方針
この話の後半では過激な少年誌位の性描写があります。苦手な方はご注意下さい。
迅八がその場所に辿り着くと、その場にはクロウと、クロウの懐で丸まっているシェリーと兎がいた。
シェリーがはぁはぁと息を荒げてもふもふしているが、クロウはどこか諦めたような表情で空を見ていた。
物音に気付き迅八を一瞥したクロウは、大きな深い溜息を一つ、迅八に向けてこれ見よがしに吐いた。
「……はあああああああああああ〜」
迅八はそれを見てカチンときたが、ルシオとシェリーの言葉を思い出し、ほがらかに声を掛けた。
「ようクロウ。こんなところでなにやってんだ?」
するとクロウは地面に置かれている服を指差した。
「な〜にが『クロウ』だ。見て判らねえのかマヌケ」
(判るわけねえだろ!!)
声を荒げそうになったが迅八はそれを堪えた。
「わ、悪いな。どうにもこの世界の事に疎くてさ。服作ってたのか? ……どうやってんだそれ」
「てめえにはカンケーねえだろが。アホウ」
迅八はゆっくりと数を数える。
(1……1……1……1……)
イライラしすぎてその数はそこから先には進まなかった。
「……いやあ、二人から色々聞いたよ。なんか、大変だったし、理由もあったんだろ? まあ、なんていうか、お互い水に流そうぜ」
「おい、まだ寝てやがんのか? 起きてんだったらまずは詫びを入れやがれ。タコ助が」
そしてクロウは、ぺっと唾を吐いた。
「上等だ、この犬っころがっ!!」
「お? お!? そうやってすぐ暴力で誤魔化そうとしやがんのか? ……おうシェリー言ってやれ。俺様とそこのガキ、どっちが悪魔か言ってやれ!」
「う〜ん、もふもふぅ……」
やはりスムーズに話は始まらなかった。
しばらく、二人はガミガミと言い合っていたが、やがてそれに飽きたかのようにクロウが言った。
「……ふう、少しはこのチビにおちょくられた鬱憤をてめえで晴らせたから良しとするか。おいチビ。ちょっとその畜生とそこらで遊んでろ。……あんまり遠くにいくんじゃねえぞ」
「は〜いっ!」
素直にシェリーはクロウから離れ、また先程の場所の辺りで兎と遊び始めた。
「あんまり遠くに行くなって。意外だな」
迅八はクロウの言葉に驚く。案外この悪魔は面倒見がいいのかもしれない。
「けっ、抜かしやがれ。今はあいつに怪我でもされたら敵わねえからな。今後の為にも 」
「今後?」
「まあ聞け。……少し真面目に話をしようじゃねえか『転生者』」
「ん、……わかった」
そのクロウの態度に少し迅八は圧され、そこに腰を下ろした。
「……まず、状況を整理するぞ。主にお前に関してだ。俺様の事はあの人間共に聞いただろうし特に補足する事もねえ。お前自身の記憶は曖昧で、あの異常とも言える回復能力やら、おかしな力には心当たりもない。……これは偽りじゃねえんだな?」
「ああ、本当だけど。……ただ、俺は、元の世界で死んで、目が覚めたらここだった、……気がするんだけど」
「はーん……」
クロウは腕を組み、一瞬考える素振りを見せたがすぐに口を開いた。
「その件に関しては保留だ。考えても判らねえ事は仕様がねえ。……いいか。つまり、ほとんどなにも判らねえ。だったら考えるのはこれからの事だ。それに異論はねえな?」
「……ああ、そうだな。そうする以外にないもんな」
その言葉を聞いたクロウは、心の中で安堵した。そんな事すらも判らない程なら、ここで手荒な手段に出てでも、迅八の事を服従させるつもりだった。
本当なら『クロード』の姿で警戒を解いてから行おうとしていたこの会話だったが、とりあえず話は進んでいる。
「てめえに付けられた真名の制約で、俺様は不死じゃなくなった。まずはそれを解く為に動く。……これから俺達で『亜人の里』に向かう。そこで情報の収集と、出来れば天使達に気にする事のねえ拠点を手に入れたい所だな」
「ちょっと待ってくれ。それには口を挟まねえよ。けど、その前に『転生者』から話を聞いてみたいんだ。あの町に、転生者ギルドがあるんだろ?」
クロウは厳しい目付きで迅八を睨む。
「いや、それはさせられねえ。
俺は、転生者ギルドのようなもんがある。と言ったはずだ。あの時は特に必要はねえから説明しなかったが、正式名称は『教会』。天使達の直轄だ。しばらくはそこには行かせられねえ。少なくともあの町でなんてもってのほかだ。……理由はわかるな?」
迅八は『漆黒』のカザリアを倒した。クロウとしてはそのカザリアの仲間達がいるかもしれない教会に、迅八を行かせるなどとても許容できない。
普通の転生者はまず教会で保護される。教会は、学校だったり冒険者達の組合だったり色んな側面を持ってるが、まずは大抵の転生者はそこで世界の常識や様々な事を経験する。
人によっては冒険者ギルドなどと言うし、転生者にとっては貴重な元の世界の人間との繋がりとなる。
迅八は、この世界の初っ端で、自分の手でその貴重な伝手を壊した事になる。
「マジかよ。それって、すげえ不利なんじゃないのか?」
「てめえらみてえな寄り合わなくちゃ生きていけねえ、こせこせしてる人間共にとっちゃ不利な事は確かだろうな。……だが、一番重要な言語の習得は俺様が理解出切るようにしてやったし、結魂の事が解決したんならてめえの好きな冒険でもなんでもすりゃあいい。その頃にはてめえの顔なんざ誰も覚えてやしねえだろうし、その内どこかで復活する『漆黒』とこの広い世界で鉢合わせすることなんて、そうそうねえだろうよ。……あったとしてもそこまで面倒みきれねえな」
「そうだ! あと、妹を探したいんだ!! 妹が……静もこの世界に来てるのかもしれない!!」
「それは、確実な事なのか?」
先程までとは違い、クロウは一切ふざけない。ただ、淡々と言葉を紡ぐ。
「いや、それは判らねえんだけど……。俺の最後の記憶では、静がそばにいて、泣いてたような気が、」
「おいジンパチ、言ったはずだぞ。真面目に話をしよう、これからの話をってな」
圧される迅八に構う事なくクロウは続ける。
「てめえの妹が確実にこの世界に来ていて、場所も判っている。それだったら俺様が手を貸してやってもいい。……だがな、かもしれないとか、気がするとか、そんな事を俺様が優先すると思ってやがるのか? おめえを連れてこの広い世界に、居るかどうかも判らねえ娘一人を探す旅に? ……ふざけるんじゃねえぞ小僧 」
クロウはそこで覚悟を決めた。
ここでこの転生者が食い下がるのなら、今までの計画を流してでも、全力をもってこの転生者に恐怖を刻み込む。自分に対し絶対服従の存在にする。
幸いこの子供はなかなか死なない。自分にも相応の痛みが降りかかるが、それはもう仕方ない。
迅八は下を向いて黙っていた。
唇を噛み締めているがクロウに反論する事はない。クロウが言っているのが正論だと判ってはいるのだ。
それにクロウはなにも妹の事なんか忘れろとは言っていないし、確証があるのなら力を貸すとまで言っている。
迅八には分かっていないが、その言葉を『悪食』、『魂食の大悪魔』の伝説を知る人間ならば目を剥いて驚くはずだった。
迅八の様子を観察していたクロウはその体の緊張を解くと、ふぅと溜息を一つ吐いた。
「……ジンパチ。結魂を解く為にもこれから旅に出る訳だが、おめえはそこで妹の情報を集めりゃいい。そしてその情報に運良く出くわした時には俺もそれに力を貸してやろう。それでいいな?」
「……ああ、判ったよ。それ以外にねえしな。……ありがとう。クロウ」
それを聞いたクロウは、率直に疑問を口にした。
「ありがとう? なんで礼を口にしやがる」
「本当だったら俺は一人だったんだ。言葉も判らないで静の事なんか探せないしな。だからだよ。ありがとう。……その、悪かったよ」
どうやらこの小さな転生者は、頭は悪くないらしい。
しかし、阿呆だ。
悪魔に礼を口にする人間が、どこにいる?
「そういや、あの人間共もそんな事言ってやがったな。……どいつもこいつも」
クロウは再び溜息を吐くと、迅八に言った。
「おい、ジンパチ。話は終わりだ。てめえはシェリーを連れて家に帰れ。もう少し話す事もあったんだが気分じゃなくなった。それは追い追いでもいいだろ。……もっとも退屈だってんならここらでチビと遊んでたっていい。ここにゃ危険なもんはいねえし、幸いてめえはなかなか死なねえしな」
「クロウはどうすんだ? 一緒に行かないのか? 今日のメシは豪勢だって、ルシオさん達言ってたぞ」
「……いや、今日は多分帰らねえ。そのメシはおめえらだけで食うといいだろ」
クロウは今までで一番真剣な表情で、町の方角を睨む。……天使達の直轄、教会のあるその町を。
「……少し、用事があってな。明日の朝にゃ、あの家に行けるだろうよ」
「そっか。んじゃ俺はシェリーといるよ。気を付けてな」
「カーーッッ!! 気を付けて、じゃねえわっ! 俺は悪魔だ、ベタベタするんじゃねえっ!!」
そう言って、クロウは迅八に何かを投げた。
「……なんだこれ? 鞘か?」
「さっき暇つぶしに作っておいた。短剣をしまっとけ。……もっとも、意味はねえかもしれねえがな 」
意味深な事をクロウは言ったが、特に迅八は気に留めなかった。
話が聞こえていたのだろう。シェリーが迅八達に向かい、とてとてと歩いてくる。
「くろちゃん、どこいくの〜〜?」
「ちょっとな。明日の朝にゃ戻るから、そこの小僧に構ってもらえ 」
「わかった!! 天使さまっ」
そう言ってシェリーは迅八の太ももにまとわりつく。シェリーは迅八も大好きなのだ。クロウの次にだが。
クロウはその様子を見てから、なにも言わずに跳び去った。
迅八は、シェリーを構いながら昔の事を思い出していた。
(静もこんな感じだったな……)
幼い頃の妹も、今のシェリーと同じように無邪気だった。
しかし、成長し、中学に入る頃にはその笑顔はめっきり数を減らした。それは、迅八も同じ事だった。
その頃に迅八達の人生を左右する、確定的な事があったからだ。
迅八はカザリアとの戦いの最中、そのおぼろげな記憶の中でも、思い出した光景は忘れていない。
雨に濡れる体。
胸に刺さったナイフ。
……泣き叫ぶ妹、静のあの顔。
(思い出せない。思い出せない……!)
ナイフは、今はそのちっぽけな姿のまま、ただ鈍く光っていた。
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ガス灯に照らされる町は、どこか幻想的だった。
南の木の最寄りの町、『オズワルド』はかなりの大きい町だ。目抜き通りには等間隔にガス灯が立ち並び、その町の様子を映し出す。
南の木の近くのこの町は、常夜という程ではないが、日中も薄暗い時間帯がある。
その為、長い時間を経て変化していった植相は、ガス灯の朧げな明かりを受け、闇の中で静かに光っている。
辺りはすでに闇に沈み、目抜き通りから離れた店はあらかた閉まっており、もう人影は少ない。
明かりが世界に普及した現在でも、基本的には太陽と共にこの世界の人間は行動している。
南の木最寄りの町としてある意味観光名所ともなっているオズワルドは、その常夜の資源なども併せて財源は豊かな方だ。だからガス灯なども普通の町よりも多く設置されているのだが、日本とは比べるべくもない。
……その、目抜き通りの一角、酒場の近くを一人の女が力なく歩いていた。
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「今日もつかれたなあ……」
セリアはとぼとぼと家路に向かっていた。今日も仕事で失敗をして、上司にくどくどと嫌味を言われた。
元はと言えば、その失敗も同僚の尻拭いから派生したものだったのだが、上司のオールドミスには関係ない。
たっぷり、ねっちり、長時間に及ぶその口撃を耐え切ったセリアは、心身共に疲れ果てていた。
セリアはエリートだ。今の職場はかなりの難関なのだが、そこに史上最年少で仲間入りを果たしたらしいセリアは、色々なしがらみが多い。自分はどうやら優秀らしいが、周りもそれ以上に有能だ。年下という事もあり、いつもセリアは誰かに怒られたり、蔑まれたりしていた。
そんな落ち込んでいたセリアは、ある酒場の前で足を止めた。普段はそんな所には足を運ばない。
しかし、誰にだって、ささやかな幸せや楽しみがなければ動けなくなる日がある。セリアにとって、この日はそんな日だったのだ。
——カランカラン
セリアが扉を開けると、そこは想像していたよりも静かな空間だった。
酒場には二種類あって、飲んで食べて馬鹿騒ぎする居酒屋のような店と、少し高級な酒と内装で、日々の疲れを癒したり、洒脱な会話を楽しむバーのような店。この店は後者だったようだ。
「いらっしゃいませ。……初めての方でいらっしゃいますか?」
「あ、ハイっ。そうです」
店主らしき渋めの中年に、カウンターに座るよう促される。
「特にお好みがないようでしたら、こちらのお勧めなどを出させて頂きます。お酒はお強いですか?」
「あ、あんまり飲まないでわかんないんですけど……」
——かしこまりました。店主はそういって作業に移る。
それほど間をおかずに美しいクリスタルグラスに入った真っ赤な飲み物と、少量のチーズと干し肉が出された。
それを一口含んだセリアは思わず声をあげた。
「……おいしいっ」
その赤い飲み物は、ワインを何かで割った飲み物のようだった。果実の豊かな香りが鼻を抜け、甘みが喉を通った後に、少しの酸味が舌に残る。
そこにチーズを口に入れると酸味が見事に中和され、また飲み物が欲しくなる。
セリアの様子を見てから店主は満足気に微笑み、気軽にご用命くださいと言って他の作業に移った。
……店の中では、吟遊詩人のしずかな歌声が流れている。
その歌は誰でも知っている恋物語。
かつてどこかにあった小国の姫君と、それを護る騎士の物語だ。
その歌を背景に、周りの客達の静かな会話も耳に入ってくる。
——そういや、黒髪の……、そこで……、保護されたらしい
——『保護』? 全く……、可哀想にな……
——やめとけ。そんなもんただの噂だ。ベドワウ様に限って
おいしいお酒とこの店の空気に、ささくれだっていたセリアの心が、ゆっくりとほぐれていく。……そして、誰かと会話をしたくなった。
店主を見ると忙しそうにしていたので、カウンターの端で、一人静かに飲んでいる男を見た。
先程から気になってはいた。
けれどもセリアは見知らぬ人間に話し掛けて仲良くなれるタイプではなかったし、そもそも普段なら考えもしない。声を掛けられても無視する方だ。しかし、この日は弱っていたし、お酒がおいしかった。……だから、その男に声を掛けたのだ。
その男は冒険者なのだろう。
鎧に身を包み、人間の背丈程もある長大な大剣をカウンターに立てかけていた。
その顔は憂いを帯びていて、瞳は握ったグラスの中の琥珀色の液体を見つめていた。
髪の毛は腰まで荒々しく伸びている。冒険の最中ろくに手入れもできなかったのだろう。
「……隣、いいですか?」
セリアがおずおずと声を掛けると、その男はセリアを見て、ニコリと笑った。それを見たセリアは、なぜか胸が高鳴った。
「失礼しますね」
そこに腰掛けたセリアを見た店主が、静かに先程と同じ飲み物を持ってくると、また静かに離れていった。
……セリアは男に色んな話をした。
今日あった怒られた話や、自分の趣味の話、最新の吟遊詩人の歌の事や、この町の印象などなど。
もちろんここは酒場で、相手は行きずりの冒険者だ。
自分の事はぼかしたり、部分によっては偽ったりしたが、なぜかその名前は真名である『セリア』を名乗っていた。
男は『サジタリア』と名乗った。
それは、背景に流れている吟遊詩人の歌に出てくる騎士の名前だった。恐らく偽名なのだろう。
その事が、セリアの胸にほんの少しだけ痛みを残した。
サジタリアは聞き上手だった。
セリアの話に巧みに相槌をうち、疑問を挟み、時には軽いジョークでなごませた。
自分からなにかを話す事はなかったし、大声をあげて笑う事もなかったが、時折見せる子供のような笑みや、ふと覗かせる淋しさを漂わせた視線は、その一つ一つがセリアの胸を高鳴らせた。
(これ、ヤバイかも……)
セリアは酔いの回る頭で、ぼんやりとそんな事を思った。
気がつけば二人の距離は近くなり、酔っ払ったセリアはサジタリアのたくましい肩に、その小さな頭を預けていた。
……セリアの頭の横に、サジタリアの温もりがある。すると、それまで自分から話す事のなかったサジタリアが訥々と話し始めた。
「……俺が帰ってきたのは昨日の事だ。三日前の騒ぎは知っているか?」
広場での大騒ぎの事を言っているのだろう。今この町でその事を知らない者はいない。
「……そこで、妻が死んだらしい」
その言葉がセリアの頭から酔いを一瞬覚ました。町の噂では、暴れまわっていたのは伝説の『悪食』だったらしい。その姿は伝え聞いていた通りだったようだ。
しかしあれ程の被害の割には死傷者は誰もいないと聞いていたが、まさかサジタリアの……。
そして、そんな考えとは別に、頭のどこかで『あ、奥さんいたんだ』などと考えてしまった自分を、……心の底から恥じた。
「……ずっと一緒にいた。俺の仕事にも理解を示してくれた。二ヶ月前に仕事の為にこの町を離れた。危険な仕事だったが報酬が良かった。……金が必要だったんだ。帰ってきたら、しばらくあいつのそばにいてやるつもりだった」
「……あいつのお腹には、俺の、俺の子が……!!」
サジタリアは、静かに涙を流した。セリアの胸が、なぜか割れる程に痛んだ。
セリアは気がつけばサジタリアを抱きしめていた。
その胸に頭を抱き、その髪を櫛摺るように撫で続けた。長い間、長い間。
・・・・・・・・・・・・・・・
気が付けば店から他の客はいなくなっていた。吟遊詩人の歌声も止んでいる。
もう閉店の時間なのだろうが、二人の様子を見ていた店主は、声を掛けなかったらしい。
「……悪い。みっともない所を見せてしまったな」
サジタリアはセリアから離れて、その長大な剣を握った。
「ここの払いは俺に持たせてくれ。……せめてもの礼だ」
そして店主に、長居して済まなかったなどと声を掛けてから金を支払い、吟遊詩人にも金を渡した。
「セリア、ありがとう。……最後に君みたいな人に会えて良かった」
その言葉を聞き、セリアは身をすくませた。この男は復讐に行こうとしているのだろう。あの、『千年の大悪魔』に。
それには気付かないように、セリアは明るく言った。
「待って。今日はこのあと予定あるんですか? 二軒目付き合ってもらいたいんですけど……」
「……いや、なにもないよ。ただ、今の払いで持ち合わせがないしな」
「私、おごりますよ。任せてください! これでもそこそこ稼いでるんですから!!」
むん、と力こぶを作る仕草をして、セリアはおどけてみせた。
無理矢理明るい声を出し、サジタリアに二の句を継がせない。
「さあ、行きましょ!」
セリアはサジタリアの腕を引いて、店を出た。
その後、今度は居酒屋でしこたま飲み、他の冒険者と一緒に笑いあった。サジタリアもセリアも、先程の話は口にしなかった。
いつしかセリアは酔い潰れ、目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。
「……目を覚ましたのか?」
ベッドの横ではサジタリアがセリアの事を見守っていた。セリアは、衣服が緩められている事に気が付いた。
「すまない。さっきまで苦しそうに呻いていたから……快復したようで良かったよ」
状況が掴めないセリアにサジタリアが言う。
「君はさっきの酒場で酔い潰れたんだ。君の家に送ろうかと思ったんだが、もう喋れない状態だった。今日はこのままここに泊まっていくといい」
そして、サジタリアはセリアの手になにかを載せた。
「妻のために旅先で手に入れたものだ。 ……君に、持っていて欲しい」
それは、赤い宝石だった。
親指大のそれはキラキラと輝き、偶然にもセリアの赤い瞳と同じ色だった。
「……思った通りだ。君によく似合う」
そして、サジタリアは席を立った。
「……待ってっ!!」
気が付けば、セリアはサジタリアの後ろ姿に抱きついていた。
「……俺は、復讐者だ 」
「それでも、今日は、今日だけは…」
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……月明かりに照らされた部屋の中で、一糸纏わないセリアの姿がその薄闇に浮かんでいた。
青い髪は胸にかかる位まで伸びているが、その乳房を隠すまでは至らない。心臓は張り裂けそうな程に鼓動を刻み、平均よりもすこし上の大きさの双丘を揺らしている。
セリアの顔はまだ少女の面影を残していた。白い肌は今は薄紅に染まり、闇の中輝く赤い瞳は羞恥に濡れ、その中にはほんの少しの『期待』を覗かせる。
サジタリアが、セリアの額に口付ける。
その唇が触れた場所を中心に、セリアの脳に甘美な痺れが走る。その痺れは神経を伝わり、血管に乗って身体中を駆け巡り、手で隠された場所に至る。
(……っ!ぃやあ……!)
額に口付けされただけで劇的な変化を表したその場所を、セリアは羞恥の中で呆然と思っていた。
知らなかったのだ。自分の何かがこんなに浅ましく他人を求める事を。
サジタリアを見る。その顔が近づき、優しくセリアの唇を奪う。
先程とは比べ物にならない電気がセリアの身体中を走り、胸の中まで熱くさせる。
(いっ……、ひっ……、ひっ、)
セリアはなにも考えられなかった。
目の前の男の全てが愛おしかった。この人のものになりたい。この人を自分のものにしたい。一つになりたい。この人の傷を癒してあげたい。
そして、必死で覆い隠すその手を、サジタリアは優しく引く。
「まって…!」
サジタリアはその目で優しくセリアの言葉の続きを待つ。
「はじめて、なの……。やさしく…… 」
そして、迅八のもとの世界で言うところの、カサノバであり、ドンファンであり、助六であり、この世界で言うところの『千年の大悪魔』であり『悪食』である、偽名『サジタリア』は思った。
(っくくくくくくくくかかかかかかかか!! 初物ゲッッッッッッットオオオオオ!!!)
と、思い、その極悪血管肉
以 下 略
※当作品は、子供も安心して読める様な健全な小説を目指します。
…18禁タグの存在を忘れてて、2000文字近く削りました。不毛でした。




