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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第二章 亜人の里の収穫祭
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オズワルドへ

 



 食事が終わるとロドは外に出て行った。

残された迅八達は、スーローンが淹れてくれた茶を飲みながらくつろいでいる。


「……おいクロウ。で、なんなのアレ。説明しろよ」


 迅八の視線の先には、鼻歌を口ずさみ洗い物をしているスーローンがいた。迅八の向かいでは、フィレットもじっとそれを見ている。


「ん、アレか? よくわかんねえけどよ…」


 クロウはロドと結魂を行い、ロドに名付けた。ロドは現在、正式には『ロド=クロウ』という名前だ。

 その結魂の内容は、クロウへの忠誠。

その見返りとして、ロドにはクロウの力がほんの少し分け与えられた。しかし、ほんの少しと言っても今のロドは、以前とは比較にならない力を持っているだろう。


「そんな事まで出来んのか? 凄いな『結魂』」

「優秀な結魂師ほど細かな条件付けが出来るらしいがな。んで、俺の庇護下にいるって事がわかりやすいように、まんま俺の名前をつけてやった。……気に入らねえ名前だがな」


 結魂を行った者達は、周りから親子だとか兄弟だとか、恋人だとか色々と見なされる。

しかし、これは必ずしもそうではなく、あくまで世間的にそう捉えられるというものだ。


 現在、最も結魂を利用するのは人間の貴族達で、それはその内容よりも、『名付け』の行為自体に意味を持つ。

 名付けた貴族は『親』となり、自らの派閥にその『子』を迎え、庇護を与えたりする。そしてその派閥が大きければ、当然その貴族は力を持っていると見なされる。

 逆に力を持っていない貴族はどうにかして大貴族に名付けをしてもらえないかと必死になるのだが、中には幾つもの名前を持つ者も多い。

 そして、その名前は多ければ多いほどに、周りから侮蔑されたりする。


「なんで? みんなと仲良いってことじゃないの?」

「そんな奴もいるのかもしれねえがな。ただな、例えばだが……」


 南の大森林、亜人国家の王となったロドは、魂食の大悪魔クロウの名を(いただ)いた。後ろ盾になってもらったと言うことだ。

 それなのに、その後に他の者と結魂を結び、新しい別の名前を与えられると言う事は、周囲にどう映るのか。


「順番にもよるな。俺よりも上位の存在なんてこの世界にゃ存在しねえが、もしもいるとしたらそいつと結魂を結ぶ分には周りからグチグチと言われる事もねえだろうよ」

「おまえ、サラッと今、世界で一番自分がエライって言った……?」


 人間の世界の方が解りやすい。ある貴族が大活躍をして、結果、国王の派閥に迎えられ名付けられたとする。

 その後に他の貴族から名付けなんて行われたら、当然とんでもない事になる。国王よりも、その人間の事を重く見てると取られてしまうからだ。


 そして、名前を多く持つということは、それだけ色んな貴族の下についてきたという事だ。貴族にとって、名前とは少なければ少ない程に生まれ持った自分の力、家柄を表す事になる。

 そして強大な力を元から持っている貴族は、クロウが以前言ったように『他人からの名付けなんて必要ない』となる。


「……人間の貴族達は、大抵名前を二、三コもってんじゃねえのか? ナントカ=カントカ=ダレソレ、みてえな感じでよ。けど中にゃいるんだな。十も二十も持ってる情けねえ奴らが」

「ふ〜ん、なるほどね。よくわかんねえけど。それで、アレ(・・)はなんであんな風になってるんだよ」


 洗い物を終えたスーローンは、お茶のお代わりを淹れてくれている。


「だから、俺様とロドが『親子』……まあ名付けの上でだが、なっただろ。スーローン(あいつ)はそこの子豚とロドの母親だ。そっからの、こういう事なんじゃねえのか」


「……はいお父さん。お代わりよ」


スーローンがクロウの前にカップを置いて、また台所に戻っていった。


「……そういう事ね。けど、なんか俺に対しても違くない? なんか、優しいっていうか」

「あん? あいつらの中じゃもうおめえは子豚の旦那なんだろ? んだったらおめえは子供みてえなもんだろが 」


「ジン、お代わり要る?」


 戻ってきたスーローンが、空になった迅八のカップを持つと、間近でふわりと笑いかける。髪の毛から漂ってくる大人の女性の香りに、迅八は思わず顔を赤くした。


(いや、無理。絶対ムリ。こんなんが義母(ははおや)? 落ち着いてメシも食えねえよ……)


 元の美貌はそのままだが、(けん)の取れたその表情は、フィレットと同じような柔らかさを持っていた。元々スーローンはこういう顔で笑う女だったのかもしれない。


「い、いや、大丈夫。ありがとオバサン」

「……もう。お母さんって呼んでくれればいいのに」


 困ったようにスーローンが腕を組むと、重たそうな二つのスイカがみっしりとその腕に乗った。


(さ、さすが、フィレットの母親…… )



「……ジンくん。なに見てるのかな」


 その言葉で我に返った迅八がフィレットを見ると、お馴染みのジト目で迅八を見ている。


「おわっ、いや、違うって!!」

「もう……」


 フィレットはトコトコと扉に向かい、そのまま出て行った。追いかけようとした迅八を呼び止める声。


「ジンパチほっとけ。別に本当に怒ってやしねえよ。それよりも、丁度いいからこれからの話をするぞ 」






 ————————————————






 これからの話、という時のクロウは大抵まじめだ。それを知っていた迅八は、大人しく椅子に座った。スーローンも同席するようだ。


「……もうちっとここでゆっくりしようと思ってたんだが、俺たちはこれからオズワルドに戻る。理由は後でだ。……その方がてめえにとっていいだろう 」

「俺にとって? 」

「ジンパチ、後で(・・)だ。何度も言わせるんじゃねえ。

 まずおめえの扱いについてだが、方針を変える。これからはてめえも戦え。……蜘蛛との戦いで感覚を掴んだみてえだし、自分(てめえ)の身くらい守れるだろ。俺様もいつまでも小僧のお守りは飽き飽きだ」


 旅の初めに言われた事。——命を失わない事を最優先しろ、という話の事だろう。


「ま、面倒くせえ奴からは逃げるがな。幸いてめえのしぶとさはゴキブリ以上だって事はよく判った。キリキリ働けよボンクラ」

「……お前はいちいち悪態つかなきゃ死ぬ病気でも患ってんのか?」


迅八の言葉など気にすることなくクロウは続ける。


「それと、『天使』の扱いについてだ。これはイチから話すとてめえのネズミの脳味噌じゃ理解できねえ。だから重要な事だけ覚えとけ。……いいか。奴らは人間の味方ってわけじゃねえ。そして、俺様を筆頭とした悪魔と敵対している訳でもねえ。奴らは奴らの『決まり』に沿って動いてるだけだ。それを解っておかねえと、余計な厄介事が増えるかもしれねえからな」


 何度か耳にした言葉、『決まり』。

迅八が口を挟む前にクロウは続ける。


「いいか。奴らは俺の事をもう探しちゃいねえだろう。だが、出会えば面倒は避けられねえ。……お前も覚悟しておけ。下手したら、お前自身が天使を敵に回すかもしれねえ事をな」

「え、俺? ……俺はそんな事しねえよ。お前じゃあるまいし」

「フン、俺もそう願いたいもんだがな」


 クロウは先程まで見ていた新聞をチラリと見やり、また迅八に視線を戻した。


「……次だ。俺とおめえの結魂の事だが、今はアテがねえ。とりあえずはスーローンに効力を弱めさせる。結魂の消去の方法はまた後で探る事にするぞ」

「効力を弱めるって、そんな事が出来るのか?」


 黙って話を聞いていたスーローンが迅八に説明する。


「ええ。弱める事は出来るわ。ただ、結魂をなかった事にするなんて方法は、少なくとも私は聞いた事がないの。ごめんね」


 スーローンの説明によると、結魂でのダメージの共有……その上限が『死亡』だとすると、その上限を引き下げる事は出来ないが、下限を引き上げる事なら出来るという。


「十の攻撃で死ぬとすると、二割や三割位の傷ならそれぞれが個人で受け持つようになるわ 。結魂の有効範囲を狭める……それも下限限定で、という事かしら」

「これからは、俺様がムカついたら遠慮なくテメエの事を殴れるって事だ。ある一定以上の傷しか俺達は共有する事はなくなる。……まあ満足とは程遠いが、それでもいくらかマシだぜ」

「やってみろ。てめえ、迅九郎でぶっ刺してやるからな!」

「ほらほら……クロウもジンもやめてね」


 スーローンが母親のようにとりなすと、二人は渋々と矛を収めた。


「……そして、これがオズワルドに戻る理由だ。それは旅芸人の奴らが持ってきたもんだが、日付はちょうど俺達が『漆黒(カザリア)』の野郎とやりあった辺りだろう」


 クロウが新聞を手に取り迅八にほうる。その新聞には、町で起こった混乱の事が書かれていた。そして、隅に追記されていた内容を読んだ迅八の手が震え出した。


「……言葉の判らない黒髪の転生者の女性を保護。今はオズワルドの……」

「落ちつけジンパチ。まだ確定じゃねえ。だからそれを調べに行くんだ。……いいか? 俺は約束したはずだ。『その情報があった時には手を貸してやる』ってな。悪魔は約束を破る事はねえが、てめえが我を失って足を引っ張るようなら俺様のやる気もなくなっちまうぞ 」


 その言葉が聞こえたのか、聞こえていないのか。迅八はその紙をぎゅっと握りしめ、つぶやいた。


「……(しずか)






 ————————————————






 迅八は、フィレットと出会った泉に来ていた。その場所ではまるで時が巻き戻ったかのように、あの時と同じ光景が広がっていた。


 きらきらとした光を浴びて、フィレットは水浴びをしている。初めて少女を見たとき、迅八は彼女を森の妖精なのだと思った。

 けれど、今は知っている。彼女は妖精ではなくオークで、可愛らしい人間(亜人)だという事を。


「……ジンくん?」


 少女は振り返る。その身体にはなにも身につけていない。

 しかし、迅八はそれを目にしても表情を変えず、何かを言いにくそうな顔をしていた。


「……そっかあ。行っちゃうんだね」



 フィレットは母親からも兄からも言われていた。少年は、何か大きな運命に巻き込まれる存在だと。里を離れる時はそう遠くない内にくる事も。だから兄などは、その前に子を授かれなどと言っていたのだが。


 フィレットは思う。この少年は、特別だ。自分にとってもそうだし、おそらく世界(・・)の中でも特別な存在になっていくだろう。そしてそれを思うと、ほんの少しだけ、泣きたくなった。


「……また、誰かを助けに行くの? 私を助けてくれたみたいに」

「妹が、……おれの妹がオズワルドに居るかもしれないんだ。俺は行かなくちゃ。あいつのところに」

「……そっかあ」


 フィレットは一度、空を仰ぐ。

森の木々に切り取られた空は狭かったけれど、どこまでも高く、澄んでいた。


「ねえ、約束してね。ジンくん 」

「……なにをだい?」

「必ず、妹さんの事を助けるって 」


 自分を助けてくれたように。

 本当は、フィレットは迅八を引き止めたかった。しかし、目の前の少年は言った。自分の足では立てねえのか?と。


 少女は、少年に、並んで立ちたい。

 追いかけるのではなく、追いかけられるのでもない。それならば、自分の戦いに赴く迅八を止める事だけは、決してしてはならない。

 それが誰に言われた訳でもない、フィレットの心の中の誓いだった。






「あと…、また、この里に、国に来てね 」


 迅八は力強く頷く。その目はフィレットの事を助けた時と、同じ輝きをもっていた。


「ああ、約束するよ。あいつの事は俺が守るし、必ず、フィレットにまた会いにくる」


 フィレットが迅八に近づくと、その顔を迅八に近づけ、迅八の()に、チョンと、本当に、触れるだけのキスをした。

 そして、迅八の体を一度だけ強く抱きしめると、その身を離した。


「……私は、まだここにいるから、ジンくんはもう行って。気をつけてね。怪我したら怒るからね」






 ————————————————






 スーローンにの手による結魂の変化を終えると、迅八とクロウ、二人は里の入り口に立っていた。

 目の前にはスーローンとロド、二人が迅八達の方を向いている。フィレットは、いない。

 里を救った影の英雄——亜人国家成立の立役者を見送るには、いささか寂しい光景だった。


「……オヤジ。あんたの名前を汚さぬよう、この国を繁栄させる事を誓おう」

「へー。まあテキトーにやれや」


 力強く握手を求めるロドの手を、クロウは面倒くさそうに指先でつまんでいる。


「フィレットは、あの子は多分来ないわ。……私には気持ちが解るから。ジン、許してあげてね」


 スーローンが迅八に近寄ると、ふわりとその身を抱いた。


「いつでも、またいらっしゃい。……本当にありがとう。あなたは私の子供のようなものよ」


 迅八とクロウはスーローン達から渡された幾つかの品を背負い、再びオズワルドへと向かう。そして、里から出る前に振り返った。


 ……訪れた時は、ただ綺麗な場所だと思った。しかし、今はその美しさの中に、みなぎる程の活気がある。オークに混じりなにかの作業をしている他の亜人達。色んな種族で混じり合い、仲良く遊んでいる子供達。

 これから、この国は本当の意味で、少しずつ生まれてゆくのだ。


 たった二週間程だったが、色々な経験をして、この世界の側面を見た。迅八は大声で言う。


「こっちこそありがとう。またなっ」






 そして、森の中に消えてゆく迅八の背中を、遠くから見ていた者がいた。

 昨日までは部屋だった『牢屋』で、少年と二人で空を見上げた窓から、少女はそれを見ていた。


 そして、その姿が見えなくなると、……静かに涙をこぼした。






 迅八とクロウは戻る。再び人間と天使の世界へと。

 その先では何が待つのかは誰にも判らなかったが、スーローンやロド、一部の者達は予感していた。

 これから世界は大きくうねり、あの二人を中心に何かが起こってゆくのだろうと。




第二章 終



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