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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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運命の輪

 



 目を覚ますと、迅八の目の前にジークエンドの端正な顔があった。


「…………」

「……んん、むぅ、かー、かー……」


 普段、無表情で目だけで物を語る男。

しっかりとした眉と切れ長の瞳、アゼルと方向性は違うが、同じ位に整った顔のその男は、今は口をまあるく開けて、可愛い寝息を立てている。


「……カッコいい、いや、違うでしょって」


 そのたくましい腕が迅八の腹の上にある。

迅八は、それを乱暴にどかして上半身を起こす。馬車の中には迅八とジークエンドの二人しかいないようだった。


「……あれ。コルテとアマレロはまだ帰ってきてないのか? 朝までバイク乗り回してんの? ……はは、元気だね」


 イエリアもいない。

 (ほろ)の隙間からは朝の光が馬車の中に入り込んできている。森の朝、特有の澄んだ空気を迅八は吸い込む。


「んーー………ん? なんの匂いだ?」


 静謐せいひつな朝の爽やかな空気に混じる、生々しい匂い。すると、馬車の外から物音がした。

 その音を確かめようと迅八が馬車から表に出ると、そこにはコルテとアマレロがいた。


「ふ、二人とも……。どうしたの、大丈夫!?」


 アマレロは大剣を杖のように突き立てて、そこに己の体を預けている。


「……ぜっ、ぜっ! ……ハァ、ハァっ!」


 身体中が血液と汚れ、そしてよく分からない組織片にまみれている。凄まじい悪臭が迅八の元まで届いた。


「ちょっと二人とも、どうしたの!?」

「イエリア……。あいつはどこにいやがる!!」


 コルテの目がギラギラと迅八を見ている。その血走った目に迅八は息を呑んだが、すぐにその声に答えた。


「朝起きたらいなかったけど……そんな事よりも大丈夫!? アゼル呼んでくるよ!!」

「……ぜは〜ッッ!! 坊主、別にいらね〜よ。大した怪我はしてねえからな〜」


 アマレロが『七星』をその場に突き刺したままで馬車に寄っていく。身の丈ほどもある大剣は、大地に突き立ったままで揺るぎもしない。


「……お〜。おりゃ〜寝るぞ〜。起こすなよ〜」

「僕もです。……ジン、朝飯はあんたが作りなさい。クーロンが騒いでも絶対に僕のとこまで来させるなよ……」

「う、うん。ちょっと、本当に大丈夫なの?」


 その言葉には答えず、二人は迅八を押し退けるように馬車の中に入っていった。

その背中を迅八が見送ったあと、どこかからイエリアが再び現れた。


「……ジン。あのふたり帰ってきたの? あはははは。朝まで戦ってたんだね。元気だね〜」

「イエリア、一体、」

「ああ。オレ結界貼りっぱなしなの忘れてたよ。朝まで魔獣と戦ってたんでしょ。あはははは……バッカみたい!! あはははははは!!」


(こいつ、人格的にかなり問題あるんですけど……)



「あははははははっ、楽しそーうっ」

「謝っておいた方がいいと思うよ。あの人達……っていうか、みんな怒ると怖い人ばっかだから。お前なんか泣かされちゃうぞ」

「オレが怖いのはジンだけだよ。どうでもいい奴らに嫌われても痛くもないし怖くもない」


 朝の光を受けて笑っている天使は、相変わらず素直な心情を言葉に乗せる。


「なんでもいいけど、そんな事あの人たちの前で言うなよ!! ……それと、何してたの? 顔でも洗ってたのか? 近くに水場あった?」

「いや、ちょっとお仲間(・・・)とね。話してたんだ」


 すると、一台の馬車から天使がもう一人出てきた。


「ジンくん。おはようございます」

「セリアっ。……大丈夫!? 手は痛くないか!?」


 青い髪の天使は迅八に近寄ってくると、傷跡が残る両手を広げ、迅八の体を抱いた。


「ちょ、なになに!?」

「ありがとう……。ジンくん」


 少女の面影を残す青い天使の体温が、迅八へと伝わってくる。ぎゅっと迅八の体を抱きしめ、その背中を優しくさすってくれる。


(こ、これだよ。こういうのだよ……!)



「……ジン。なんかオレの時よりも嬉しそうだね〜。もう、差別的だなあ。……セリアあ、お前離れろよお」

「黙りなさい第十二位。……ジンくん。私の為に腕を……、ごめんなさい」

「いや、いいよ!! 元はと言えばセリアが俺を庇ってくれたからだ。あれくらい大して痛くないから」


 痛くないはずなどない。世界中の誰に尋ねてもそう答える。


「……ジンくん」

「え……」


 迅八の額に、セリアは優しく唇をつけた。


「サジタリアに、……ううん、クロウに先に会ってなかったら、やばかったです」

「ちょっとちょっとお。セリアはクロウの事が好きなんじゃないのお? 誰にでも色目使ってんじゃないよおまえぇ……」

「弟みたいです。 ……天使には家族はいませんけど」

「だからオレはジンと家族になるんだよー。……伝説の『純白』の天使みたいにね。家族を作るんだ」


 柔らかな唇を自分の額に感じて、思わず迅八は赤面する。

 クーロンは近所の優しいお姉さん。

 アゼルはちょっと気になる同級生。

 そしてセリアは。


(と、図書委員……)



「もう。とろけたカオしちゃってさあ。まあどうでもいいけどさ。……ところで、さっさと帰れよセリアぁ。お前、アグリアのとこ行くんだろ」


 その声に迅八は顔を上げる。


「セリア、北の国に行くんじゃ?」

「ごめんなさいねジンくん。私はクロウの事が知りたくてあなた達についてきたの。けど、それも分かったからアグリアさんの所に一回戻ります」

「一回ってなんだよ〜。もう戻ってくんなよお。ジンにはオレがついてるからさあ」


 迅八の寝ている間に、十二使徒たちの間で何かの話し合いが行われていたようだった。


「すぐに行くの? セリア」

「一応、皆さんに挨拶してからにしようと思います」

「じゃあメシ食おうよ。コルテに作れって言われたんだけど、俺一人じゃ火とか起こしたりするのも大変だし……。手伝ってくれる?」


 無邪気に笑う少年を見て、セリアは呆気に取られる。今までも何度も見た。この少年は、こういう顔で笑うのだ。

 そして、いざとなれば躊躇いもなく、己の体を死地に投げ出す。その両腕をたやすく断ち切る。


「……本当に、やばいです。ああ、先にジンくんに会っておけば……、うう〜ん、それはそれで苦労しそうです……」


 ブツブツと何かを呟いている天使の手を引き、少年は歩き出す。


「ほら、セリア。手伝ってくれよ。イエリアも」

()? もっ、てなんなの? その、ついでみたいな感じ、ちょっと腹立つなあ……」




 ・・・・・・・・・・・・・・・




 迅八達が食事の用意を終えた頃、そこにクーロンとクロウもやってきた。


「……お? ミソか。誰が作った?」

「ん? 俺だよ。具はそこらで取ってきた」

「おいおい、食えるんだろうなてめえ。俺様に下手なもん食わせたら承知しねえぞボンクラが」

「わ、わたしも手伝いました!!」

「あ、そう」


 勢いよく手を挙げるセリアにクロウが素っ気ない一言で返す。セリアはその一言で消沈した。


「も、もーうっ!! やっぱ、やさしくないです!! ジンくんの方が全然やさしいです!!」

「だあ〜かあら、俺様は悪魔なんだっての!! 求める方がおかしいんだよ!!」


 やいやいと言いながらもセリアがクロウに腕を渡す。湯気が昇るその腕の中身は、森の葉物やキノコ、馬車に備蓄してあった肉などが入れられた鍋だった。


「ん……悪くねえ。おいジンパチ。今度これにシャケ入れろよ」

「石狩鍋かあ。いいね、俺も食べたいな」

「なんだそりゃ? うめえのか?」

「うまいよ〜。ちょっと甘めにしてもいいし、俺はしょっぱい方が好きだけど」


 話し始めた迅八の隣に、クーロンが腰掛ける。


「どれ、あたしももらおうかね。いや〜、お腹空いちゃったよ」

「あんな事してたら、そりゃお腹も減りますよう……」


 セリアが渡してくれる腕を、クーロンも食べ始める。イエリアは一人でさっきから勝手に食べている。ちなみに、イエリアは鍋を作る時に、特に手伝ってはいない。迅八を応援したり、セリアをからかったりしていた。


「うん、美味しいねえ。坊や、あんた料理も出来るんだね」

「ん〜、そだね。必要だったから」


 迅八の顔に、暗い影が差す。

 それを見てクーロンは思う。この転生者の少年の、自分達は知らない過去の話を。


(そろそろ、放っておけないねえ……)



 それは、コルテが感じていた事と似ていたが、クーロンのそれは優しさから出たものだった。

 クーロンは迅八の方を向くと、そっとその体を抱きしめた。


「ちょ……。クーロン、なになに」

「くかかかかかか……。なあ〜にを朝から興奮してやがんだ。このサルガキが」


 下品に笑う大悪魔は相手にせずに、クーロンはその手に力を込める。


「ごめんよ。坊や」

「え、は? なにが? ……いや、それより、む、胸、当たって」

「……あたしはあんたを疑った。坊や、悪かった。あたしは、あんたを信じる」

「は、はあ〜?」

「あたし達のそばにいる限り、あんたとシズはあたしが守る。……必ずだ」

「え? あ、そう? あははははは。……なに言ってんのクーロン」


 気もそぞろに自分の胸の谷間に目が釘付けになっている少年を、クーロンは更に抱きしめた。


「……あたしがした事は許されない。あんたは、きっとあたしを信じてくれている。信頼を裏切る事だけは、あっちゃならない」

「そ、それよりも、太もも、張りのある太ももが……!」


 そして、クーロンは己の頬を優しく迅八の頭につけた。その胸の中に、迅八の頭を抱いて撫で続ける。


「……そんなに触りたいのかい? いいよ。あんたが望むなら。間違いを犯したら、罪人(とがびと)は捧げなくちゃいけない。……この体はあんたの好きにしていい」

「……ぶぱっ」


 ぴゅーっ、と。

 迅八の鼻から噴水のように血が噴き出した。


「き、きたねえなてめえ!! ぶっ殺されてえのかこのサルが!!」

「さ、捧げるって……それより、間違い? 裏切る? なにが?」


「……よう変態。朝から楽しそうだな」


 それは、気になる同級生の声だった。


「あ、アゼル。ち、違うんだって」

「クーロン。こんな変態にあんま触らない方がいいよ」

「おはよ、です……」


 アゼルがシズの手を引きその場に現れる。

シズは、アゼルに引かれている手とは違う方の手で、ショボショボと目をこすっていた。


「おはよう二人とも。……シズ。お前、目え真っ赤だぞ。どした?」

「朝方馬車に帰ってきたんだ。昨日、俺が寝てから一人で出歩いてたみたいなんだけど。……シズ、なにしてたんだ?」

「ん……、ひみつ、です」


 その言葉にアゼルはショックを受けた顔をした。唇がわなわなと震えている。


「兄離れか……? 早くないか?」

「だからお前は兄じゃねえっての!! 兄貴は俺だ!!」


 ジークエンド達はまだ寝ている。

 それ以外の人間たちが朝食に揃い始めたその時、朝の空気を震わせる爆音が響き渡った。




「う、うううううううッッ!!」

「…………………にゃ」

「おねえさま……おねえさま!!」


 迅八がそちらに目をやると、キッドがバイクにまたがりハンドルを握っていた。

 そして、サイドカーには後ろ手を縛られたキリエが放り込まれていて、ブルはキッドの後ろに座っていた。


「ぼ、僕たちは帰るからな……。もう勘弁してくれ。帰らせてくれ!!」

「いやっ。あたし帰りたくないっ! ……おねえさまあああああ!!」

「………………あにゃ」


迅八は、「ああ……」と言いながら続けた。


「ああ、キッド……つーかトムか。メシ食ってかないの?」

「このモンキー。淡白な反応しやがって!! ……お前らの事は絶対に忘れないからな!!」


 ブルンブルンと排気音を出しているバイク。そのシートからほんの少し腰を浮かせて、キッド——もといトムは、迅八にがなりたてた。


「やめてって言ったのに……。本当に、本当にお願いしますって言ったんだぞっ!!」

「いやっ! あたしはおねえさまと一緒に居たいの!」

「……………………たあ、にゃ」


 迅八を抱いていたクーロンが、その体を横にどけて立ち上がると、トム達に向けて足を踏み出した。


「……キディ坊や。あんた正気かい?」

「ひぃっ、や、やめて! こっち来ないで!!」

「おねえさま……。助けておねえさまっ」


 迅八は昨日、途中で馬車に戻り寝てしまった。あの後の事は知らない。……しかし、怖れを隠そうともしないトム、恍惚とクーロンを呼ぶキリエ、魂が抜けたようなブルを見れば、クロウとクーロンがどんな行いをしたのかは、容易に想像が出来た。


(……かわいそうに)



「もう充分だろおっ!? 頼むよ、もう追ってこないでくれ!!」

「違う。違うんだよキディ坊や、あたしが言ってるのは。……あんた、正気かい? 本当に、そのバイクに乗っていくのかい?」


 その言葉を聞いて、朝食を食べていた者たちがうんうんと頷きあっている。


「これは元々ボクたちの物だ!! このバイクは依頼者に届けないとまずいことになるんだ!!」


 すると、黙って聞いていたアゼルがいつの間にかトムのすぐそばにいた。その両手にナイフを持って。


「うおっ!?」

「……待て。違う、誤解するな。これをやるよ」


 アゼルは両手のナイフをトムに渡すと、こんな事を囁いた。


「……いいか。これから恐らく……そうだな、すぐだろうな。お前は必ず後悔する。その時にはそれを使え」


 渡されたナイフの冷たい感触。

意味が分からない贈り物にトムは困惑する。しかし、それを渡した後、アゼルは元の位置に戻ってしまった。


「ちょ、ちょっと、なんだよコレ」

「そっかあ……。ま、元気でな。トム、キリエ、あとなんか、もう一人のひとも」


 迅八はトム達に手を振った。周りの者も、誰もトム達を止める事はなかった


「……ま、まてよ。なんだよ。何を企んでるんだよ」

「キディ坊や、なにもありゃしないよ。別にもう行っていいよ。あんた達には飽きたしね」

「そんなっ!? おねえさま、昨日はあんなに……、あたしの事、可愛いって!!」

「昨日の話だ。あんたの体はもう飽きた」

「え……嘘。そんなの、だって……!!」


 冷たすぎるクーロンの言葉に、キリエはさめざめと泣き出した。可愛らしい目を歪めて、絶望の慟哭をあげている。その様子を見た迅八が顔をヒクつかせた。


「ちょ、ちょっと……。クーロン、言い過ぎじゃ」

「まあ、頑張って行けるところまで行けばいい。……アマレロのバイクを盗んで(・・・)ねえ」

「め、滅茶苦茶な事ばっか言いやがって!! だから、これはボクたちのもの、」


 そこでトムは気付く。誰も笑っていない。一種の諦めに似た表情を浮かべている者もいる。一瞬の静寂のあと、迅八が口を開いた。



「……トム。出来れば、キリエだけでも助けてやれよ。じゃあな」

「ちょ、ちょっと待てよ。あんま脅かすなよ。そもそも、これはボクたちの物だぞ? それに乗っていったからって、追ってこないだろ? ……来ないよな?」


 アゼルは淡々と言う。優しさではなく脅迫でもない。ただ、淡白な助言を。


「……いいか。上から数えて四本目と五本目だ。その間だ」

「は? なに? なんの話だ?」

「ナイフの使い道だ。……肋の、上から数えて四本目と五本目の間に刺すんだ。横向きに滑らせるように入れて、その後ひねれ。そうすれば一瞬で済む。……二本渡しただろ? アマレロに捕まりそうになったら捕まる前に自分達でそうしろ。……いいか。必ず『捕まる前』だぞ」






 トムはハンドルからゆっくりと手を離すとバイクから降りた。そして、ちょっとだけ汚してしまったシートをパンパンと手ではたいた。

 泣き崩れているキリエ、魂が抜けたようなブル、二人を残してクーロン達の元に向かう。


 ——商人ギルドの若きエース、『先読み』キッド。彼は己の戦いに足を踏み出した。

 今、仲間たち二人を救えるのは彼しかいないのだ……!



「えへ、えへへへへ……。あのう、馬車、一台貸して頂けませんかね……。はァ、お代はもちろん後で払います。どうかお願い出来ませんかね……。えへへへへ」






 ————————————————






「……ブル、スピード落としてくれ。響くんだよっ。くそっ、あいつらめええええ!!」

「おねえさま、おねえさまぁ……」


 すでに野営地からは遠く離れた。

 あの後トムはクーロンに借用書を書かされた。その内容を簡単に言えば、馬車一台の貸し出しと、サービスとして付けられた粗末な衣服の代金に、元の世界の高級車十台分くらいの値段が付けられていた。


「本当に関わりたくない!! もう二度と顔を見たくない……!!」


 ブルは起きてから一言も喋らない。時々うわごとのようにブツブツと何かを呟いている。

 キリエはと言えば完全にダークエルフの虜にされてしまった。いつまでも泣き止まない。

 ほんの好奇心——ロンダルシアまでの暇つぶしは、トム達から大きな代償をもっていった。


「ブル、スピードゆるめろって!!」


 馬車は全くスピードを落とさない。

 いまだ正気とは言い難いブルは、それでも御者としての本能で、馬車を先に先にと進ませる。

大草原の風を受けて、馬車は西へとひた走る。


「……しかし、収穫もあったな。ロックボトムの弟は、()だった。……現地人の悪党なんて興味ないから調べていなかったが」


キリエは正気を取り戻さない。

独り言のようにトムは呟く。


「……ディアラインといえばキナ臭い歴史の国だと聞いている。ボクたちがこっちに来る前の話だ。調べようとすら思わなかったんだが」



 そこには、何かがあるのかもしれない。



「少し調べてみるか。……ああ、けどもうあいつらに、関わりたくないなあ!!」


 しかし、借用書を書かされた。どうせ関わりは避けられない。それなら交渉材料は手に入れておくべきだ。……そこまで考えたところで、その愚考をキッドは自嘲する。


(……交渉? あんな奴らに?)


 あいつらに、交渉などは似合わない。おそらく金では転ばないし、物でだって釣られないだろう。欲しいものは奪い取るのだ。しかし、情報ならどうか。


「……どっちにしても調べるか。ヤバい事にならなければいいが」

「……あいつ。許せないッスーーーー!!」

「き、キリエ……元に戻ったのか!?」

「ジンさん……いや、ジンッす!! あいつ、あいつあたしからお姉さま取りやがったッス!」

「な、なに言ってんだお前……」


 一晩かけて、トムはクーロンとクロウにいたぶられ続けた。しかし、キリエにはとろけるような快楽も、クーロンから与えられていた。


「あいつゥゥゥゥ!! お姉さまがあんな風に優しくするなんて……。あたしたちから散々奪っておいて、あいつには『捧げる』って言ってたんすよお姉さまは!! ……トムは悔しくないッスか!? お姉さまは奪う存在ッス!! 捧げる存在じゃないッス!!」

「しょ、正気になれよ……。悪い夢だったんだ。ウェイカップ……カンバーーーーック!!」


 遠くから少しずつ近付いてくる南の国——王都ロンダルシア。

 暴れるキリエを押さえつけながらトムは様々な事を『先読み』する。

 その目つきは確かに商人ギルドの若きエース、先読みキッドの物だった。



「……元の世界で、様々な『才能』をもっていた者たちが、この世界でそれを開花させている。お前の道には必ずそいつらが立ちはだかるぞ。テラダジンパチ……!!」

「なあ〜にカッコつけてんスかこのキモオタ野郎ッ! 早くあいつをギャフンと言わせるネタを仕入れに行くッスよお〜!!」

「キモ……!? おい、許さない、それは許さないぞキリエ!! 訂正しろ!!」



 迅八達よりも一足先に、キッド達は王都ロンダルシアへと向かう。大草原の空も風も、どこにも影は見当たらない。

 しかし、彼らはまだ知らない。自分達がいつの間にか上がってしまっている舞台の存在を。


 転生者、十二使徒、現地人達と大悪魔——彼らはまだ気付いていない。自分達が導かれる『運命』のその先を。




 先に見えるのは南の国、王都ロンダルシア。少しずつ、演者達は舞台の上に集い始める。





四章 本編終了

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