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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第三章 ロックボトム スクリーマーズ
43/140

お約束ポロリ

 



 迅八達が家に戻ると、そこには誰もいなかった。


「コルテさん?」


 食卓の上は綺麗に片付けられており、その上にコルテの灰色のコートが置かれていた。台所に行ってみるとスープ鍋などに蓋がしてあり、食べかけの料理に布が掛けられていた。


「ありゃあ……。あいつどこいっちゃったのかねえ。ねえアマレロ、スープあっためてよ」

「おめ〜自分でやれよ。俺は肉が食いて〜なあ」

「……ふむ。酒を出せ」


 ジークエンドたち三人は食卓に座り、そこから動く気はないらしい。各々(おのおの)が勝手な事を言いながら、コルテー、コルテー、と呼んでいる。






 ————————————————






 あの後、クロウはいつの間にか消えていた。あの大悪魔の事だから心配はないだろうし、館を離れる時になって迅八の頭の中は非現実的な戦いから現実に戻りつつあって、正直クロウの事には構っていられなかった。


「ねえ、これ、どうすんの……」


 辺りは死屍累々。まるで小さな戦があったようだと迅八は思った。

 ベドワウの私兵や正式な騎士達……よく映画で見ていたような死体の山に、迅八は感覚が壊された。


「なんで、こんなに、俺は平気(・・)なんだ……?」


死体を一つだけ見たのなら、おそらくじっくりと観察してしまう。

しかし、目の前に広がっている惨劇は、まるで映画のままだった。そして、当たり前のようにありえない現象が目の前で起きる。……剣で吹き飛ばされた人間が宙を飛ぶ世界。


「ちょっと、どうすんだよコレ!!」

「ほっときゃ誰かが片付けんだろ〜。さっさと帰ろ〜ぜ〜」

「あたし掃除とか出来ない女なんだよねえ」

「ふ、ふざけないでくれよっ。ただで済む訳ないだろっ!!」

「……なんだ〜? 坊主、罪悪感(・・・)とか下らねえ事を言い出すつもりか〜? 敵だぞこいつらはよ〜」

「それもあるけど、ヤバイだろ? 警察とかさ……!」


 その言葉がうまく伝わらなかったのか、ジークエンドが迅八に問う。


「警察?……なんだそれは」

「あ……、ひょっとして、警察ないのか」


……迅八は考えるが、そもそもそういう組織が元の世界でもいつ頃に普及したのか、迅八は知らない。


「なんだろ、悪い奴を懲らしめるっていうか、捕まえるっていうか……」

「軍とは違うのかい? 幾つかの軍にはあたしら追われてるけどね」

「お〜坊主、おめえ面白え事言うな〜。その警察(・・)がいたら、ベドワウが善人で俺達が悪人か〜? 警察は、ベドワウを懲らしめねえのか〜?」

「な……、そういう話じゃ」

「ま〜そりゃ歩きながらそいつらと話せよ。俺は興味ね〜からさっさと行こうぜ〜」


 なにも構わずその場から離れるジークエンド達を追い、逃げるように迅八も後についていった。


 この辺境には警察がないらしい。その代わりに軍がそのような役割をする事もあるし、冒険者ギルドでは民間からの依頼を受けて『指名手配(クエスト)』を出すこともあるという。


「……金に困ったら俺たちを縛り上げてギルドに持っていけ。死ぬまで遊んで暮らせるぞ」

「は、はは……」


 真顔で、冗談なのかなんなのか分からない事を言うジークエンドに、迅八は引きつった苦笑いを返した。


「……もう、今ごろ町の中でも静かに噂が回っているかもしれんな。軍はそんなにすぐには来れん。近くの貴族領に伝令を飛ばして派兵したとしても、まだまだ先だ」

「その頃にはこの町にはいねえしな〜。慌てる事もねえって」


 この男達は頭がおかしい。迅八はそう考えた。


「そんな訳ないでしょって!! ……大慌てだよ、逃げなくちゃ大変な事になる。コルテとはどこで落ち合うか決めてるの?」

「お〜? あそこに帰るに決まってんだろ。腹減ってんだよ俺は」

「だ〜いじょうぶだって。坊やは心配性だねえ」

「……眠い。帰るぞ」

「う、うそでしょ……? ほんとに?」


 そして結局、コルテ達のいる家に戻ってきた。






 ————————————————






 ——コルテー、コルテー

 アマレロとクーロンが、だらしなくテーブルにうつ伏せになりわめいている。ジークエンドはと言えば、眠たそうに半目になって、頭を前後に揺らしていた。


「……ジン。シズの様子を見てこなくていいのか?」


 ずっと黙っていたアゼルが声を出し、その言葉で迅八は我に返る。しかし、恐ろしい。また、妹の狂乱の(さま)を見るのが途轍(とてつ)もなく怖い。


「ジン、たぶん大丈夫だよ。……俺も一緒に行こう」


 迅八が、妹がいる部屋の扉をそっと開けると、細長い影が妹に覆いかぶさろうとしていた。……コルテが、(しずか)の布団になにかしている。


「な、なにしてやがるんだ。このクソ眼鏡っ!!」


 一瞬で頭に血を登らせて突進する迅八の体をひらりとかわし、その脇腹に拳が刺さった。


「ぐひっ!?」

「脇が(あめ)えです。……つーか、なんです? クソ眼鏡って言ったかこのガキが!!」


 苦悶した迅八はそのまま妹のベッドに倒れこむ。すると、目の前に妹の顔があった。


「しずか……」


 昔から、自慢の妹だった。

 迅八のボサボサの髪の毛とは違って、腰まで伸びた美しい黒髪。白い肌とスラリと通った鼻筋。

 静の外見は氷細工のような、冷たくて繊細な美しさだった。

だが、その心は優しい女の子で、その氷をしょっちゅう溶かして微笑む度に、それを見る者をドキリとさせた。……しかし、中学に上がった頃から、その笑顔は少なくなっていった。


「ん……」


 その妹の口から声が漏れる。そして、泣きぼくろの上にある瞳が、ゆっくり、ゆっくりと開かれた。


「おにい、ちゃん……?」


 虚ろな焦点が迅八の顔でしっかりと結ばれた。その瞳に狂気の色はない。しかし、困惑が溢れていた。


「……ここ 、どこ?」

「し、しずか、しずかっ!!」


 迅八の肩をアゼルが掴むと、その肩を引いた。


「ほら、大丈夫だろ。多分あの悪魔がなんかしたのさ。……分かったら下に行ってなよ。お前がいてもいいけど、めんどくさいから」

「ちょ、ちょっと待てよ! しず、」

「……ジン。てめえさっき僕になんて言いました? 下で話をしましょ。……ね? そうしましょ」


 コルテが眼鏡を押し上げて、迅八の後ろ(えり)をむんずと掴む。その額には血管が浮かんでいた。


「ちょっ、ちょっ、」


 そのままヘッドロックされ下まで連れていかれる。一階に着くまでに、迅八は頭を十回以上殴られた。





 ————————————————





「はい。もう一回」

「……申し訳ありませんでした。僕の妹を心配して付き添ってくれていたコルテさんに、僕は、失礼で無礼千万な、じゃ……、じゃ……」


邪推じゃすい


「……じゃすいをしてしまい、コルテさんを不快にさせてしまった事を深くお詫びすると共に、このようなおっちょこちょいを、今後はなくす事を誓います」


 台所で食事を温め直しているコルテの横で、迅八は正座をさせられていた。

 ジークエンドは酒を一杯だけ飲んでから、寝ると言って階段を登って行ってしまった。

 アマレロとクーロンはどこからか持ち出した巨大なハムに、意地汚く二人で両側から噛み付いている。


「やめろよおめ〜。女がはしたね〜だろ。このままじゃキスしちまうぞ。キス 」

「……嫌だ。それやだ 」


 クーロンが手を離すと、アマレロは嬉しそうにそのハムを占有した。


「ほらジン。運んでください。」


 静を付きっきりで見ていたのに、無礼な兄貴に暴言を吐かれたコルテは、とりあえずは怒りを収めて馬鹿兄貴に配膳を指示した。


「はい……。申し訳ありませんでした」


 運ぶそばからアマレロとクーロンがそれに手を伸ばす。全ての料理を配膳し終えて、コルテと迅八も席につき食事を始めようとすると、クロウが帰ってきた。

なぜか上半身裸になっているクロウの(たくま)しい体と、その上に走る刺青は、何度見ても色気がある。


「クロウ。なんで服着てないの?」

「捨てた。汚れたから。風呂入らせろ風呂 」

「まず表で汚れを落として下さいよ!! 水汲み場あったでしょ!!」


 そのまま家の奥に行こうとするクロウをコルテが止める。しかし、あまりにも堂々と家の中に入ってくる事には誰も何も言わなかった。


「お、大悪魔じゃないか。コルテ、ごはん作ってやんなよ」

「いや、いらねえ。もう済ませた(・・・・)。酒飲ませろ酒」


 クロウはそのまま表に出ていってしまう。少しすると外から水を叩きつける音が聞こえた。


 考えてみれば不思議な事だと迅八は思った。

コートを脱ぎ、表で汚れを落としたが、まだ細かく体は汚れているし、自分の体からは血の匂いが立ち上ってくる。それでも、食事をしている。食べられるのだ。


 恐らく風呂に入って横になれば、この疲れではすぐに眠れてしまうだろう。神経は昂ぶっているが、一ヶ月前とは比べようもないくらいに、自分の精神は変化している。……この世界に、慣れてきている。


「う〜、やっぱりごはんの前にお風呂にすりゃ良かったかねえ」

「クロウによ〜。動物に変化してもらって一緒に入ってこいよ。おまえ動物好きだろ〜」

「殴られたいのかい?」


 クーロンが拳を引くと、アマレロが首をぶんぶん振って、椅子から落ちそうになった。迅八は、呑気(のんき)な大男が慌てる様を、初めて見た。


「ごちそうさま。コルテさん、すごくうまかったよ」

「ふん、あたりめえです。……ん、どこ行くんです?」

「ごめん、なんか疲れて。隣の部屋、貸してもらっていいかい?」


 コルテが頷くと、迅八はこの家で自分が目覚めたベッドに向かった。どうせ自分が風呂に入れるのはまだまだ先だろうし、少し横になりたかった。


コルテ達が食事を続けている居間から続く部屋に入り、迅八は置かれているベッドに横になった。……体を包み込むじんわりとした疲れ。それを確認してから目を開けたまま思索する。


(クロウが、なんかしてくれたのかな……)


 あの大悪魔は怒るととんでもなく恐ろしいし、全体的に見れば嫌な奴だが、普段は面白い所もある。

 妹の目からは狂気が抜けていた。そして、アゼルもジークエンドも、『もう大丈夫』と言っていた。大悪魔の関与を示唆(しさ)させて。

 もしも、それが本当なら。

 クロウは迅八と静にとっての大恩人となる。今までも折に触れて、押し付けがましくクロウに言われていた事だが、それも認めざるを得なくなる。


(あいつ、変な奴だよな……)


 今まで関わった者達もみんなそう言っていた。伝説と違う。伝承と違う。……迅八はその『伝説』を知らない。

 迅八の目から見たクロウは、ふざけていて、面倒くさがりで、怒ると怖くて、本当に、本当にちょっとだけ、時々頼りになる。


(礼を言わないとな……)


 いつの間にか目を瞑ってしまっていた。

 手足の先からまどろみが登ってくる。心地よいそれに身を委ねて、隣から聞こえてくる騒がしい声を聞きながら、迅八は浅い眠りに落ちた。





 ————————————————





 迅八は自分が寝てしまっていた事に気付き、少し軽くなったその頭を起こした。

そのまま寝てしまおうかとも思ったのだが、目覚めた後の自分の身体から途轍もない血の匂いがした。少しでも睡眠を取り神経が休められたからだろう。日常では耐え難いその匂いを落とす為に、風呂に入る事にした。


 部屋の扉を開けると、クロウが上半身裸のまま酒を飲んでいた。クーロンとアマレロも一緒に飲みながら会話をしていたようだ。コルテは台所でなにかしている。


「……天使がくる前に逃げるかね。普通のじゃなくて十二使徒なんかが来たら、面倒くさいからねえ」

「アグリアの事を言ってやがんのか? あの鉄面皮は静観するだろうよ。多分な」

「お〜? 十二使徒がこの町に来てんのか? 勝てねえかな?」

「……あんたは戦う前提で物事考えるんじゃないよ」


 クーロンの風呂上りの髪は艶やかに濡れていた。今は七三に分けられてるその髪型に、迅八はドキリとしてしまう。

 迅八は一瞬だけ寝てしまったと感じていたのだが、実際には数時間は寝ていたのかもしれない。

すると、迅八が起きた事に気付いたアマレロが、酒瓶を振って迅八に声を掛けた。


「お〜? 坊主起きたのか? おめ〜も飲むか?」

「いや、いいよ。俺、酒強くないし。風呂借りていいかい?」

「坊や、突き当たりを左だよ。……あ、けど今はアゼルがシズの事を洗ってやってるから後にしなよ」

「ふーん……そっかぁ」


クロウの隣に座ろうとした迅八が、思いっきりクロウの足を踏んづけた。


「いぎっ……!!」

「な、なに言ってやがんだ!! なんだよシズの事を洗ってるって!! ……ぶっ殺されてえのかあいつは!!」

「ジ、ジンパチっ、足どけろ、足!!」


 そのまま急いで風呂場に向かおうとした迅八の肘が、クロウの顔にめり込んだ。


「んがっ!! ……てめえ、クソガキャア!!」


 鼻を押さえて痛がるクロウが顔を上げた時には、迅八の姿は消えていた。無礼極まりない少年に鉄拳を食らわそうと腰を浮かしかけて、クロウは首をひねった。


「ん? ……おい、あのガキは気付いてねえのか?」

「いやあ、なんか面白そうだから……。それに、こんなに期待通りにいくとは思ってなかったんだけどねえ」

「ん〜、アゼルは嫌がんじゃねえか〜?」

「多分だけどね。なんか、あの子は大丈夫な気がするんだよねえ。わかんない、そういう希望かもね」


「……騒がしいですね。あんたさん方、なにしてやがんですか?」

「お〜? いや、あの坊主がよ〜」





 ————————————————





 風呂場の前で、一瞬ノブを掴むか躊躇(ちゅうちょ)する……などという事は、煮えたぎった迅八の頭では思い浮かびもしなかった。乱暴にドアを開け、そのまま風呂場の前の脱衣所に入る。


「くぉらあああああああっっ!!」


 そこには幾つかカゴのようなものが置かれていて、その中にアゼルがいつも巻いているストールが見えた。それと、やたらと可愛らしい形の下着も。


「ぶっっっっ殺す!! ……てめえ、なにやってんだアゼルコラ!!」


 そして、その扉を開ける。目の前に広がる光景が予想出来ていないのは、迅八だけだった。






 風呂場の中の湯気が、脱衣所からの冷たい空気と混ざり合い、少しずつ外に流れ出て行く。静は浴槽の中に入って目を丸くしていた。


「お、おにぃちゃ、」


 その手前で、床に直接座ったアゼルも体を硬直させて迅八を見ていた。その体は迅八に背中を向けていて、首だけで迅八を見ていた。


「うおおおおらっ!! てめえどんだけ段階すっとばしてんだ、順番にやれ順番に!! ……まずは交換日記からだろうがあああッッ!!」


 かつてフィレットと過ごした甘い夜を棚にあげて、迅八は目の前の『少年』にわめきながら詰め寄った。すると、アゼルの右手が一閃した。


「ひぎぃっ!!」


 クーロン仕込みのボディブローが、迅八の鳩尾みぞおちを鋭く穿うがつ。すると、振り返ったアゼルの半身が、迅八の前に晒された。


「……あれえ?」


 おかしい。迅八の目の前から『少年』が消えてしまった。


「……おやあ?」


 迅八の目に飛び込んだのは、赤毛の女の子。

丸みを帯びた大きめの胸、滑らかな流線形の尻、そして、その左半身。左腕から胸、腰、そして左の頬にかけて、火傷の跡があった。

 しかしそれよりも、迅八には重大な疑問があった。


「おい。……下、どうなってんだ」

「……いのれ 」



 飛び込んで来たコルテが迅八の頭をぶっ飛ばしたのと、アゼルの流星のような拳が飛んだのはほぼ同時だった。





 ————————————————





「はいもう一回」

「私は、愚劣な男です。妹の恩人とも言えるアゼルさんの入浴を覗いたうえ、皆様にもご迷惑をお掛けしました。僕の、せ、せ……」


浅慮せんりょ


「せんりょな勘違いのせいで、アゼルさんを不快な気持ちにさせてしまった事を心からお詫びすると共に、もう二度と、本当におっちょこちょいをしない事を誓います……」



 千年の大悪魔は、正座をさせられてどこぞのアイスクリームのようにタンコブを重ねている迅八を見て、本当に、本っ当に楽しそうに笑っていた。


「くかかかかかか!! お前らといるといいな。そのガキが俺以外の奴にやられてる姿が、こんなに気持ちいいとはな!!」


 クーロンもその隣で笑いを堪えている。アマレロはテーブルにもたれかかり、イビキをかいていた。


「……笑い事じゃねえですよ。あんた、よりによってジークエンドの妹になにしてくれてんです? ジークエンドがもう寝ててよかったですよ」


 それを聞いた迅八の顔が蒼白になる。


(なんなの……? フィレットもそうだけど、怖い兄貴がいる女の子しか出てこないの?)


やはり自分の事を棚に上げて、迅八は心の中で(いきどお)った。


「で、アレ、見ました?」

「え? ……いや、もう少しだったんだけど、見えなかったよ」

「……なんの話だ。また殴られてえのかこのガキが。……はあ、火傷です。ヤケド」


 迅八は思い出す。

 アゼルの左半身、その顔にまで酷い火傷の跡があった。しかし、それよりも……。


(……やっべええええ。あいつ、めっっちゃ可愛いじゃん。なにあれ)


 フィレットは非現実な感じだった。その可愛さには甲乙つけ難いが、アゼルの方がなんというか、クラスメートというか……。


(いやいや、流石(さすが)にあんなクラスメートいないでしょって! あ、 あんなに可愛い子が……!!)


 頭の中で妄想を展開させる迅八にコルテが拳骨を食らわせる。


「ひだいっ!」

「……はあ。もういいです。アゼルには謝っておくんですよ」


 疲れた顔をして、コルテは階段を登っていった。



 アゼルと静はとっくに部屋に帰ってしまっていた。

 正座させられてる迅八の横を通る時、アゼルは道端のゲロを見るように迅八を見た。兄に話しかけようとした静の手を引いて、さっさと行ってしまった。


「……俺も、寝よかな」


 まだ飲み続けるクロウとクーロンを残して、迅八も隣の部屋に行った。






 ————————————————






 それからしばらくして、迅八は唐突に目を覚ました。


「……あ、俺、結局風呂入ってねえじゃん」


 一度思ってしまうと寝付けない。素早く風呂に入る事にする。

 隣の部屋の床ではクロウがイビキをかいて眠っていた。クーロンも、食卓の上で自分の腕を枕にしてヨダレを垂らしている。起こさないようにそっと風呂場に向かう。


 脱衣所に入ると、風呂場の中から水を叩く音がした。


「誰だ? もう全員入ったはずだ……」


 そこで、一つの可能性に思い至る。さっき、アゼルは結局風呂には入っていなかった。迅八に邪魔されてすぐにあがってしまったのだ。


(お、おお……。まさか、まさか)


 そう言えば、自分は酷い目にあった後はこういう幸運に恵まれる気がする。そういう流れがあるのではないか。


(そ、そうだ。様式美はいいもんだからな……)


 少し見るだけ、ほんとそれだけ……。

 これ以上何を望むのか。しかし、強欲は人の常。


(……ポロリあんじゃねえの? これ、あんじゃねえの?)


 そして、迅八の前の扉が突然開かれた。






「……何をしているんだお前は」


 ポロリと。目の前に。

 待ち望んでいたポロリ。神様の贈り物(ギフト)。それを目の前にして、迅八は心の中で考えていた。



(そっかあ……。やっぱ外人さんって、髪の毛と同じ色なんだなあ……)



「丁度いい。背中を流せ。二人くらいなら入れるだろう」


 燃え上がるような赤毛の『兄貴』に手を引かれ、その扉は閉められた。




余裕で一万文字越えそうだったんで切りました。様式美はいいものです。

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