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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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二度目の始まり




 馬車に揺られて幾日か。

迅八は和やかな旅路を送っていた。



「……シズちゃんかわいいっスねえ。あたし、もうたまんないっスよ。くんかくんかしたいっスよぉおっ!」

「ヤマトナデシコ……いたんだ。やっぱりいたんだ。キリエみたいなのばっかりじゃないんだ!!」

「ハーイ、トム。そんな事言ってると殴っちゃうっスよお〜」


 ——Hahahahaha……


 初めは面食らったがもう慣れた。

 迅八の前では静がその胸に子狐(クロウ)を抱いて、形容しがたい顔をしている。その隣では、アゼルが静を守るように、おかしな二人組をけん制していた。


「お前ら、あまりこっちに来るなよ」

「……ちょっとちょっと、なんなんスかあ? 恋人気取りっスかこの小僧っ子は。ちょっとイケメンだと思ってチョーシん乗ってると、あたしの右手が火を噴くぜっにゃろう!!」

「キリエやっちゃえよ。……ぼかあね、嫌いなんだよそういうスカした顔した奴は。そいつはきっと、ジョックにはなれなかったサイドキックスだ。……もう一回言おう。ぼかあね、嫌いなんだよっ。毎日毎日僕にハンバーガー買いに行かせやがってっ!!」

「なんスか? そのジョックとかなんとか」

「思い出したくもない……けどまあ説明するとね、スクールカーストの、」


(超どうでもいい話してんなこいつら…)


 騒いでいる二人組を見て、迅八はそんな事を思った。アゼルもそんな顔をして、まともに相手をしていない。


「……しかしまあ、こりゃまたおかしな転生者達だね」


 迅八の後ろからクーロンの声がした。馬車の旅に疲れ果てた迅八が、『尻が痛い』と騒いでいたら、クーロンは優しく笑って迅八を自分の膝の上に抱き込んだ。

 それから迅八は、体を硬直させてほとんど喋っていない。しかし、迅八は自分からどこうとはしなかった。


「……転生者はおかしな人しかいませんよう。……あ、ごめんなさい。別にジンくんとかシズちゃんの事じゃないですからね。……けど、本当に凄いんですから。北の国なんて、」


 そして、青い髪の天使——セリアも馬車の中にいた。

 喋り続けるセリアと、いまも騒いでいるおかしな転生者二人組。

なぜか、迅八たちについてきた、おかしな同行者達の言葉を聞きながら、迅八は、オズワルドを発つ時の事を思い出した。





 ————————————————





「お兄ちゃん、私ね。なんか色んな記憶がぼやけてるんだけど、憶えてる事もあるんだ……」


 迅八は、妹のその言葉に身を固くする。


「ねえ。はっきりしてるのは、ここは日本じゃなくて、『あの人』達はいないって事だけなんだよね」


 他にも色々と情報はある。天使も悪魔も実在している訳の分からない世界だとか、静が胸に抱いてる子狐は、実は危険極まりないクズだとか。

 しかし、迅八はそれらの事について、その時は触れなかった。


「ああ。ここは日本じゃない。それだけは確実だ。それに、母さんもあいつ(・・・)も居やしないよ」

「……うん。わかった」


 静は口数が多い方ではない。ただ、そういう人間がなにも考えていないかというと、それは違う。

静もやはり頭の中で、色々な思考を巡らせていた。


「ねえ。言葉は分からないんだけど、『シズ』って私の事だよね? ……なんでみんなそう呼ぶの?」

「多分、呼びにくいんじゃないかな。俺の名前も呼びにくいらしいからジンって名乗ってるし」

「そっか……。じゃあ、お兄ちゃんも私の事を、これからそう呼んでね。静って呼んでも返事しないから! ……あと、なんでお兄ちゃんは、ここの言葉を喋れるの?」

「うんと、それは、」


 クロウが何かをしたのだという事は分かるが、どんな理屈なのか迅八には理解出来ないし、目の前の子狐もおそらく説明する気はない。

迅八が、どうやって説明しようかと考えていたら『シズ』は何かを一人で考えて、一人で納得したようだった。


「……うん。それもいい。私は私でなんとかするから。とりあえず、あの人達にお礼を言わないと。あの人達が私を助けてくれたんでしょ?」


 ロックボトムの面々の事を言っているのだろう。迅八が頷くと、シズは家の中に戻ろうとした。


「あ、クロくん……」


 子狐がシズの胸から飛び降りて、迅八の足元まで来る。


「あ、ああ。こいつも後で俺が家の中まで連れて行くよ。しずか……シズは、先に行っててくれ」


 少しだけ残念そうに、シズは家に入っていった。




・・・・・・・・・・・・・・・




「……おいクロウ。お前が妹の……シズの記憶をどうにかしてくれたんだろ?」


 子狐は後ろ脚で器用に首すじを掻いている。


「あん? 俺様に感謝したくてしょうがねえのか? だったら鉄拳女の寝床に、この姿の俺を放り込んで、」


 クロウが言い終わる前に、その言葉は迅八に遮られた。


「ありがとう……本当に、本当にありがとう……!!」


 今は小さな子狐の前足を、迅八は両手でしっかりと掴む。膝をつき、頭を垂れた迅八の姿を、クロウはつまらなそうに眺めた。


「……鬱陶(うっとう)しいなてめえは。悪魔に礼なぞ言うんじゃねえわ!!」

「けど、本当に」

「ああうるせえうるせえ。分かったから離れろ。鬱陶しいんだよガキが!!」


 クロウが子狐の姿で可愛らしく威嚇(いかく)すると、迅八は名残(なごり)惜しそうにその手を離した。


「おまえ、なんでその姿のままなの?……あとさ、妹の恩人にこんな事言いたかないけどさ、その……あんま変な事しねえでくれよ。シズに」

「うるせえッ、そんくらいしなくちゃ割りにあわねえわ!! ……それとな、この姿でいる事だが、しばらく俺はこのままで通すからあんま話しかけんじゃねえぞ。特に、あの青天使がいる所ではな」

「なんで? そういえば、あの子はお前の事を探してたみたいだったな。なんで?」

「……ジンパチ。こりゃ、例えばの話なんだがな?」






 ——例えば、見目麗しい美丈夫が、町で女に声を掛けられたとしろ。そりゃあ仕方ねえ、よくある事だ。女は魂の囁きには勝てやしねえからな。

 でだ。そのハンサムはこう言う訳だ。——俺の妻が殺された。千年の大悪魔に……泣きながらなっ! これがポイントだァァ……。


——するとだ。なぜか女は、こう……キュンとなるんだ。理由は知らねえ。そしたら開く訳だ。……何が? てめえで考えやがれ。まああれだ。心だ心。

 んでだな、散々ハンサムは楽しむわけよ。そしたら思いのほかに本気になりやがってよ。けどそういうのめんどくせえだろ?

 だから適当な事言って……






「……で、それが十二使徒第六位だったと?」

「まあ、例えばの話だがな……」

「くおんの、クズがあああッッ!!」


 すぱーん。子狐の頭から軽快な音がした。


「な、なにしやがんだこんガキャアッッ!?」

「おま、おまっ……!! 十二使徒がなんだかは知らねえが、響きだけでヤバそうな連中だって分かるぞ!! なんでそんなのに目ぇ付けられてんだ。この疫病神が!!」

疫病神・・・だと……? てめえ、てめえが俺様にそれを言うのか? お〜う、そうか。ならわかった。これからはてめえの妹に俺の相手をしてもらう事にしよう。……まだまだ『対価』にゃ程遠いからな」

「……お? まてこらクズ悪魔。おまえ、俺の妹になにするつもりなんだ? 死にてえのか? 変わった自殺がしてえのか?」

「そりゃこっちのセリフだッ。こんのクソガキがっ!!」





 ————————————————





 ジークエンドの部屋に招かれたセリアは、赤毛の男の一言で、恐怖のあまり腰を抜かした。



——誰の家の前で殺気を放っている。圧死したいのか?



 寝起きで不機嫌極まりないジークエンドは、それだけ言うと、また寝息を立て始めた。

 コルテは、腰を抜かしたセリアを邪魔にならない所に置いてから、食事の用意をし始めた。

他の面々は、食卓の上で呑気な会話をしている。


「坊やとクロウはなにしてんだい? 遊んでんのかね?」

「……おめ〜よ〜。アレが遊んでるように見えんのか? お互い本気じゃねえか」




 ——くくく、どうやら食らいたいみてえだな。俺の必殺の『心臓剣』を。


 ——ちょ、ばか、やめろっ。子狐(このからだ)でそんなもん食らったら、おいマジでやめ……うおおおお!! やめろっての!! 心臓貫かれただけで死んじまうかもしれねえぞ!!




 窓の外では、なぜか子狐の姿のままで迅八の相手をしているクロウが、必死に逃げ回っている。


「……やっぱり、遊んでるように見えるけどね。あ、そうだ。ベドワウの館から持ってきたやつ」


 何を勘違いしたのか、クスリとクーロンが笑う。

そして、ベドワウの館で取り返した戦利品・・・を、窓から迅八に向かい放り投げた。


「坊やー。突っつき回してやんなー」


 突然、投げ渡された物。

 迅八はそれを手で掴むと、久しぶりに手にした刀をそのまま掲げた。


「『迅九郎』……」


 黒い鞘に施された金線が、日の光を受けてきらめいている。迅八が鞘から刀を引き抜くと、それは一筋の闇が伸びるようだった。


「坊や〜。程々にしとくんだよ〜」

「てめえ、鉄拳女っ!! おめえはそっち側か? ジンパチの味方か!!」

「当たり前じゃないか。なに言ってんだか……」



 ——てめええぇぇ……うひいいいいいぃぃ……



 遠ざかる子狐の叫びを背にして、クーロンは食卓に戻った。


「……クーロン。シズが、みんなに言いたい事があるってさ」


 アゼルがシズの手を引き、食卓の前に立たせる。すると、コルテが台所から鍋を持ってきた。


「熱いの通りますよ〜。……ん、なにしてんです? シズ。あんたもう大丈夫なんです?」


 その言葉はシズには伝わらない。コルテが手に持った鍋を食卓に置くと、コルテの袖をシズが引いた。


「なんだってんです? アゼル、あんたわかります?」


 アゼルは黙ってシズを見ている。すると、シズはその頭をぺこりと下げた。


「ありがと、です」


 コルテは無表情に眼鏡を押し上げる。シズは食卓に向き直ると、その場にいる面々に再び頭を下げた。


「ありがと、です」


 その様子を見たクーロンが、鼻血を出しそうな程に顔を赤らめて、両手をワキワキさせている。


「いやあだ〜〜。なんだいなんだいこの兄妹は。いちいちアタシのツボを狙って……」

「お〜、なんで喋れんだ? アゼル、教えたのか〜?」

「なんかずっと頭下げてくるから、少しだけね。はい、いいえ、ありがとうくらいさ。……ありがとうだってさ。コルテ」


 その眼鏡から手を離すと、コルテはフンと鼻を鳴らした。


「……ま、妹の方がバカ兄貴よりは礼儀がなってるようです。食事にしますよ。……アゼル、あいつらも呼んできたらどうです。どうせ話もしなくちゃならねえし」

「自分でいきなよ。俺は嫌だ」

「じゃ、じゃあ僕が行ってきましょ。ええ、そうしましょ」


 睨みつけるアゼルの眼光におされ、コルテは自分で迅八達を呼びに行った。




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