表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第三章 ロックボトム スクリーマーズ
33/140

アグリア




 クロウが勢い良く扉を開けると、異形化した迅八の後姿が見えた。それと向きあう形で『白銀(しろがね)』のアグリアも立っていた。


「チッ、寸前・・かよ。おいジンパチ、やめろっ」


 クロウが迅八の元まで駆けつけ、迅八の右肩を摑む。なぜか、寒気を感じてすぐに離した。

振り返った迅八は、クロウの右手が置かれていた位置を、一閃の元に切り払った。


「……クロウ? 悪い、わざとじゃないんだ 」


 その昏く沈んだ瞳を見て、クロウは内心で舌打ちした。


(ああもうっ、なんだってんだ!!めんどくせえええ!!)






「……悪食。尻尾を巻いて逃げ出した貴様まで何の用だ。この頭のおかしい子供はなんだ」


 アグリアはいつの間にか、少し離れた場所で腕を組んでいた。その(たたず)まいは冷静そのもの。傍観者のそれだった。

アグリアに向けてクロウは言う。


逃げ出した(・・・・・)だあ〜? 見逃してやっただけだ。ちっ、今は別にそりゃあいい。おいジンパチ、帰るぞっ!」


 迅八は無表情に『迅九郎』を眺めている。それをいつの間に自分が抜いていたのか、疑問に感じているようだった。やがて、目の前に立つアグリアを睨みつける。


「……ああ、すぐ帰るさ。首飾りさえ返してもらえりゃな」

「だから貴様はなにを言っている。誰の首飾りを、なぜ返さないといけないんだ。説明をしろ。……それとな、帰る(・・)? まあそう言うな。ゆっくりしていけ」

「……返さねえんだな?」


 アグリアはゆっくりと、迅八に含ませるように言う。しかし、会話は成り立っていない。主に、正気を失った迅八によって。


やめろ(・・・)、ジンパチ!!」


 クロウは今度こそ迅八の肩を摑み、その体を後ろに引いた。すると、迅八は不思議そうに、自分の肩を引く手を見た。


「クロウ、なんで邪魔すんだ? やめろよ……」

「いいや、やめねえな。冷静になれ。これ以上はまずい事に……、なっ!!」


 迅八はクロウの体を強く手で押すと、迅九郎を向けた。


「クロウ、ちょっと黙っててくれよ……。すぐに済む」

「……………………………」


 クロウは考えていた。それ(・・)も、いいかもしれない。この場ではっきりと思い知った。この少年は、厄介すぎる。


(やるか……。徹底的に )


 悪食——千年の大悪魔は静かに魔力を練り上げる。自分が死ぬ寸前まで、徹底的に、この少年の心を砕く。人間から人形(・・)まで落とす。

 そして、それを行動に移そうとした時に、傍観者は動きだした。


「他人の家で勝手な真似を……。行儀の悪い子供だ 」


 後ろから聞こえた声に迅八が振り返った時には、アグリアの手は動きだしていた。

 その手は凄まじいスピードもなく、途轍もない力もなく、ただ正確に迅八の顎の先を振り払った。……くるん。迅八の目が上に回ると、膝からその体は崩れ落ちた。

 その体が地面に当たる前にアグリアは迅八の手を引き、そのまま迅八を長椅子の上に降ろした。






「……さて、一体なんなんだ。この頭の悪い子供は。……あの時は逃げ出した訳だが、今度は話を聞かせるのだろうな?」


 アグリアはまた腕を組み、静かに『悪食』を見る。悪意もない。敵意もない。ただその目を見ていた。

 クロウは一度深呼吸をして思考を切り替える。依然(いぜん)、厄介事は終わっていない。


「正直、めんどくせえな」

「これ以上に面倒くさくしたいのか?」

「ちっ……!」


 天使達の介入は出来るだけ避けたかった。『天使』と敵対はしていなくても、クロウに恨みを持つ個人など山程いる。自分の弱点そのものである迅八の存在を知られたくはなかったが、事態はそれでは済まない。


 もう一度、諦めたように深い溜息を吐くと、クロウは長椅子に腰掛け語り始めた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 その短くはない語りを聞いたあと、アグリアはそれを一言で表した。


「……つまりおまえは、目覚めてからずっとこの子供に振り回されていた。……そう言う事か?」

「っっか!! 俺様の初めての理解者が天使だと? ……笑えねえぞ」


 アグリアは失神した迅八を見ていたが、静かにその頭を撫でた。


「こうして見ていると、ただの子供に見えるがな……」


 そう言ったアグリアの瞳は、ほんの少しだけ下げられた。


「……ほう鉄面皮(てつめんぴ)。天使らしい顔もするじゃねえか」

「寝ている子供は可愛いものだ。……どれだけ頭のおかしい転生者でもな 」


 オズワルドに来たのは偶然、倒したのはカザリアのみで、人間に被害は出ていない。建物などの被害もカザリアが出したものだけ。

人間達の証言と全て一致した事を確認したアグリアは、亜人の国の設立に関わった事も確認した。


「しかし、聞きたい事がまだ二つある」


 アグリアは元の無表情に戻り、その腕を組む。


「なぜ再びこの町に来た。旅の途中か? それともここが目的地なのか?」

「……それはてめえらには関係ねえこった」

「確かに。しかし、そうなればお前らには監視を付けざるをえんな」


 クロウは面倒臭そうに自分の長髪を掻き毟る。……本当に、本当に、厄介事だらけだ。


「……この町で発見された転生者が、そこのクソガキの妹の可能性がある。もっとも、そいつが言ってるだけだ。確証なんかありゃしねえ」

「今『オズワルド』の館にいる娘の事か……。ふむ 」


 オズワルドの町に過去に名付けを行った貴族の子孫。

町と同じ名前のその者は、今はこの町の統治者として君臨する。


「そうか。好きにしろ」

「なに?」

「別にお前らの行動を私が止める理由はない。好きにしろ」


 確かにそうだが、こんなにすんなりと話が進むとは思っていなかったクロウは、そこに違和感を感じた。


「なーにを企んでやがんだ。鉄面皮」

「なにも。それとな、急いだ方がいいぞ」

「…………」

「もう一つの聞きたい事だ。貴様はさっき、見逃してやったと言ったな。なぜだ?」


 アグリアが気になるもう一つの事。

 それは、以前クロウと戦闘を行った時に、明らかに手を抜かれていた事だった。

 クロウは足止めと撤退の為に戦闘していたが、それにしても明らかにおかしかった。なぜか、途中から敵意(・・)を感じなかった。


 この場でクロウと会話をしているのも、その時に感じていた違和感の為だった。『見逃した』……それは案外強がりではなく本気で言っているのかもしれない。


「なぜだ? 答えろ」

「……気のせいだろ。気のせい」


 千年の大悪魔はそれ以上はなにも語らない。すると、話は終わりだとばかりに大げさに立ち上がった。


「ふん。そいつは連れて帰るぞ。……本当はそのまま捨てちまいてえ位だがな」

「寝ている分には可愛いものだがな。……その狂犬にはしっかりと首輪を付けておけ。二度目はないぞ。ただでさえ、今はこの町に怪しい集団がいると言う情報がある。想定外(・・・)の騒ぎは起こすな」


 黙って乱暴に迅八を担ぎ上げたクロウに、後ろから声がかかる。


「それと、さっきの話の娘。シェリーと言ったか。その子の首飾りは、明日にでも家に届けさせよう。……だから、その転生者は大人しくさせておけ」


 振り返らずに手を振ると、クロウはそのまま外に出た。






 また、静寂に戻った空間の中で女天使は呟く。


「オズワルド。……あの汚い小屋に妹がいる、か 」


 アグリアはそう言って、何も乗っていない台座を見つめた。






 ————————————————






 教会の敷地内から出た場所。

ひと気のない路地に乱暴に迅八を下ろすと、クロウは気を失っている少年の頬を殴りつけた。


「うっ! あぁ……」

「よう。目ぇ覚めたか小僧。まだみてえだな 」


 そう言って更に一発、流れる顔を逃さないように髪を掴む。


「おう、まだ足りねえか? 足りねえな」


 そのまま迅八の頭を地面に叩きつける。目覚めたばかりの朦朧(もうろう)とした迅八の意識は、その衝撃で更に(くら)む。


「……う、う、首、かざ、りは」

「全っ然足りないみてえだな。ほれ、早く起きろ」


 クロウが機械的に迅八の頭を何度も何度も叩きつけると、迅八の鼻からどす黒い血が流れ出た。


「おい、てめえは本当に判ってやがんのか? てめえの行動がどういう結果に繋がるか」

「い、てえ、いたい、いた、い、やめ、て……っ」

「……けっ」


 そのまま一度、強く地面に叩きつけ、クロウはその手を離した。


「首飾りはあいつが返してくれるとよ。てめえの行動なんぞとは全く関係なくな」


 迅八が荒い息を吐きクロウを見上げると、千年の大悪魔は恐ろしく冷たい顔をしていた。


「……おめえは、一体なにがしてえんだ?」

「シェリーが、泣いてるのをみてたら、もう、あたまが……」

「おめえは一歩間違えたらあのチビ共を殺すとこだったな。教会まで殴り込みかけられて、天使共が黙ってると思ってやがんのか? 原因の亜人の家族を見逃すとでも?」


 今回はアグリアだけがいたので運が良かっただけだった事を、迅八は知らない。

 クロウは迅八と目線を合わせるようにしゃがみ込むと、再びその髪の毛を掴んだ。


「なあ……なにがしてえんだ」

「おれ、おれ……」

「なあ、バケモン相手に喧嘩売るのと訳が違えんだぞ。俺様にも我慢の限界があるんだ。わかるか?」


 迅八はとうに異形から元に戻っていた。視線はふらついたまま、クロウの言葉を聞いている。


「おまえは、妹を助けにきたんじゃねえのか? まだ妹かはわからんがな」

「済まねえ……ごめん」

「けど、てめえはわかってねえんだろ? ……もういい」


 そう言って迅八の頭を離すと、クロウは立ち上がった。


「……明日、ルシオ達の家に天使か人間かは判らねえが、首飾りを持ってくる奴がいる。……てめえは邪魔だ」


 とさ、と音がして、迅八の前に小さな袋が投げられた。


「てめえはそれでしばらくこの町で暮らしてろ。俺はルシオ達を連れて一度大森林に行く。その間にてめえは保護された転生者を確認しとけ」

「ま、まってくれよ。なら、俺も、」

「てめえは、なにがしてえんだ(・・・・・・・・)?」


 クロウの凄みのある声に迅八は黙った。暗い路地にはガス灯の明かりは薄くしか届かない。その薄暗がりの中にクロウの声だけが響く。


「いいか。はっきり言うぜ。俺はその転生者がてめえの妹だなんて思っちゃいねえ。……まともに考えりゃ誰だってそう思うぜ。この広い世界の中でそんな偶然あるもんかよ」


 吐き捨てるようにクロウは言う。


「気に食わねえ事に、俺とてめえは協力しあわなくちゃいけねえ。それの為にてめえに付き合ってやってるだけだ。……だが、てめえは俺の言う事なんざ聞きやしねえ!!」


 今度は本当に地面に唾を吐き捨てたクロウは、闇の中にその冷たい目だけを浮かばせた。


「ジンパチ。これは見極めだ。てめえは一人でその転生者の『確認』だけしろ。……そいつはてめえの妹じゃねえだろうが、その確認だけしとけ。そいつがどんな境遇だろうが、てめえは一切関わるな」


 すがるような目で自分を見る少年に背中を向けて、大悪魔は宣告する。


「それが出来ねえんだったら、てめえの妹の件はご破算だ。……てめえには、俺の言う事だけを聞く人形になってもらう」


 うずくまる少年に背中を向けて、悪魔は立ち去っていった。


 残された迅八はその背中が見えなくなると、再び地面に倒れこんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ