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はるか上等な宅配業者(実験的掌編お題)

作者: ここの色。

ここには貼れませんが、街中で夕日をバックに自転車を押す女の子が描かれていました。

お題という制限の中、さらに個人的に実験要素が強いものです。

大変短い掌編ですがどうぞ。

 なあ、あんた達は「星に祈る」事、あるか?

 夜空に瞬く星さ。有名なのだと織姫や彦星、昴とかだな。

 何にしても星とは夢がある存在だ。

 細かく言えば、俺達が見る星とはただの光が視神経に到達しているだけ。

 ……なのかもしれないけど。

 だとしても宇宙は未知の領域だからね。人間何かにつまずいた時は空を見上げるもんだ。

 少しくらい祈っても損はしないぞ。

 俺?

 俺は祈るさ。

 だってそりゃあ……。

 

 

 

「星にでも祈る事しかできないからな!」

 軋む音。そしてそれ以上にけたたましい轟音が響く。

「何か言ったか?」

「さっ、寒いんだよ俺は!」

 ここは周囲の気温がなんとマイナス60度。

 金属に阻まれているとはいえ、寒いどころじゃない。

 凍る。固まる。

 俺も分厚いジャケットを着込んでいるが、とてもじゃないけど、とてもじゃない。

 冷たい。

「ん?あーあー?……み、耳がっ!」

 目の前にはオッサンがいる。彼は専門のエキスパートだ。少なくとも、俺はそう聞いた。

 ……そのはずだ。

「どうした!テツヤ、『耳抜き』でも忘れたのか!」

 おおよそ図星だった。やったと言い張ったが実際耳抜きの仕方がわからなかったのだ。

 切羽詰まった頭で再確認するが……俺はヘリの中にいる。

 しかも高度7000mの。

 ヘリコプターの内部には三人のオッサン達と一人の俺。中年男のうち一名パイロットだ。

 そして俺達のいるすぐ横、中央部には邪魔くさいほどの円錐の金属もしくはセラミック状の物体が鎮座していた。

 素の状態のままでこのポイントに上がれる、というのが既にムリ、不可能な話なんだよ。

 この高さには生はほぼ生息しない。極限の世界だな。

 そういえば、アネハヅルの類は8000mをゆうに超えるという話を聞いた事があるが。

 いるとしたらそれくらいなもんだろう。

 俺も翼をつけて飛んでみたいな……。

 ……イカロス……。

 イカと言えば……ギリシア料理……。

 あぁ……おなか減らした「イカロス的な何か」が俺に……。

 うーん……。

「おい!」

 ……あれ?

「おい、テツヤ、テツヤ!しっかりしろ!」

 まるで飛んだまま眠るアマツバメのように、危うく俺は意識を失う寸前だったようだ。

 オッサンが顔をひっぱたいてくれたおかげで俺はここに帰還した。

「テツヤ、耳抜きは出来るな!」

 オッサン達の言うように唾を飲むような感じで数回やってみた、するとなるほど、少しはマシになったかな?

 それでも感覚が朦朧としている。

「テツヤ、耳栓はいるか?もう遅いが気休めにはなるだろう!」

「今から俺達は陸で使った点鼻薬をもう一度使用する!」

 上空がこんなにキツいとは。舐めていたよ俺。

 大気圏はどの高さまであったんだっけ?きっと、ずっとずっと上のほうだろうな。

 すげぇよアストロノーツ。地球は……。

 もうこんな事止めよう。やめやめ。もう下りよう。二足歩行生物には地上がお似合いだ。

「テツヤ!準備はいいか!」

「お前の目的、忘れたわけじゃないだろう!」

 ……そうだった。

 俺は「俺のために」ここにいる。それは……。

「だけどさ、本当にこれで上手くいくのか?チーフ!」

「知らん!」

 バラバラバラ、と振動が鳴り止まない。これのせいで比較的大声で喋らないと通じなかった。

 そろそろ無線に切り替わるはずだ。

「知らん……って何だよ!あんたらエキスパートだろ!『流星宅配業者』って見たんだぞ!」

 気圧が低く大気の薄い感じが、俺の汗を瞬時に冷ややかなものに変える。

「だからわからんと言っているのだ!何にせよ、初めての事だからな!」

「は、『初めて』?」

 俺のはらわたが煮えくり返って、拍子で昼食の残りをモドしそうになった。

「きったねー騙しやがって!俺は確かにオッサン達がエキスパートだと」

「細かいことは気にするな!」

「テツヤ!こちらの準備は終わったぞ!いいか?チャンスは一度きりだ!」

「何で俺がヤケクソの自殺志願、みたいな無謀な状況になってるんだよ、テメエら!」

「お前が言い出した話だろう?」

「うっ」

 確かに、俺がやると言い出した。だからこんなに喚こうが泣こうが、後には引けない立場になったんだ。

 俺がやらなきゃ。

 誰が……きっとオッサンはこの先もやらないだろう。

 俺をハメて内心ほくそ笑んでやがるのだ。

 だけど、彼らは協力者でもある。

 こんな資格免許に関わる非道な行為、きっと正気なやつらじゃしてはくれない。

 とにかく。

 ……俺は俺のために「流星をつくる」。

 ほどなくノイズが聞こえたかと思うと、そのままスムーズに無線に切り替わった。

「いいか!この高度では3度、入射角が違うだけで陸は数百kmはズレる」

「誤差によってはお前は海の上だ、覚悟しろよ」

 オッサン二人がかりでヘリの後部ハッチを弄りだすと、ヘリ内部の気圧が激変するのが肌で感じ取れる。

 もう戻れない。

「どうするテツヤ、やるのならチャンスは一度きりだ」

「後は座標を合わせるだけだな」

「やってやるよ!」

俺は腹を括った。

「ちゃんとパラシュートは開けよ、でないとお陀仏だぞ!」

「専用シャトルの操作方法は覚えているか?なんせ都合で有人だからな、そのための鍛錬の厳しさはお前が一番よく知っているはずだ!」

「あぁ」

大それたことだ。だけどミスは許されない。一世一代の大博打なんだ。

……それは、彼女のために。

流れ星に願い事をかけさせてあげるくらい俺にとっちゃわけない事だ。

想い人の願いを叶えるために。

「そろそろ目標点だ」

「わかった!テツヤ、生きて帰れよ!」

「成功を祈る!」

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」




 ハッチが開いた。




   * * *




 秋の空はどこか寂しげで、既に学業を終えた生徒の帰宅風景が目撃される時刻を迎えていた。

 沈んでいく夕日。

 少女が、そんな折、そそくさと自転車から降りた。

「あちゃー……パンクしちゃった?」

 もう季節は葉も落ちる頃で、制服の上に目立たない色のニット、マフラーとセーターを揃えて着込んでいた。

 風当たりも強く、少女の長い黒髪をそよがせる。

「こんな事なら下もジャージにすればよかったかな」

 少女は震えた。この肌寒さに。

 少女は震える。この先の漠然とした不安に。

 家庭。

 進路。

 夢。

 ……好きな人ができた。

 少女は思いつめたものを振り払うように手押しで自転車を進める。

 幸い、チューブまでは傷は達していないようだった。

 上空は次第に寒色に、そして宇宙の暗黒へと変化しつつあった。

 ふと少女は空を見上げた。

 彼方から此方までつんざくような。

 ひとすじの「何か」が西日の方角へ向かってくる。

「あれは……?」

 どこか尖っていて、どこか優しげな。




「なんて綺麗な飛行機雲……」

読んでくださった方。

こんな短いのに途中で人称が変わるという適当な(X)……実験的な話ですいません。

ノリと勢いで書きました。

お題の画像もかなり難しいもので、かなり骨を折ってしまいまして。

なんにせよ、感謝の気持ちです。

ありがとう。

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