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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第五章 魔法の言葉
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二人の転生者

 



「なんで、誰もいねえんだ……?」


 自分が所属する盗賊団が、この『楽園』に来てから根城にしている酒場。この店は、いつもならこの時間は客でごった返している。

……ついさっき起きたばかりの彼は、一階のテーブルに座っていた仲間に声を掛けた。


「おい。なんで誰もいねえんだ? 」

「知らねえよそんな事。……さっき外を見てみたが、広場にもほとんど人がいねえ。見かけたと思ったら、俺の事を見たら逃げ出しやがった」

「……俺たちもここで顔が売れてきたって事だな」

「かもな。ひひっ」



 楽園に来る少し前、辺境にほど近い村を壊滅させた。

 村と言っても、村人を全員合わせても二十人ほどしかいない小さな集落だった。

 金と食い物と女を奪おうかと思ったら、金はないし、食い物も粗末なものしかない。年頃の女と言えば、妙齢の女が一人だけの村だった。


「あの時はひどかったぜ。……俺の番になるまでだいぶ待ったからな」

「俺はやらなかったぜ。汚ねえよあんなの」



 ——ははははは。



「……しかし、なんで誰もいねえんだ? 店のオヤジはどこ行った? 腹が減って仕方ねえよ」

「何人か外に見に行ったぜ。その内、帰ってくるだろうが、それまでお頭が起きねえといいけど。……あのひと、不機嫌になると怖えから」


 彼らは村を壊滅させた時の事を思い出す。あの時は、やりすぎた。


 仲間が女を犯す時、お頭はわざわざ夫の目の前でやらせた。

 夫の叫びは凄いものだった。

 それを聞いて、みんなで笑いあった。

 そして、その中で笑いもせずに、自分達を見ていたお頭の顔を思い出した。


 お頭は恐ろしい男だ。

 自分達は悪党で、感覚が壊れているのを自覚している。だが、お頭は別に、楽しくてやっている訳ではないんじゃないか。——そう思った。



「あの人は怖いよ。俺たちに合わせて餌を与えてるだけだ。そっちの方がよっぽど怖えな」

「仲間内だろうが、やる時ゃ徹底してやるしな。指名手配を食らってここに逃げて来た時には、実は内心ビビってた。……だけどよ。ロックボトムなんて、多分こけおどしだぜ。お頭には敵わねえよ」


 村の件や様々な悪行の末、指名手配をかけられていた彼らは楽園に流れ着いた。

 悪党の集う町——ギルドや衛兵でさえ、迂闊(うかつ)に立ち入れない悪所。


「……お頭が言うには、ロックボトムがこの町の利権を握ってるはずだってよ。うまくいけば、俺達が世界一の悪所の顔だ。とんでもねえゼニが転がり込む。……あの人は俺たちと違って頭が切れるから、言うこと聞いておけば間違いねえよ」

「しかし、亜人の娘を攫いに行った変態どもは帰ってこねえな。……殺してんじゃねえのか?」

「まさか、そこまでのバカじゃねえだろうよ。……しかし、本当に誰も帰ってこねえな。お頭が起きた時に、メシがなかったらどやされんぞ」


 一人が椅子から立ち上がり、扉に向かう。


「おい。どこに行くんだ?」

「俺も様子見てくるわ。あと、なんか買ってくるぜ。おめえもなんか食うだろ?」


 それが、彼の最後の言葉だった。






 ————————————————






 テーブルに座っていた男は、何が起きたのか分からなかった。


 ——ドンッッ。


 そんな音だった。

 音が鳴った後、店の中が揺れた。


 その酒場は、宿屋も兼ねた大きな店だ。

 今は二階の宿屋部分を自分達が借りきっているが、二十人ほどが寝泊まりしている。

 その酒場に相応しい大きな扉——それが、吹き飛んだ。


 叫びが喉まで出てきた時、その叫びは自然と消えた。……代わりに出たのは、呆気ない呟きだった。


「ちょっと……」


 外に行こうとした男の、上半身がない。

扉を開けようとしていた男は、右手で扉を開ける姿勢のまま、右肩の上から腹まで、斜めに斜線が入ったように『空白』になっていた。


 ——ざんっ!!


 今度は目に捉える事が出来た。

 七色の光が軌跡を描き、扉の残りを吹き飛ばす。その剣撃に巻き込まれて、残っていた男の体が四散した。


「ちょ、ちょっとちょっと……!!」



 ——ガランッ。

 扉のカケラを踏み越えて、誰かが中に入ってくる。

 木材とレンガの瓦礫があげる粉塵——外から入り込むガス灯の明かりを浴びた『そいつ』は、ストールを巻いていた。


 盗賊は目を細めてそいつを見た。

 赤毛の影。ストールを巻いた死神。

 こいつが誰かは知らないが、今の状況から考えられるのは『あいつら』だけだった。


(き、きやがった……!)



 ストールを巻いた赤毛が、一歩ずつ自分に近寄ってくる。盗賊は混乱しながらも腰のナイフを取り出し、二階に向かって大声をあげた。


「寄るんじゃねえ!! ……おい起きろ。敵が来たぞっ。ロックボトムだ!!」

「寄るんじゃねえ? ……なんで、俺がお前の言うことを聞かなくちゃいけないんだ?」


 赤毛が腰に手をやる。冷たい音が響いた後、その両手にはナイフが握られていた。


「てめえ……来るなって言って、」


 音もなく、赤毛が自分の前にいた。

……そこで気付いた。ナイフを前に構えていた自分の左腕。それがなくなり、腕があったはずの場所から血が噴出している事に。


「あ……あ!? っっああああッ!?」

「あーあーあーあー、うるせぇえ〜んだよ」


 赤毛が視界から消えた。

 体のバランスが崩れる。

 だるま落としのように、ガクリと視線が落ちた。


「いっった……。あ、ああああああっっ!?」

「だから、あーあーあーあーうるせぇえええんだよ」


 盗賊は、自分の足元に転がる『膝から下』を見た。

 断面の骨の綺麗な白——その中から溢れる半透明の液体。


「あ、あ……あし、俺のあし? ……やめてっ。あし、やめて!! ちょうだいっ!!」

「やめて? ……「やめて」って言ったのか?」


 ギラギラと緑色の瞳が輝いている。

 敵を遠ざけるように、突き出された左腕の断面——その先から噴出する血が赤毛の顔を濡らす。それでも緑色の瞳が閉じられる事はなかった。


 真っ赤に血を流し続ける左手の断面。そこに、赤毛はナイフをねじ込んだ。


「あ。……いっっっっだあいああああいっっ!!」

「当たり前だ。ここからもっと痛いぞ」


 赤毛がブツブツと呟くと、魔石を埋め込まれたナイフに魔力が通る。すると、そのナイフが赤く輝き出した。


「あ、あ、あづううううういいっ!! あ、熱い!! ……いだいッ、やめでッッ!!」

「……やめるわけねえだろこのクズがアア!! これからお前の手足を全部切って、そこにナイフを突っ込む。……内側から熱消毒してやる。このゲロ野郎がッッ!!」


「やめろよアゼル……」

「なに言ってんだ。全員殺すんだろ!?」

 





 盗賊の耳には、その声は神の呟きのように聞こえた。赤毛の後ろから、もう一人の少年が出てきた。

 その、黒い太陽のような髪の毛を持つ少年は、静かな青い光に包まれている。その神の使いのような少年が、冷たい目で静かに言う。



「冷静に考えてみたら、大体こいつが悪人かどうかも分からないじゃないか……」



 ……そうだ。その通りだ。

 冷静な奴がいてくれて助かった。いきなり、よく知りもせずに、人の事をクズだと決めつけるなど酷すぎる。


 自分は確かに、……今まで何人も人を殺してるし女を犯してるし子供を切り刻んだし亜人をいじめ殺したし物を盗んでるし金を奪ってるし約束を破ってるし叫び声を聞くのが好きだし人を騙すのが仕事だし呼吸をするようにウソがつけるし仲良い恋人同士を見ると男に喧嘩を売りたくなるしそれで負けそうになれば仲間を呼んで、恋人の二人を痛めつけたりする。

 けれどもだからと言って、



「……あれ? 俺、クズなのか?」


「じゃあ死ね。クズ」






 ————————————————






「ふむ。地味だな。アマレロ、手を抜くなよ」

「お〜? もっとやんのか? 始める前に、全員死ぬかもしれね〜ぞ」

「うーん。……こりゃあ、完璧に僕らじゃ相手にならないですね。その気になれば、一分で全員殺せそうですよ」


 アゼルは始めている(・・・・・)

 芋虫のようになった盗賊が、四肢からナイフを生やしている。魔剣から体の内部に熱を通されている盗賊は、ゴロゴロと転がりながら悶えていた。


「あれ、痛っそうだねえ……。あたしだったらもっと楽にしてやれるのに」

「おめ〜は、前におんなじような奴をやった時の事を忘れてんのか? ……何時間もかけて、指でつまんで身体中の肉をちぎり取ってたじゃね〜か。あれからしばらく少食になったぜ。おりゃ〜よ〜」

「あんた、あの日も普通に大盛りで食ってたでしょうよ」

「……ジン。どうする。お前ら二人だけでやるか?」


 その声に迅八は返す。


「そうだね。そうしようかな。……これは、俺が決めた事だ。みんなは外に出ててくれ」


 ジークエンド達は外に出る。

 荒い息をつき、ナイフに魔力を通していたアゼルが、迅八に向き直った。


「おい、ジン。足を引っ張るなよ。これからわんさか降りてくるぞっ!!」

「そうみたいだな。もう降りてきてるぜ」


 ぞろぞろと二階から人が降りてくる。

 十人程が、階段の下で気勢(きせい)をあげて、迅八達に武器を向けている。


「て、てめえら!! まさか、てめえらが」

「ロックボトムだっ。お頭を起こしてこい!」


アゼルは、腰に下げたナイフの束を確認した。


(やばい。興奮しすぎてて、何も考えてなかった……!)



 広い宿だが、ここは屋内だ。

 敵はおそらく十人以上——それだけの人数で、入り乱れて戦う事になる。

 よく分からない力を持ってはいるが、迅八は戦いの素人だ。足手まといになる可能性の方が高い。


「……チッ。ジン、俺の後ろから動くな。お前の刀はここじゃ不向きだ。俺が数を減らすから、自分の身を守る事だけを考えろ」


 新しいナイフを両手に構え、アゼルは盗賊達に向き直る。しかし、その体が後ろから抱きしめられた。

 ——ふわり。

 優しい感触。大切なものを抱くように。


「ジン、なにを!?」

「アゼル。……お前が動くな」


 抱きしめられた両腕は、優しい感触だが強く結ばれていて、アゼルは体を動かせない。

 困惑と、意味不明の行動に対する怒り。そして、ほんのわずかに高まる胸の動悸。


「……は、離せよっ!! 戦えないっ!!」

「俺がやるよ」


 すると、アゼルの視界の端で、何かが(うごめ)いた。


(な、なに……)



 赤。

 血液のように、流動する赤。

 それが、アゼルの目の端でどんどん大きくなり、振り返った時には巨大な二本の『腕』になっていた。

 その腕が迅八の背中から伸び、握り拳が二つ作られた。


 ——ぶおんっ!!

 鮮血の左腕が真っ直ぐ伸びる。

 それは何人かの盗賊を巻き込み、階段を薙ぎ払った。


 ——ぶおんっ!!

 右腕が大きく弧を描く。

 巨大な拳が壁に叩きつけられ、その間に挟まれた盗賊が、壁に投げつけられたトマトのように潰れた。


 ぶおん。ぶおん。


 その旋風は止まらない。

 迅八はいつの間にか、アゼルを自分に向き直らせ、抱きしめていた。

 小柄な少女の足は地につかない。

 自然と、アゼルが見上げる形になった迅八の顔は、いつもとは全てが違った。



「……た、たすけて。なんだこいつは!?」



 耳に入る雑音。宿が壊れていく破砕音。



「……あ、ああああ。ジェフの顔が……。無えっ! ねええええええっ!!」



 盗賊の一人がナイフを投げつける。

 アゼルの首筋に当たりそうになったそれを、迅八が、自分の頭で受け止めた。


 アゼルには見えない。自分の背中の向こうで何が起こっているのかが。

 ——すこん。耳元で聞こえたナイフを突き刺したような音が、どこに当たった物なのか。



 酒場の中に響き渡る苦痛の声。

 全てを叩き壊そうとする暴力の音。

 台風の中のように、あらゆる物が乱れ飛んでいる。ナイフ、ガラスの欠片、吹っ飛んだ木材、人の腕、頭、血と肉と、骨と命。

 死と生命が渦巻き消える。

 絶叫が宿を鳴らす。

 その暴風の中で、赤毛の少女の耳に、凛とした声が届いた。



「アゼル」



 強く抱きしめられた体、アゼルは首をゆっくりと横に回す。


 頭からナイフを生やした少年の目。

 真っ直ぐ自分を見つめる目。

 本当に自分の目の前——数センチ先の距離。迅八の口が開く。



「お前は俺が守る。動くな」



 鮮血で出来た巨大な左手が再び振るわれ、残っていた最後のガス灯を叩き壊した。

 明かりが消える最後の瞬間——光に切り取られた少年の横顔は、まるで黒い太陽のように見えた。






 ————————————————






「……メチャクチャやってるねえ」


 クーロンの目の前で、宿の壁が吹き飛んだ。それを見ていたコルテが呆れた声を出す。


「あいつ、本当なんなんです? 人間じゃねえでしょ」


 酒場の扉はすでにない。

 中の様子が見えるが、巨大な赤い物体が、暴れ狂っている。


「……ふむ。しかしお粗末だな。雑すぎる。アマレロ、ジンと戦ったら何分かかる?」

「お〜? てめ〜、俺の事をバカにしてんのか? 『(ふん)』? かかる訳ね〜だろ」


「おい、クーロン……」


 さっきまで一言も喋らなかった大悪魔が声を掛ける。


「なんだい。良いとこナシの大悪魔」

「……俺の頭を見ろ。自分じゃ見れねえ」

「なんだいなんだい……。え」


 クロウの頭を見たダークエルフが絶叫をあげた。


「で、出てるっ! 出てるよあんた!? なんか、出ちゃいけないのが頭から出てるよ!?」

「……痛え」



『見世物』が始まり、町の住人達も興奮気味に襲撃を見届けている。

 中の暴風がある境を越えた時、急にそれは始まった。


「ふむ。……崩れるな」

「あーあー。ほら、またやりすぎだって言われますよ。……ジジイにどやされんのは勘弁して欲しいですね」

「大丈夫だろう。……確か、商人ギルドの『絶対強者』に貸しがあるはずだ。あいつらに直させろ」

「お〜、下がれよてめ〜ら。……野次馬ども〜。てめ〜らも巻き込まれても知らね〜ぞ〜」


 突然、一階の部分が、二階に潰されるように崩れた。それでもまだ暴風は止まらない。

 木を撒き散らし、石を弾けさせ、酒場がどんどん解体されてゆく。


 遠巻きに見物していた野次馬達の足元に、尖った木片が突き刺さる。

 その木片には、長い(はらわた)のような肉が巻きついていた。



 ——やりすぎなんだよ。あいつらは……!!

 ——やっぱり家に戻った方がいい。巻き込まれるぞっ!!



 見物している野次馬とロックボトムの耳に。息を潜めて成り行きを見守る、楽園の住人の耳に。酒場が崩れる最後の音は鳴り響いた。


「ふむ。……派手にやれたな」

「宣伝出来たかねぇ。『新入り』の事を」

「クーロン。僕らの仕事はこっからでしょ。……ほら。残りが出てきますよ」






 ————————————————






 後には、ただ瓦礫の山があった。

 そして、その山の頂点に立っている者がいた。


 楽園のおぼろげな光が彼らを映し出す。

享楽と腐敗の楽園——うず高く積まれた残骸の上で、そいつは鮮血の両腕を翼に変えて大きく広げた。


 ——ばさりっ。

 立ち込める粉塵が払われる。

 そこには抱きしめ合う二人の人間の姿があった。見物していた者が言う。


「人間、……か?」


 暴風が過ぎ去り、楽園に静寂が訪れる。

その静かな闇を裂くように、黒髪の少年が口を開いた。


「……アゼル。怪我、ないか?」


 赤毛の少女は、途中から目を閉じて迅八にしがみついていた。なにがなんだか分からない中で、とっさにしてしまった行動だった。


「え、……うん」


 アゼルは周りを見渡す。

 いつの間にか、自分達は瓦礫の山の頂上に立っている。瓦礫の山、そして、その下に埋れた(むくろ)の上に。

 死体と瓦礫の山の上、気付けばアゼルは、迅八と見つめ合っている。


「……なんだよ。お前は」

「なにが?」


 闇の中光る目。緑色の瞳。

 それを見た迅八は、一瞬その目を泳がせて、視線を外した。


「なんだよお前は……。本当に、なんなんだよお前……」


 アゼルは迅八を見ていない。

 その瞳は自分達の足元の瓦礫を見つめている。


(なんだよこれ……。こいつ、なんなんだ?)



 人間の背中から腕が生えて、その拳で巨大な家を殴って壊した。メチャクチャにも程がある。

 どうせこいつに聞いても何も分からない。しかし、それでも呟きのように出た言葉。


「……お前は、本当に人間なのか?」


 その声にかぶせるように、迅八の後ろから声がした。


「俺も聞きてえな。……ったく、人の部下を殺してくれやがって」






 ぞくりと。

 迅八は、後ろから聞こえてきた声に、身を震わせるよりも先に、前に向かって跳んだ。

 反動を使い後ろに向き直る。抱きしめていたアゼルの体を離し、迅八は庇うように前に出た。


「アゼル下がれっ! ……てめえ、誰だ!!」

「それはこっちが言いてえよ。まあ、もう知ってるから聞かねえけど」


 先ほどまで迅八とアゼルが立っていた場所——瓦礫の頂点に、その影はゆらりと立っていた。

 長く伸びた髪、痩せぎすの体。そして、迅八に馴染みのある和風の着流しと、腰の刀。


「……亜人の娘を攫いにいかせた奴らが戻ってこねえ。使えねえ奴らだ。てめえらに見つかって、おまけに先手を打たれたって事か……?」


 男の腰に下がる刀。その柄頭が迅八の目を引く。まばゆい金色、彫り込まれた菊の花。


「ん? これか? ……ああ。俺の世界の有名な刀でな。一度は持ってみてえって思ってた。偽物だけど、特注だよ」

「俺の世界だと……!? お前、まさか」

「そうだよ。寺田迅八。……もうお前の事は皆が知ってるぜ。特に俺みたいな奴はな」


 迅八はニコルとの会話を思い出す。


『兄ちゃん、腕に自信あるの? 大剣豪みたいだよ』


 目の前には『大剣豪』がいる。

 戦いに向いていない服装。

 自分に自信がある人間しかしない武装。



「……お前とは話してみたいと思ってたんだ。なあ迅八。お前、ロックボトムと離れて俺と一緒に来いよ。どうせ同じ悪党じゃねえか。楽しくやろうぜ」


 闇の中、その男の薄い唇が歪む。


「なあ、……日本人同士(・・・・・)仲良くやろうぜ。おまえティーにも会っただろ? やめとけやめとけ。『攻略組』なんかと一緒になるなよ。……おまえ、まさか、あんな世界に帰りてえのか?」


 幾つもの気になる言葉、湧き出る疑問——それを迅八は抑え込んだ。


(俺は、ここになにをしにきたっ!?)






「……ひとつだけ聞く。てめえが、ニコルを襲った奴らの親玉か?」

「ニコル? 知らねえよそんなの。亜人A(・・・)の事なら知ってるぜ」

「……もう喋るな。充分だ」



 猥雑な楽園、高く積まれた瓦礫の山。

 その上で、二人の転生者は静かに刀を抜いた。




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