その上
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……→→→→→→→→ 天空城
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「……クハハハハハハッッ!!」
それは狭い洞窟の道を疾走する。己の道を邪魔する虫どもを、その手で千切り、抉り突き刺し、そのまま壁に叩きつける。
ビタンッと壁に張り付いた哀れな虫の残骸。それに向かってコルテは全力で蹴りを突き出した。——ズガンッ!! 人間が蹴ったと思えない音が洞窟の中に響き渡る。
「お、わあああああっ!? や、やめろコルテッ、洞窟が崩れちゃうよ!!」
「流石に崩れないですよ。けど、凄い。人間なのにたいした魔力量ですね」
「ひっ……!」
慌てる迅八と感心したようなセリアの声、その後にイエールの怯えた悲鳴が続く。
先程から洞窟の天井からパラパラと小石が落ちてきている。地震ではない。すぐそこで我を忘れて暴れている灰色の魔術師が、壁に張り付いた魔物を殴りつけているせいで。
「こ、コルテ……コルテさん!! 分かったから、俺たちが悪かったからっ!!」
笑い声をあげながら一方的に洞窟の魔物を虐殺していくその男の体は、氷の鎧で包まれていた。
「魔力で鎧を作ってます。同時に肉体も強化してるんですね。……けど、あれじゃ周り見えないですよ」
「の、呑気にそんな事言ってる場合か!? 止めてくれよ。セリア強いんだろ!?」
「やですようっ! 私、戦いは好きじゃないんです。 ……それに、やっぱロックボトム怖いですよ。引きます。ドン引きです……」
元々、コルテは背が高い男だったが、細身の男だった。しかし、氷の鎧に身を包んだ今は、その横幅は分厚く広がり、身長も三十センチ近く大きくなっている。
「なんかさ、空振り多くない!? あと体デカくない!?」
「だって顔にまで氷の鎧作ってるじゃないですか。氷だから透けてるんでしょうけど、ちゃんとは見えないんでしょうね」
「デカくなってるのは!?」
「虫に触りたくないからじゃないですか? だから体のコントロールもうまくいってないんでしょ。……ひどいです。まるでお酒を飲んだDV男です」
「あいつはバカかっ!?」
その言葉を聞いていた氷の魔神が振り返る。
「……いま、なんと?」
「コルテさんっっ、その調子でお願いします!!」
「クハハハハハハハハッ!!」
笑いながら突き進むコルテの後ろを、三人は怖々と歩いてゆく。イエールは震えてしまって迅八から離れようとしない。パラパラと落ちてくる小石を避けながら、セリアはつぶやいた。
「けど、あの人は本当に人間なんですか。凄い魔力です」
「や、やっぱ他の人と比べると凄いの? 俺にはわかんないんだけど……うおっ」
その時、またコルテが壁を殴りつけた。
目測を誤った為なのだが、殴りつけようとした魔物はとっくに絶命している事にも気付いていない。
「ジンくん、魔術は生者にだけです。……あの氷の鎧は魔物には効くけど、壁は素手で殴ってるのと一緒なんですよ。それなのに、まるでハンマーで叩いてるみたいな音がしてます。肉体強化だけでこの衝撃を生み出すなんて……」
迅八は、よろめいた時に手をついた壁を、確かめるように撫でた。
「……これを殴る? ゴツゴツのこの壁? ……それ、魔術師じゃねえだろ!!」
「いいえ、魔術師です。大魔術師です」
むせ返る様な体液の匂い。
人間の血液とは違う虫共のそれは、黄色い水たまりをそこらに作り、シュワシュワと泡を立てている。
その泡の一つがぽかりと割れると、突き刺すような酸味がその場にいる者の喉の奥に広がった。
「う、うぐ……」
イエールは顔を真っ青にして、迅八にすがりつき、へたりこんだ。
(……これで五万円。そりゃ誰も引き受けねえ)
興奮しているから意識しないで済んでいるが、体長数メートルもありそうな巨大昆虫は、冷静に観察してみると迅八の背中に寒気を走らせる。
(けど、間に合って良かった。もしも俺とクロウがあそこに行かなかったら、イエールは……)
自分の横で座り込んでいる少女を迅八は見る。
馬車の中で、馬鹿らしい理由でトムが泣き出した時に、優しく肩を抱いてやっていたイエール。祖母の為にここまで来たというイエール。
(こんなに優しい子を、泣かせる訳にはいかねえ……!)
儚げな印象のその少女は、今はその顔を真っ青にして、少し突ついたら倒れてしまいそうだった。
迅八はその少女の手を、力強く上に引っ張った。
「……ジンさん、お願い、少し待って」
「いいや、待たねえ」
そのまま迅八は自分の左手をイエールの背中に回し、白く細い膝の裏に右手を伸ばした。
「え……きゃっ!?」
迅八は腰に力を入れるとそのまま立ち上がった。
イエールはまるで姫君のように迅八の腕に抱かれ、イエールは思わずその手を迅八の首に回す。
すると、少年の顔がすぐ目の前にあり、イエールの顔はカッと火照った。
「軽いな。メシ食ってるか?」
「ジンさん、降ろして……!」
「降ろさねえよ」
迅八はゆっくりとその足を前に出す。
そして、伝わってくる重みを刻み込む。……腕の中の重み、その少女の願いを確かめる。
「……イエール、急ぐぞ。コルテにばっかりいい所は持っていかせねえ。その花は、お前が自分の手で掴むんだ。俺に、この話を引き受けて良かったって、思わせてくれよな」
その言葉を聞いたイエールは、眩しいものを見るように迅八を見た。そして、迅八の首に回した両腕に力を入れて、強く頷く。
その様子を見ていたセリアは顔を赤くして迅八に言った。
「……ジンくん。ちょっと今、私まできゅんとしちゃいましたっ! サジタリアみたいです!」
「あんな……」
あんなのと一緒にすんじゃねえ。……危うくそう言い返しそうになった迅八は口を閉じた。
「なんですか?」
「い、いや、なんでもねえよ。……さ、行こうっ。コルテに置いてかれるぞ!」
迅八は進む。コルテが掃除を済ませた道には、生きている魔物の姿はない。
折り重なる骸を越えて、その先をひたすら目指す。
闇が濃くなる道の先の、大きく開かれた広場の入り口で、立ち尽くすコルテの背中が見えた。
「コルテ、なんで止まってんだ?」
そして、コルテの横に並ぶように立った迅八も、広場の奥にいる存在に気がついた。
……広場には光が溢れていた。
遥か上には大きな穴が空いていて、そこから暖かな光が降り注いでいる。
光が当てられている地面には草が生い茂っている。そして、なだらかに上がっていく坂のように傾斜していた広場の奥は、急にその道を途切れさせ深い穴が空いていた。
洞窟の行き止まりは、大きな広場と、その先は奈落に続く崖になっていたのだ。
そして、その穴。
そこから、柱が伸びている。
その柱には、みっしりと脚が生えていた。
見る者にぞわぞわと不快感を訴えかける無数の脚は、ギチギチと音を鳴らしながら揺れている。
柱の先端には、大きな水晶のような二つの目が付いていて、言葉を失くしそれを見つめていた迅八達と、目が合った。
「……蟲龍。僕が、世界で一番会いたくねえ奴が」
暴れ狂っていたコルテが呟くと、それに応えるように、蟲龍のほうから『声』がした。
《・・・ギ、・・・、ルセフ、・・・ス》
その音を聞き、セリアの体がピクリと動く。コルテもその体の緊張を大にした。
「喋りやがる。最悪だ……!!」
「ちょ、ちょっと、……このムカデ、『古龍』になってるんじゃないですかあっ!? ていうか、本当に古龍がいるなんて聞いてないですよぅっ!!」
突然、目に見えてうろたえだした魔術師と天使。
迅八は、そんな二人の様子に構う事なく、そっとイエールの体を降ろした。
「イエール、離れてろ」
「ジ、ジンさん……なにを」
「どの花なのかは分かんねえけど、あそこに行くのに、あいつ邪魔だろ?」
蟲龍はその長い胴体をくねらせ、すでに迅八達の存在に気付いている。
そして、奈落に続く崖の淵——そこには、色とりどりの花が咲いていた。
「おい、ジン。……あんた、馬鹿な事考えてんじゃないでしょうね? 」
氷で顔まで覆ってしまっている為なのか、コルテの目には迅八の顔が、その姿がおかしく見えた。
(……なんだ? 体が、光って)
迅八の両目。そこから真っ直ぐに黒線が伸び、その線に沿うように青い光が明滅しだす。
「ジンくんっ。古龍はダメですっ! ……私、ホントに戦い嫌いなんですから!!」
震えながらわめくセリアをちらりと見てから、迅八は自分の黒刀に手を掛けた。
「コルテ、セリア、勘違いすんなよ。……もう、向こうがやる気になってんじゃねえのか? アレから逃げられるのか?」
コルテとセリアは蟲龍を見る。
すると、崖の先の奈落——そこから新たな首が出てきた。
「一、二、三……四つ首蟲龍!! だいぶ長生きしてるみてえですね」
「コルテ。全部で四匹か?」
「ちげえますよ! アレで一匹だ!!」
「そうか。ま、全部切り落としちまえば俺たちの勝ちだな……!!」
「……イエールさん、動かないで下さいね」
青髪の天使がイエールの前に立つ。
震えるイエールを背中に庇い、セリアもその腰を深く沈める。
その動作を合図と見たのか、蟲龍の首の一本が地面に降りる。蠢く脚を岩に突き立て、少しずつ迅八達ににじり寄る。
「起きろッ……『迅九郎』ッ!!」
黒い刀身に走る紅い鎬。それが一度ギラリと光ると、その刀身の周りにゆっくりと狐火が回り始める。
刀を包む黄金の陽炎、それに透かして向こうに見える、迫る蟲龍を睨みつける。
「……ジン、来るぞっ!!」
コルテは叫ぶ。突然その無数の脚の速度を早め、こちらに迫るムカデの化け物を前にして。
迅八はその声を聞き、即座に地を蹴り、四つ首蟲龍に切りかかった。




