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第二十三節 捜査六日目 ①権力の使い方


さて。

リュカ君と美術館に行ってから、一日が経ってしまいました。


昨日、様子を見に行ったけど、明らかに元気がなかったし、美術館を訪ねたら、なんと。

メルドさんはいなかった。無断欠勤してるって話だ。

ほんとにお嬢様の言う通りだったってことかーなんて思いながら、今日にいたる。


本物はどこにあるのかわからないし、お嬢様にどうするのか聞いても、

「司祭殿に本物を献上してもらえばいい。」

とか、わけわかんないこと言ってるし。


どうするんだよー。

と悶々としながら、お嬢様の書斎でティーカップにお茶を注ぐ。

濃い目が好きなお嬢様に、薄めに入れてやる。


お嬢様はカップをのぞくと眉間にしわを寄せてこっちを睨んできた。

俺は、知らない!


はぁーーという大げさなため息が聞こえる。

結局、お嬢様は諜報員の目的を邪魔するために、本物が見つからなければいいと思ってるんじゃ?

それだと…

瞳から涙を零していたリュカ君のことを思い出す。

孤児で、養父の悪い面を知っちゃって…

これから先も親子として生活するなんて。

俺はやっぱり、本物は本物に戻してあげたい。

偽物を作ろうと思って描いたわけじゃない、リュカ君のただの楽しみが、犯罪に使われるなんて、そんなの間違ってるし。


新聞をがさがさと読んでいたお嬢様が、不意に

ふっ、と小さく笑った。


「なんです?」


俺が尋ねると、お嬢様は新聞の一面をこちらに見せてきた。


そこには、

『奇跡の絵、ヴァロワ市民共和国へ返還。』

とでかでかと書かれていた。


ん?


「『奇跡の絵』って…」

「『微笑む女』だな。」


ヴァロワに返還って?


「どういうことですか?」

「単純な外交問題だ。」


難しい説明の予感がする。俺は身構えて、お嬢様の言葉を待った。


「ヴァロワから購入した絵が、盗まれ、美術館はその話題のために満員御礼となった。もともと有名な画家の作品ではあるが、作品自体は大して注目されていなかった絵が、消えたために有名になり、国営の美術館は利益を得た。ヴァロワには、どう映る?」

「えー?売らなきゃよかったーと思いますかねぇ。あと、消えてなんで有名になるんだって、思います。」


俺の答えに、お嬢様な

「まぁ、そうだな。」

と残念なものを見る目で言った。


なんだよ。凡人の感性はこんなもんだよ。


「購入したものだ。すでに所有権はこちらにある。が、ヴァロワからすれば、貴重な美術品を買わせてやったのに、紛失した挙句、それを客引きに利用して利益を得ているように見えるわけだ。随分と、こちらに都合よく見えるだろう。」

「あー。自作自演ぽいってことですかぁ。」

「そうだ。それで、ヴァロワ政府からは早い段階で抗議が来ていたんだ。父上が、何とかなだめて抑えていたようだが。」


そうなんだ。

旦那様、ほんとに忙しかったんだなぁ。


「だが、ヴァロワからしたら、面白くないものは面白くない。財政難で金を受け取って売り払ったくせに、やれ歴史的損失だなんだと、文句を言ってきていたわけだ。」

「自分勝手ですねー。」

「外交なんて、そんなものだろう。」


言ったもん勝ちな感じかぁ。

そうすると、外交の中心を担ってるブラックモア侯爵って、めちゃめちゃ凄いのでは。

改めて、旦那様のすごさを感じる。


「それで、絵が見つかったから、返せって話になったってことですか?」

「正確には、絵が見つかったら必ず返すことを、事前に取り決めていたんだ。絵が見つかる前に。」


なるほど?


「でも、そうすると、買った時のお金は返してもらえるんですか?」

「いや、絵は返すが、金は返ってこない。」

「えー?それじゃ、アルビオンが損じゃないですか?」


お嬢様は優雅にお茶をすすって、おかしそうに言葉を続けた。


「あの絵の金額は、国家予算からしたら大したものではない。たかがしれている金額で、ヴァロワに恩を売り、世界的にこちらが優位にあることを示せるんだ。大した損失じゃないだろう。」

「でも、国民の税金で買った絵なんですよ?」

「だからこそだ。」


うーん。難しくてよくわかんないな。


でも?


「大変じゃないですか!」


俺の言葉にお嬢様は驚いたようで、体をびくっとさせてこっちを見た。


「このままだと、リュカ君が描いた絵が、ヴァロワに戻っちゃいますよ!」

「大丈夫だ。」


お嬢様は、また優雅にティーカップに口をつける。


何が大丈夫なの?


「ヴァロワへの返還は2週間後だ。その間に、本物は、向こうからやってくるだろう。」


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