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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第一章 迅八とクロウ
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結魂

 



「ウオオオオオオオオッッ!!

 食らい、やがれええええ!!」


 迅八は、全ての力をその腕に込め、心臓に生えていたその剣の『名前』を呼んだ。


「『ソードオブハアアアトオオオオッ』!!』」


「ぐううううあああああ!! ……かっ、かっ、かかかかか、ッガハアアアッッ!!」


 迅八の振るうその剣から青と白の光が撒き散らされる。そしてその剣はひときわ大きな光を放つと、凄まじい加速でカザリアの体を袈裟懸けに両断した。


「こ、このチカラはっ……!?」


 受肉体が滅ぶ直前、カザリアの意識を占めたのは、恐怖でもなく怒りでもなく、渦を巻く疑問だった。






 ————————————————






「……心臓剣って、あいつ……」


 凄まじい力の衝突だった。いまだクロウの網膜は灼かれて、視界は暗い緑色のままだった。

 そして、あの斬撃。クロウはその力を目の当たりにして、なにか腑に落ちない(・・・・・・)と考えていた。あの力には、違和感がある。


「それにしてもだ。心臓剣ってよお……」


 とっさだったのだろうが、その凄まじいネーミングに呆気に取られる。

 しかし、いつまでも意味のない思考をしている暇はない事もクロウは理解していた。


 先程の力の衝突、その後の静寂から戦いが終わった事を理解したのだろう。ちらほらとこちらを(うかが)うように盗み見る人間達の姿が見えた。

その姿は家の窓から、ドアの陰から、二階のバルコニーから、様々な場所に増えている。町が半壊するような騒動を繰り広げられて、眠っていられる人間などいない。

 クロウは、力尽き倒れた迅八の体を背負い、町の外に向かおうとして、ふと足を止めた。

 ……足元には不思議な力を失い、元の姿に戻った頼りないナイフが転がっていた。


「…………………………」


 クロウは怖ろしい程の真剣な表情でそのナイフを見つめると、そのナイフに触る事なくその場を跳び去った。






 ————————————————











  ……ここは……



 迅八が気が付くと、辺りは一面の花畑だった。

 常夜とこよの森も美しかったが、ここはそれとは違う美しさだ。


 それは、迅八のそんなに長くもない人生の中でも、さらに短い幸せだった頃の原風景。

 幼い頃、まだ生きていた父親に連れられていった、父のふるさとの景色によく似ていた。




  ……なんで……




 離れた場所に人が立っているのが見えた。その後ろ姿だけで、迅八にはそれが誰なのかが判った。




  ……父さんっ!!




 迅八は走り寄り、父の手前で足を止めた。


「お……迅八? おい、迅八か? ……おいおい、でかくなりやがって」



  父さん、父さん…!!



「体はでかくなっても、まだまだ子供だな」



  う、う、うううううっ!!

  父さん……、父さん……!!



 迅八は泣きながらも、何故自分がこれ程に泣いているのかが判らなかった。



「母さんは元気か? あいつは芯が(もろ)いやつだから心配だよ」



  母さん、母さんは……



しずかは……、ここには来ていないようだな。……ところで迅八、そのナイフはなんだ?」



父は迅八の右手を見て、そんな事を言った。






 ————————————————






 目を覚ますと迅八は見知らぬ部屋で横になっていた。


「ゆめ、見てたのか……」


 しかし、迅八はこうも思った。


「夢、なのか……?」


 なぜか、そんな気がするのだ。

 かつて、さっきの光景を体験した気がする。……今の夢は、夢ではなくて、記憶(・・)ではないのか。


 しかしそんなはずはない。幼い頃に父は死んだ。そして、そこから迅八の人生は、少しずつ狂いだしたのだ。


「ちっ、……嫌な夢見たな」


 とりあえず、迅八はさっきの事を夢と結論付け周囲を見渡した。

 ……そこはとても小さな部屋だった。装飾品などなにもない。迅八が寝ていたベッドの他には、小さなテーブルとその上に置かれたランタンしかない質素な部屋だった。

 狭い部屋の壁に作られた小さな窓、そこから薄い陽光が差し込んでいる。おそらく、今は早朝なのだろう。


「なんだ? ……ここどこだ?」


薄い陽光の伸びる先には木製の扉があった。……その向こう側から話し声が聞こえてくる。

 警戒していても始まらないし、ベッドに寝かされていたという事は害を加えるつもりはないのだろう。ほんの少しだけ考えた後、迅八は静かにそのドアを開けた。



「……おお、目が覚めたのか!!」


 扉を開ければやはりそこも小さな部屋だった。声を掛けてきたのは迅八よりも少し歳上といったところの、快活そうな男だった。その横には口元を押さえ、涙を(にじ)ませた女もいる。

 そして迅八の足元から、元気な声が飛び出した。


「天使さまっ よかった!!」


(……天使様? なんだそりゃ)


 疑問を口に出す間もなく少女は迅八の足に(すが)り付き、その柔らかそうなほっぺたで迅八の太ももをぐりぐりとしていた。


 部屋の真ん中にはテーブルが置かれ、それを囲む様に三人の人間が座っている。

声を掛けてきた男、口元を押さえた女、そして少し離れた所に座っている、異様な存在感を放つ男。


(うええええ……。かっっこいい人だなあ……)


座っていた男は異常な男だった。

これ程の存在感を放つ人間を、迅八は見た事がない。

 ……さほど長くない髪の毛は、赤の房と金の房が見事な塩梅(あんばい)で混ざりあい、後ろにざっと流されていた。額に一房垂れ下がる毛は、憎い程に決まっている。


 小麦色のその肌はいかにも精悍(せいかん)だが何故かスマートな印象を与え、涼しげに迅八を眺める眼は鋭くチカラを秘めているが、今は優しく光っている。


 そして、その体。絶世の彫刻家が一彫り一彫りに魂を込めて作り上げた様な肉体。その力強さ、その色気いろけ、研ぎ澄まされた緊張感すら漂う肉体。所々に彫られた刺青いれずみも、迅八から見て怖ろしく似合っていた。


 着込んだ服もまた素晴らしい。

 服と鎧を一体化させたようなその装いは、エキゾチックなベストのような原型に、数々の美しい金属や刺繍が施されている。

そしてそれは美しい肉体の要所要所を露出させて、見る者の目を離さない。


「……おはよう 」


 その声。

 古くから、あらゆる為政者や役者、音楽家達が心の底から欲しがった、人の心を(とら)える魔性の声。

 その声を聴いた迅八は、なぜか判らないが赤面してしまった。


「お、おはよう、ゴザイマス……」


その様子を見ていた女が、涙をぬぐってから迅八に声をかけた。


「ああ、本当に良かった……。あなたの目が覚めなかったらどうしようかと……」


(なんだろう。この女の人、見た事がある……)


「ロザーヌ、とりあえずはメシにしよう。ジン、腹減ってるだろ?」


 泣いている女の肩を抱きながら、快活そうな男が迅八に声をかけた。


「ジンって、俺の事かい?」

「ああ、済まないんだが、ジンファチ、ジンプァチ? どうにも俺たちには発音しずらくてな。もちろん嫌だったら訂正するよ」


 別に迅八はそんな事は気にしない。

 自分の事をジンと呼ぶ人間は過去にもいた。


「いや、ジンでいいよ。よろしく。……ところで、なんで俺の名前を知ってるんだ? それと、なんで俺はここにいるの?」

「それも含めて飯を食いながらだ。ロザーヌ、もう出せるだろう?」

「ええ。……ルシオ、椅子をもう一つ出してちょうだい。シェリーはお母さんのお手伝いをしてね」


 幼い少女は迅八から離れ、ちょこちょこともう一人の男の膝にまとわりつき、迅八にしたのと同じようにほっぺたをぐりぐりなすりつけた。


「やだ〜! くろちゃんとあそぶ!!」

「こ、こらシェリーっ、クロードさんに失礼でしょ!」

「……いや、()いよ 」


 朝の光を浴びて、父と母がいて、利かん坊の子供を囲み、温かい空気が流れている。…その光景を遠いものに感じた迅八は、すぐに目を逸らした。それは、迅八が過去に失くしてしまった光景だった。


 その、子供の割にはおかしな視線に気付いたのだろう。クロードが迅八に向けて、顎を引いて目礼(もくれい)をする。


「……クロードだ 」

「ど、どうも。迅八じんぱちです。ジンでもジンパチでも、どっちでもいいデスけど……」


『クロード』はこくりと頷くと、迅八から視線を外しシェリーの髪を撫でた。


「ね〜くろちゃん。ふわふわしてぇ……」


(ふわふわってなんだよ…)


 幼い少女が頬を紅く染めて何かをねだっている。その声には歳に似つかわしくない媚態(びたい)すら含んでいる事に気付いて、迅八は若干の不安を覚えた。


「カワイイは正義ならぬ、カッコいいは正義か……」


 クロードに喉を撫でられて(とろ)けた顔のシェリーを見て、そんな言葉を呟いた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・




 食事は和やかで、温かいものだった。

 日本に住んでいた迅八からしてみれば、それは質素とも呼べないようなものだったが、食事の味は食材ではなく、その場の空気が決めるのだろう。迅八はその事を、元の世界の記憶から、嫌という程に知っていた。


 だから、その朝食は迅八にとって、とても素晴らしいものとなった。暖かい食事を終えるとロザーヌが薄い色の茶を持ってくる。


「ごめんなさい。こんなものしかないのだけど……」

「いや、そんなに気ぃ(つか)ってくれなくてもいいよ」


 その茶はその色と同じように、味も薄くてほとんどお湯の様な物だったが、暖かかった。


「うちには粗末なものしかないが、ロザーヌの腕は一級だ。うまかっただろう?」

「ああ、本当に美味しかったよ。ありがとロザーヌさん 」


 その言葉を聞いたロザーヌは少し頬を染め、また炊事場に戻っていった。


 シェリーはクロードの膝の上で丸まって、ゴロゴロと喉を鳴らしそうにぐりぐりとしている。その様子を微笑ましく眺めていた迅八に、ルシオが話しかけた。


「ジン、記憶がはっきりしないのか?」


 迅八は必死に頭を働かせるが、寝起きのせいもあるのだろう。どうにもこの家にくる前の事が上手く思い出せなかった。


「いや、ルシオさん達の事は、ぼんやりとだけど知ってる気がする。けど、クロードさんの事は全く思い出せないよ 」

「いや、ジンはクロードさんの事を初めて見るはずだな」


 そこで久しぶりにクロードが口を開いた。


「ジンパチ。逆に言えばなにを憶えているのだ?」


(常夜。あの暗い森で俺は目覚めた。んで……)



「……っ! そ、そうだルシオさんっ、狐男みたいな化け物を知らないか!? もしかしたらこの近くにいるかもしれない!! 危険なヤツなんだ!!」

「……狐男とは、なんだ?」


 クロードがシェリーを撫でる手を止めて聞く。


「狐なんだか人間なんだか、よくわからない中途半端な犬ッコロの事さ。あいつは危ないっ。もしもあいつを見た事があるんだったら、ここから逃げた方がいい!!」


 どことなく顔面を青褪(あおざ)めさせたルシオが言う。


「ちゅ、中途半端か。は、ははははは」

「……ジ、ジンパチよ。犬ッコロはさすがに言い過ぎではないのか? なんというか、もっと気高い生き物ではなかったか?」


 クロードまでもおかしな態度だがジンパチはそれに構わず続けた。


「クロードさんはアイツを見た事がないから言えるんだよ! そいつに俺は殺されかけたんだ。そうだ、殺されかけ……」


 だんだんと、朧げだった迅八の記憶が焦点を合わせ出した。


「そうだっ! ……俺は、左腕を切り落とされて、ナイフで頭を刺されて、」

「くろちゃん、天使さまにそんなことし、ぐ、むぐ、むももももももっ」


 クロードが、シェリーの顔を自分の胸に押し付けると、口を開いた。


「ジンパチ、しかしだな。その、なんと言ったか? 雄々しい狐か? 神獣か? ……その者にも言い分があるのかもしれんな」

「犬っコロだよクロードさん。中途半端な 」


 クロードのこめかみがヒクヒクと(うず)き出し、迅八は心配になった。


「く、クロードさんどうしたの?」

「い、いや……」

「ぷっっ……、ぶはぁあああっ!! くろちゃん、ひどーい」


 押し付けられた胸から顔を離し、シェリーがポカポカとクロードの胸を殴りつけた。


「ね〜、もういいでしょ? あそぼ〜よ。ふわふわってなって、もふっとしてぇ……おっきいの!」


(ふわふわして、もふもふして、……大きいの?)


 迅八にはよく判らないが、目の前のクロードは見た目通りの男ではなく、もしかしたら変態なのかもしれない。

 ほんの少しだけ迅八は椅子を引いた。


「ほらシェリー、もういい加減になさいっ。……すみませんクロードさん 」


 ロザーヌが深々と頭を下げると、クロードはロザーヌの豊かな胸の谷間をじっくりと()めつけた。迅八にはそう見えた。


(……なんか、印象が崩れていくなあ)




 腕を組みながら少し前傾姿勢になり、胸の谷間を凝視するクロードの体をシェリーは器用によじ登り、クロードはシェリーを肩車している形となった。

 谷間(ロザーヌ)を見つめるクロードの鼻息は少しずつ荒くなり、きゃっきゃと騒ぐシェリーには注意を払っていなかった。


 頭を下げていたロザーヌが顔をあげると、クロードの髪の毛を引っ張って、騒いでいるシェリーが目に入った。


「こ、この子は、……いい加減にしなさいッ!!」

「きゃうっ!」


 ロザーヌが伸ばした手をかわそうとして、シェリーはそのまま頭から床に落っこちた。


「ぅおいっ!! あぶねえっ!!」


 とっさに手を伸ばした迅八の前で、変化は唐突に起こった。……突然クロードの筋肉が肥大し、服が張り裂け、一瞬でその姿を変える。

 それは神獣とも、人によっては犬っころとも呼ぶ姿だった。


「……コラ、うろちょろするんじゃねえぞチビ」

「ふわふわの、もふもふの、おっきい!!」


 クロウのたくましい腕に抱えられ、シェリーは喜びながらその胸に飛び込んだ。


「んなっっ……!?」


 森の神獣。化け物。狐男。……クロウ(・・・)

目の前の事態に迅八はアガアガと口を開け、やがてその表情は怒りに染めあげられた。


「キッサマああああああ!!」


 迅八はその手に握ったナイフ(・・・・・・・・・・)をためらう事なくクロウに向けた。

 一瞬、クロウはそのナイフをとても静かな目で見つめ、一拍置いてから手のひらを前に出すと、迅八を遮った。


「……待て。待て待て待て待て。もうそのくだりはウンザリなんだよ。おい人間共、こいつをなんとかしやがれ!!」


 あわあわとその様子を見ていたルシオは、広場で見せた男らしさはどこかに落としてきたようだった。するとロザーヌが迅八の前に進み出た。


「ジン様。お話を聞いては頂けませんか…?」




 ・・・・・・・・・・・・・・・




結魂けっこん……。なにそれ、そんな事あんのかよ」


 迅八はロザーヌからこの世界の『決まり』の中でも誰でも知っているそれを聞かされた。

 クロウはその合間に、けっ、だの、チッ! だのと舌打ちをしていた。


「……この世界では、名前を付けるという事には大きな意味があるわ。所有権を明確にしたり、それが何かの契約になったり。それの中でも一番単純なもの、五分の『命の共有』があなたとクロウ様の間で起こった事よ」


 普通、結魂は決められた場、儀式によって、細かな調整を行う『結魂師』によって行われる。

 結魂は誰にでも出来る。だがその際に決められた手順や技術によって、その契約は内容を変える。なので、結魂師の立会いがない場での結魂はまず行われない。


 ほとんどの人間が経験するのが出産後の名付けだ。迅八はまだ知らぬ事だがこの世界では子供の死亡率が高い。医療技術も違うし、生息している生き物も違う。

 なにしろ、天使も悪魔も実在し、迅八はまだ見ぬ常識外の生き物が多数存在する。

 迅八の元いた世界で例えるなら、行楽で山に行けばそこらにヒグマがいて、草原に行けばライオンが闊歩している。基本的に弱肉強食の世界なのだ。


「だから、生まれてきた子供は基本的に両親と結魂を結び名付けられ、親に守られる存在になるの。……私たちの場合なら、シェリーが負った傷をある程度、私が肩代わりするのよ」


そのシェリーの言葉をルシオが補足した。


「もちろん、一方的に子供が受けた傷は全部親に現れる、そんな極端な契約は少ないというか、ほとんど無い。だけど、それは親子だからだ。 ……例えばだが、奴隷と主人の間で交わされる結魂とか、まあ色々あるよ」


 迅八とクロウの間で交わされたのは、結魂師による調整の力を借りない、五分五分のシンプルな命の共有。

 この世界でも珍しく、それを行う者は少ない。


「へえ……。ルシオさんとロザーヌさんは、五分で命を共有してないのかい?」


 ルシオは首を横に振ると冷めかけた茶を飲み語り出した。


「いや、してない。もしも片方が死んで、途端にもう片方にも死なれたら、残された子供はどうなる? ……余裕のあるお貴族様なんかにゃ、永遠の愛を誓うだとか言って名付け合う事もあるらしいし、酔狂な冒険者なんかでも、一蓮托生なんていって、そんな事をするって話は聞くが 」


 基本的に、そんな事をする奴はいないと言いたいのだろう。

 子供と親のケースや奴隷と主人の様な、どちらかのメリットが明確な物とは違う。

 正確には一つの傷を二人で分け合うのだからメリットはある。

 だが、どちらかが致命傷を負っても片方が助かるのと、どちらかが致命傷を受けたら両方がそれよりはマシという重傷を負うのでは当然前者の方が良い。それが戦闘中だったら尚更だ。


 それと、迅八とクロウの間では正確には半分ずつのリスクを負うわけではない。

それは、ある意味においては迅八にとって不利で、ある意味においてはクロウにとって致命的だった。

クロウは舌を鳴らしてから迅八に向かい語りかけた。


「例えばだ。ジンパチ、てめえとそこの人間の男が同じ傷を共有するとする。その時はほとんど同じ傷を負うだろ。だがな、それがそこのチビ助とだったらどうなる 」


「え? どうなるの?」


「……理解力の粗末な野郎だ。てめえの持ってるチンケな短剣で、そのチビを刺したらどうなる。ほぼ確実におっ()ぬだろうよ。だが、それがてめえだったらどうだ? 確実に死ぬか?」


「いや、死ぬんじゃないか?」


 クロウは呆れを声に乗せた。


「少しはてめぇでも考えろや小僧。てめえでも理解出来る程に噛み砕いてやるから一回で理解しろよ。……おめえがその短剣でチビを刺したら死ぬ。だが、それを俺に刺して死ぬと思うか?」


 迅八が唸りこんで考えると、クロウは深くため息を吐いた。


「……テメエに関わってから本当にロクな事がねえ。いいかてめえにでも理解できるように言ってやる。

 俺はそんなチンケな短剣で刺されようが、痛え事は痛えが死にやしねえ。だがそこのチビにゃ致命傷だ。そんな手の平程度の大きさのモンじゃ俺の心臓には届かねえが、そのチビには充分だろ。体の大きさが違えば単純に結果が違うだろうが」


 同じ傷だとしても、体格や筋肉の量で結果は変わるという事だった。

 もちろんどちらかが死んでしまえば結果は同じなのだが、死にはしない傷ならそこには差が出る。迅八がルシオに殴られれば相当痛いが、クロウは全く動じないだろう。


「つまり、俺の方が損してるって事か?」

「くぉのクソ馬鹿たわけがっ!! ある意味においてはてめえは確かに損かもしれねえ。だがな、俺の方には今までにはなかった弱点が出来ちまった。……いいか、俺は死なねえ存在だった。だがてめえの魂と結びついた事で、俺は不死じゃなくなったんだよ!!」


 狐男に戻ったクロウはその大きな体を窮屈そうに丸め、迅八に向かい吠える。シェリーはそのふところでもふもふしていた。


「わかるか小僧!? てめえがこの先、何年生きるかは判らねえが、寿命で死ぬとしてもあと八十年ってとこだろう。……わかるか!? あと余命八十年だって宣告された俺の気持ちが、テメエに分かるかっ!?」

「……いや、充分だろ。それに、俺は多分八十年も生きられねえよ」


 迅八は十八歳の高校三年生だった。八十年後には絶対とは言わないが、かなり高確率で死んでいるだろう。

 クロウはプルプルと体を震わせると、ドスの効いた声で言った。


「……謝れや 」

「あ?」


「いいから謝れやっ!! それでテメエを許すなんてありえねえが、少しは俺様の心が(しず)まるだろうよ。……ほれ早くしろ。這いつくばってテメエの舌で、俺様の足の毛づくろいをしやがれコラ!!」

「……おう、ちょっと待てよ犬ッコロ。俺はテメエにやられた仕打ちを忘れてねえぞ、お前俺の事殺しかけたよな。痛かったぞアレ、痛えなんてもんじゃねえ。……お前こそ俺に謝れや」


 確かにその時ロザーヌには見えた。この家が、二人の争いに巻き込まれ、跡形もなく吹っ飛ぶ光景が。


「や、やめてください!クロウ様、ジン様、 家が、家が……!!」


 その時ルシオはやはりアワアワし、シェリーはもふもふしていた。





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