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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第三章 ロックボトム スクリーマーズ
37/140

アゼル

 



 コルテの作った食事は、非常に味は(・・)良かった。だが、いちいち人が食べるところにケチをつける。

 ……やれスープから飲め、それにはフォークは使うな、パンはおかずを飲み込んでから食え、水をそんなに飲むんじゃない……アマレロとクーロンはそれに慣れているのか全く相手にしていなかったが、迅八は疲れていた。


(このひと、だいぶうるさいんだけど……)


 しかもジークエンドには何も言わない。彼は好きなように食べている。結果、迅八ひとりだけが集中的に『コルテ流食事術』の餌食となった。


(な、なんなのこのひと……。恩人だから何も言わないけど)


 アゼルスタンは食事を持って静の所に行った。そこで食事を取るという。はじめ、迅八がその役を買って出たのだが、クーロンとアゼルスタンに止められた。




 ——はっきり言うけどね。あの子の事は『監禁』してるって思っていい。ドアにも鍵を掛けてるし、窓も開かないようにしてる。用がなけりゃあたしとアゼル以外は近付かない


 ——え、なんでそんな


 ——いままでも色んな奴を見てきたからね。その方がいい(・・・・・・)のさ。理由は坊やが考えな


 ——クーロンの言うとおりにした方がいい。もっとも、どうしてもって言うのなら俺達は止めないよ



 そしてアゼルスタンは静の元に行き、迅八は『コルテ流食事術』の餌食になる羽目となった。





 ————————————————





「……ふう。ご馳走さまでした」


 うまいはずなのに味気ない食事をやっと終えると、コルテが迅八をじっと見ていた。


「え? な、なに……?」


 コルテは何も言わない。黙って迅八の目を見ている。


「う、うまかったよ 」

「ふん。当たり前です」


 勝ち誇ったように言うと、コルテは食器を片付けに席を立った。


(……もしも恩人じゃなかったら絶対に近寄りたくねえ。これがクロウだったら大変な事に)


 そこで迅八はあの悪魔の事を思い出し、その気分は一層落ち込んだ。

 自分が負った大怪我、あれはクロウにも伝わり迅八の異変は察知したはずだ。ひょっとしたらもうこっちに向かって来ているかもしれない。

激怒しているだろうあの大悪魔に、どんな顔をして会えばいいのかわからない。


『いいか。これは見極めだ 』


 恐らく迅八はそこから外れてしまったはずだ。しかし、あの時に動き出さなかったら静はきっと救えなかったのだ。


(ベドワウ……! 必ず、必ず落とし前はつけるぞ)






「……ジン。話をする」


 ジークエンドが静かに口を開く。するとアマレロとクーロンも迅八を見た。


「聞こう。話せ」

「え、なにを?」

「始めから話せ。終わりまできたらやめろ」


「……あんた、そんな言い方で伝わると思ってんの?」


 クーロンが呆れた声を出すと、そこにアマレロが口を挟んだ。


「ん〜、ジン。おまえアレだろ。転生者だろ。そっから話せよ。嫌だったらオズワルドの館の話だけでもいいぞ 」

「え、なんでその事を」

「お〜。やっぱりおまえか 」


 すると、戻ってきたコルテも席に着いた。


「町ではその噂で持ちきりでした。ベドワウの館が何者かに襲撃されて火をつけられた。犯人は逃走中。犯人はロックボトム(僕たち)かもしれない。……そんな噂です」

「そんな……あいつ、ふざけやがって!!」


 血が出そうな程に拳を握りしめる迅八に、ジークエンドは言う。


「……犯人候補の俺達は、真犯人かもしれないお前に話を聞いておきたい。話せ 」

「デタラメだ!! あいつは、あの薄汚いやつは……殺してやる。絶対に、殺してやる……!!」


 そこで迅八は気付く。濡れ衣だろうがなんだろうが、ジークエンド達が自分の代わりに罪をなすりつけられている事に。


「ご、ごめん。みんな、俺のせいで。でも、違うんだ。デタラメなんだ!!」

「お〜? 別に構わねえよ。そうなる予定(・・・・・・)だしよ〜」


 アマレロがおかしな事を言うが、他の者たちも何も言わない。そして、ジークエンドの目におされるように、迅八は顛末(てんまつ)を語り出した。




・・・・・・・・・・・・・・・




 迅八は結局、ジークエンドの言う通りに始めから最後……現在までを全て話した。誰かに聞いて欲しかったという事もある。

しかし、予想に反して彼等が興味を持ったのは、ベドワウの事よりもクロウや亜人国家の話だった。


「……へえ。坊や、随分ハードな一ヶ月を送ったんだねえ。大冒険じゃないか」

「お〜? 知りたい情報が全部あったんじゃねえのかジークエンドよ〜」


 ジークエンドは腕を組み目を瞑っている。聞いた情報を整理しているのだろう。


「ああ。幸運だったな」


 コルテが眼鏡を押し上げる。その瞳は他の者たちとは違い、少し曇っていた。


「……もしかしたら、千年の大悪魔がここに襲撃をかけるかもしれないと? たまらねえですよ。勘弁して欲しいですね」

「お〜、勝てねえかな? まあ負けやしね〜だろ〜」


 その会話を聞いていた迅八はこの人間達を心配した。


(負けやしねえ? ……絶対に会わせたくねえ)



迅八の顔を見たアマレロが言う。


「お? なんだ坊主その顔は。別にやりあうって決まった訳じゃねえよ。ただよ〜。話通じんのか? その『クロウ』はよ〜」


 アマレロの言葉に、迅八は一瞬戸惑う。千年の大悪魔(クズ)の今までの行動を思い返していた。


「……多分。けど、なんかよくわかんないんだけど、嫌な奴じゃないんだ。……きっと」

「お〜、つまり嫌な奴なんだろ?」


 迅八は黙ってしまう。良い奴、とは言えない。黙った迅八の様子を見て、コルテが声をあげた。


「冗談じゃねえですよ。おとぎ話の登場人物と喧嘩なんてまっぴらごめんですよ!」


 この中ではコルテが一番クロウの事を恐れているようだった。すると、話を整理していたのだろうジークエンドが静かに言った。


「まあいい。この話は終わりだ。……なんにせよ今日はする事はない。明日・・だな 」


 その言葉を聞くとアマレロが立ち上がり、そのまま外に出て行こうとした。


「アマレロ、……さん。どこ行くの?」

「町で遊んでくるわ〜。あと、気持ち悪いから一拍置いて『さん』付けすんな坊主。アマレロでいいぞ〜」


 そう言ったアマレロは、ヒラヒラと手を振って外に出て行ってしまった。コルテも立ち上がると後を追うように扉に向かう。


「コルテ……も、どっかいくの?」

「千年の大悪魔が来るかもしれないこんな危険な所に居られるか!! ……あと、調子に乗って僕の事まで呼びつけにしてんじゃあない。わかりましたね 」


 探偵がこの場にいたら真っ先に犯人に殺されそうな台詞を吐いて、コルテも外に出て行った。ジークエンドとクーロンはそのまま座っている。


「二人は、どっかいかないのかい?」

「あたしはどうしよっかなあ。坊やと遊んじゃおうかねえ……」


 そういって、クーロンは顔をニヤつかせ、両手をわきわきさせている。


「あそぼうよ〜。ね〜え〜」

「あ、遊ばないよ! ……やめてくれよ。変な冗談は」

「別に冗談じゃないんだけど、失礼な子だねえ」


そう言ってクーロンはその頬をべったりと机につけた。そこから動く気はないらしい。


 静かに腕を組んで目を瞑っているジークエンドは、話しかけるのをためらわせる雰囲気を持っていた。しかし、迅八にはどうしても聞かなくてはいけない事があったので、恐る恐る問いかける。


「ねえ、ジークエンドさん。妹を、静を治してくれたのは、誰なんだい?」


 静の顔は元の形に戻っていた。おそらくその体も同じように回復しているのだろう。しかし、あれは一日二日で治るようなものではなかった。誰かが、回復術なのか医療なのかは判らないが、静を治してくれたはずだ。


「……アゼルだ 」

「アゼル……が?」


 皆がそう呼んでいるように迅八もアゼルスタンを呼ぶ。ジークエンドの目がゆっくりと開いた。


「……そうだ。感謝ならあいつにしろ。俺達はなにもしていない」


 ジークエンドはそう言ったが、迅八は深々とその頭を下げた。


「そうなのかもしれないけど……。本当にありがとう。ジークエンドさん、クーロン。みんなに本当に感謝してるんだ。必ず、必ず恩は返すよ 」


 クーロンがそのままのダラけた姿勢で言う。


「……やっぱ可愛いねえこの子。男らしいとこもあるみたいだし。坊や、やっぱ今からあたしの部屋であそぼうよ〜う」

「い、行かないよ!!」


 そう言いつつもクーロンの腹筋やその上で盛り上がっている形のいい胸につい目が行ってしまって、迅八は頬を赤らめた。


「なんだい、おかしな子だね」

「……クーロン。そいつで遊ぶのはいいが静かにやれ。俺は考え事がある」


 そう言ってジークエンドも席を立ち上がると階段を上がっていった。クーロンと二人きりになってしまった迅八も慌てて席を立つ。このままここに二人でいるのはどうにも落ち着かない。


「ありゃあ……。このクーロン姐さんを振るのかい? これでもモテるんだけどね」

「見ればわかるよ……」


そして、昨日の夜からの断続的な記憶。彼女はその心も美しいのだろう。千々(ちじ)に乱れた迅八の心を落ち着かせてくれたのは、アゼルスタンとクーロンだった。

だからこそ、魅力的な大人の女性と二人きりでいる事に、迅八は耐えきれない。


「……アゼルだったら外にいるはずだよ。全く失礼しちゃうねえ」


 そう言いながらもクーロンは、ダラけた姿勢のままで優しく手を振った。





 ————————————————





 迅八が水汲み場に行くと、アゼルが顔を拭いていた。近づく迅八に気が付くと、アゼルは(かたわら)に置いていたストールを、素早く顔に巻きつけた。


「……どうした? なんか用か」


 フードをかぶり、ストールを巻きつけたその顔は、やはりよく見えない。

 けれど、その整った顔立ちはわずかな隙間からでも人を惹きつける力を持っていた。


「……あれ? なんか、顔白くなってない?」

「気のせいだろう」


 迅八の記憶にあるアゼルの顔は、もっと健康的な褐色だった。クーロンと同じような。

 アゼルは腰の辺りをポリポリと掻いている。ちらりと見えたお腹もやはり白かった。


「……アゼル。ジークエンドさんから聞いたんだ。アゼルが静を治してくれたんだろう? ……本当にありがとう」

「別に」


 迅八が深く頭を下げると、先程とは違う場所をバリバリと掻きながら、そっけなくアゼルは答えた。

 アゼルは近くの木陰まで歩いてゆき、そこに腰を降ろした。迅八も同じようにする。


「……あの女の子だったらもう大丈夫だよ。あとは、さしあたっては言葉と、心の問題かな。そっちは時間がかかるぞ」


 アゼルは頭を掻きながら迅八に説明する。


「しばらくは俺達と一緒にいるといいよ。けどそれもお前らの自由だ。誰も拘束はしやしない 」


 アゼルスタンはさっきから忙しなく身体中を掻いている。今は頭を掻いているが、そこから粉のようなものが迅八の方に飛んでくる。


「……ところでアゼル、身体かゆいの?」

「ああ。至る所が」


 アゼルスタンの爪の間には真っ黒い垢がこびりついていた。


「……アゼル。最後に風呂入ったの、いつ?」

「アゼルスタンって呼べよ。一月くらい前かな?」


 ずざっと迅八は後ずさる。先程からこっちに飛んでくる粉。これは……。


「フケじゃねえか!! 汚ねえな!!」


 よく見てみると、アゼルの白い顔の所々は褐色のままだった。


「……おまえ、顔が汚れてただけじゃねえか!! 入れよ風呂!! ……なんだか残念な美少年だなあ」

「フン」


 現代日本からやってきた迅八は、野営で一日風呂に入れないだけでも落ち着かない。目の前の美少年の事が信じられなかった。


「……嫌いなんだよ。一月前の時もクーロンに無理やり入れられたんだ。それよりも、失礼だなおまえ。さっきまでは泣きそうな顔して頭を下げてたのに……」


 ふん、と鼻を鳴らしてアゼルは頭を掻き続ける。すると、迅八の方に豆粒よりも小さなものが、ピョコンと飛んできた。


「ぎ、ぎゃああああああ!! ノミっ? これノミか!? ……初めて見たぞこの野郎!!」

「うるさいなあ……」


 アゼルは構わず体を掻き続ける。そして身動きする度にその体臭が迅八に届く。しかし、驚く事にその体臭は迅八を不快にさせなかった。

 汗臭いのだが、臭くない。なんというか、どことなく甘い香りだった。


(あれだ。静の部屋みたいな。そんな匂いだ )



 黙って鼻をクンクンさせている迅八を見て、今度はアゼルが少し離れる。


「……おい。なんだおまえ。気持ち悪いぞ。匂いを嗅いで嬉しいのか?」

「ち、違うから! ほんと、違うから。……なんか、女みたいな匂いだなって」


 ふう、と溜息を吐くとアゼルは立ち上がる。


「……用はそれだけか? 感謝の気持ちはわかったよ。それだけだったら俺はもう行くよ。やりたい事があるんだ 」

「ああ。それだけだよ。本当にありがとう。……あと、仲良くしてくれよな」


 アゼルの目が、フードの下でキョトンとなる。


「俺さ、こっちで、その、同年代の友達……特に男はいないからさ。仲良くしてくれると嬉しいんだ 」


 その言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、アゼルはその場から立ち去った。しかし、立ち去る間際、フードとストールの細い隙間から覗いた目は、微笑んで見えた。


「……あいつ、モテるんだろうな〜。風呂入ってなくても」


 迅八は、そんな考えと同時に静の事が心配になった。アゼルとクーロンが主に静の面倒を見てくれているようだが、あんな雰囲気の美少年が近くにいたら、妹はコロッといってしまうかもしれない。


「良い奴そうだから別にいいっちゃいいんだけど……なんかやだなあ」


迅八の呟きは風に溶けた。





 ————————————————





 クーロンは頬杖をついて、窓から見える景色を眺めていた。今は転生者の少年が一人で木陰でぼーっとしている。先程まではそばにアゼルもいたが、アゼルはどこかに行ってしまったようだった。


「……いやあだ〜。ドキドキしちまうん」


 暖かい木漏れ日に包まれた可愛らしくて美しい二人の子供たちは、クーロンの心を甘く締め付けた。


「アゼルがもうちょっと優しくしてやりゃもっと良かった(・・・・)のにねえ。う〜、酸っぱいねえ」


 クーロンの中の酸っぱい思いが『酸っぱいもの食べたい』に変わり、いつしか『腹減った』まで変化した。コルテを呼びつけてなにか作らせようかと思ったが、そういえばあの男はどこかに行ってしまった。


「……な〜んかあったっけかなあ」


 台所で食べるものを物色しながらクーロンはぼんやりとこれからの事を考える。


 あの転生者の子供達に入れ込み過ぎない。

誰が口に出した訳でもないがこれは暗黙の了解だ。

いままでもずっと、『死にかけ(ロックボトム)』はそうしてきた。


 だから、聞かない。深くは聞かない。

あの少年の不思議な回復能力も、ベドワウの館で突然その手に現れたというナイフの事も、それ以上は追求しない。

聞いても本人にも判らないのだろうし、その行為は入れ込みすぎ(・・・・・・)だ。それは自分達にとって良くない事だし、なにより、あの転生者達を『死にかけ』に深く関わらせたくはない。


 子供や動物、自分よりもか弱い存在にだけ(・・)は優しいクーロンは、あの少年と少女が心配だった。


「……けどねえ。アゼルに友達作ってやりたいねえ」


 どこかから探し出したコルテ秘蔵のハムの塊に容赦無くかぶりついていると、外から轟音が聞こえた。


 次の瞬間にはクーロンの姿は台所から消えていた。




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