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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第一章 迅八とクロウ
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戦い

 



「……なんだアレはっ!? なんなんだありゃあ!!」


 クロウは、先ほど自分が殺したはずだった人間の姿を思い返す。

 ——アレは、やばい。自分の腕を食っていた。何故だ?

 体も異形と化していた。人間の範疇(はんちゅう)から逸脱(いつだつ)している様に見えた。……何故だ!?


「どけえいっ人間どもっ!!」

「ヒィイイイッッ!?」


 クロウが逃げ込んだ先では、至る所で町の住人達の悲鳴が起き、辺りは混乱に包まれている。クロウの目の前で、恐怖で体を縛られ動けなくなった少女が目を丸くしていた。


「どきやがれいっ、くぉのチビがっ!!」

「シェリーッ!!」


 その少女の母親であろう人物が叫ぶ。

 それを耳にしたクロウは恐るべきスピードを緩める事なく、難なく少女を飛び越えた。


(……これ以上厄介事を増やす訳にはいかねえっ!)


 ここまでの騒ぎになってしまえば、遅かれ早かれ『奴ら』が出てくる。

 自分がどれだけ眠っていたのかは知らないが、この町には確か奴らの教会があったはずだ。こう考えている最中にも、連中が現れてもおかしくはない。


 考えながら疾駆するクロウの周りでは、常に悲鳴が巻き起こっていたが、それよりも後方ではそれとは違う騒ぎが起きていた。


「野郎ッ、追ってきてやがるのか!?」


 自分のスピードにあの少年は付いてきている。追ってきている。自分を殺す為に。


 クロウの先には町の中央広場があった。そこに差し掛かった時、クロウはある事を思い出した。


「……っ! 結魂けっこんも続いてやがるか!?」


 クロウはあの少年、迅八に名付けられた(・・・・・・)

その行為は結魂と呼ばれ、時間が経ち、定着してしまえば、恐るべき作用をクロウと迅八の双方にもたらす。


 その事を思い出したクロウは、覚悟を決めた。


(……あの気味悪ィガキを、早く殺すしかねえ!!)


 町の中央広場で、クロウは迅八を迎え撃つ為に、その脚を止めて振り返った。

 長引かせる訳にはいかない。時間をかければ騒ぎを聞きつけた『奴ら』が来るし、結魂が定着してしまう。


 幸いな事に、殴れば迅八はダメージを受けるようだった。

 ……今度は首を刈る。そして、物理的にその頭を食らってやれば、流石に生きているはずはないだろう。


「この俺様を本気にさせやがって。かかってこい小僧オッ!!」


 クロウが叫ぶと、迅八は少し離れた場所でその足を止め、右手を額にかざした。

 そこにはクロウが投擲(とうてき)したナイフが、いまだに深く突き刺さっていた。

 迅八はそのナイフの柄を握ると、ためらう事なく脳味噌の中へと押し込んだ。


「ひいいいいいっ!!」

「ば、化け物が二体も……天使様、誰か天使様を呼べ!!」


 遠巻きにそれを目にした町の住民達は悲鳴をあげ、腰を抜かした者も数多くいた。

 それらを気にする事なく、迅八はそのナイフの柄を、ゆっくりと引き抜いた。

 するとその手には、青白い光を放つが握られていた。


「……なんだ、そりゃ」


 クロウは目の前の不可思議につぶやく。

すると、ひゅん……音がした。


風を切る音がして、クロウは左腕に灼熱感を覚えた。

 見ると、先ほどまで迅八が握っていた剣が地面に突き刺さっており、クロウの左肘から先が、地面にころんと転がっていた。


「ッっかはああああ!? あ、ああああ、あああああああっ!?」

「……お返しだッッ!」


 これ程の痛みはいつ以来か。

クロウは混乱の中でその左腕を拾い、そのまま迅八に攻撃を仕掛ける。


「テメエエエエッッ!? くったばれえええいあっ!! こんっっの、クソガキャァアアア!!」


 クロウが全力で放った蹴りを、迅八は渾身の力で殴り返す(・・・・)

 ——ズバンッ!! 辺りに炸裂音が鳴り響くと、双方共にたたらを踏んだ。


「この俺様の蹴りを……!?」


 唖然(あぜん)とするクロウに、迅八が追撃する。

 先ほどの剣を拾い、反動のままに横薙ぎに振るう。すると、そのまま体を支えきれずに倒れこむ。その斬撃はクロウにかすりもしない。


 ……剣を振るって倒れこむ。素人と呼ぶのもはばかられる醜態を、クロウはやはり混乱とともに見ていた。


(ドするでぇ斬撃だが、やはりただのガキだ。なんなんだ? なんなんだこいつは……!?)


 クロウが見てみれば、先ほどの蹴りと拳での応酬で、迅八の残った右腕は(いびつ)な形に折れていた。


(左腕はねえ。右腕は折れてやがる。……なのに、なんだ? コイツの妙な雰囲気は)


 満身創痍の迅八を油断なく見ていたクロウの耳に、細々と、ボソボソと、なにかの呟きが聞こえてきた。


「なんだ、喋っていやがるのか……?」











 ——ちくしょう…………ちくしょう………ちくしょう…………ちくしょう…………ちくしょう、ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょう……ッッ!!


 地面を叩きながら、涙を流しながら、そのボソボソとした呟きに合わせ、どこまでもくらい目で、迅八はクロウを見た。


「おっ……」


 ……お前が悪いんじゃないか!

クロウは叫び出しそうになったが、話の通じない相手である事を思い出し、体の震えを抑えようとした。


 元々クロウは、迅八にとって益となる行動しかしていない。それなのに、いきなり結魂の儀式に巻き込まれた。

 見ず知らずの、しかも明らかに自分よりも格下の相手にそんな事をされたら、間違いなく誰でも相手を殺す。殺すしかない(・・・・・・)


 初めにクロウは迅八に、お互いの知識も常識も違いすぎると言った。

 まさにそういう事だった。お互いにとって不幸な事故だったのだが、迅八にはそれは判らない。


 そして、唐突にそれは訪れた。


 迅八と、クロウの周りにぼんやりとした光が浮かび上がる。クロウからは赤い光が、迅八からは青白い光が。

 それは二人を繋ぐように包み込むと、赤と青が混ざり合い、またお互いの体に戻っていった。


「定着、しやがった……!」


 クロウは虚脱し、膝をついた。

 千年の時を超える大悪魔、数多くの異名をもつが、一度も『真名まな』などという下衆なものを持った事がない王者たる自分が。


(転生者の、人間の、下品な子供の、今も俺様を恨みがましく見ている話が通じない気狂いと、結魂(・・)だとっ!?)


 クロウは、信じたくない気持ちで呆然と迅八を見ていた。そして、迫り来る問題に気付いた。


(……やばい、このガキは、は結魂がなんなのか分かっちゃいねえ!)


立ち上がった迅八の目つきに、少しずつ怒りが乗り始める。クロウに向けて口を開いた。


「テメエ……、この犬っころが。ちくしょう、ちくしょう……!!」

「ま、待てクソガキ……いや、ジンパチ!! 待て待て待て待てっっ!!」

「うるせえ…、よくも、よぉくもォォオオ! 死ぃにやがれええええっっ!!」


 いつの間にか、迅八の握る青白い剣は、槍のように形を変えていた。迅八はその槍に恐ろしい力をまとわせて、クロウに向けて全力で投げつけた。


(これ、っ……!)


 クロウは目の前に迫る恐ろしい槍を見つめ、自分の眉間を狙ったその槍を、なんとか(かわ)した。

 しかし、迅八がいつの間にか目の前に立っていて、しかも投げたはずの槍をその手に握っている。


「ま、待てえええええいっ!!」

「避けるんじゃねえっ!!」


 投げた槍はどうなったのか。クロウはそれを確かめようとして、一瞬後ろに気が逸れた。その隙を見逃さず、迅八の槍はクロウの右肩に繰り出された。


「やっっべ……!! あっ!!」

「死ねテメエエエエエエエッッ!!」


ざすっ!!

槍がクロウの肩に刺さると同時に、迅八の右肩も見えない何か(・・・・・・)に貫かれたように血を吹き、迅八はそのまま後ろに倒れこんだ。


「痛ッッ、があああああああっ!!」

「痛っええええええ!? ……やはり、定着しやがった。クソッタレ!」


 迅八の右肩に突然出来た傷。

倒れた迅八にクロウが歩み寄ると、迅八は気絶していた。


クロウは己の肩を見る。そして、同じ場所が傷付いた迅八の肩を見た。


「嘘だろ……マジなのか? 結魂が、定着しやがった……!!」


湧き上がる怒りを消す為に、迅八の頭を容赦無く蹴りつけると、クロウの頭にも衝撃が襲った。


「いってええええ! クソッ、クソッ! ……クソッタレが!」


 結魂。

この世界における、『名前をつける』という行為。

運命の共有。生命とダメージを共にする。


気絶している迅八のすぐ横で、クロウは誰にもぶつけられない(いきどお)りを、最大音量の遠吠えとして発散させた。





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