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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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腐臭

 



 キッド達は、他人事のように目の前の光景を見ていた。


(……もう、帰らせてくれ)


 自分達は、もう相手にされていない。

キッド達はホッとしつつも、ならば帰りたいと思っていた。


 怒り狂ったセリアはクロウの姿を認めると、泣きながらすがりついた。

 自分の為に愛する男が両腕を犠牲にしたのだ。わんわんと泣きながら、意味を為さない言葉を口にしている。

 しかし、そのまま場が流れるのをクーロンとアゼルは許しはしなかった。



 ——ほらほらほぉ〜ら 痛いか? 痛いかアアア!?

 ——やめ、やめろ! いてえ、いてええええ!!



 いまだ痛々しいクロウの両腕の断面を、アゼルがそこいらに落ちてた枝で、チクチクと突ついている。



 ——ちょっと、やめてっ。サジタリアに酷い事しないで!

 ——セリア、まあクロウが心底クズじゃなくて良かったよ。……けどね。やっぱムカついたから、しばらくアゼルの好きにさせてやんな



 キッドが迅八の方を見ると、そこにはイエリアがまとわりついていた。



 ——ねえねえ。ジンってさあ、どうなってんの? なんで腕とか翼とか生えてくるの?

 ——いや、俺だって知らないよ。それよりも、お前こそ一体なんなの?



それらを眺めていたキリエは、キッドの耳元で囁いた。


「……帰してくんないんッスかねえ」

「静かにしてろよキリエ。……またこっちに矛先が向くかもしれない」



 しばらくすると、馬車に乗ったジークエンドが戻ってきた。そこにアマレロが声を掛ける。


「お〜? てめえ、どこまで逃げてやがったんだ〜?」

「逃げてなどいない。……馬車を取りに行っていた」


 元々、迅八達は馬車を二台持っていた。

 クロウ達が負傷した時に、身を守るためにコルテ達が取ってきた一台、ジークエンドが今乗ってきた馬車。

 そして、キッド達の商品が積まれている商人ギルドの馬車とあわせ、この場には三台の馬車がある。


「別によ〜。馬車なんて明日でも良かったんじゃねえのか〜?」

「黙れ。……逃げてなどいない」

「けどジークエンド。あんたしばらく前から少し離れた所に馬車止めて、こっち見てませんでした?」

「コルテ、黙れ」


 キッド達三人は、そんなやり取りを座ったまま聞いていた。

 ——今なら逃げ出せるんじゃないか

 そんな考えが浮かんだ時、キリエの前に人影が立った。


「…………」

「……シズちゃん?」


 焚き火のゆらめきはその輪郭を浮かび上がらせるが、表情がよく見えない。

 シズは、日本語・・・でキリエに語りかけた。


「キリエさん……」


 シズはその場に膝をつくと、優しくキリエの肩を抱いた。その暖かな感触に、キリエの中で何かが緩んだ。


「キリエさん。よかった……」

「……シズちゃん!」


 絶対に死ぬと思っていた。

 ロックボトムと千年の大悪魔が自分達を見逃すとは思えなかった。しかし、なんとか命を繋ぎとめられる状況に持っていく事が出来た。

地獄から生還できる事への安堵と、抱きしめてくれるシズの温もりに、キリエは涙をこぼした。


「シズちゃん……!」

「……よかった。殺さないで済んで」

「え?」

「みんなが言ってる事は詳しい事まではよく分からないけど、私は絶対に決めてたんだ」


 その声は、キリエの顔の横から響いた。

 固く抱きしめられた体は動かす事が出来ない。シズの顔が見えない。


「ジークエンドさんが何を決めても、クロくんがなんて言っても、……お兄ちゃんが嫌がっても、セリアの手が治らなかったら、私が(・・)、いつか、絶対にあなた達を殺すって決めてた」


 キリエの耳元に息がかかる。細胞の一つ一つに刷り込ませるように、その日本語は淡々とつむがれた。

 ……自由貿易都市の宿で、ここに向かってくる途中で、日本語を話せるキリエはシズに言葉を教えていた。シズは見た目も中身も可愛らしい、天使のような少女だった。


 シズの腕から力が抜けると、キリエの体が離された。ゆっくりと、シズの顔がキリエの視界に入ってくる。その顔は今までに何度も見た、大人びた氷の美貌を溶かしたような、可愛らしい笑顔だった。


「……怖いねこの世界。私、好きになれそう」






 迅八がシズの事を呼ぶ声がした。


「……はい、です?」


 ——ちょっとこっち来てくれ。話があるんだ


「はい、です!」


 そのまま少女はそちらに走っていった。転びそうになって迅八が抱えて、それにアゼルが文句をつけた。


「……やっぱシズちゃんさんは可愛いなあ。なに話してたんだよキリエ」

「聞きたいッスか?」

「当たり前だろ。ボクの青眼は誤魔化せない! ……痩せたボクの事だろ? かっこいいって言ってた?」


 キリエは一度大きく唾を飲み込むと、隣の阿呆は相手にせずに、ゆっくりと息を吐いた。






 ————————————————






「……さてさてみんなあ、待たせちゃったねえ! 自己紹介の時間だよ〜!!」



 ——いや、十二使徒でしょうよ

 ——『喜色』のイエリアって言ってたよ

 ——ふむ。敵ではないようだな。俺は寝るか

 ——お〜? 勝てねえかな?

 ——だからアンタはさあ



 色々な声を無視してイエリアは歌うように語り続ける。



「悪魔の天敵にして人類の守護者アッ!! 誉れ高きその名もォ……」



——天敵なの?

——アホ抜かせ。天使なんぞ何人いようが俺様だったら一発よ

——そんな事言って転生者に殺されそうになってただろうが。調子に乗るんじゃないぞお前

——ア、アゼル。そんな言い方するなって



「十二使徒第十二位……、喜色のイエリアだああッッ!! あはははははは、どうどう? びっくりした? びっくりした?」



 ——おうこらアゼル。てめえ、少し調子に乗りすぎなんじゃねえのか! おう、ジンパチ言ってやれ

 ——え、おれ?

 ——なんだよ変態。お前は俺の敵なのか?

 ——え、え、おれ? 俺なの?

 ——はい、です?



 アゼルが迅八に詰め寄ると、その汗の匂いが迅八に届く。相変わらず風呂に入らない少女の、それなのに甘い香りに、思わず迅八は赤面した。


「……ちょっと、ねえ。……お〜い」


 イエリアの声が、少しずつ沈んでいった。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「……だいたい、初めから言っておけばいいんだっ。あんな事をするんなら!」


 アゼルは、横たわるクロウの体をげしげしと踏みつけていた。大悪魔は叫び続ける。


「てめえ、……てめえ、覚えておけよッ!! 俺様の体が元に戻った時には、てめえがどんな目にあうのかわかってやがんのか!!」

「うるせえ飼い犬ううゥゥ……。生意気に人間の姿になりやがって。ほら、鳴けよ。言ってみろ。ワンって言ってみろおおオオォ!!」

「いでえっ、いでえええええええっっ!! や、やめろっ………………………………………………………ワンッ」


「クロウーーーーッッ!? い、言うなよ。負けんじゃねえよっ!! アゼル、もうやめろって!!」

「……なんだ変態。お前もやられたいのか?」


 アゼルが履いている半ズボン。そこから伸びている足を迅八は見る。

 その色は汚れてしまってはいるが、キメの細かい艶やかな肌と、可愛く丸まっている膝小僧を迅八は見る。


(……少しだけなら)



「……ねえジン」

「あ? イエリア? ちょっと……」


 皆から無視され続けたイエリアが低い声を出す。

自分よりも背の低いその天使を迅八がチラリと見ると、迅八の首に手が掛けられた。そして、そのままグイっと引き寄せられた。


「は?」


 迅八の顔にイエリアの顔が迫る。どんどん迫る。

 そして、イエリアの唇が開かれた。






 ————————————————

 ————————————————






「……いたいっ」


 迅八達のいる大草原から遠く離れた亜人国。

 自分の髪を三つ編みにしてくれていたフィレットの手に、急に力が込められたので、シェリーは小さく叫びをあげた。


「なんでひっぱるの〜?」

「ご、ごめんねシェリー。なんか、嫌な感じがして……なんだろ。嫌な予感が……」






 ————————————————

 ————————————————






(んなぁ……っっ!!)


 迅八の舌が絡め取られる。口内を生き物のような舌が動いている。


(い、いいいいいいい……!!)


 膝がガクガクと震え出す。痛みと違う感覚が、迅八の体を震わせる。


(……あ、あああ、あああああ!!)


 脊髄に電気が走る。目を閉じている光の天使の顔に、迅八の目が釘付けになる。

 なんとか迅八がその目を動かすと、アゼルが驚愕の表情で、口づけしあう迅八とイエリアを見ていた。その近くでは、シズが顔を紅潮させていた。

 ……ちゅぽん。

 イエリアの口が迅八から離れる。


「……ごちそうさまああ」

「ぶはっ!! んなぁ……!!」


 放心状態の迅八に、殺気を伴う声が聞こえた。


「……てめえ。俺様がこんな目にあってるのに、犬以下の扱いをされてるのに、てめえはやっぱりそれか? ……特別報酬か?」


 アゼルに足蹴にされたまま、クロウが恨みがましい目で迅八を見ていた。


「あ、あ、あああああ……」

「だってさあ。みんな話聞いてくれないんだもん。見せた方が早いよねえ」


「……ふむ。いよいよ俺には無関係だな。俺は寝る。コルテ、あとは任せた」

「ちょ、ちょっとジークエンド!!」

「お〜、そんな事よりもよ〜。すげえ量の魔物が結界の周りでうろついてんぞ。いいのか〜?」


 イエリアが迅八の首に腕を回すと、ギラギラと瞳を光らせた。

 炎に照らされた金色の瞳の中に、迅八のとろけきった顔が写っている。


「ジン。……これは、誓いだ」

「は、は? はああああ〜?」

「ねえ、これからもオレのこと、守ってくれる?」

「な、なにを……」

「君がオレを守ってくれるなら、」


 イエリアの張る結界の外側では、血の匂いに誘われて何十体もの魔物がうろついていた。そして、イエリアがそちらに向かって手を振ると、それらが一匹残らず、全て潰れた(・・・)


「オレが、君の敵はぜ〜んぶ殺してあげる」



 ——おれ?

 ——オレ?

 ——俺?

 ——ごくり



 突然の展開。訳の分からない誓い。

そして、おばあちゃんは、白い花のクエストは、十二使徒が一体なんの為に。

 様々な疑問が浮かび上がる中で、とりあえず迅八は、一番確かめなくてはならない事から確かめる事にした。


 ……迅八は、喘ぐように息を吐きながら、目の前のイエリアを見た。流れる金糸の髪、美しい顔立ち、生意気そうな唇と、起伏にとぼしすぎる体つき。


「はあ……、はあ……『俺』?」

「うん。オレ(・・)。あははははは」


 迅八の手が震える。そして、その震える手がイエリアの起伏にとぼしい胸に伸びる。

 皆が見守る前で、迅八はとんでもない事をしようとしていた。


(ま、まさか、まさかコイツ……!!)


 ぺたりと。

 真っ平らの胸を触る。何度も往復させるように。


「いやだなあ。くすぐったいよう。あはははははは」

「おまえ、おまえ………!!」

「あはははははは。()だああぁ……。ねえ、びっくりした? びっくりした? あはははは……あははははははっ!!」


 その場にいた幾人かは、あからさまに引きつった顔をした。しかし、何人かはごくりと唾を飲み込んだ。


 特に迅八の妹は、兄に抱きついているイエリアを、何かを期待するような眼差しで見た。気のせいでないのなら、その鼻息は確実に荒くなっていた。






 ————————————————

 ————————————————






「いたーいっ。もう、なんなのー!?」


 フィレットに頭を洗ってもらっていたら、頭にガリっと爪を立てられた。


「ご、ごめんねシェリー。なんか、なんか嫌な感じが……」




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