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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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転生者たち

 



「……いや〜、さっきは申し訳なかったッス。ほら、トムも頭下げるッスよ。ほらっ」

「ヘイ、ジャパニーズ。ぼかあ撤回しない。リア充は爆発し……、いで、や、やめろよキリエッ」


 迅八の目の前では先程から、二人の『転生者』が漫才のようなやりとりを続けていた。


 部屋の中では迅八とシズが座り、クーロンも油断なく二人組の転生者を見ている。子狐は興味なさそうに、少し離れた場所でなにやらゴソゴソやっていた。



 先程、いきなり迅八の頭をぶっ叩いたのは、目の前の『トム』と呼ばれる男だった。

 トムは、いきなり迅八の頭をぶっ叩いた直後、それを見ていたクーロンが繰り出した一撃を腹に受け、情けない声をあげ崩れ落ちた。

その後、アゼルがナイフで止めを刺そうとした所で、それを止めようと更に乱入してきた女がいた。

その女は上下迷彩柄の服を着て、その下に着込んでいるシャツには『大和魂』と書いてあった。


 その字。久しぶりに見た『漢字』に驚きながらも、迅八はトムに止めを刺そうとしているクーロンとアゼルをなんとか止めた。


 ……今は、コルテが手配した宿の一室に居る。おかしな二人組から話を聞きたい迅八達は、ここに彼らを連れてきたのだ。

 宿のロビーのような場所で(くつろ)いでいたジークエンドに事情を話すと、彼は『そうか』としか言わなかった。

 今はアゼルとセリアも自分達の部屋に戻り、この部屋にはいない。


今、迅八達の部屋の中に居るのは、クーロンとシズ、転生者二人組、そして、つまらなそうにアクビをしている千年の子狐だけだった。






「……本当に申し訳ないッス。トムはヘタレの癖してしょっちゅうああいう事するッス。勘弁して欲しいッス」

「もうそりゃどうでもいいよ。ていうか、俺はリア充じゃねえから。それよりもさ、あんた達転生者なんだろ?」

「ヘイッ。ダークエルフのビッチとヤマトナデシコに囲まれといて。青い髪の子だって可愛かったじゃないか。ぼかあ誤魔化されないぞ。このリア充めっ!!」


「……ほう。ところでビッチってのはあたしの事なのかい?」


 弱い者には寛容であるクーロンの保護欲は、目の前の冴えない男には発揮されないようだった。青筋を立てながら、その男に詰め寄る。


「なっ!? ……やめろ、やめろよっ。近くに来るなよビッチめっ」


 乱暴な言動とは裏腹に、男は顔を真っ赤に染めて、クーロンと目を合わせようとしない。

コルテがかけている眼鏡のような流麗なデザインとは違う、いかにも(・・・・)な丸眼鏡を忙しなく動かしていた。


「や、やめろ。なんだよっ!! ……いい匂いで近寄ってくんなよっ!!」

「ちょ、ちょっとだけあんた気持ち悪いね」


 クーロンが顔を引きつらせてから離れると、そこに女が口を挟む。


「まあまあ、姐さんも目くじら立てないで欲しいッス。トムも悪い奴じゃないんッス。ちょっと気持ち悪いだけで」

「だいぶ、でしょ……?」


 シズがぼそりと呟いた日本語は、隣にいた迅八にしか聞こえなかった。


 女は『キリエ』と名乗った。

 迅八が初めて出会った転生者。それはおかしな二人組だった。日本人のキリエとアメリカ人のトム。

 二人は商人ギルドに所属していて、仕事の途中でこの町に立ち寄ったのだと言う。


「……そうなのかあ。俺、元の世界の人に初めて会ったんだよ。俺はジンだ。こっちはシズで、そっちはクーロンだよ。……よろしくな。キリエさんとトム」

「ヘイ黄色人種(モンキー)。そのあだ名で僕を呼んでいいのはトモダチだけだ!! 僕の本当の名前は……」

「なにがモンキーッすか。日本人の事を見下すのはトムが大好きな日本文化離れが出来てから言って欲しいッス。……ほれっ、チョップっす!!」

「ぐえっ!?」


 キリエの容赦ないチョップがトムの胸を叩くと、トムは『萌え魂』と書かれたシャツを押さえて悶絶した。


「なんかこいつの名前長ったらしくて偉そうなんで覚えられないッス。トム顔だからトムでいッスよ」

「そ、そっか。よろしくな。トム」

「ヘイヘイヘイッ! だから、トムじゃな、」

「もう、ちょっと黙ってて欲しいッス。キモい(・・・)ッス」


 女子の『キモい』の一言は、あらゆる論理を超越する。トムは泣きそうな顔で部屋の隅に行き、ぶら下がっていた紐を相手に一人でシャドーボクシングを始めた。


「……まあ、危険はなさそうだね。あたしは黙って聞いてるからさ。坊やとシズはその子たちと話したらどうだい? 聞きたい事もあるだんだろ?」


 クーロンはそう言って、部屋に置いてあった雑誌のような物を読み出した。




 ・・・・・・・・・・・・・・・




「って言っても、なにから聞いたらいいのやら……」


 迅八は困ってしまった。気になる事はいくらでもある。それこそ山のように。

しかし、この世界に来てからもう二ヶ月以上経つ。聞かなくてもわかってしまう事も多いのだ。


「ジンさんが一番気になるのは、『なんでこの世界に来たのか』ッスよね? けど、私達にも分からないッスよ」

「やっぱ、そうだよなあ」


 ここまでの旅路で、迅八は迅八なりに情報を集めていた。その中で聞いた事の一つに、『元の世界に帰れた転生者なんて聞いた事がない』というものがあった。


「……実際に一人もいないのかは知らないッス。昔から転生者は居たらしいッスから。けど、有名な『帰還話』はないッスよ」


 元の世界に帰る方法と、この世界に来てしまった原因は密接な関係があるはずだ。

 帰った人間がいないという事は、この世界に来た理由も判明していない可能性が高いと迅八は考えていた……訳ではなく、クロウにそう言われた。元々迅八は物事を深く考えるのが苦手なのだ。


 ——へー


そう言いながら、弛緩した顔で話を聞いている迅八に、クロウは可哀想な人を見る目をしていた。


「じゃあさ、それは置いといて。……なんか俺、こっちに来てから体がおかしいんだよ。それはなんなのかな? 妹は違うみたいなんだけど」


 迅八が自分の超回復について尋ねると、隅でシャドーボクシングをしていたトムが迅八に話し掛けた。


「ヘイジン。なんだいその厨二設定。これだからニッポンのOTAKUは……」


 アメリカのオタクであろうトムがそんな事を言うので、面倒くさくなった迅八は『迅九郎』を慎重に抜いた。


「OH! ムラマサブレード!!」

「ちょ、ちょっとジンさんなにするつもりッスか!?」

「いや、見た方が早いからさ」


「おいジンパチ、てめえなにするつもり、」


 子狐が迅八に話し掛けると同時に、迅八は手のひらを迅九郎に押し当てた。

 迅八はその刃に手のひらを押し当てただけだ。しかし、それだけで手のひらには浅く、けれども鋭利な切り傷が付いていた。


「いてっ」

「おいやめろテメエっ。下手したら俺まで伝わっちまうだろうが!!」


 喋る子狐を見て、シズが驚きの声をあげる。


「クロくん、喋るの!?」

「ああ。……その内言ってる内容も分かるだろ。そしたらそいつが可愛くねえってお前も思うようになるよ」


 迅八がシズに言うと、子狐はシャーっと威嚇した。


「ちょ、ちょっと、なんスかそれ!?」

「傷が治ったのか? ……ホワイ!?」


 広げたままのその手のひらは、短い会話の最中に治ってしまっていた。驚きの声をあげる転生者二人組に、迅八は問いかけた。


「だから、こっちで目覚めたらこんなんなってたんだよ。二人は違うのかい?」

「……いやあ驚きッスねえ。いいもん見れた(・・・・・・・)ッス」

「そんなおかしな体になってる訳ないだろ。そもそも転生者はこっち(・・・)の人間に比べたら貧弱なんだ。……ぼかあ白人だから、鍛えたら彼らにも負けないけどな!」


「え? 特殊能力みたいなの、ないの? だって、転生者ってバケモノ揃いなんじゃないのか?」


「中にはそんなレアな人もいるッスけど、そんなおかしな体してる人はいないッスよ。それに、変な力を持ってる人のほとんどは、『使い方』が違うだけなんスよ。……こっちの世界は物理学が発展してないから、魔術の発想が狭いんス」


「……フォイヤボゥ、なら巻きつけて下から燃やした方が効率がいいし、ウィンケッテァー、ならカマイタチで切りつけるだけじゃなくて、外れたら耳元で破裂させて鼓膜にダメージ与えたりする。こっちの連中はそういう事をなかなか思いつかないんだ」


「やめろ。ネイティブの発音混ぜんのやめろって」



 そんなもんなのか、と迅八は思う。そんなもんという程にたやすい事ではないが、迅八はそれに気付かなかった。


「そもそも魔術自体、あたし達みたいな転生者には向いてないッス。使えるのはトムみたいな一部の変態だけッスよ」

「キリエ、変態紳士だ……。ぼかあその間違えは許さない」


 何が違うのかは迅八には分からないが、トムは許さないらしかった。


「なんで魔術向いてないの? 俺、技なら使えるんだけど」

「イメージ出来ないッスもん。あたし達には」



 この世界の魔術や技にはイメージが重要とされる。例えば、拳大の大きさの炎の玉が相手に向かって飛んでゆく。それを克明(こくめい)にイメージ出来なければ、その魔術が発動する事はない。



「だって、あたしら元の世界でそんなもん、テレビの中でしか見たこと無いッスもん。自分にも魔術が使えるなんて信じきれないッス。あたしは頑張ったけど体の強化くらいしか出来なかったッスよ」

「んな事言ったって、目の前で何回も見たし、頑張りゃ魔術くらい使えるんじゃないの?」

「そっちの考え方がおかしいっスよ。

 ……例えばッスけど、マラソン選手は持久力凄いッスよね? けど、『持久力』なんて目安の言葉ってだけで、実際にはそんなもんないんスよ。筋力とか体の強さとか、精神力をそう表現してるだけッス。『魔力』もそれと一緒で、なんか色々なもんの目安の言葉っしょ? あたしらは魔力なんてよく分かんないッスよ」


大和魂の女、キリエは腕を組む。


「マラソン選手よりも強い体を持ってる人間が、全員フルマラソン走れるかって言ったら出来ないはずッス。精神力が足りないし、自分が四十キロ以上走れるなんてイメージ出来ないッスよ。……魔術も、『お前には出来る』って言われても、出来ないッス。魔法使いの自分なんて信じられないッスもん」

「そうかな? 俺は、頑張ったら四十キロ走れると思うんだけど」

「それはジンさんが特別なんじゃないッスか? 普通は思わないッス。間違いなく出来ないッスよ、普通は。……それに、練習すれば四十キロは走れるかもしれないッスけど、手から炎の玉を出すのは無理な人間には絶対無理ッス。あたしは使える気がしないッスね」

「そんなもんかなあ……。だってさ、他人に出来て、俺に出来ない事はないんじゃないかな?」

「……ああ、あれッスか。ジンさんは紙一重(・・・)の人ッスか」


「おい、バカの方だからな。そいつを買い被るんじゃねえぞ迷彩女」


 子狐がキリエに忠告する。迅八は特に気にせず(ゆる)んだ顔をしていた。


「その、トムさんは、どんな魔術を使えるんですか……?」


 シズがおずおずとトムに話し掛けると、それをキリエがトムに通訳した。シズがトムの目を見ると、トムは目に見えて狼狽(うろた)えた。


「ボ、ボク? いや、そ、そそっ、そんな大した事は出来ないんですけどねッ。……けど、強いて言うなら見通す力っていうか魔眼っていうか、そそそ、そんなもんですよ。……と、ところで、シズちゃんさんは……あ。シズちゃんさんでいいよね? ……ごめんね、ぼ、ぼぼ、ボクあんま女の子と話さないから。あの、シズちゃんさん凄い可愛いよねっ。『黒眼のアズサ』みたいだよ。……知ってる? 君の国で作られた素晴らしいアニメーションなんだけど、特に第二期十三話、ハシモト監督が作画した回のアズサにそっくりなんだ! それでね、アズサっていうのはさ……」



 ——おうジンパチ。なんだこいつは

 ——黒眼のアズサって、それ普通の日本人じゃねえか? もっと変な色の目じゃないとダメなんじゃねえか?

 ——キモいのはいつもの事ッスから

 ——だれ? アズサって、だれ?

 ——あらあらそうかい? 可愛いとこもあんじゃないかい



 トムから少し離れて皆でコソコソと話し合う。クーロンの『可愛い』の基準が、迅八はよく分からなくなった。


「でさ、アズサの決めゼリフがあるんだよ。……この黒眼は誤魔化せないっ!! OHマーヴェラス、天才だよ日本人は!!」

「だから、それ普通の目だろ。……それはいいとしてさ、トムはどんな事わかんの? その魔術……魔眼?」

「ジンさん、それはあたしが説明するっスよ。……なんと、トムは明日の天気が分かったりするッス。買い物行くのに便利ッス!」


「……おいジンパチ。てめえらの世界はみんな阿呆ばっかりなのか?」


「ちょ、ちょっと待って欲しいッス。トムの天気予報はかなり凄いッスよ! トムを馬鹿にするのはいいけど天気予報は馬鹿にできねッス!」


 さすが転生者歴が迅八よりも長いキリエは、喋る子狐に特に驚く事もなく普通に会話している。……自分達は傘要らず、仕事の効率もすこぶる良い、どうでもいい話を続けていた。


「んじゃ、もうそれはいいや。あとは何から聞いたらいいんだろ。ん〜」


 トムはシズの方を直視できないのに、ずっとシズに向かって自分の好きなアニメの話をしていた。言葉が分からないシズは、曖昧に頷いていた。

それを横目にキリエが迅八に話しかける。


「ジンさんは転生したばっかなんすか? なんで言葉喋れるんッスか? 初めはどこの教会にお世話になったんすか? 所属ギルドは?」

「う〜ん……!!」


 迅八は焦った。何も話せない。何かを喋ればきっとボロが出る。

カザリアを倒した事も、ベドワウにした事も、千年の大悪魔の事もロックボトムの事も、何も喋ってはいけない気がする。


「ワケありッスか? ……まあ、転生者は自由ッス。言いたくないんだったら聞かないッスよ。けど、一つだけ知っておいて欲しい事があるッス」

「な、なんだい?」

「転生者の『決まり』についてッス」



『決まり』

 何度も聞いた言葉を迅八は頭の中で思い出す。この世界の生き物には、幾つかの『決まり』があるという。


「決まり? それが転生者(おれたち)にも関係あるのか?」

「そうは言っても世界の決まりとは関係ねッス。転生者達が自分で作ったルールの事ッスから。転生者はなにをしようが何処に行こうが基本的には自由ッス。……けど、二つあるルールを破ると、他の転生者を敵に回す事になるかも知れないから覚えとくッス」

「え。な、なにそれ!?」


 迅八は天使を殺した。人も殺したし魔物も殺した。どこかでルールを破っていても全くおかしくはない。

 唾を飲み込み身を固くする迅八を見て、キリエは笑いながら言った。


「だ〜いじょうぶッスよ。ジンさん転生したばっかだったらどっちも間違いなく引っかかってないッス。……んで、一つ目なんスけど、『元の世界に帰れる手段、それに関係する事柄は転生者本部に連絡する』ッス」

「転生者本部……。そんな場所があるのか?」

「北の国にあるんスけど、転生者達がよく集まる所ッスよ。けどわざわざ本部まで行かなくてもどっかの教会に行けば天使が伝えといてくれるんで。……まあ、そんな報告は滅多にないっていうか、無いッスけどね」

「けどまあ、そりゃ当たり前なんじゃないの? 伝えるだろ。帰る方法が分かったら」

「まあそうなんッスけど、あんま軽く考えない方がいッス。ちょっと考えてみて欲しいんすけど……」



 転生者達は、大きく分けると二種類いる。帰りたい者と、帰りたくない者だ。元の世界に未練がある者がいれば、無い者もいるのだ。

 転生者達の転生は、ここ数年で始まった訳ではない。その起源ははっきりしていないが、昔からいたのだ。

 初めは帰りたかったが、こちらの生活に慣れたり、家族を作った者もいる。転生者だという事を隠して『現地人』として生きている人間もいるし、自分の親が転生者だと知らない二世だっているのだ。

 そして、彼らには恐れる事がある。



「私達は、理由も分からずこの世界に飛ばされてきたッス。つまり、ひょっとしたら、明日になったら元の世界に帰ってる可能性だってあるってことッス」


「……あ」


「情報を隠してたら帰りたい人を怒らせるのは説明するまでもないッスよね。帰りたくない人達も、知っておけばそれを避けられるかもしれないから情報を求めてるッス。ジンさんがどっちの人(・・・・・)なのかは分からねッスけど、みんなそれだけは共通して求めてる情報ッス。だから、元の世界への帰還に関する事は、隠す事は許されねッス。……『忘れてた』なんて通用しないッスからね」


「通用しないって何よ……ビビらせるなよ」


「本部にはおっかない転生者もいるッスよ。『黒のマリア』なんかに狙われたら上位悪魔族とか天使だって逃げきれねッス。だから、絶対に隠しちゃダメッスよ」


「な、なに、その黒のなんたらって人は」


「一般人で見たことある人はいないッス。……クエストランク『規格外』。一人で天使とか悪魔とかぶっ殺せる正真正銘の化け物ッスよ。……最近、復活したっていう千年の大悪魔とだって、そいつなら一人でも渡り合えるって言われてるッス」


「……なんだとコラ。てめえ、誰様だれさまの前でそんなふざけた事を、」

「ク、クエストランクってなんなんだよキリエ!」


 千年の子狐が怒り出す前に、迅八は話題を変えようとした。


「教会には色んな役割があるッスけど、冒険者ギルドみたいな役割もあるッス。そこで出される仕事とか指名手配とか、クエストって呼んでるッス。そこでどんだけ活躍したかの基準がクエストランクなんすけど、『黒のマリア』は欄外ッス。一人だけ桁が違うんで。……ちなみに、ジンさんは知らないと思うッスけど、『千年の大悪魔』ってのはこの世界でも最高峰の悪魔族ッス。別に指名手配はかけられてないッスけど、復活したってだけで警戒される、超大物ッスよ」


(……これが? 嘘でしょって)



 ドヤ顔で迅八を見る子狐。

口には出さず、『ん? なんだ? 俺様に言う事はねえのか?』と瞳をキラキラさせている子狐を、迅八は無視した。



「ま、まあ、分かったよ。帰る方法なんて知らないし、分かったりしたら知らせるよ。その、黒のマリアに狙われたらやだしな。……で、もう一つのルールってなんなの?」

「そっちはちょっと長いッス。……ルームサービスでも取らねッスか? お腹空いたッス」


 迅八の返事を聞く前に、キリエは部屋に備えられた用途不明の金属製の管の前に立った。脇にあるこれまた用途不明のボタンを押すと、金属管から声が聞こえてきた。



『……はい、フロントです』

「ルームサービスお願いするッス。え〜と……」



 周りの人間から注文を聞きそれを伝えていくキリエ。

迅八が、その現代のような光景を呆れと共に見ていると、座っていた迅八の膝が小さな前脚に叩かれた。


「……ん?」


 見てみると、子狐がいまだドヤ顔で迅八を見ている。小さな前脚で何回も、迅八にその言葉を言うように催促(さいそく)した。


「……ああ。すげえみたいだなおまえ」

「だろっ!?」


 珍しく、子狐に相応しい可愛らしい態度に、迅八はほんの少しだけ腹が立った。クーロンも同じだったようで、ワキワキしようとする両手を必死で抑えていた。




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