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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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(やっぱり、この人たちは頭がおかしい。絶対におかしい……)



 迅八が居る馬車の中では、裸になったジークエンドが寝ていた。その身体には薄い布だけ掛けられていて、たくましい体つきが浮き彫りになっている。例えるなら、


(……いや、別にいい。そんな描写はいらない。それよりもなんで裸なの? このひとなんなの? こんな時もライフスタイル譲らないの?)



 あの後、キッド達三人は処刑をまぬがれた。

大草原の真ん中で夜を明かすよりも、商人ギルドの野営地に行った方がいいというイエリアの言葉に従い、一行は森の野営地まで来ていた。


迅八の襲撃により崩れた焚き火は組み直され、炎の揺らめきは夜の野営地を照らしている。

人の手が入り(ひら)かれたその場所は、クエストの際に利用出来るように、分隊規模——十人程度の人間なら余裕を持って利用出来るくらいには整備されている。

そこに、木造の小屋が一つと馬車が三台。迅八達は体を休める為に、それぞれがあてがわれた場所で、思い思いの事をしている。


 男達が馬車一台。

 女達が一台。

 クロウとセリアが一台。


 そして、クーロンはキッド達を連れて小屋に行ってしまった。



 ——ふむ。待てクーロン。俺は小屋で寝る

 ——うるさいねあんた。今日は馬車で寝とくれよ

 ——待て。ロックボトムの方針を決めるのは俺だ。おまえが……

 ——うるさい(・・・・)。黙ってな



 ジークエンドは馬車に行った。

その後、迅八がどれだけ話しかけても返事はしなかった。アマレロは、痛々しいものを見るようにジークエンドを見ていた。


 アマレロはこんな真夜中だというのに大草原でバイクを乗り回している。コルテも付いて行ってしまった。

今、この馬車の中にはジークエンドと迅八と、もう一人、『男』がいる。


「……ねえ、ジンはさあ、あったかいねえ……」


(……こいつの事とか普通ほっておくか? ジークエンドさん本当に寝てんの? なに考えてるの?)



 迅八は、生えたばかりの自分の腕に頭を載せて、甘えるように胸に顔を押し付けている天使を見る。


「なんなんだ……」

「……なあに? どしたの? もう一回したいの?」

「したくねえよ!!」


 寺田迅八、十八歳。

 その純白の唇は、目の前の美しい少年に蹂躙された。みんなの前で。特に、最近気になる可愛い女の子の前で。


(はじめて、だったのに……。アゼルにも、妹にも見られた……)


「ねえねえジン。ぎゅってして。ぎゅって」

「しねえええええわ!! ……つーか離れろよ。なんで俺は、当たり前のように腕枕させられてんだ!!」

「ほらジン。うるさくするとジークエンドが起きちゃうよ。今不機嫌だからこわいよ〜?」

「ひっ」


 ジークエンドが寝返りをうち、その布から美しい肉体が出てくる。たくましい筋肉が。


(……なんなんだよこの状況。アゼルは? クーロンは? イエール(・・・・)は!? ……ラッキースケベは!?)


 その時、馬車の外からカタリと音が聞こえた気がしたが、迅八は特に気に留めなかった。

 野営地はイエリアの手により広域結界が貼られている。何者も中には入り込めないはずだ。


「……ねえねえジン。ぎゅってして、ぎゅって。穴から落ちた時みたいに」

「だから、しないよ。可愛い顔してるから余計に腹立つ……!!」

「ん、可愛い? ……あはは、嬉しいなあ」


 真っ直ぐに自分に笑いかけるイエリアの顔を迅八は見た。この数日で見慣れてしまったが、これだけ間近で見ると、やはり美しい。

 疑いもせずに女だと思っていたのだ。男だとしたら、美少年どころの話ではなく、まさに『天使』だった。

 すると、その天使の目が閉じられて、迅八の方に唇が突き出された。


「ん……。ほらほら」

「だからやめろってマジで!! もう、なんなのおまえ!?」

「あははっ、照れてるの? かわいいねえジンは。カッコイイし最高だよ」


 偽りなく心情を乗せる言葉に思わず迅八は赤面する。そして、何を言っていいか分からなかった迅八は、その言葉を投げかけてしまった。


「なあ、あのさ。……おばあちゃん(・・・・・・)は、白い花は……」

「ん〜? あれ? ……ウソだああああぁぁぁ。あはははははっ!! びっくりした? びっくりしたあああ!?」


(……こいつ、殺してえ)



「……ジン達が自由貿易都市に向かってるって情報を掴んだから、ずっとあそこで冒険者をからかって暇潰してたんだ。まさかジン達がそこに来るとは思ってなかったけどね。本当は陰から覗いてようと思ってたんだあ……」

「え、じゃあ、あの人達は……」

「毎日毎日、オレにからかわれてた可哀想な奴らだよ。朝から晩まで相当しつっこくやってやったからね〜。五万円でそんなクエスト引き受けるバカいないよねえ。あはははははははっ!」


(こいつ、引きずり回したいんですけど……)



「けどねえ。いくつか計算違いがあったよ」

「はあ? ……これ以上、俺をムカつかせんのか?」

「はははは。実際にバカがいるとは思わなかった。それに……白い花は、みつけてしまった」

「よし、上等だよお前。表でるか……」


 イエリアは、真っ直ぐに迅八の目を見ている。

暗闇の中で、その金色の瞳が猫のように細くなると、潤んだ瞳で迅八に囁いた。


「ジン、もう一度言う。……これは、誓いだ。君がオレの事を守ってくれるなら、オレは君の剣になるよ。そして、君の盾になるよ。君が望まない物はこの世界から消してあげるよ」

「……だったらてめえが消えろッ!!」


 訳の分からない事しか喋らない天使に、迅八の堪忍袋の緒が切れた。

 イエリアの胸ぐらを乱暴に掴み、馬車の外に引きずり出そうとすると、その手におかしな感触があった。


「ぁんっ!」

「……おやあ?」


 迅八は不思議な既視感を感じていた。……おかしい。前にもこんな事があった気がする。


「おや、おや、おやあ……?」

「ぁんっ、ぁんっ、ぁん……!」


 胸ぐらを掴んだ手の甲(・・・)

 そこに、ふにふにと柔らかい物が当たっていた。

 ……しかし、手の甲では、分からない。そう、手の甲ではわからないのだ。

 なので、迅八はそれを掴んでみる事にした。


「ふに ふに ふに……」

「あ、あ、あ……っ」

「ふむ」

 

 迅八は、ジークエンドのようにひとりごちてから叫んだ。


「……なんで急に、胸が膨らんでんだっ!! てめえええッ!!」


「うるさいぞ……。貴様らいい加減にしろッッ!!圧死したいかッッ!!」






 ————————————————






「サジタリア、痛い? ……痛いよね。ごめんね、本当に、ごめんね」


 その馬車の中では、青髪の天使が横になり泣いていた。クロウはそれを見てウンザリとした気分になった。


「うるせえなあ……もう痛かねえよ。それとな、俺は『サジタリア』じゃねえ。お前だってそんな事はもう分かってんだろが」

「ご、ごめんなさい。そうだよね。ごめんね……」


 こんなやり取りを何度もしている。

 馬車の中にはメソメソとした湿った空気が充満していた。そして、クロウはその空気が非常に嫌いだった。


「ああもう……。てめえは俺に恨みはねえのかっ!? なんでテメエが謝るんだ。腕くらい当然って顔してりゃいいだろが。このバカ天使が!!」

「だって、だってええぇぇ……!!」


 ひんひんと泣き続けるセリアは、クロウの髪の毛の房を掴んで離そうとはしない。まるで幼い子どもだった。


「ちっ!! ……実際にガキか。俺様の五十分の一しか生きちゃいねえ」


 クロウは馬車の壁に背中を預け、床に座っていた。セリアは床に横たわり、時折うつらうつらと船を漕いでいる。……セリアは眠りに落ちそうになる度に、クロウの髪の房を掴んだ。


(泣き疲れて眠くなる……。本当にガキだ)


 そして、クロウはそのガキに守られた。






「……ねえ、サジタリア。……あ、ごめんね。クロウだよね」

「ふん。それも気に食わねえ名だがな」

「クロウは、やさしいね……」

「……てめえ、俺様を侮辱するのか?」


 一瞬だけ、クロウの表情が悪魔のそれになる。しかし、セリアはそのまま言葉を続けた。


「ずっと、あたま撫でてくれてる……」






 クロウの両腕はまだ生えていない。頼りなく肩が残っているだけだ。


「……てめえ、どうにかしちまったのか?」

「肩がね。ずっと動いてるの」


 クロウは自分の肩を見る。動かした覚えはない。


「そりゃ、動く事もあるだろうよ。だからってなんで、」

「ううん。見えるの。……やさしい手が」


 ——こんなイカれた天使には付き合いきれない。そのままクロウは上を向き黙り込んだ。


「なんで、ずっとここにいてくれるの? 髪の毛も、ずっと触らせてくれるね」

「そりゃおめえ……」


 なんでだ?






「ねえクロウ」

「……うるせえ。寝ろ」


「これからきっと、あなたとジンには困難が降りかかる」

あのガキに(・・・・)だ。俺にはカンケーねえ」


「あなたは、あの子を必ず助ける」

「どいつもこいつもっ!! ……俺は悪魔だ。てめえらには付き合いきれねえ!!」

「それが運命よ。……クロウ、眠っていたあなたは知らないかもしれないけれど、いま、世界にはおかしな動きが出始めてる。あなた達は、きっとそれに立ち向かってゆく事になる」

「……はあ? 悪魔と戦うのは勇者の役割だ。 ……くかかかか。そうなると俺たちが悪モンだな」

「そうじゃない事は、私達(・・)は知ってるわ。……ねえ、クロウ」

「……あんだよ」


「悪魔でもいいし、ウソつきでもいいよ。だから」

「………………………」

「死なないで、……う、死なないで……っ」






 セリアは泣いていた。クロウは、そちらを見ずに声を出した。


「……く〜だらねえ」

「クロウ……」

「俺は死なねえ。強えからだ。……だが、クソ忌々しい結魂のせいで、アイツ(・・・)が死ねば俺も死ぬ」

「…………」

「だがな。アイツは死なねえ。俺のそばにいる限りはな。……寝ろ」


 セリアはクロウの顔を見ようとしたが、長い髪に隠されて、その表情は見えなかった。


「……うん。そうだよね、ごめんね」

「だあ〜かあら、ごめんじゃねえんだよ。鬱陶しいぞてめえっ!」


 クロウはさっきからずっと上を向いている。その顔は髪に邪魔されて見えない。しかし、クロウの怒声をセリアは恐れなかった。


「ねえ……。肩」

「あん?」


 ゆっくりと、ゆっくりと、その肩が揺れている。

 クロウが己の肩を見ようとした瞬間に、その揺れはおさまった。


「……だから、肩がなんだよ」

「やさしいね、クロウ。……ジンを守ってあげて。死なないで」

「…………」



 そのままセリアは眠ってしまった。

 ……穏やかな寝息を立てて、自分の髪の毛を大切そうに握っている女をクロウは見る。

セリアの手から伸びる腕には、引きれた傷跡が残っていた。


「……バカな女だ」


 この傷跡は、消えないかもしれない。

 回復術で全ての傷が治る訳ではない。トラウマとなり魂にまで刻まれた傷は、見た目は完治しても痛みを与える事もあるし、そもそも傷が治らない場合もある。

 トラウマにならなくてもあまりにも酷い怪我は、その跡を体に残す事もある。回復術は『回復』であって、整形術ではない。

 クロウはセリアの腕を見つめている自分に気が付き、やはり胸が強く乱された。


(……厄介事ばっかだ)






 その時、クロウに『声』が届いた。


「……なんだ!?」


 その声は、クロウの魂に届く。


「誰かが……俺を呼んでる。それに、この匂いは……」






 ————————————————






 埋れてしまった遺跡の入り口の前で、コルテは腕を組んでいた。


「……こりゃあもう無理ですね。入れねえ」

「お〜? なんだってんだ。こんなとこがよ〜」


 四角く切り取られた入り口は、わずかな隙間を残して土砂で埋められている。そして、その土砂は入り口から奥まで、かなりの距離を埋めているようだった。


「俺が吹っ飛ばしてやろうか〜?」

「岩だったら出来たかもしれねえですが、土砂だ。どんどん崩れるだけでしょうよ」


 クーロンやアゼルから聞いた。

 この遺跡の奥の奇妙な部屋と、聞こえたという『声』。

それを自分の目と耳で確かめたいと思い、コルテはアマレロと二人でここにやってきた。


「ふ〜ん……。で、どうすんだ〜?」

「どうにも出来ねえです。ま、別に行ったからって何かが分かるとは思ってませんでしたけど……」


 今回の騒動は、コルテにとって意味が分からない事が多すぎる。迅八とシズの事もいい加減ほうっておけない。

 ロックボトムは入れ込まない。しかし、一緒に旅をするのだったら、そろそろ詳しく事情を聞く必要もある。

迅八達には分からなくても、大魔術師である自分からすれば、意味のある情報があるかもしれない。


「……あの技も翼も異質すぎる。なんなんでしょうね。アイツは」

「ど〜でもいい事を気にしてんだなてめえはよ〜。邪魔になったら殺せばいい。それだけだろうが」


 アマレロにはこういうところがある。入れ込まないのではなく、元から興味を持っていない。

 迅八とクロウが腕を切り落とした時、コルテは実は期待していた。一体なにをやらかすのかと。

ジークエンドにもそんな気配があったが、アマレロは違う。


 セリアの腕など、それこそ本当にどうでもいい。冷たいとか優しいとか、そういう話ですらない。

治す方法があるなら手伝ってもいいし、それがないならなにもしない。全部の事が暇つぶしだ。


「……ま、そりゃ僕たちも同じか」


死にかけ(ロックボトム)

 気に食わない事でなければ、頼まれればなんでもやる。

人も殺すし金も奪う。物を盗むし心を壊す。それが、気に食わない相手なら。



「……しょせん僕たちも『死にかけ』だ。死に損なった余生の暇を潰してるに過ぎない」



 アマレロはバイクをいじっている。

 アマレロ達は知らないが、このバイクには付いているべきはずの物が付いていなかった。道を照らす為のライトがついていないのだ。


「……しかしよ〜。こりゃなかなか面白いもんだけどよ〜。ランタンの明かりだけじゃ危ねえな。なんか灯りが付けられるように改造すっか〜」

「結構速かったですね。夜に乗るもんじゃあないのかもしれねえです」


 呑気にバイクをいじっているアマレロを見ながら、コルテは様々な事を考える。


(どうする……。どうなる(・・・・)


 悪魔と天使と転生者。

 おかしな者たちとここまで深く関わるとは思っていなかった。

 ランタンは暗闇の中で微かに揺れる。ロックボトムの二人の影は、暗い遺跡の入り口に向かい、頼りなく伸びていた。




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