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Pansy  作者: NKi
6/6

Battle

弘也は固まったまま健吾を睨んだ。

健吾はそれを軽く流すようにニヤついている。

「やっぱり皆揃ってミーティングしないとな。」

悪意を感じる健吾の発言だ。しかし固まっていた弘也も負けじと食いついた。


「そうだよな。皆で決める方が楽しいし。さすが健吾は分かってるよなぁ!」


健吾はやるじゃねーかと言わんばかりの表情だった。そして口火を切る。


「じゃあそんなに時間あるわけでも無いしさっさと決めよーぜ。2人とも座れよ。」


みんなが一つのテーブルを囲むように座った。さっきまで広かった空間が狭く感じ、それと共に部屋はさっきまでとは別の香りが漂った。

(やべぇ超良い匂い。)


その感想は弘也だけでは無く、健吾も思っていた。

皆それぞれにノートを出し、ミーティングが始まった。終始健吾がリードするような形で、冗談も交えつつ和やかなムードだった。


「あ、ごめん。」


時々テーブルの下で接触してしまう足に、弘也は緊張を隠せなかった。時にはその足は健吾のものでもあったが、健吾の場合は何かのGOサインで半分蹴りに近かった。


「こんなもんかな。じゃあ時間も時間だし今日は解散するか。」


健吾が締めくくる。

女性陣二人はお礼を言うと片付けに取り掛かった。弘也もそれに続いて動いた。


「じゃあまた明日な。片付けありがとうな。あと弘也!ちゃんと帰り送れよ!」


健吾は玄関まで見送ってそう言った。


「わかってるよ。じゃあまた明日な。」

弘也はそう言って三人で最寄り駅に向かった。途中で健吾のほうを振り向くと、何故か健吾はグーサインをしていた。


今日のミーティングの事やら健吾のトークセンスなどの話をしながら三人で歩いた。しかし弘也はうなずく程度だった。


最寄り駅に着くと美代が言った。

「月島君、今日はありがとうね。また明日。弥生も気をつけてね。」


「うん、また明日ね。」


駅のホームに向かう美代を二人で見送った。そこでやっと状況を理解した弘也だった。


(え、えぇー!中川って電車じゃないのかよ!って事は二人かよ!今になって健吾のグーサインの意味がわかった。どうしよう。)


半分パニックになる弘也であったが、弥生はあっさり言った。


「じゃあ私も帰るね。」


よく頭の中で自分の中の天使と悪魔がバトルするという表現があるが、その時の弘也には天使の意見だけしか無かった。いや、天使か悪魔かどちらかはわからないが頭の中での迷いは無かった。


「いや、俺送るよ。中川って家近く?」


「え、うん。10分ぐらいかなぁ。でも……」


「結構近いね。俺は大丈夫だから。」


「ありがとう。」


予期せぬ事態を弘也はすんなり乗り切った。さらに二人で帰宅するという思ってもいない好展開に。普段なら緊張しているであろうはずの弘也は何故か落ち着いていた。


「今日なんにも聞かされてなかったからビックリしたよ。」


「ごめんね、田中君が内緒にしてビックリさせようって。」


「俺まんまと引っかかった訳だ。でも楽しかったし皆でやって正解だったね。」


「よかった。ちょっと怒ってるかなって思ってた。」


こんな会話が続いていた。踏切で立ち止まり警報機が鳴り、騒音のせいで自然と会話は途切れた。

踏切が開き歩き始めると弘也は言った。


「中川、彼氏は大丈夫?」


不意のその発言に弥生は顔を赤らめ視線が泳ぐ。


「うん、クラブ行くって言ってたし。」


「そっか。付き合ってどれくらい?」


弘也と弥生は夕陽のせいなのか真っ赤になっていた。


「まだ全然だよ。本当に付き合ってるのかなって思う。時間も合わないし、クラスも違うからよくわかんなくて。」


「でも好きなんだろ?」


弘也は止まらない。説教じみた口調にもなっていた。


「そ、そうだと思う。付き合った時はドキドキしたし。」


「そっか。いきなりごめん、こんな事聞いて。」


熱くなりすぎたと感じたのか弘也は謝った。そこからは何を話していいのかお互い解らなくなっていた。その雰囲気に困った弥生は見つけたように話を切り出す。


「ひ、弘也君は好きな人いないの?」


数秒の間に弘也は思いつくだけの答えを考えた。しかし最終的にYesかNoだと思い、答える。その答えを出した時には、決心というか覚悟は決めていた。告白しようと。


人の感情には流れがある。その日だから緊張したり、その時だから簡単に言えたり。

まさにその日の弘也は強気な流れがきていたのだ。


「いるよ、好きな人。」


「そうなんだ!知らなかった!あんまりそうゆう話しないもんね。クラスの人?聞いて良かったかな?」


少し申し訳なさそうに弥生は聞いた。


「うん、クラスの人。っていうか……」


「おいっ!」


二人はビクついた。弘也が話そうとした時に誰かに怒鳴られたのだ。


後ろを振り返ると、高峰裕二が立っていた。弥生の彼氏だ。


「何してんだよ、こいつ誰だよ。」


「あ、クラスの月島君、今日勉強会があって一緒だったから。送ってもらってたんだよ。」


裕二は弘也を睨みつけた。


「行くぞ!」

と言って弥生の手を引き、弘也の肩にぶつかりながら通り過ぎた。


本来ならそこで解決していたはずだった。しかしその日の弘也は熱かった。


「待てよ!その態度は無いんじゃないか?謝れよ。」


「あぁ?」


裕二は振り返ると弘也の目の前まで行き睨みつけた。


「なんか言ったか。」


「謝れよ。」


その言葉を弘也が発すると同時に裕二は拳を上げていた。


弘也は止めてあった自転車の列に突っ込んだ。


「弘也君!」


弥生は心配して側に寄ろうとしたが裕二は腕を引っ張り強引に連れて行った。


弘也は顔を抑えながら自転車を立て直した。

陽は既に暮れていた。弘也は自転車を全て立て直すと、閉ざしていた口を微かに開いた。


「痛ってー。」


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