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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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上位存在

 



 迅八の元いた世界では、生物界の頂点に人間が君臨していた。知恵を持っていたからだ。

 人間は、強力な牙も爪も持たない代わりに、知恵を使い武器を持った。結果、生物界の王者として長く繁栄していた。


 では、人間と同じように知恵があり、人間よりも強力な身体を持っている生物が居たら、それでも人間が生物界の頂点にいたか。






「……古龍じゃねえ(・・・・・・)のが救いだな〜。クエスト間違ってても感謝しねえとよ〜っ!」


 身体を岩石で形成した『巨竜』が吼えると、生物としての本能がアマレロの足を固めそうになる。

 目の前にいるのは絶対的な捕食者。人間などと比べるのはおこがましい程に巨大な存在。


 アマレロはその足を前に出すと、一拍置いてから再び弾丸の様に巨竜の足元へと飛び込んだ。


(……っ!! やべえっ!!)


 巨竜の左腕——岩で出来た豪腕が、アマレロに向かい振るわれる。防御もせずにそれに当たれば、確実に死ぬだろう。それを認めたアマレロは、更に深く、速く踏み込む。

 自分の頭をギリギリかすめるその恐ろしい腕に、アマレロの肝がヒヤリとする。しかし、そのままスピードを乗せて、引きずるように構えた大剣を全力で斜めに切り上げた。


「うおおおおうらっっ!!」


 ズガンッ!

派手な音がして、大剣が巨竜の腹を裂く。しかし、その体は岩と土で出来ている。


「お〜!? 効いてんのか!? …分からねえっ!!」


 切り上げた刃をそのままかつぎ、一目散に走り抜ける。しかし、向かう先には、すでに巨竜の尻尾が振るわれていた。


「……ふむ。そのまま走れ。アマレロ」


 その声を聞いたアマレロは、自分に向かってくる岩石で出来た巨大な尻尾に向かい、真っ直ぐに突っ込んでいった。


「あーーーー!? それ死ぬっしょ!! 死んじゃうッスよおおおっ!?」

「ヘイヘイヘイッ、スターーップ!!」


 すると、白いコートの男が恐ろしいスピードで、尖った(きり)のように空から降ってきた。


「……『蹴り』だ」


 恐ろしい程の魔力をまとわせたその右足。自分を襲うそれに気付いた巨竜は、突然、尻尾の軌道を変えて上に振るった。

 ジークエンドの蹴りと巨竜の一撃が交錯する瞬間、キリエは、巨竜の尻尾が砕け散るのを期待した。……が、ジークエンドは当たった瞬間に吹っ飛ばされた。



「……そりゃそうッスよおおおおお!! ばかばか、旦那なに考えてんスかーーー!?」

「『蹴り』……。おい、ボカァ信じられない。まさか技の名前じゃないだろうな!?」


 その足が当たる瞬間、ジークエンドは魔力を防御に切り替えて、尻尾を踏み台にして跳んだ。

 それをちらりと見たアマレロは、顔にドッと汗を浮かべてがなりたてる。


「お〜!? てめえッ、俺いま死ぬとこだったんじゃねえのか!? 剣使えっ。剣をよ〜っ!!」

「……ふむ」


 ポケットに手を突っ込んだまま、恐ろしいスピードでキリエ達の方に飛んでくるジークエンドは、くるりと空中で一回転してから爆音を立ててキリエの真ん前に降り立った。


「おい……。まさか、俺にバカと言ったのか?」

「ちょっ、後ろおおおお!! 本当にバカなんスかぁっ!?」


 ジークエンドがゆっくりと振り向くと、そこには大きく開かれた()があった。

 余りにも大きなその口のフチには、岩で作られたギザギザとした牙が並んでいる。見るからに切れ味は悪そうだが、切れ味なんて必要ない。

それに挟まれ食われる物は、千切られるのではなく、すり潰される。


「ふむ、これはまずいな。 ……アマレロ、早く助けてくれ」


 全く緊張感を感じさせない声で、ポケットに手を突っ込んだまま、巨竜の口の中を覗き込んでいるジークエンドの後ろで、転生者二人は腰を抜かしていた。



「おいおいよ〜……。役立たずばっかりかよ!!」



 呆れた呟きと共に、アマレロが己の大剣を大地に突き立てる。その無骨な鋼の(ガード)と横っ腹、そこには計七つの魔石が埋め込まれていた。

 左手で柄を握り、(ガード)の中心に埋められた魔石に右手を添える。



「……暴れていいぞ。『七星(ベネトナーシュ)』!!」



 魔剣解放の波が辺りの空気を震わせる。

 ガードの中心——ひとつ目の魔石から刀身の上に光が走る。それは二つ目、三つ目と続いてゆき、わずかな時間で全ての魔石が輝き出した。

 それぞれの魔石は違う色を放ち、無骨な鋼の塊は眩い七つの星を(またた)かせる。


 目の前で、小さな三人を食らおうとしていた巨竜が、その輝きを警戒し体の向きを変えた。

 しかし、その時にはアマレロの攻撃は、半分以上終わっていた。


「ふううぅぅ……おおおおおおおっっ!!」


 それはおかしな構えだった。

 剣術の構えではない。まるで、槍投げの選手のような。

 右手を極限まで後ろに伸ばし、その長大な剣のガードの部分を握っている。そして、その左手は刀身の中——光り輝く一つの魔石に添えられていた。



「七星、一門……!」



 その、長大な剣の七色の魔石。それが一つの魔石と同じ色に染められてゆく。圧倒的なその力に、巨大な竜が一瞬怯む。

 そして、次の瞬間、攻撃は終わった。



「『貪狼とんろう』ッッ!!」



 トムの目には、急に剣が伸びた(・・・)ように見えた。しかし、実際には伸びた訳ではない。その余りに大きな鋼の塊が、残像を残して地竜の頭に投げつけられた(・・・・・・・)


「き、きゃーーっっ!! ぎゃーーーーッッ!!」

「あ、あぶ、あぶない!! ヘウプ、ヘーウプッ!!」


 まるで、巨人が『南の木』を殴りつけたかのような破砕音が鳴り響く。

 鼓膜を震わせる衝撃が終わった後、巨竜の頭があった空間には、何もなかった。

元は頭だった岩の残骸が、足元のジークエンド達を襲う。


「……ふむ。雑なやり方だな」

「旦那、死ぬっ、死ぬッスーー!!」

「シズちゃんさん……最後に、会いたかったよ……!!」


 ポケットに手を突っ込んだまま、落ちてくる岩塊を眺めているジークエンドの両足に、転生者達は一人ずつまとわりついた。


「ふむ。これはまずい」


 これでは逃げられない。そして、大きな頭の塊が真っ直ぐジークエンド達に向かい落ちてくると、赤毛の男はそのポケットから右手を出した。……ゆっくりと左腰の剣を掴む。


「終わったーー!! はいっ終わったッスーー!!」

「イエールたんっ!! イエールたーーん!!」


「全くやかましい……『太陽剣(サンフラウ)』」



 ……ひゅん、と軽い音がした後、また轟音がジークエンド達を襲った。しかし、押し潰されるはずだった三人を避けるように、大きな二つの岩の塊が大地に突き刺さっていた。


「久しぶりだと腕が落ちるな」


 カキンッ。……硬質な音を鳴らし、『太陽剣』を鞘にしまう。ジークエンドにすがり付く転生者達は、何がなんだか分からなかった。


「……き、切ったんすか? あの、デカい岩を?」

「……キリエ、見てみろ。溶けてる」


 自分達を避けるように落ちた二つの岩をトムが見ると、その岩の断面はバターのように溶けていた。


「た、たおしたッスか!? 古龍を!?」

「……お〜。古龍じゃねえ。その一歩手前の奴だ。……まだ知性を磨いてねえ奴だな。てめえら、厄介なの連れてきやがってよ〜」

「アッッメーイズィンッ……!!」


 トムは、目の前の岩の塊を見て驚きを叫んだ。

竜は、その余りの強力な肉体ゆえに、知性を必要としない。貧弱だから武器を生み出した人間とは真逆の存在だ。

 しかし、歳経た竜は肉体が衰え出すと知性を獲得し、その知恵を使い『龍魔術』を使うようになる。そこまで達した竜は古龍と呼ばれ、上位悪魔族や天使をも圧倒する存在となるのだ。


「……こ、古龍じゃなくても、これは成長した巨竜だぞ!? それを、剣の一撃で頭ふっとばすなんて……。アッメーイズィンッッ!! 信じられない!!」


まだ己の足にまとわりついているキリエに、ジークエンドは言う。


「さて、さっさと離れろ。あとキリエ。お前には後で(・・)話がある。俺はバカだからな……忘れないうちに済ますとしよう」


 淡々と口を開くジークエンドの冷たい目に、キリエは先ほどまでのことを思い出した。。


「な、なにはともあれ、旦那達は命の恩人ッス。出来ればほら、仲良くなりたいッスね〜。……ほ、ほらっ。アマレロの兄貴からもなんとか言って欲しいッスよ〜おっ!」


 しかし、アマレロはそのままキリエに近付くと、その首根っこを掴んで後ろに放り投げた。


「ぐえ!? ……ちょっ、ひどいッス! 女の子に優しくして欲しいっす!!」

「……き、キリエ、早くこっちに来い!」

「な、なんスか!? ……このまま逃げるッスか?」


 トムが真面目な顔でキリエの腕を引っ張った。小声で話しかけるキリエに、トムは鋭く声を出した。


「違う、見ろ……!!」


 辺りに散らばる残骸(・・)

それがゴトゴトと揺れている。その揺れる岩がゴロゴロと転がり出し、一つの場所に戻ってゆく。

 アマレロは、太陽剣で切られた残骸が動いているのを見つめて、自分が投げつけた大剣を拾ってから再び構えた。


「お〜。頭吹っ飛ばされた後なのに太陽剣の熱が効いてやがる。……つまり、まだ、生きてるな〜」

「ふむ。こいつを倒せば俺も今日からドラゴンスレイヤーか」


 目の前で再生してゆく岩の『巨竜』。ロックボトムの二人の背中は、なぜか楽しそうに弾んでいる。

 それを前にした転生者二人組は、逃げ出そうかどうしようか迷っていた。






 ————————————————






 アゼルは油断なく遺跡の奥へと進む。

 十メートル進むのに一分以上……丹念に壁を探り、床に目をやり、慎重に一歩一歩進んでゆく。


「……ここは、」

「旧遺物があるかもしれないねえ。財宝がある感じじゃないし、罠はなさそうだねえ」


 時々、世界にはそんな場所がある。

 昔の転生者達が(のこ)したものなのか、それともそれよりも昔からあるのかは知らないが、現地人達にはよく分からない建物や遺跡が発見される事がある。


北の国(ランドワース)に話を持っていったら、凄いお金が貰えるかもね」

「あはは……。さすがにそれは遠慮したいねえ」


 ランドワース。

 転生者達の根城であり、天使達の本拠地でもある国。

さすがに、そんな場所に近付くのはロックボトムとしては遠慮したい。みんながみんな、ロックボトムを見逃す訳ではないのだ。


「……おい鉄拳女。なんでそこに話を持っていくと金に繋がりやがる?」

「さあ……。転生者達から見たら、ひょっとしたら『遺跡』ってのはとんでもない場所なのかもね」


 クロウはその言葉と共に、胸の中に古い空気をしまいこむ。……懐かしい(・・・・)。そう感じさせる程に時を経た、その遺跡の空気を。


 罠は恐らくないだろうが、警戒はしたまま四人は進む。すると、少し広い部屋に辿り着いた。

 アゼルはその部屋を見渡してから、緊張してナイフを構える。その肩に、クーロンが優しく手を置いた。


「アゼル、大丈夫だ。……間違いない。ここは旧遺跡だね。むかし何度か見た事がある。罠の(たぐい)はここにはないよ」

「……そっか」


 ふう、と一息ついて、赤毛の少女はナイフをしまった。


「こら小娘。てめえ、随分とその女の言う事はよくきくじゃねえか」

「うるさいぞ犬。……ほら、シズ。こっちにおいで。いつまでも獣臭い奴の隣は嫌だろう」


 しかし、シズはクロウの腰にまとわりついて離れようとしない。その金毛に頬をすりつけている。


「クロくん。あったかい、です」

「……シズ。変な病気がうつるかもしれない。そんなのダメだよ」

「ぐっぎっぎっぎ、てんめえ……!」


 それを見ていたクーロンはからからと笑っていた。


「……ひょっとしたら、シズにはなんとなく分かってるのかもね。あんたが自分にしてくれた事が」

「くーだらねえ……」


 自分から離れようとしないシズを、クロウは厄介者を見る目で見た。すると、今度はそれを眺めていたアゼルが歯ぎしりした。


「おい犬……」

「まあまあ。アゼル、ちょいと調べてみるから休んでな。……あんた達、罠はないだろうけど滅多やたらにそこらを触るんじゃないよ」

「ふん。……おい小娘。離れやがれ。てめえみたいな発育不良にまとわりつかれても嬉しかねえんだよ」

「クロ、です?」

「あっち、いけ、遊んでろ、……分かるかコラ」

「はい、ですっ」


 シズはクロウから離れて、遺跡の部屋を物珍しそうに眺めはじめた。


「おまえ、俺のシズをペットみたいに!!」

「俺のってなんだよ……。あのバカ兄貴がぎゃあぎゃあうるせえぞ」


 噛み付いてくるアゼルを相手にせず、クロウもまたそこらの物を眺め出した。




・・・・・・・・・・・・




(これ……。機械じゃないの?)


 シズは遺跡の部屋を眺めながら、不思議な既視感を感じていた。

 ——ボロボロに錆びた鉄、風化してしまった様々な残骸。……それらの物の奥に、クーロンが『ここは旧遺跡だ』と断定するに至ったものがあった。


 それは、丸い円形の台のような物だった。そこから様々なコード(・・・)が伸びて、何かの機械(・・・)に繋がっている。


(電力は……通ってないの?)


 それだけ特別な材質で作られているのか、その台と機械は劣化を感じさせない。アゼル達には、これが『機械』だという事が分からないようだった。

 そして、シズの頭の中の既視感。


(……なんか、映画とか漫画とかの、なんだっけ……。どっかに移動しちゃう機械みたいな)


 迅八がよく読んでいる漫画なんかでは度々登場した。しかし、自分はいつ、その漫画を読んだのだったか。


(なん、だろ。頭痛い……)


 目覚めてからシズは、自分の朧げな記憶が不安だった。

 思い出せる事が少ない。迅八が自分の兄だという事は分かるし、元の世界の事もぼんやりと覚えているが、その記憶が少ない。


 兄と一緒に遊んだ事も、母親が少しずつ変わっていった事も、『あいつ』の事も、自分はクラスメイト達にいじめられていた事も、なんとなく覚えてはいる。

 ただ、その細部はぼやけてしまう。


「あたま痛い……」


 ふらつくようにその機械に手をつくと、シズの指先に、カチリという感触が伝わってきた。


「あっ………!!」


 ふぉん……と何かが起動するような音が聞こえた時、シズは我に返った。


「なっ………!!」


 その台を調べていたクーロンが驚きの声をあげる。己の足元の円形の台、そこから光の柱が立ち昇り、クーロンの体を包み込んだ。


「クーロン!!」

「なっ……鉄拳女ッ!!」


 アゼルが手を伸ばす。

 しかし、その手の先のクーロンの姿は、部屋を包む光の中で見えなくなった。




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