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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第四章 絶対強者
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外伝 その頃何処か

 



 聖域と呼ばれる場所がある。

 天使たちのふるさと(・・・・)。天使が生まれてくる聖域、この世界には幾つかそんな場所がある。


 天使は『天使』から生まれてはこない。聖域の中、生誕の泉と呼ばれる場所で受肉する。

 泉と言っても、本当に泉がある訳でもない。一番有名な生誕の泉は、たゆたう泉のような場所だった。そこから名前を取って、天使が生まれてくる場所は『泉』と呼ばれるようになった。


 しかし、泉は色んな形で存在する。

 それは例えば、休火山の火口だったり、魔の領域と呼ばれる土地の深い穴だったり、あるいは、誰も近寄らない森の奥だったりする。本当に様々な形で存在するのだ。


 その中の、一番有名な場所。

 天使たちの直轄(ちょっかつ)、教会の本部にある生誕の泉。そこで一人の天使が受肉した。


 その天使は尊き人だった。

 天使たちの中でも最も強く、美しく、誇り高い者達に贈られる、十二使徒の呼び名。

その中で第七位と呼ばれた彼は、『漆黒』の通り名で世界に名を轟かせていた。


「……っていうのも前までの話だよね〜。ゴミリアさぁん」


 柔らかな高音、その中にあざけりの色をにじませて、部屋の中に声が響く。


「ねえ、なんで負けちゃったの? 負けたら意味ないよね? ……どんな事でも勝っちゃえばどうとでもなるよ。自分が間違ってようが相手に非がなかろうが、そんなもん勝っちゃえば好き放題言えるじゃない。なあんで負けちゃったのさあ?」


 その声は楽しげに響く。柔らかな日差しを受ける部屋の中で、世間話の様に辛辣(しんらつ)な言葉を吐く。


「……千年の大悪魔と、訳の分かんない変なの(・・・)。そいつらを殺そうとしたのは別にいいと思うんだぁ。けどさ、負けちゃったら駄目だよねぇ?」


 声を出す人影は、椅子に腰掛けている。対してそれを言われている人物は、ベッドに横になっていた。


「だってさ、全然悪くないよねゴミリアさんは。町に無用な混乱をもたらす奴らから事情を聞こうとして、話にならなそうだったから排除しようとした。ぜ〜んぜん悪くない。……けどさあ」


 人影は立ち上がり、ベッドのそばまで行くと、そこに腰掛けた。そして、横になっている人物の耳元で囁いた。


「勝たなくちゃ、だめでしょお……。どう考えても」


 




「だってさ。……結果的にゴミリアさんは、悪魔に喧嘩売って無様(ぶざま)に負けて、町の色んなもんぶっ壊して一般人まで殺しそうになって、しまいにゃ敵の悪魔が人間助けたんでしょ? ……それってさ、どっちが天使なのさ?」


「……ぬ、ぐぅ、ぐ、がっ、ぎぃ……!」


「勝ちゃあよかったのに。そしたら人間の生死なんてどうでもいいし、町なんて一つ丸ごとぶっ潰してもなんの問題もないよね? なんで勝たなかったの!?」


 人影は芝居がかった仕草で手を打つ。まるで、今気付いた(・・・・・)とばかりに。


「まさか……まさかだけどさ。勝てなかった(・・・・・・)、なんてこと、ないよねっ!?」


 人影は、その顔を横たわる人物の鼻先まで近寄らせて、まくしたてた。


「だってさ、『漆黒』だよ? 無敵の『にじり寄る闇(デスティアスケイル)』の使い手だよ!? そんな訳わかんない奴らにやられないでしょお。……純白の双翼でもって天使たちに憧れられてた(たっと)きお人が、な〜んでそんな奴らに、本気で、ボロボロに、その傷が癒えない(・・・・・・・・)程にトラウマ植え付けられちゃうの!? なあんで翼も喉の傷も再生しないのおおっ!?」


「……が、ぐぎ、ぎ、ぎぃざま」


 窓から風が流れてくると、人影の金紗の髪を揺らす。その下の目は優しげに細められていた。


「……ゴミリアさんさ、ビビってんでしょ? ……もう、そいつらに会いたくないんでしょ?」

「ギザマ、ぎぃぃざまぁぁぁ…!!」


 横たわっていた漆黒の天使の『片翼』が顕現けんげんし、ブルブルと震え出すと、人影は素早くそこから離れた。


「あはははははは。冗談! ジョークだよジョーク! ……あ〜面白かった。暇になったらまた遊びにくるよ。じゃあねカザリア(・・・・)さん。……お、そうだ。早く怪我が治るといいね〜」


 ひらひらと手を振って、人影は部屋を出て行く。残されたカザリアは、叫びたくても叫べない己の喉を掻きむしろうとして、結局それをせずに手を下ろした。






 迅八達の居る辺境から見て北に位置する国。離れた場所にあるその国は、天使たちの教会の本部に当たる施設がある国であり、転生者達に最も縁がある国でもある。

 この世界で一番繁栄している国の一つ、北の国——帝都ランドワース。そこで、人影は十二使徒と呼ばれていた。


「退屈だな〜」


 両手を頭の後ろで組んで、ぶらぶらと教会を歩く。

 近くの窓から外を見ると、遥か遠くに『南の木』の威容が見えた。


「千年の大悪魔と、『名無し(ネームレス)』かあ……。いいかもなあ」


 ——南の国に行くのにはどの位かかるだろうか。人影は、ぼんやりと考えていた。




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