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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第一章 迅八とクロウ
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迅八とクロウの始まり

 



「……全くとんでもねえ。ちょいと暇つぶしに転生者に関わってみりゃあ、この仕打ちとはな。あやうく結魂けっこんなんぞに巻き込まれるとは、ジョーダンじゃねえぞっ!」


 怒気を含む声は、闇の中にこだまする。

鳴り続ける闇の中、迅八は頭に衝撃を感じた。


「まあ、なんにせよここまで町の近くまで来たんだ。久しぶりに町でつまみ食いでもしていくとするか。……しかし、カーーッ! イラつくぜっ!!」


 なにか、自分の中から重要なものが無くなってしまった気がする。それがなんなのか、迅八には分からない。


「さてと。……あばよ異世界の小僧。全くとんだ疫病神だったぜ」


 先ほどよりも強い衝撃を頭に感じ、迅八は闇から目覚めた。


「……痛ぇーーなコラッ!」


 迅八が叫ぶと、先程まで鬱憤(うっぷん)晴らしに迅八の体を軽く蹴り回していた『クロウ』は、毛を逆立たせ跳躍した。


「……生きてやがる? いや、手応えはあった」


なおもつぶやくクロウに迅八は食ってかかる。目の前のバケモノに。


「てめえ、いきなりなにしやがるんだっ。人の頭に蹴りくれやがって!!」

「……ちっ、まあいい。さっさと死ねい『魂喰らい』ッッ!!」


 クロウの狐のような顔が恐ろしく歪み、あり得ないほど大きくその口を開けると迅八に襲いかかる。

 がおんっ! 鼓膜を震わせた衝撃に、迅八は身をすくませた。しかし、衝撃はそのまま迅八の体を通り過ぎていった。


「うお!? ……おっっかねえええっっ!! なんだよ今の!?」

「……なん、だあ? おいクソガキ。一体全体、てめえはなんなんだ(・・・・・)?」


 なんでなのかは分からないが、迅八は化け物の機嫌を損ねてしまったらしい。

迅八は生き残る為に必死に頭を働かせるが、意識は混乱し、体は震え、心も体もいう事をきいてくれない。


 同時にクロウの顔に驚きが浮かぶ。もっとも狐のような顔からは、その表情が分からない。

しかし、もしもそれが人間の顔だったなら、そこに浮かぶわずかな恐怖も見てとれたはずだった。

クロウもまた、目の前の事態に混乱していたのだ。


「……なんにせよ考えるのはあとか。 死ねいっ、異世界の小僧オッ!!」


 クロウが豪腕を迅八に振るうと、迅八がとっさに構えたナイフにその腕が当たった。しかし、クロウはそんなものを気にしなくていいはずだった。

 クロウがいうところの『不快な剣』の迅八のナイフは、たかだか刃渡り十センチ程の刃物であり、この世界でも珍しい希少金属で鍛えられた剣でもないと、クロウの毛皮はびくともしないはずだ。

 それなのに、クロウの腕からは鮮血が吹き出した。


「うぬあっ、痛ッッてあああ!?」


 迅八は震えながらも、目の前で絶叫をあげて転げ回るクロウを見て、どうにかなるかもしれないと考えた。


(……こいつ、見掛け倒しか!?)


 もちろん自分が勝てるとは思わないが、こんなちっぽけなナイフでついた傷に、さっきから大げさに転がり回っている。痛い痛いと叫びながら。


「……ぷふっ」

「なに笑ってやがんだクッソガキャアッ。ぶっっ殺すッッ!!」


 転げ回っていたクロウが、跳躍し迅八と距離を取る。

 そしてその右腕を天に向かい突き出すと、迅八の周りから炎の柱が立ち上がった。


「な、燃え、……おああああああああっっ!!」

「くかかかかかかっ。火蜥蜴さえ逃げ出す魔界の炎だ。 骨まで舐め尽くされろ、ベロベロとなあああっ!!」


 一瞬で迅八は火だるまになり、自分の体が炎に包まれる光景に、絶叫をあげながらその場に崩れ落ちた。

 クロウは炎を楽しげに見つめると、やがて迅八の体が動かなくなったのを確認し、


「ち、ワケがわからんだらけだが、ようやくくたばったか……」

「……勝手に殺してんじゃねえよ」


 目玉が飛び出る程驚いた。




「熱くねえ。……なんだったんだ今のは」

「そりゃこっちのセリフだ小僧っ!! なんなんだ…… なんなんだテメェは!?」


炎が収まると、迅八は無傷のままで立ち上がった。先程まで体を舐めていた炎。それなのに火傷の一つも負っていない。

 それを見たクロウの顔に、ハッキリとした恐怖が浮かんでいた。


「おおおあああっっ!! 死ねいっ!!」


そのまま恐ろしいスピードで迅八に向かうと、クロウは迅八の左腕をった。


 迅八から少し離れた所に、ずざっと空から音が落ちる。その音から一拍置き、迅八の喉から絶叫が溢れ出た。


「……術は効かねえ。魂喰らいでさえもどうも感触がわからねえ。 なのに、ただ殴りゃあ痛えのか!? このガキ、いったい何者だっ!!」




 ————————————————




 迅八は、生まれて初めて経験する激痛に、その身を全て(ゆだ)ねていた。この痛みには逆らえない。逆らおうとすれば、自分は発狂してしまう。

 ただ、痛みに身を委ね『痛い』と考える事しか出来ない。だって、自分の左側を見てみれば、そこにはあるはずのものがないのだ。


 ……あの恐ろしいクローは凄まじい切れ味と圧倒的なスピードで、迅八の左腕を根こそぎ持っていった。

 断面からは黄色い肉がはみ出してきて、見たこともない管が、震えながら血液を(ほとばし)らせている。

 一定のリズムを刻むその鮮血が、バクバクと唸りをあげる心音と同期している事に気が付いて、また悲鳴をあげた。


(いたい、いたい!いたいいたい!!)


 痛みから先へと思考が進まない。進ませたなら、圧倒的で不可避な現実と、正面から向き合う事となる。


(このままじゃ、死、)


 その考えを打ち消すように、また絶叫をあげる。

そして、微かな希望を込めて、迅八はクロウを恐る恐る見上げた。自分を殺そうとした相手に。助けてくれと媚びるように。

 そんな愚かな子供に、目の前の化け物はためらう事なく何かを投げつけた。


 ——すこんっ


心地よい音が迅八の耳に聞こえると、その眉間には何かが突き立っていた。


 それは、数時間前に、自分の胸に刺さっていたナイフだった。




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