表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第三章 ロックボトム スクリーマーズ
38/140

なまはげ

 



「……クロウ、だめ。ほんとにダメよっ。フィレットが、まだ起きてるから……あっ!」


(それがいいんじゃねえか。わかってねえ女だ)



 千年の大悪魔クズは迅八と離れていても平常運転だった。


「……スーローン。おめえは美しい。この言葉を知ってるか。ジュッ、テェェエム……」

「……あ。だめ、なのに……」


 潤んだ瞳を閉じるスーローンに『クロード』が口づけをしようとした時にそれは起こった。


「ん? ……(あち)いぞ」


 大悪魔が自分の足を見ると、ぶすぶすと煙が立ち昇っている。


「ん、ん? ……おい、なんだこりゃ」


 スーローンが異常に気付き、腰を屈めてクロウのズボンを捲り上げると、その足はとんでもない火傷に覆われていた。


「き、きゃーーーーーーっ!?」

「うおおお、なんだこりゃああ!? あづ、あづううううういい!! スーローーーーンッッ、掛けろかけろ術かけろーーーっ!!」


 慌てながらもスーローンが回復術でその足を癒すと、クロウの胸から噴水のように血が噴き出した。

その血を顔面に浴びたスーローンは瞬きするのも忘れ、一拍遅れてからまた悲鳴をあげた。


「ひゃああああああああっ!!」

「ぐおはああああああっ!! ……まさか、あんの、あんの!! ……クッソガキがあああああああっ!!」


 スーローンがあわあわと傷口を押さえると、フィレットとロドも異変を察知して部屋にやってきた。


「……オヤジ。その……人の趣味にとやかく言いたくはないんだが。……出来れば、もう少し普通の『行為』をしてもらえないか。近所迷惑だし 」

「うわぁ……話には聞いたことあったけど。ぶたれたりすると嬉しいんでしょあれ。……わたしには、わかんないなあ」


「ち、違えわ!! いてえいてえいてえーーーっ!!」


 亜人国の夜は騒々しく更けた。






 ————————————————






 クロウはオズワルド方面に疾走する。最近では人間の姿でいる事の方が多いが、今はクロウの姿で草原をゆく。


「……あんのクソガキがあ。どうしてくれようか……」


 そう言うクロウはそんなに怒ってはいなかった。むしろ後悔の方が強かった。……ルシオ達を連れて南の大森林、亜人国家に出発する時から後悔はあった。


『……俺は、本当にあいつを一人にしていいのか?』


 初めておつかいに行く子供に大金を持たせたとして、その子供がお金を落としてしまったら、それは親に思慮が足りない。

クロウがそう考えた訳ではないが、それに近い事を考えていた。


 あの子供は必ずなにかに巻き込まれる。もはや運命的だ。しかし、クロウもクロウで意地になってしまっていたので、結局迅八を一人にした。

 アグリアとの一件では本当に堪忍袋の緒が切れた。いくらなんでもあんな事を許していたら、クロウはこの先、心労だけで死んでしまうだろう。


「……しかあ〜し、なんにも言わねえのも気に入らねえ」


 迅八からはその後、結魂によるダメージは来なかった。なんとか窮地を脱したのだろう。

なんにせよ、その後なんのダメージもないと言う事は、今は安全な場所にいるはずだ。結局迅八に理由を聞かなくてはいけないし、いきなり頭ごなしに怒るつもりはないが……。


「……嫌がらせをしてやりてえな。あのクソガキめが」


 退屈嫌いの千年の大悪魔は、楽しむ事に決めた(・・・・・・・・)






 ————————————————






 迅八の目の前には巨大な『鬼』が立っていた。突然、本当に突然、空から降って湧いたのだ。


「……わり〜いごはいねが〜!!」

「な、なまはげッッ!?」


 迅八が面食らって硬直していると、その鬼はこれまた巨大な棍棒を振り上げる。


「や〜ぐそぐやぶる、わり〜いごはおめが〜!?」

「どわ、どわあああああああっ!?」


 なんとか体の硬直を解き、振るわれる棍棒から慌てて逃げる。それは物凄い轟音を立てて地面を穿った。


「おめがわりいごか〜っ!!」

「んな、なんなんだてめえはああああ!!」


 迫り来る鬼の手から逃げて、迅八は家の中に逃げ込もうとしたが、そこに居る自分の妹を思い出した。


(静……。駄目だ。家は駄目だ!!)


 そして家から離れるように逃げ出すと、後ろから飛んできた鬼に目の前の進路を塞がれた。

その鬼の体は、迅八のすぐそばにある。……ニヤニヤと楽しそうに、迅八の体の震えを確かめるように、()めつけている。


「……あ、あ、ああああああっ」


 ガタガタと膝が震え、迅八はその場に崩れ落ちそうになった。……すると、目の前の鬼が口を開いた。


「く、く、くかかかかか……。 一発くらい本当に食らうかクソガキ」

「え」


 迅八が口を開くよりも先に、人影が鬼と迅八の間に割り込んだ。





 ————————————————





(んなっは、はっ! うひいいいいっ!)


 突然、右の背中に近い脇腹を刺された(・・・・)。クロウはそう思った。


(ぃひぃ〜、いひぃ〜〜!? ……な、なんだ!? なにが起こった!!)


 クロウが気が付くと、目の前に女が立っていた。迅八の前でクロウを上目に睨みつけ、仁王立ちしている。


「……おお、こりゃあいい女、いぎいいいいっ!!」

「シッ!」


 今度は左の脇腹に激痛が走る。

……また刺された(・・・・)!!

思わずよろめくように後ろに下がると、下がった分だけ女が前に出る。


「シッ!!」


 破裂するように女の口から出る呼吸音。それに合わせて今度は鳩尾みぞおちを刺される。


「がっっはああああっ!!」


 もうなにも構っていられない。大きく後ろに跳躍し、女から逃れたクロウは、その女の腕を見た。


「ぐ、ぐうううっ!! ……素手えっ!?」


 クロウが迅八を見てみれば、ダメージを共有したらしく、泡を吹きながら悶絶していた。その顔色は蒼白を通り越してどす黒い。


「な、なんだこのデタラメな女はっ!! ……なっ」


 その時、視界の端で何かがきらめいた。

戦闘勘と予測だけでクロウが体をひねると、鋭利な氷の塊がすぐそばを飛んで行った。


「う、うおおおおおおおっ!! なんだなんだ!?」


 離れた場所で、眼鏡を掛けた男がブツブツと何か言っている。そして、その男の周りで高まり、唸りをあげる魔力。


「だ、大魔術師……!! じ、ジンパチ。 こいつらはなん、」


 迅八に説明を求めようとしたクロウの顔に影がさした。


「え……」

「ん〜〜っと!!」


 クロウに向かい一直線に走ってきた大男は、大きく跳躍すると大上段からクロウに切りつけた。

クロウが反射的に棍棒を構えると、それが真ん中から両断された。男が振るった身の丈ほどもある大剣は、今は地面にめり込んでいる。そして、一拍遅れてクロウの胸から鮮血が飛び散った。


「がはああああああっ!?」

「お〜? ……浅えなこりゃ」


 クロウが横を見ると、迅八も胸から血を流してプルプル痙攣していた。その顔は、なぜか幸せそうにさえ見えた。


「ま、待て待て待て待てえい!! ジンパチが死ぬだろうがっ、待ちやがれ!!」


 いつの間にか家の扉の前に、燃えるような赤い髪の男が立っていた。その男は腕を組み、クロウを見ている。


「むぅっ!!」


 クロウは逡巡(しゅんじゅん)する。

また厄介そうな奴が出てきた。やりあってもいいのだが、この人間達が迅八を保護していた可能性が高い。


「やっぱりだ……。やっぱりこのクソガキは、めんどくせええええっっ!!」

「……おまえ。おまえが『クロウ』か?」


 赤い髪の男がそう言うと、黒髪の女が初めて迅八の様子に気付き絶叫した。






 ————————————————






 なぜかクロウは、子狐の姿になって木陰で丸まっていた。


「……うんざりだ。ああ、もうウンザリだぜ…」


 その小さな狐の体からは、全く覇気が感じられない。


「……ちょっとふざけただけじゃねえか。いつも迷惑掛けられている子供をからかっただけじゃねえか。そしたら寄ってたかって殺されかけんのか? ……あんのか? そんなのあんのか?」


 千年の子狐の目は深く深く沈んでいた。

 それを見ていた『死にかけ(ロックボトム)』達は、ボソボソと囁きあっている。


「ありゃあ……なんか悪いことしちまったみたいだねえ。あたし全力で殴っちゃったよ」

「お〜? おまえ、そりゃ可哀想だろ。俺だったらよ〜、おまえに殴られたら三日はメシが食えねえぞ〜」

「……アレが? 本当に? 随分と伝説と違うじゃねえですか?」


 迅八は、一人だけ輪の中から外れて状況を観察していた。……体はすでに回復した。クーロンが慌てながら世話をやきたがったが、恥ずかしかったので遠慮した。


「お、おう……クロウ。ひ、久しぶりだな……」


 チラリと迅八を見ると子狐(クロウ)はその体を丸めて視界を閉ざした。完璧にふてくされている。


「け、けどさ、みんな知らなかったんだよ。おまえが、その、仲間だって」

「……なあ〜かぁま〜あ? なかまだあ? ……じゃあ何か? てめえの世界じゃ仲間をいきなり殺しかけるのか? てめえの崇める神は、仲間殺しの神なのか?」

「いや、そんな事はないと……」

「じゃあ、もう俺の事は放っておけや」


 根が深い。わざわざ子狐の姿になって、迅八の罪悪感を煽るところも彼らしかった。

その様子を見ていたジークエンドは静かに語りかける。


「おいクロウ。少し話をしたい」

おい(・・)? おいって言ったのか? ……誰様だか知らねえが、さすがいきなり人を殺しかける連中の親玉は上から目線でございますなあ……。はぁ、うるっせえわ赤毛。黙ってろ」


 カチーンと音が聞こえる程、コルテの表情が変わった。


「おいうすぎたねえ魔物。死にてえですか?」

「……あ〜ん? そりゃこっちの台詞だクソ眼鏡。さっきは俺様が誰だか判らなかったようだが、俺様の事がわかったうえで喧嘩売んのか? 挽肉になりてえのか?」

「魔物が随分とナメた口きくもんですね。挽肉だ?」

「やめろ。コルテ」

「ジークエンド、けど……」

やめろ(・・・)


 一番クロウの事を恐れていたくせにやる気満々のコルテは、ジークエンドの一言で黙った。


「おや? おやおやあ? ……やらねえのお? や〜ら〜ね〜え〜のおおおおお?」


 可愛らしい子狐の姿をどうやったらここまで腹立つものに出来るのか。目玉をくるくる回し舌をベロベロさせて、クロウがコルテを挑発する。


「こんのッッ……!!」

「まあまあ、コルテもこんな小さなにムキになるんじゃないよ。……なんだい。千年の大悪魔は随分と可愛らしいんだねえ」


 クーロンのその言葉に、キラリと、クロウの目が光ったように迅八には見えた。


「……クーロー?」


子狐(クロウ)はその目をまん丸にさせて、舌っ足らずに鳴いた。


(なんだよクーローって。そんな取ってつけた馬鹿な鳴き声あるかよ……)



 迅八はクロウの機嫌をこれ以上損ねたくなかったので、口には出さない。すると、クーロンがポッと頬を染めて両手をワキワキとさせた。


「……いやあだ〜。ドキドキしちまうん。……ほら、ほらほら〜。こっちおいで」

「クーローっ!」


 クロウがクーロンの胸に飛び込む。

クーロンからは見えないその目は、だらしなく垂れ下がっていた。


「可愛いねえこの()。……ねえジークエンド。この仔飼っていいかい?」


 クロウはよだれを垂らしながらクーロンの胸でゴロゴロし始めた。さりげな〜く、バレないように、時折その鼻先で胸の先端をかすめたり、尻尾を形の良い胸に巻きつけたり、上着の隙間から入れようとしたりしている。


「んっ……もう。エッチな仔だねえ」


 そんなに可愛らしい物ではない。迅八はクーロンに忠告したかったがクロウが時々迅八をキツく睨みつける。——余計な事言うんじゃねえぞ小僧……と。


「……ふむ。クーロンそのままでいろ。どうやらその方が面倒が少ない」


 ジークエンドが表情を変えずに言う。コルテは苦虫を噛み潰したような顔を、アマレロはもう興味がなくなったのか欠伸(あくび)している。

その様子を見ていた迅八は、少しだけ緊張を解いた。


「アマレロ。そういえば町に遊びに行ったんじゃなかったの?」

「お〜? いや、万が一もあるからよ〜。コルテと二人でここら辺を警戒してた。もうなんもなさそうだし、本当に町にでも行くか〜」


 迅八がコルテを見ると、その眼鏡を押し上げながら、忌ま忌ましげにクロウを睨んでいる。

 すると、いつの間に帰っていたのか、家の扉が開いてアゼルが出てきた。


「クーロン、来てくれ。まずい事になった」


 クーロンがその瞳を曇らせて、胸にクロウを抱いたまま家の中に入る。


「まずい事って……」


 迅八も二人の後を追い階段を登る。

 そして開け放たれた扉、さっきまでは施錠してあった妹の部屋からくぐもった悲鳴が聞こえた。不安と(おそ)れを感じながら、迅八もその部屋の扉をくぐった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ