【大江戸党】
【大江戸党】の主張はこうだ。
江戸時代、日本は独自の、安定した社会を作ってきた。
三百年間、他の国に侵略もせず、また、されることもなかった。自然を大事にし、徹底リサイクル社会で、環境破壊とも無縁であった。身分の違いもあったが、同時期の他の国に比べれば、よほど緩やかで、庶民はそれなりの自由を謳歌していたのだ──というのが主張である。
民衆飢餓史観──江戸時代の百姓は、作った米を統治者に取り上げられ、一粒も口にできず一生を送った──は否定されている。
統治者が百姓の米を取り上げたとしても、僅か人口の一割にも満たない侍たちが、総ての米を食いつくすことなどありえない。米は流通され、結局は農民の口に入ったのである。
有名な天明・天保飢饉では、西国においては豊作で、農民が飢えた原因は流通に問題があったから、というのは定説である。
科学技術に遅れたという批判には、当時の科学技術が大幅に発展したのは、明治維新後の世紀末からで、江戸時代の医学、数学、天文学などにおいては、西欧と比肩するほどに発達していたと答える。
明治維新を迎え、当時の植民地を基にした帝国主義に触れ、日本は変質した。侵略的な思想が蔓延し、足尾銅山などの鉱毒事件により環境破壊が始まり、ついには太平洋戦争を引き起こし、二個の原爆によって無条件降伏に至った……。
敗戦後、日本は遮二無二、復興を目指し、経済大国を目指したが、さらなる環境破壊も呼び寄せた。
総て明治維新という、政治の失敗が招いたのだ。だから日本は明治維新以前の状態に戻すべきだ、というのが主張である。
鎖国もするのか? という問いには、【大江戸党】はこう答えた。
江戸時代が鎖国制度だった、というのは間違いである。国を閉ざしたのは、あくまでもキリスト教の、しかもカトリックの国々に対してであり、プロテスタントのオランダとは出島を通じて貿易をしている。
【大江戸党】の目指すのは、世界中に「ネオ封建主義」の思想を広め、世界の中心に新たに幕府を置いて、人々の象徴として徳川家の子孫による征夷大将軍を置く。
世界中が日本になれば、鎖国の必要もないし、戦争を引き起こす心配も絶対にない! と。