課題
「君には別の課題を与えてあったはずだが。昭和時代の交通状況と、自動車の若者世代普及についての研究……だったね。確か」
ぎろり、と教授は鋭い目付きで学生を睨んだ。
学生は首を竦めた。
教授の視線には「なぜ自分の提示した課題を進めない?」と非難が込められている。
「ええ。教授の提示された研究を進めているうち、当時の若者風俗に興味が移りまして」
学生は必死になって唇を舌で湿し、説明を続けた。
「〝ツッパリ〟〝ヤンキー〟と呼ばれる若者の一群が地方都市を中心に存在したのです。若者たちは、思い思いにバイクや車を改造して、当時の重要な風俗を形成していました。〝ツッパリ〟〝ヤンキー〟と呼ばれる一団は、当時の大きな社会問題を引き起こしましたが、文化にも大きく影響を与えていたことは、はっきりしています。ですから──」
学生の説明を、教授は手を振って遮った。
「もういい! 君は脱線した。わたしの提示した課題を無視してね。これでは、卒業は無理だな。諦めることだ」
教授の口調は辛辣で、突き放すものだった。学生の額に薄っすらと汗が噴き出す。
「それでは……?」
教授は微かに顎を引いた。
「そう。わたしの提示した課題を真っ直ぐ、真面目に進めることが、君の卒業の絶対条件となる。判るね?」
「はい、判りました」
学生は弱々しく答えた。