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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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三チーム

 



 コルテは、前を進む迅八達を見ながら考えていた。


 ……最近、完璧に自分はナメめられている。あれが食いたいコルテ、それはなんだコルテ、なにかあったらコルテ、困ったらコルテ……しかし、彼は一家に一台あったら便利な道具ではない。


 初めに迅八と会った時、コルテはやかましい少年を殺してしまおうかとも思った。だが、今ではその少年は、変に自分達に懐いてきている。

 コルテを始め、ロックボトムの面々は決して善人ではない。しかし、自分に懐いてくる者の事を、虫ケラのように殺す人間達でもない。多少の無礼は許しているうちに、迅八の態度はどんどん気安いものになっていった。

 おまけに、迅八はおかしな回復能力を持っているので、少し頭を小突いたりしようが、すぐにケロっとした顔で元の態度に戻る。

 クロウに(そそのか)されてクーロンの入浴を覗こうとしていた所を、何回ぶっ叩いたか分からない。


(しかも殴ったあとに、ねえ アゼルはいつ風呂入ってるの、だと? ……ナメてるにも程がある)



 コルテは迅八から視線を外し、自分の前をのんびりと歩いているセリアを見た。十二使徒第六位——青き鮮血のセリア。


(なにが『青き鮮血』だ。本当にコイツがそれなのか? コイツはコイツでナメてやがる……!!)


 初めは、ロックボトムは怖いですぅ……などと言っていたセリアは、最近ではすっかり一行に溶け込んでいる。

 さすがにひと月以上も行動を共にしているセリアは、アゼルが女である事に早い段階で気付いた。

それも関係してるのかは知らないが、シズやアゼルともうまくやってるし、クーロンはセリアの事が苦手みたいだが、嫌いという訳ではないらしい。


 コルテは、少し前に『女子会』と称する集いでわざわざ料理を作らされた。料理人として召喚されたコルテは、聞くともなしに彼女達の会話が耳に入ってしまっていたのだが、その会話がまた彼の心をイラつかせた。



 ——この間、服買った時なんですけど、コレ、二千円だったんですようっ。凄くないですか!?

 ——へえ、いいねえ

 ——はは。俺は服には興味ないけど。……気持ちはわかるよ

 ——で、その店員さんがナマケウズラみたいな顔で……凄くないですか!?

 ——ははははは






 (……凄くはないでしょ)





 ゆる〜い坂を上がったり下がったりしているような、あっちこっちに飛び回るその会話を、特にクーロンもアゼルも不思議に思わないようだった。シズも言葉が分からなくても、その雰囲気だけで楽しそうにしていた。

 そして、会話に出てくる分からない言葉をシズがオウム返しに呟くと、いちいち会話は中断された。



 ——シズちゃんって可愛いですよねえ

 ——いやあだ〜。本当にこの兄妹は

 ——クーロン。兄貴はただの変態だよ

 ——もう、ヤバいですっ。この可愛さは

 ——ああ。ヤバいねえ

 ——うん。ヤバいね






 (危険(ヤバ)くもないでしょ……)





 しかし、以前それをコルテが指摘したら、散々文句を言われたので、コルテは黙ってパスタを作り続けていた。






(……しかも挙句の果てにゃ、このパスタしょっぱくないですかだと!? ……当たり前だ。パスタはワインと一緒に食べて丁度いい塩加減になるんだ。気を効かせて酒まで用意してやったのに、シズちゃんいるから空気読んで下さいねだとぉお……? 調子に乗りやがってっ!!)


 いくらでも出てくる、最近くっついてきた同行者達への不満をとりあえず抑え、コルテは周りの様子を見る。


 洞窟の中には様々な花やコケが、それ自体が発光し、道をぼんやり照らしている。

 それに、中に入るまでは分からなかったが、時折ぽっかりと、天井に穴が空いている。

洞窟の中は、日光に照らされた場所や植物のぼんやりとした明かりに照らされて、歩くのになんの不自由もない。先頭を歩いている迅八も、とっくにランタンを外してしまっていた。


「……なあイエール。それでさ、その花なんだけど、どんなもんなの? おばあちゃんが病気なんだろ? 薬になるのかい?」

「いえ……薬と言えば薬ですが、おばあちゃんは、もうそんなものが効く状態じゃありません。それに、老衰に近いんです」


 では、なぜ危険を(おか)してまで、ただの花をここまで取りに来たのか。口には出さないが、皆そんな思いを抱いた。


「……私が小さな頃、熱を出して寝込んだ事があるんです。おばあちゃんは、わざわざ自分の足でここまで来て、その花を取ってきてくれました。とっても綺麗な花なんです。……もう、おばあちゃんは、それを薬にしても飲む体力もないかもしれません。……けど、」


 コルテは、(うつむ)いたイエールが泣き出すと思った。しかし、少女は一呼吸してから、胸を張った。


「だから、見せてあげたいんです。それで、ありがとうって、伝え……、」


 胸を張ったまま、少女は穴の空いた向こうの空を見上げた。……その声は震えていて、その目には涙が浮かんでいたが、イエールは決して涙をこぼす事をしなかった。


「大丈夫だ」

「……え?」

「もう、大丈夫だよ。俺が、必ずその花の所まで連れて行ってやる。だから、考えておくんだ。ばあちゃんに言いたい事を。……ありがとうだけじゃないだろ? イエールの言葉で、考えておくんだ」

「ジンさん……」



 二人のやりとりを見ていたコルテは、ほんの少しだけ、その整った眉を下げた。


(……本末転倒にも程があるでしょ。そのおばあちゃんとやらは、死期が迫ったその時に、孫が危険を省みずそんな無意味な花を取りに行って喜ぶか?)


それならばそばにいてやった方がよっぽどいいのではないか。もう時間が残されていないのなら余計にそうするべきだ。コルテはそう考えた。


(ま、僕には関係ねえ話なんでどうでもいいですが)


 コルテは、おそらくここに出てくる魔獣やら、危険な生き物を駆逐する為についてきた。

 迅八やセリアは言葉で言っても分からない。自分の大魔術師としての力を、手っ取り早く見せつけてやるのだ。


(そしたらこいつらも僕の事を(あなど)る事もなくなるでしょ。……ま、花はついででいいでしょ。そんなに危険なヤツもいねえでしょうし)



 四人は洞窟を奥へと進む。

 コルテからは前を進む迅八の表情が見えない。



(……ん?)



 しかし、黒いコートを羽織った迅八の後ろ姿。

その髪の毛が、ざわついているように見えた。






 ————————————————






「……ちょっとちょっとお〜。ジークエンドの旦那ぁ。本当に古龍なんかいるんッスかあ?」

「まさか。いないだろう」

「本当にそんなのに出て来られても困るだろっ。キリエ、滅多な事を言うなよ!!」


 ジークエンドとアマレロ、そして転生者二人組は、のどかな草原を歩いていた。


「大丈夫だ。古龍が出てきたらそこの『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』になんとかしてもらえ」


 そういって、ジークエンドは大剣を担いでいるアマレロをアゴで指す。


「え、アマレロの兄貴、ドラゴンスレイヤーなんスか? 本当ッスか?」

「お〜? そんな大層なもんじゃねえよ。……竜って言っても、古龍とは比べものにならねえ飛竜(ワイバーン)なら殺した事はあるけどな〜」

「……アッメーイズィンッ。ど、ドラゴンスレイヤー……。サイン、サインくださいっ。ここっ、ここに!!」

「お〜? ま、気がむいたらな〜」


 アマレロにまとわりつくトムの事を横目に、キリエは長く息を吐いた。


「はあ〜。……太陽のジークエンドに、アマレロの兄貴はドラゴンスレイヤーっすかあ。さすがはロックボトム、懸賞金十億の大悪党は違うッスね。……初めて見たッスよ。ドラゴンスレイヤーなんて」

「……ほう。いつから気付いてた?」

「旦那も兄貴も、誰も隠してないじゃないッスか。さすが、大悪党ともなると堂々としてるもんスねえ」

「ふむ。じゃあ次からは気をつける事にするか」


 アマレロ達の前方から、牛のような魔獣が猛突進してくる。

 しかし、アマレロはそれを易々(やすやす)と大剣の一撃で吹き飛ばした。それを見たトムは興奮しきっている。


「ふむ……お前らはなんでついてきた。賞金稼ぎか?」

「そんな事しないッスよ。あたしら命が一番大切なんで。けど命の次に金が大事ッス。……商人なんで。にひひっ」


 キリエはその可愛らしい目をくりくりと動かして笑う。


「……西の方の小国に旦那達を生け捕りにして連れてったら賞金五十億ッス。あたしは五十億そのものよりも、なんでそんな大金が掛けられてるのかが知りたいッス。……だって、それって旦那達には五十億以上の価値があるって事ッスよね?」

「ふむ。……ジンとお前は仲間なのか?」


 今の話にそれが関係あるのかとキリエは思ったが、特に意識する事無く答えた。


「同郷ッスよ。仲間かどうかは……今はまだ知り合いってくらいっしょ? 旦那ともジンさんとも」

「なら、殺していいな」

「え」






 ブォンッ!!

 それを避けられたのは、キリエにとって本当の幸運だった。

 何も考えずに、キリエは身を丸めた。すると、ついさっきまで自分の頭があった位置を、恐ろしい速度でジークエンドの右足が()いだ。


「……痛みも感じさせない程の力を込めたのに。特に思うところが無い女を殺すのは楽しくないからな。さっさと済ますぞ」

「んなっ……!」


 キリエは己の足に魔力を込めて、頭から後ろに跳ぶ。そのまま空中で一回転すると、猫の身軽さで地面に降りた。


「ちょ、ちょっと待って欲しいッス!! 問答無用ッスか!?」

「……あ〜ん? どしたジークエンド。こいつら殺すのか〜?」

「そうしようかと思っている」

「キ、キ、キキキ、キリエっ。お前なんか失礼したのか!? やめろ、ボクを巻き込むなよ!!」


 アマレロは、途轍もない重量を誇る自分の愛剣を、ピタリとトムの鼻先で止めた。

 片腕で固定されたそれは、水平に伸びているのに微塵も揺るがない。


「OHーーーー!! ウェイウェイウェイウェイッッ!! スタップ、スターーップ!!」

「待って、待って欲しッスっ。ちょっと話を聞いて欲しいッス!!」

「なら話せ。初めから、そして終わりまでだ」



(こ〜りゃまずいッス。いきなり窮地じゃないッスかあ!!)



 ロックボトムの噂は聞いた事があった。

 彼らは大悪党だがチンピラではない。

『標的』となる人間以外に、進んで害を働くような人間達ではないらしいし、まことしやかに囁かれている()には特に注意を払っていた。


『ロックボトムの()には手を出すな』


 アゼルスタンと呼ばれる少年に手を出せば、ロックボトムは全員出てくる。どんな場所でも、誰が相手でも。

 キリエとトムは、アゼルスタンにはふざけながら接してはいたが、特に気を遣っていた。


(金ってよりも、情報が欲しかったんスけど……あちゃー、油断させられたっス!!)



 気のいい彼らと食事を共にしたりして、勘違いしてしまった。目の前にいるのは、史上最高峰の懸賞金を掛けられた紛れもない大悪党だ。

たった今まで仲良く話していたキリエを、全く迷わずに殺しにきた。


(話せって言われても、な〜んもないッス!)


 キリエ達は情報を欲しがっている。情報を制するものが金を制するのはこの世界でも同じだ。好奇心から話を振ってみただけだったのだが、それは思わぬ鬼門だったらしい。

 冷や汗をダラダラ流しながらキリエが言い訳を考えていると、突然地面が大きく揺れた。


「な……!? 地震ッスか!?」






 ————————————————






迅八達が向かった洞窟。

ジークエンド達が向かった草原。

……その頃、クロウやアゼル達は森の奥へと入っていた。アゼルの着ている緑色のコート、その袖をシズが引いてうろちょろとしている。


「ほら、危ないよシズ。転んじゃうかもしれないだろ」


 アゼルが声をかけると同時に、シズはつんのめった。間髪入れずに腰に手を回し、アゼルがシズを支えてやる。


「ありがと、です」

「だから言ってるだろ……。もう」


 傍目(はため)には少年に見えるアゼルと、人形みたいなシズ。それを見ているだけで、クーロンは幸せな気持ちになった。


「……うー、ドキドキしちまうん」

「おう鉄拳。おめえババアみたいな顔になってんぞ。縁側で茶でもすすってそうな顔だ」


 クーロンの肩の上から子狐(クロウ)の声がした。


「ちょっと、せめて鉄拳()にしとくれよ。なんだい鉄拳って」


 クーロンは子狐と少し話をしたいと思ってこの集団についてきた。戦力的充実を図り、このグループについてきた訳ではない。

 少し位の魔獣ならアゼルが一人でどうとでも出来るし、それ以前に千年の大悪魔がいるのだ。


 クーロンは本当なら迅八についてやるべきだったのかも知れないが、第六位天使は強いだろうし、なによりあのグループにはコルテがいる。


「ここにはジンの妹がいるんだもんねぇ。危険が迫った時に、あんたが何もしないわけはない」

「……なんの勘違いだてめえは。俺様がなんであんな小娘を助けてやらなきゃいけねえんだ?」

「あらそうかい? けど、あんたは必ずその時が来れば助けるよ。賭けてもいい」

「気に入らねえな。人間如きのチンケな物差しで俺様の事を測ってるんじゃねえぞコラ」


 子狐が尻尾でクーロンの胸にちょっかい出すと、それを見ていたアゼルが鋭く声を出した。


「おい。クーロンに手を出すなよ。……全く、飼い主も変態ならお前も変態なんだな」

「ぐぬぬ、この小娘があ……!」


 先日、寝起きをアゼルにぶっ飛ばされてから、千年の大悪魔はほんの少しだけ赤毛の少女に恐怖を植え付けられた。すごすごと、尻尾を元の位置に戻す。


「あはは……。千年の大悪魔も形無しだねえ」

「けっ。……で? なんだ、話ってのは。ま、俺もおめえらにゃ聞きてえ事がある。連中の中じゃおめえが一番マシだな」


 ほんの少しだけ歩を緩め、クーロンはアゼルと距離を置いた。


「……あんた、どうするつもりなんだい?」

「何をだ? 今はさしあたっての目的はねえ。それは言った筈だぞ」

「結魂だよ。なんで解かない?」


 迅八とクロウは、生命——ダメージ共有の結魂で結ばれている。迅八が死ねばクロウも死ぬ。だから厄介事に迅八が首を突っ込む度に、クロウにも面倒が降りかかる。


「だ〜かあら、その方法を探してんだっての。ババアみてえな顔してボケまで進んだか?」

「誤魔化すんじゃないよ。結魂を解くだけ(・・)ならいくらでも方法はある筈だ。やり方さえ選ばなけりゃあね」

「…………ああん?」



 結魂はあくまでも二者間で結ばれて作用するものだ。

 そして、ほとんどの人間が生まれた時に名付けを経験する。数珠繋ぎのようにみんな結ばれてはいるが、しかし作用はしない。

祖父と父の間で結ばれた結魂はその二人のもので、父と子の間で結ばれた結魂も、その二人だけのものだ。

 誰か一人にもたらされた傷が、一族全員に作用する事はない。



「ジンを完璧に屈服させて、そこらの奴と結魂を結ばせりゃいい。そんでその『誰か』を殺せばジンも死ぬ。あんたには一切影響なく。……そうだろ?」

「……そうして欲しいのか?」


 初めは混乱からクロウもそれに気付かなかった。しかし、一月ほど前からその事は頭の隅にあった。

 子狐は面倒くさそうに後ろ脚で首筋をボリボリ掻く。


「チッ! ……それだと真名まなが残るだろっての。俺様は『クロウ』なんて名前に縛られたくねえんだよ」

「結魂解除してから『真名を消す方法』を探しゃいい。そっちにはタイムリミットはない。なんせあんたは千年の大悪魔だ。違うかい?」


 千年の大悪魔はそこで言葉に詰まった。迅八の寿命が近づいたら結魂解除するつもりだったが、確かにそれは今でもいいはずだ。



(確かに、そうだ。……なんで俺は、あんなガキに付き合ってるんだ?)



 自問する様に目を動かす子狐の顔を見て、クーロンの顔に、微かに笑みが浮かんだ。


「……誓ってもいいよ。あんたは、あの坊やに危険が迫れば必ず助ける。そして妹のシズの事もね」

「なんっだとこのクソ女がァ……。面白え。じゃあ俺様もてめえに予言をくれてやろう。てめえは近いうちに、許して許してって泣きながら俺様に()うだろうよ。……柔らかな布の上でな」

「あら、こんなちっちゃな狐の腕の中でかい? あはは、そりゃ楽しみだねえ」

「チッ……!」


 子狐はクーロンの肩から飛び降りると、地面に降り立ち背中を伸ばした。


「おい、てめえのくだらねえ話に付き合ってやったんだ。俺様の聞きてえ事にも答えてもらおうか」

「なんだいあたしの好みかい? ……口説くんなら自分で探して欲しいね」

「てめえさっき言ったな。『誤魔化すんじゃねえ』……そのまま返してやるぜ」


 子狐の視線の先にはシズの後をついて回る赤毛の少女の姿があった。


「ありゃあ、なんだ(・・・)?」


 クーロンとクロウの視線の先には、笑い声をあげるアゼルがいる。

迅八とシズの事は気になるし、可愛がっているが、クーロンが一番気にしていたのはアゼルの事だった。

 迅八とシズなら、アゼルと友達になってやれるかもしれない。


「……あの子は」


 その時、大きな地震がその場を襲った。とっさにクーロンと背中合わせになり、千年の大悪魔はミキミキと骨格のきしむ音を響かせて、子狐から狐男の姿になった。


「ぬうっ、攻撃かッッ!?」


 シズ達の方を見ると、すでにアゼルが臨戦態勢に入っていた。重心を低く構え、腰のナイフに手を当てている。

 立っていられない程に揺れが強くなると、数十秒してからそれは収まり、やがてその場に静寂は戻った。


遠くでは今の揺れで興奮したのか、獣達のいななき(・・・・)が聞こえる。


「ふう……地震か。大きかったねえ。最近多いから」

「多い? ……こんなのがしょっちゅうあるのか?」


 クロウが眠りにつく前には、地震は珍しいものだった。


「いや、しょっちゅうって程でもないけど、時々聞くねえ。どこそこの地方で何人死んだとかさ」

「ほう……」


 自分が寝ている間の世界は、平和なくせに色んな問題でゴタついているらしい。……クロウが腕を組んで考えていると、アゼルがクーロンに向けて言った。


「クーロン。こっちに来てくれ」



 ……そこには洞窟とは違う、人工の跡が見える穴がぽっかりと空いていた。先導したアゼルに向けて、クーロンは声をかけた。


「……なんだいこりゃあ。『遺跡』かい?」

「埋まっていた入り口が、今の地震で表に出てきたんだろう。……どうする?」


 その穴は綺麗な長方形だった。明らかに人の手が加えられている。


「クロ、です? なんで、です?」


狐男の姿のクロウを見た記憶は、シズの中に残ってない。

大きくなってしまった千年の大悪魔の胸板を、シズはちょんちょんと突ついている。


「凄い、です」

「……なんだってんだ。鬱陶しい娘だな」


 やいやいと言っているシズとクロウを横に置いて、クーロンとアゼルは遺跡の深い闇を覗き込んだ。


「……今まで入り口が塞がれてたって事は、中に危険な生き物がいるって事もないだろ。宝探しといくかね」

「シズ、その犬から離れるなよ。……クロウ、俺の分までシズをちゃんと守れよ」

「……アゼル。どうやら鉄拳女の前に、てめえのしつけが先みてえだな」


 アゼルが鞄の中からランタンを取り出すと、その中に火を入れた。


「行くぞ」


 アゼルを先頭に四人は進む。

 カビ臭い空気の中には不穏な物は混じっていない。しかし、千年の大悪魔の勘は告げていた。


(……なんかありそうだな)


 黒々とした空気は何年前からそこにあるのか。

 千年の大悪魔は懐かしさすら感じる古い空気(・・・・)を胸に吸い込むと、その遺跡の入り口をくぐった。




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