Dark
弘也と弥生の噛み合わない話は続いた。もちろん弘也は早く逃げ出したい気持ちで一杯だったが、話を合わせる事に集中した。
「あ、あぁ。まあなんてゆうか、健吾と2人で決めたみたいな感じだったっけ?俺ら2人だと頼りないよなって話しててさ。」
「そうなんだぁ。でも男の子じゃなくて良かったの?私たち盛り上げたりできるかなぁ。自信ないなぁ。」
健吾と弘也が2人で決めた事にし、なんとか第一関門を突破した。健吾が余計な事を言っていれば、辻褄が合わなかったのかもしれないが弥生にとって誰が企画したのかを問い詰める理由は無かったのだろう。だがすぐに第二関門が弘也の前に立ち塞がる。
(遠回しの言い方だけど、これって「なんで私達を誘ったの?」って事だよな。やべぇ。)
弘也は少し考えながら話を合わせる。
「盛り上げ役は男に任せていいよ。それにこないだノート見せてもらったし、次は俺がレポートも頑張らないとな。」
クスっと弥生は笑って言った。
「弘也君、私達を頼るつもりでしょー?」
弘也も少し半笑いで言った。
「いやそんな事無いってぇ!俺レポートの事かなり前から考えてたんだぜぇ?」
「あー嘘ついたぁ。田中君がレポートの話したら弘也君レポートの存在も忘れてたって言ってたよ?」
弘也はもう笑いながら言うしかなかった。
「わかったよ。俺が悪かったですー。一緒にレポートやって下さいー。」
弥生はワザと威張るようなポーズをし、笑顔で言った。
「仕方ないなぁ、弘也君は。手伝ってあげましょう!って言うよりみんなでやったほうが楽しいしね。ありがとう、誘ってくれて。」
弘也は最高の気持ちだった。
(なんなんだ、このめっちゃ良い雰囲気は!それに反応が可愛いすぎるぜ、ちくしょー!しかも待てよ。中川って俺の事いつから弘也君って呼ぶようになったっけ?え、どうしようテンションMAXなんすけどー!)
少し前まですっかり会話の無かった弘也と弥生の距離は縮まっていた。しかし関門はまだ残っていた。
「あ、そう言えば弘也君、私に話したい事って何?今でも良かったら全然聞くよー?」
弘也は焦った。一番肝心で一番余計だった事が残っていた。しかし冷静に考えられたら収集がつかない訳ではない。先に伸ばすなら「またでいいよ。」や、すぐに回避するなら「勉強で聞きたい事あって。」など、一言で終わらせる事も可能であったろう。
しかしテンションMAXの弘也にとって、この不意打ちは弘也を混乱させるのに充分だった。
「あ、あぁ。………え、、中川って、か、彼氏いる?」
弘也はその言葉を言った瞬間やってしまったと思った。そしてさらに混乱させた。弥生のえっ?っという顔に動揺を隠しきれずすぐにこう言った。
「いや、あ、ごめん。彼氏いたら勉強会でも怒るかなって。」
二人とも顔は赤くなっていた。弘也の発言が良かったのか、悪かったのかは別としても、その話題に触れるには少し早かったのかもしれない。少し間をあけて、弥生が答えた。
「彼氏は、いるよ。勉強会の事は言ったら怒るかな。」
わかっていたが弘也は少し落ち込んだ。
「あ、でも大丈夫だよ。内緒にしとくつもりだから。」
弘也にはこう言うしかなかった。
「そっか。まあ無理そうなら言ってよ。俺らだけでやるから。」
「う、うん。」
途中の楽しかった雰囲気を飲み込むように暗雲がそれを覆った。