなかばを過ぎている。その野営地の真ん中で、煌煌(こうこう)と燃えている焚き火に照らされて、等間隔に停められた三台の馬車が長く影を落としていた。


 そして、その隙間を縫うように。

 動いている『なにか』があった。






 ————————————————






「……オーバー、ですっ!」


《……デンデン、デレデッデ

 デレデンデン、デレデッデ

 デンデン、デレデッデ、デレデッ!!》


「敵影なし。……突入、ですっ」


 シズの頭の中では、昔、兄がやっていたゲームの音楽が流れていた。

 敵に見つからないように進まなくてはいけないそのゲームはイライラしたが、なぜか、今はその音楽が、頭の中で鳴り響いていた。


「……ふぅ、ふぅ。ドキドキする、です」


 しかし、いざ自分がなってみる(・・・・・)と、これはなかなかスリルがある。敵に見つかる事は、許されない。


 辺りには誰もうろついていない。

 時々小屋の方から叫び声が聞こえるが、あっちは後だ。今は、とにかくこっちを優先しなければいけない。


「……ふふふ。こっちの世界、好きになれそう。まさか、あんなのが実在するなんて……!!」


 頬を紅潮させながら独り言を呟く。思わず日本語で漏らしてしまったその言葉は、思ったよりも大きな声で響いた。


「……む。気をつける、です」


 その声の大きさよりも、日本語を使ってしまった事をシズは戒める。

 早くこちらの世界に慣れなくてはいけない。いつまでもお荷物ではいられない。

 ロックボトムはみんなシズには優しいが、複雑な人間達であるのもここまでの旅で理解できた。兄と自分は、いつ捨てられてもおかしくはない。

 その可能性を考えると、こちらの世界の言葉を憶えるのは、今のシズにとって何よりも優先される『仕事』だった。……この仕事を甘く考えたら、恐らく自分は痛い目にあう。


「……て、言っても、結構もう分かる、です」


 聞き取りだけならほとんど問題ない。

あとは、聞いたことのない——例えば『魔光石』だとか、そういう単語が多すぎるだけで、それらの言葉の意味を尋ねているだけだ。

 シズがこの世界で迅八と出会ってから一ヶ月以上——二ヶ月弱という所だろう。その僅かな時間で、シズはこちらの世界の言語をほぼ理解していた。


「……こんなに私、頭良かった、です?」


 ぽんぽんと頭に記憶が刷り込まれてゆく。一度教えられたら理解できる。同じ質問をした事など一度もない。

 そんなシズに、みんなはこぞって言葉を教えてくれた。元から愛される容姿や空気を持っている。言葉を分からないから余計な事も喋らない。ロックボトムがシズをよく構ってくれたのも、そんな理由があったのかもしれない。


「アマレロは、だめ、です」


 アマレロは面白がって、シズに下品な言葉を教えてきた。別にアマレロが嫌いではないが、微笑みながらその言葉の意味が分からないように振る舞うのは、少し疲れてしまう。

 けれど、そんな時にはいつも助けてくれる存在がいた。


「アゼルは、いいです。よいです」


 シズから見て、自分よりも少し年上なのだろうけど小柄なその少女は、本当に可愛い女の子だった。

 火傷の跡が痛々しいが、それを補って余りある。そして、その心が優しい女の子だ。

 彼女がいなかったら、本当は自分はもっともっと心細いのだろう。


「コルテも、よいです」


 コルテはぶっきらぼうを装っているが、ロックボトムの男達の中では、一番自分に構ってくれる。

 行く先々で何かを教えてくれたり、皆の見ていない所でこっそりとお菓子をくれたりする。

 ……けれど、時々淋しそうな顔をして、薄青の髪の男は神経質そうに眼鏡を押し上げる。シズにとって、特にそこ(・・)がよい。



候補(・・)、です……」



 そこまで考えて、シズは自分の現状を思い出した。今はこんな事をしている場合ではない。

 早く、早く確かめなくてはならない。この目で、もう一度確かめなくてはならない。……闇の中、シズは足を忍ばせて夜に溶ける。そして頭の中では相変わらず、『あの音楽』を鳴らしていた。






 ————————————————






 ——ねえ、ジン。ぎゅってして。ぎゅって






(実在した、です……!!)


 馬車のほろをほんのわずかに開けて、中の様子を盗み見る。


(するです……。ぎゅってする、です!!)


 中ではシズの兄が、赤面させながらイエリアの猛攻をかわしていた。


(なにやってるです……。さっさとするですっ。据え膳食わぬはって言う、です!!)



 辺りには腐臭が立ち込めている。正確にはシズの周りだけ。しかし、本人にはそれがかぐわしい薔薇の香りに感じるようだった。

 馬車の中ではジークエンドが薄い布を掛け、半裸で寝ている。その端正な顔立ち、たくましい筋肉——それを、シズは違う方向(・・・・)に妄想する。

 馬車の中ではイエリアが迅八に抱きついて何事かを囁いている。シズは、息を(ひそ)めて二人を観察した。


 イエリアは、女だとするのなら大した美人ではある。しかし、クーロンやアゼルなどという弩級の美女、美少女に比べたら、普通よりも可愛いくらいの女の子だ。しかし、しかし。



(男の()……!!)



 シズは、元の世界でのおぼろげな記憶を辿る。

……あっちの世界ではまがい物ばかりのさばっていた。前にネットで『男の娘カフェ』というのを検索していて、怒りのあまりに液晶を壊しかけた事がある。

 迅八はシズに構いたがっていたから昔はよく無断で部屋に入ってきた。その際、そういう場面や『そういう本』を、何度か見られた事がある。

素薔薇(すばら)しいそれらの芸術作品が、シズの兄には理解出来ないようだった。


(本物、です……!! これが、これがっ)


 シズは、あまりの感動に思わず身を乗り出そうとし、小さな物音を立ててしまった。



《デレ デーデーデッ!!》



 シズの頭の中で、音楽が鳴り響く。

 顔が固まる。汗がドッと出る。唇と言わず、顔全体が震えている気がする。

 ……呼吸を完全に停止させ、馬車の中を伺うと、シズの兄達は気付いていないようだった。


(はあ、はあ……! 危ない、です……っ)


 そして、シズの耳に、その声は飛び込んできた。



 ——ぁんっ



 シズの鼻息だけで土煙があがる。

 ……まさか、まさか、そこまで?


(ジン×イエ、です? イエ×ジン、です?)


 期待にその小さな胸が膨らむ。

 自分の鼻息がうるさすぎる。

 しかし、その後でシズの耳に届いたのは、予想外の言葉だった。



 ——おまえ、なんで急に胸が膨らんでんだ!! 男じゃねえのか!?



「………はァ?」






 ————————————————






「……あ〜、つーかマジたり〜。ってらんねーわ。あーウザ」


 そこにいたのは天使のような少女ではなかった。

 左手で尻の辺りをぱんぱんとはたき、右手で髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回している少女。


「あーウザ。ほんっとウザい。なに、結局女なの? ……だったらお前なんて一山いくらだわ。あー、マジウザい」


 馬車の様子を見た後、シズはすぐにその場を離れてしまったので、その後、迅八とイエリアが交わした会話を知らない。


「あー、もういいわ。忘れよ。あいついない。あたしの中でもうあいついない。……はい消えたー」


 寺田 静は美しい少女だった。

 少女とは呼べないような、氷の美貌を持っていた。

それを溶かして笑う度に、見るものを虜にする天使のような少女だった、


「はァ……。もういーや。次、はい次! ……つぎ、です!!」


 はずだった。






 ————————————————






 ——おねえさま、おねえさまあああ

 ——ほら可愛い子、いい子だねえ



 そこにも腐臭が漂っていた。百合百合しい香りが。


(分かってる、です! クーロンは、よいです!)


 クーロンは優しいお姉さんだった。

 その怜悧(れいり)な美貌は行く先々で男達を振り向かせる。シズは元の世界で、テレビの中でさえクーロン程の美女を見たことが無い。そして、そんな女性が自分の事を構ってくれるのが、シズはとても嬉しかった。


(いいです。分かってるです。そうそうそう……、そ〜うそうそうっ。よいですッ!)



 ——ほらブル。これが欲しくないのかい?

 ——あ、ああああ! ターニャ! ターニャ!!



「……はい減点〜」


 シズの採点は厳しい。そして、バンバン日本語を使っている事には気付いていない。


(……知らない男との絡みなんて、誰得? 分かってない。全然分かってない……。ダメです。それはダメ、です!!)


 窓からちょこんと顔を覗かせて、シズは部屋の中を観察した。

 一番手前で、四つん這いになって椅子代わりにさせられていたトムが、ブツブツと何か呟いていた。小屋の窓にはガラスがはめられていないが、トムの呟きは小さすぎてシズの耳までは届かなかった。


 そして、そこに乱入者は現れた。




 ・・・・・・・・・・・・




「くかかかかかか……。ほれ、絶対強者(ハッタリやろう)。これはなんだと思う? な〜んんんんだあとォ、思う〜?」

「や、やめて、本当にムリだって……。そんなの絶対ムリだってッ!!」


「してみろ」

「え」


「してみろ。先読み(・・・)。……俺様がやめると思うのか?」

「……い、い、いひいいいいいっ!! いや、いやだああああああッッ!!」

「くかかかかかッッ!! ……どいつもこいつも甘い事ばっか俺様に抜かしやがる。ここらで悪魔らしいとこ見せとかねえとなあ……」

「やめてええええ!! 本当に、本当にお願いしますからっ!!」

「……悪魔に慈悲はねえ。くかかかかかか、くかかかかかかッ!!」




 ——コン、コン


 扉が、誰かに叩かれた。


「うるっせえぞジンパチ!! てめえは『観客』だろうが。しゃしゃりでてくるんじゃねえ!!」


 ——ドン、ドン


「しつけえぞてめえ!!」








 ——ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!



 クーロンとクロウの顔色が変わる。

 コレ(・・)は、迅八ではない。

 唾を飲み込みながら扉へ向かう。

 ……開けたくない! 開けたくない!!


 しかし、クロウはその扉を開けた。



「……なあに、やってるんですかあぁ?」


 そこには般若がいた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・




「すごいの、見れたです……」


 結局セリアは帰っていった。

 トム達に対する復讐であって、なんの他意もない。キリエに手を出すつもりなど毛頭ないという事を、千年の大悪魔はおよそ五分間、息継ぎなしで喋り続けていた。


「もう、つかれた、です」


 千年の大悪魔の矛先は、完全にトムとブルに向けられた。キリエにさんざんな事をしているクーロンの事を、何度か羨ましそうに見てはいたが、結局そこには手を出さなかった。


「……もっと、ピュアなのがいい、です」


 千年の大悪魔には、容赦というものがなかった。

トムとブルに対する情けなど一欠片もなかった。

もっと違う物を見たかったシズにとって、それはただただ疲れるものだったので、途中でその場を離れた。


「……けど、すごい、です。悪魔、です」


 クロウは可愛い子狐だった。

かと思ったら大きな狐男だった。

しかしそこから更に人間になり、一目で分かる悪魔となった。


「けど、クロくんかっこ良かったです。候補、です」


 迅八とクロウはなにかで繋がっており、どちらかが傷付けばもう片方も傷を負う。

 今まで会話の断片や、目の前で見てきた異常な事柄からシズはそれを理解していたが、兄にとって災厄のはずのその現象を思い、なぜか頬を赤らめた。


(なんか、それいいっ。です!)


 しかし、迅八の持っている刀の名前は、シズにとってはいささかいただけないものだった。


「……ジンクロウ、じゃなくて、クロウジン、の方がいい、です」




 ——おい、ジンパチ。てめえと俺は繋がれた。そういやあ、まだ『対価』を払ってもらってねえなあ……

 ——や、やめろ。クロウ、やめ、……あっ!?




 シズの鼻息は荒くなる。



(だいたい、ジン×クロウだと……)




 ——クロウ、もっと素直になれよ……

 ——俺は、ずっと一人で生きてきた。これからだって、そうだ……

 ——もう、俺とお前は結ばれた。一人じゃあ、ねえさ……

 ——やめろ。……そんな、そんな言葉で俺を、惑わせるんじゃ、ねえ……

 ——クロウ。もう、黙るんだ

 ——ジン、パチ……あっ!?




「……あれえ?」


 意外とアリかもしれなかったので、シズの中での迅九郎問題は保留とされた。


 益体やくたいもない事ばかり考えていたら、いよいよシズは眠たくなってきた。

 アゼルが眠る馬車に帰ろうとすると、途中、一つの馬車から話し声が聞こえてきたので、シズはそちらに向かった。






 ————————————————






「……イエリア。あなたは、なんの為にジンくん達のところへ?」

「お前と一緒だよセリアあ。興味があった、それだけだ。……思った以上にアレはいい(・・)よ。アレはオレのものにする。……アグリアにもそう言っといてね」


 馬車の中、暗がりの中で二人の天使が話し合っている。

 しかし、その片方はどことなく緊張しているように見えた。


「……けどさあセリア。お前もなかなかいいよ。もっとドン臭い奴だって聞いてたけどね」

「その口の利き方、どうにかなりませんか?『第十二位』」

「こわっ、あはははは。やっぱりなかなかいいよセリア。……けどね。口の利き方を気をつけるのはてめぇの方だあぁぁ。あははははははっ」


 セリアは思い返していた。

 天使の中でも年若く、十二使徒の中では最年少の自分には、見たことのない天使など山程いる。

 特に世界中を好き放題に飛び回っている他の十二使徒など、セリアはほとんど面識がない。

 その中でもアグリアから言われていた危険人物。関わるなと言われていた存在。


「……気狂いイエリア。あなた、私に喧嘩うってるんですか?」

「売ってない売ってない!! ……けどさあ、勝てない相手にそういう口は利かない方がいい。アグリアの下についてる程度の奴が、それは無茶だよ」


 目の前の第十二位は、セリアに常に笑いかけている。しかし、その目。


「……ゴミリアに勝ったっていう奴がどんなもんなのか見に来たんだけど、あんなのだとは思わなかったよ。千年の大悪魔なんてついで(・・・)だったけど、あれもいいねえ……。うん、すごくいい……」


 うっとりと頬を歪めるその顔を見て、セリアの心に言い知れない感情が湧き出た。


「ずいぶんと、大きな口を叩きますね」

「階位なんて強さで決めてる訳じゃない。オレには誰も勝てやしないよ。だから、やめときな。……だいたいさあ、オレ達は仲間・・だろ? やるんだったら千年の大悪魔だろ。手伝おうかセリア」

「……やってみろよ。あんたそんなに私の『鮮血』が見たいの?」

「冗談冗談!! ジョークだよ……。あはははははっ」


 場の主導権が掴めない事にセリアは苛立っていた。目の前の気狂い天使は一人で楽しそうに笑い転げている。……可愛らしい顔を涙で歪め、腹を抑えて苦しがっていたイエリアは、荒れた息を吐いてから、己の目元を指で拭った。


「ひぃ、ひぃ〜っ。……あ〜面白かった」

「……気狂いが」

「ははは……。君もそのうち分かる。正気じゃ人生はやってられない。偽りの涙を流して笑顔を浮かべて、そうしなくちゃ退屈と諦めの中で死んでしまう。ははは、はははははっ」

「質問を変えます。理由は分かりました。なら、これからの目的は?」


 セリアには、アグリアが『関わるな』と言っていた理由が良く分かった。

 こいつは、話が通じない。


「目的ィ? それがお前になんか関係あるのかよォ。……けどいいよ。オレは今日、気分がいいんだ。特別に教えてやる。……なあセリア。お前だって考えた事あるんじゃないのかア? オレたちは、なんの為に生まれてきた? 訳も分からず産声をあげて、訳も分からず生きている。こんな生物が他にいるのか?」



 天使には、家族がいない。

 天使は生誕の泉で受肉するからだ。親もいないのに勝手に生まれてきて、その後も勝手に生きてゆく。天使の決まり、『繁栄を助ける』という事だけに縛られて。やがて、戦闘等で死んでしまった天使は再び生誕の泉で受肉する。


 そして、ならば天使は死なない(・・・・)のか。



「……親もいないのに生まれてきた、無限のように生きていられるオレ達の最後は、その魂の力が尽きた時——あるいは、なにかを達成した時だ」

「知ってます。あなたに教えてもらわなくても」

「諦めか、満足かだ。……だったらオレは満足して消えたい」


 その顔に微笑みを浮かべたまま、イエリアは静かに続ける。


「家族を作り、微笑みながら消えていったっていう『純白』のワルギリアみたいにね。……アグリアもカザリアも、数多いワルギリアの『子供』の一人だ。けどね、そんなごっこ遊び(・・・・・)じゃなくてさあ」

「あなた、そんな事をアグリアさんの前で言ったら本当に刻まれますよ」

「ムリムリ。オレには誰も勝てないよ。……なあセリア、オレは本当に家族になれるかもしれない奴を見つけた。あいつはいい、すごくいい。……もう誰かを守るのは飽き飽きだ。オレは、守られたい。自分よりも強い(・・)存在に」






 ————————————————






 シズが盗み見る馬車の中では、天使達が二人でよく分からない事を話し合っていた。

 しかし、片方は常に笑っていたので、特に問題はないのだろう。まだ話を続ける二人に気付かれないように、シズはそっとその場を離れた。


「もう、明るい、です」


 気付けば空は白み始めている。

 シズは可愛らしいあくびを一つしてから、アゼルが寝ている馬車に帰ろうとした。しかし、そこでシズはやり残した事を一つ思い出した。

 なので、それをする為にそちらに向かった。


「んしょ、よっ……」


 その馬車の中には寝息が響いていた。

 シズの兄がお腹を出して幸せそうに眠っている。シズはその体をゴロゴロと転がした。


「……んにゃ、あ、アゼル、やめろって、いや、いやぁ……クーローン…………フィ、フィレット、ちがっ……」


 なんの夢を見ているのか。

 しかし、シズはそれを考えずに、兄の体を目的の場所まで押し込んだ。


「……よし、です。これでいい、です」


 馬車の中には寄り添うように寝ているジークエンドと迅八の姿があった。

 それを色々な角度で眺めてから、一つ手を加える。


「……完璧、です」


 ジークエンドは半裸のままで己の左腕を枕にしていた。シズは反対の右腕をそ〜っと動かし、迅八の腹の上に乗せた。


「やっぱ、これが一番の候補、ですっ」






 ————————————————






 アゼルは、気が付くと自分の体にしがみつく熱を感じた。


「ん、あ……シズ? ……出歩いてたのか。なにしてたんだ?」

「眠い、です」


 目をショボショボとさせて自分にしがみついてくるシズの背中を、アゼルは優しく叩いてやった。


「じゃあ、寝ようか。まだもう少しなら寝れるはずだよ」

「おやすみ、です」


 すぐにシズは眠りに落ちた。

 それを見てアゼルは優しく微笑む。


「全く……。妹はこんなに可愛いのに、兄貴はただの変態だ。血が繋がってるとは思えないよ」


 少女達はまどろみに沈む。

 馬車の中に入り込んでくる、きらきらとした光に包まれて。




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