表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
57/140

特許

 



 迅八たちが、おかしな転生者二人組と話していたその頃、コルテは掃除をしていた。

その部屋の中には丸められた紙が散らばっている。どんどんと量産されていくそれを、コルテは溜息をつきながら片付けている。


「いい加減にして下さいよジークエンド。紙だって安くねえんですから……」


 丸められた紙をコルテが広げてみると、大きな紙に一行だけ文章が書かれている。そしてそれを斜線で消した跡があった。


「メモ書きに使えるでしょ。どうせ少ししか書いてないんだから、考えがまとまったら新しいのに書き出せばいいでしょうよ」

「むぅ……。調子が出ん」


 散らばっているゴミ(かみ)はどれもこれも一行や二行、それしか空白を埋めていなかった。

転生者達が作り出した『紙』は、世界に出回ってから長い時間が経っている。今では高級品と呼ばれはしないが、それでも安い物ではない。しかし、大悪党のロックボトムからすれば、それも些細な金額だった。


「お〜? 別にいいじゃねえかそんなもん。なくなったらまた買えばいいだろ〜」

「じゃあ、あんたが片付けて下さいよ!」


 部屋の中には机に向かっているジークエンド、そのジークエンドがどんどん書き捨てるゴミを拾い続けるコルテ、そして、窓際では机に足を投げだして、新聞を読んでいるアマレロが居た。


「大体よ。ほっときゃいいんじゃねえかそんなもんはよ〜。出る時ゃ宿の連中が片付けんだろ〜」

「僕はあんた方と違って、汚い部屋じゃ落ち着かないんですよ!!」


 初めは一人ずつ部屋を取る気でいたのだが、生憎あいにくと部屋が埋まっていた。

 クーロン達とはここで落ち合う予定なので、別の場所に行く事も避けたい。仕方なくコルテは空いていた三室だけ押さえて、それぞれを部屋に割り振った。

 この部屋に居る三人。アゼル、セリア、シズの三人。そして、迅八とクロウとクーロンの三人だ。

 初めはシズと迅八を同じ部屋に考えていたのだが、アゼルがそれを拒否した。


「全くうちのお姫さんはなに考えてんですかね。ジンとシズは兄妹でしょうが……。クロウだっておかしな事はしないでしょうよ」


 シズが心配だと言い張るアゼルに、ならクーロンは心配じゃないのかと尋ねたら、クーロンだったら強いから大丈夫と言われた。


「そ〜りゃそうだ。むしろジンが心配じゃね〜か〜? ダークエルフのツボにはまったら食われっちまうぞ〜」

「そんな事はどうでもいいでしょうよ。クーロンのストレス発散の役に立ってもらいましょ」

「……うるさいぞお前ら。集中できん」

「お〜? ジークエンド、ワガママ言うんじゃねえよてめえはよ〜。仕方ないじゃねえか。同じ部屋なんだからよ〜」


 コルテはアマレロの向かいに座り、机の上に乗っている足を押しのけると、窓の外に視線を巡らせた。


 五階建ての宿——ホテルと言った方がふさわしいその建物からは、自由貿易都市のきらびやかな喧騒が見えた。

 自由貿易都市は眠らない。夜に寝る人間も、朝に寝る人間も、様々な人々が暮らすこの町は、休む事なく動き続けている。迅八が驚いていたような光景も、コルテにとっては見慣れた世界だ。


「ジークエンド、あんた何考えてんです?」

「……むう。お前らのせいで筆が進まん。全く」

「全く、はこっちのセリフでしょうよ。どうせ中々進まないんだったら少し話しましょう。……あんた、なんだって十二使徒の同行なんか許したんです」


 コルテは辟易(へきえき)していた。ただでさえ厄介な転生者と千年の大悪魔がついてきたのだ。

 アゼルやクーロンの様子を見ると、迅八とシズの同行はしばらく許容せざるを得ないが、十二使徒まで抱え込む必要など全くない。


「なんで十二使徒なんかと……。絶対に面倒がありますよ」

「面白いものが見られるかも知れんぞ。千年の大悪魔と、因縁があるらしい十二使徒だ。……ワクワクしないか?」

「しませんよ!! 巻き込まれたらどうすんです!?」

「お〜? 巻き込まれたら(・・・・・・・)? 一緒にやりゃいいじゃねえか。暇つぶしにゃいいだろ〜よ〜」

「あんたは黙ってろ。僕はジークエンドに聞いてんですよ」

「アマレロの言う通りだな。一緒にやればいい」

「ほれ。言ったじゃね〜か」


 アマレロの呆れたような呟きに、コルテは頭を抱えた。


(おかしいのはてめえらだ。なんで僕が異端扱いされてんです!?)


 元からコルテはロックボトムの調整役だ。無軌道な彼らの間でいつも苦労しているのに、その労力が報われる事は少ない。しかも最近増えた同行者も、事あるごとにコルテに問題を押し付けてくる。



 ——コルテさん、これってなんなの? あれは? それは?

 ——コルテ、です。コルテですっ

 ——あの、申し訳ないんですけど、下着の替えがなくなっちゃって、お金が……



 シズは別にいい。

 シズは特に面倒はない。構われてもこっちが忙しそうに振る舞えばしつこくしないし、愛される空気を持っている。

 しかし、ナメられるのは気に食わない。迅八やセリアは完全に自分の事を侮っている。振り回される『お母さん』的な立ち位置は、もううんざりだ。


「そろそろ、バシッとやらねえと駄目ですかね……」


 コルテは決意した。あの厄介者共に見せつける。自分という大魔術師(・・・・)の存在を。






 ————————————————






「……だから、『特許』になりそうな事は勝手にしちゃダメなんす。変な事思いついても勝手に広めたら、罰金懲罰なんでもござれッスからね。気を付けた方がいッス」

「特許って……なんでもアリかよ」


 その頃、迅八はキリエとトムから、『もう一つのルール』について聞いていた。


「……この世界には、『名付け』なんていう変な現象がある。だから、所有権とか権利に関する概念はすんなり受け入れられるらしい。……ぼかあ天才だから特許持ってるぞ!!」

「へえ、すげえじゃんトム。どんな特許なんだよ?」

「僕が作った魔道具で、僕の力が込められている。なんと、その靴を投げると、表か裏かで明日の天気が晴れか雨か、五十パーセントで分かるんだ!! ……残念だけどまだどこの商会も製品化してくれない。やっぱり魔道具にすると的中精度が落ちるからな。けど、そのうち世界を席巻(せっけん)するはずだ!!」


 二択で、的中率が五十パーセント。

 それは、予測してないのと同じ事だという事には、天才は気付いていないらしかった。


「……まあキモいのは無視していッスよ。そんで、あたしら転生者は自分達の権利を守らなくちゃいけないッス。勝手な事してるとやっぱ他の人達に怒られちゃうッスよ」



 この世界に来た転生者達は、初めは好き放題、何も考えずに色々な事をやっていた。

 それこそ自転車を作ったり、紙を作ったり、現代の発想から仕事のやり方を変えてしまったり、簡単な数学を人々に教えたり、なんでもやった。


 その内、この世界で要職につく者が現れ始めた。そして、『転移』した訳ではなく、元の世界の記憶を持ってこの世界で生まれ変わった者たちの中には、貴族や大商人の子供として生まれた者もいた。彼らは特に滅茶苦茶にやった。

 自分の領内をガンガン発展させたり、新しい品物や商売をどんどん作り出す彼らのやり方は、自然と世界に広まっていった。

 すると、そのうち問題が出てきた。


「……ジンさん。壊血(かいけつ)病って知ってるッスか? 主に、栄養がちゃんと取れない船乗りがかかる病ッス」

「なんか、歴史の授業の時に先生がちょっと話してた気がするな……。ごめん、あんま覚えてないけど」

「あたしも詳しくは知らないッスけど、ビタミンとかが足りないとなっちゃうッス。だからレモンとかライムとかを食べると治るんすけど、ある商人の転生者がその事を広めたッス。結果、その後数年で世界地図が塗り替えられたッス」


 今までは航海日数を考えると無理だとされていた航路などが見直された。そこからは加速度的に、世界中に船が行き交うようになった。


「けど、その商人の転生者は別に褒められる事もなく利益を得る事もなかったッス。壊血病の事を知ってたってだけで、商売のセンスはなかったんすね」

「偉いじゃんその人。なんの問題があんだよ?」

「その事に限って言えば別に悪くないかもしんないッス。長い航海なんかしたら、致死率が五割超えとかだったらしいッスからね。目の前で見てたらやり切れなさもあるっしょ。……けど、転生者は一事が万事、その調子だったらしいッス。どんどん知識を撒き散らしてたッスよ」


 昔の転生者達は見返りを求める事なく、自分達の技術や知識を守ろうという意識も低かった。

 しかし、その事が転生者達の地位を高める事もあれば、落としてしまう事もあったのだ。


「こっちの人達はまだ知識が足りないだけで、馬鹿じゃないッス。それに、魔術なんていう訳わかんない事が当たり前の人達ッス。知識でまで追いつかれたらあたしらの優位性がなくなるッスよ。……あたしらはこの世界じゃ少数派の異邦人だから、それはまずいんす。世界の決まりで『保護』されるのなんて最初だけで、チュートリアルが終わったら後は誰も助けてくんないッスからね。あたしらは強くないとナメられるッス。だから、名付けを利用した『特許』があるッスよ」


 転生者達の知識で大儲けする現地人が出てきた。転生者を保護した後に飼い殺しにして知識を奪おうとする(やから)もいた。肉体的には決して強くもない転生者達は、下手をすれば迫害の歴史を歩む可能性もあったのだ。


「ヘイ。ユーのニッポンでは奴隷の歴史はそんなにないだろ? ……僕の国はいっぱい居たらしいからね。そんなのはごめんだろ?」

「で、特許を作って自分達の知識を守るようになったって事かあ……。へー」


 迅八がかいつまんでシズに通訳してやると、今まで黙っていたシズが、日本語でキリエに問いかけた。


「……ひょっとして、ここ二十年位で世界は更に発展したんじゃないですか?」

「そうらしいッスね。シズちゃんは察しがいいッスね〜」

「え、なんでなんで? なんで分かったんだよシズ」

「多分、インターネットじゃないかな? それ以前の人とそれ以後の人達じゃ、知識に大きな違いがあると思う……」


 インターネットは浅くて広い知識の宝庫だ。望めば深いところまでだって知れる。専門家には昔から敵いはしないが、一般人の持っている知識の幅は広くなったと言ってもいい。


「ジンさん、例えばっスけど、『塩』の作り方を知ってるッスか?」

「分かんないけど、海水干しときゃ出来るんじゃねえのかな?」

「基本はそんな感じッス。けど、今はなんとなくだったら専門的なやり方を知ってる大学生とかだっているんスよ。あたしの事ッスけど」

「なんでそんな事知ってんだよ?」

「前にネットで『サバイバル』で検索してたらいつの間にか知ってたッス」


「……なんで女子大生が、『サバイバル』を検索するんですか?」


 シズの疑問に、にひひと笑ってキリエが答える。


「暇な女子大生はなんでもするッスよ。シズちゃんもそのうち分かるッス。……まあ、塩の作り方は置いといて、とにかく最近の転生者は昔の転生者と比べても色んな事を知ってるから、問題起こしがちッス。だから特許関係も厳しくなってるッスよ。特許で稼ぎたかったり、もっと詳しい話が知りたいんだったら、一回 北の国に行ってみるといッスよ」




 当たり前と言ったら当たり前の話なのかもしれないが、迅八にとっては驚くべき話の連続だった。キリエや迅八から日本語に通訳されながら話を聞いていたシズも、何かを考え込んでいる。


 すると、部屋の扉がノックされた。

 迅八が立ち上がりその扉を開けると、そこにはアゼルが立っていた。


「アゼル、どしたの?」

「いつまでやってるんだよ変態。もうシズを返してくれ」

「なんだよ『返す』って。俺の妹をお前のもんにすんじゃねえよ」


 ふん、と言って迅八の体に触らないように扉を抜けると、アゼルがシズを優しく立たせた。


「シズ、そろそろ寝ようか。この部屋は空気が悪い。……セリアが買ってきたお菓子もあるから、みんなで部屋で食べよう」

「分かった、です。ありがとです」


 寝る、お菓子、食べる、……数少ない、シズの知る言葉を聞いて、シズはアゼルに微笑んだ。すると、アゼルはとても柔らかく、嬉しそうに笑った。

その顔を見た迅八は、余計な一言を言ってしまう。


「……お前さあ、普段からそうしてりゃ可愛いんだからさ。もっと俺にも、ひっ!!」


 アゼルが反射的に右手を腰にやると、迅八はうずくまった。


「……ちっ、部屋にナイフを置いてきてた。おい変態。クーロンに手を出したら……分かってるだろうな?」

「アゼルー、あたしが遊んでやる分にはいいだろ?」

「クーロン、こんな変態を相手しちゃ駄目だよ。……ま、程々にね」


 部屋を出て行こうとするアゼル達を見て、キリエ達も立ち上がった。


「あたしらもそろそろ帰るッスよ。続きはまた今度って事で。あたしらもここに泊まってるから、明日は暇だったら遊ぶッスよ。シズちゃん」

「ぼ、ぼぼ、ボカぁ忙しいんだけど、……けど、案内するよ!!」


 おかしな転生者二人組も、部屋を出て行った。




・・・・・・・・・・・・・・・




「なんか、分かったような分かんないような…」

「おい、てめえは考え事にゃ向いてねえ。これだけ覚えとけ。帰る方法が分かったら連絡、新しい知識を広めたくなったら連絡、これだけだろが。……もっとも結魂をどうにかしねえうちは帰さねえがな」


 子狐が、クーロンと迅八しかいない部屋の中でアクビ混じりに答える。クーロンもそれを聞くと、綺麗な唇を大きく開いた。


「ふああ……。もう今日は寝ようよ。続きは明日でもいいだろ? ……ほら、坊やも早くおいで」


 クーロンがベッドに倒れこむと、広いベッドをぽんぽんと叩いた。


「……はい? なんで?」

「だって、ベッド二つしかないじゃないか。早くおいで。ほらほら」

「いや、俺はクロウと寝るからいいよっ」

「あん? ふざけんじゃねえぞ小僧。俺様は狭苦しいのはゴメンだ」

「お前、今は体ちっちぇえじゃねえかよ!!」

「なんでお前みたいな青臭えガキと俺様が寝なくちゃなんねえんだ。こっちのベッドに来たらぶっ殺すからな」


 そう言ってクロウは人型になり、裸のままで布団にくるまった。久しぶりに大きな体に戻って、気持ち良さそうに体を伸ばしていた。


「えー。……んじゃいいよ。俺はソファで」

「いいからおいでったら。なんもしやしないよ。大悪魔が見てる横でね」

「あん? 俺様は構いやしねえぞ。うるさくしなけりゃな」


 迅八の事を放って進んでゆく『領土問題』。結局、異邦人たる迅八は、悪魔ではなくダークエルフの領土で体を休める羽目になった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ